水晶の涙

Guidepost

文字の大きさ
205 / 231

207話

しおりを挟む
 ファインが好きだと、打ち明けられた。
 アルスは肩の荷が下りたかのようにホッとした。ボルフォルドに会う前からひたすら悶々と考えていただけに、気持ちを口にして照れたり緊張したりするより使命を果たしたかのような、脱力にも近い安堵感がまず押し寄せてきた。
 多分、もうずっと前から自分もファインのことが好きだったのだろうと、気づいた後でアルスも思った。とはいえ、気づけたのは情けないことに自分の力ではない。あの時、リブス病かもしれないとファインが連れて来てくれたカースがきっかけだろう。

「やあ、リブス病かもしれないアルスくん」
「……何で呼び捨てじゃないの? あと、もし本当にリブス病の可能性あるなら……」

 深刻な表情どころか、ニヤニヤおかしそうな顔しながら、いつもと同じように無表情なフォルアと一緒に部屋へ入ってきたカースを、アルスは困惑しながら見た。ファインに言われた通りベッドで横になってはいたが、とりあえず体を起こす。

「ははは。からかってるの気づいてくれないと意味ないんだよなあ」
「え?」
「まあ、いいよ。とにかくさあ、そんなわけないってアルスもわかってるでしょ?」
「え? あー……うん、さすがにリブス病はないかなって思った、けど……でも俺、ほんとに具合悪いのかもだし、でも俺は苦手な雷属性関連以外であまり体の調子悪くなることないから、何とも……。あとファインが言うならもしかしたら可能性、ゼロってこともないのかなって」
「ファインに絶対的な信頼置いてるよねえ、アルス」

 ニコニコしながら、カースはベッドの縁へ腰かけてきた。フォルアはベッドへ構わず入ってきて横たわる。アルスは慌ててフォルアを見た。

「フォルア、まだ俺の状態わからないし、あまりくっつかないほうが……」
「大丈夫だよ、アルス。そもそも君が言う通り、体の具合悪くなることなんて本当になさそうだし君は。でもまあ、一応絶対違うよって言い切れるよう、診ておくね」

 カースはアルスに手をかざしてきた。ほんのり温かい気が、カースの手からアルスの体へ伝わってくる。アルスは目を閉じた。

「何でそういう話になったのかはファインから聞いたけど……」

 かざしたまま、カースが話しかけてくる。目を閉じたまま、アルスは「うん?」と頷いた。

「本当に落ち着かない理由とか鼓動早くなる理由とか、わからない?」
「……あー。落ち着かないのは、多分ファインに抱きしめられてて鼓動、早くなっちゃうからかなって思ったけど」
「でも鼓動早くなる理由がわからないってわけか」
「うん」
「本当に?」

 カースがかざしたままなおかげか、今や手の指先まで温まった気がする。カルフォン王国周辺の土地は風属性のため元々体調もいいほうだったが、今はなおさらエネルギーに満ちたように感じられた。要はアルスにも、具合など到底悪いとは思えないということだ。

「……具合、悪いとは思えないかなってのは今ものすごく実感してるけど……」

 ということは、改めて本当になぜ、落ち着かないと思ったのだろうと怪訝に思う。ファインにも言われたが、昔から抱きしめたり抱きしめられたりなど珍しいことでもなかった。今さら一体どうしたというのか。

「今回、急にかな?」
「そうだ、……よ、って思ってたけど、ああ、どうだろう。たまに何だかいつもの自分じゃないようなってそわそわ思ったこと、あった、か、も?」
「だろうね」

 ようやくかざしていた手を下ろしながらわけ知り顔で頷くカースに、目を開けたアルスはかぶりつきそうな勢いで詰め寄った。

「え? 何か知ってるのか? 俺、やっぱり何か悪いとこある、とか? 原因、わかるの?」
「はは。落ち着いて、アルス。いくら普段体動かすこと以外にあまり頭使わなくても、君ならちゃんと考えられるはずだよ」
「今さりげにけなされたのはわかるよ」
「愛情表現だよ」
「……。……カースはわかる、こと、なんだよな?」
「フォルアもわかってるよ」
「え?」

 アルスはまだ自分に少々くっつくようにして横たわっているフォルアをちらりと見た。本人は名前が出たにも関わらず、心地よさそうに目を閉じている。

「……見ていて気づくってこと、だよなあ。……うーん。……あ、もしかして俺、ファインが絡むことに関してもやもやしたり落ち着かなくなってる、と、か?」

 正直今まで特に意識していなかった。とりあえずカースとフォルアは気づいていて、いつもなら気づきのいいファインは気づいていない上で、アルスもわかっていないとなると、具合悪いから以外ではこじつけかもしれないが、そんな風に思えてくる。

 そういえば、ファインとカースがやたら仲いいなって思った時ももやもやしたっけ。俺のほうが昔からかけがえない家族のような存在だから仲いいのにって、性格悪い風に思ったせいだとその時は考えたけど……。

「よくできました」

 ますますニコニコするカースに、アルスは首を傾げた。

「でも、そうなると辻褄合わないんだよ」
「どういう風に?」
「だって……その、ファインとカースがやたら仲いいなって思ったことあって……」
「気まずそうにしなくていいよ。それで?」
「うん、ありがとう。で、俺のほうが昔から家族みたいに仲いいのにな、ってもやもやしたんだ。でも今回はさ、その家族みたいに仲いいファインに抱きしめられて落ち着かなかった。おかしくないか? むしろホッと落ち着くとこだろ、それなら」

 また首傾げながら言えば、カースが呆れたように見てきた。

「何、その顔」
「アルスに考えてもらって答えまで導こうという俺の考えは珍しく間違ってたかなあってね」
「あれ? また馬鹿にしてる?」
「まあ、してるね」
「……正直だね」
「はは。ちょっと他人に置き換えて考えてみよう」

 他人?

 ふと気づけば具合悪いという話からどんどん離れているような気がして、アルスはますます首を傾げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...