金のシルシ

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1話

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 日中にも関わらず緑というよりは青灰色をした風景の中、節くれだった太さのバラバラな木々と苔に覆われた大きないくつもの岩が広がっている。辺り一面には霧が立ち込めており、木々や岩で遮られた光景をさらに重苦しいものにしている。
 霧のせいで滑りやすくなっている岩を、それでも慣れたように進んでいたルートはそろそろ野営の準備でもしようと場所を探していた。野宿をする機会がかなり多いため、簡易でかさばらないテント一式を持ち運んでいる。丁度いいスペースをようやく見つけ、手慣れた様子でルートはテントを張っていった。そこそこ年期の入った襤褸切だがこれでも十分雨風はしのげる。

「よし」

 終えてからルートは自分の腕を見て軽くため息を吐いた。もう少し頑丈でしっかりした筋肉が欲しいところだ。そうしたらテントを張るのも森で狩りをするのも今よりずっと楽だろうなと思う。この世に生を受けて十七年になるが、ちっともその辺に希望が持てない。もちろんずっと一人で生きてきた分、貧相という訳ではないしそこそこ引き締まった腕ではあると思うが、理想とは程遠い。
 ただ身が軽い分、動きが俊敏なので獲物を追う時や逆に悪意ある相手などから逃げる時にはこの体も悪くないと思っている。

「あとは焚火用に少し木を集めるか」

 霧のせいで残念ながら湿った落ち葉や枝が多い。湿った木でも焚火が出来ない訳ではないが、温度を相当上げて木のガスが発生して初めて木は燃えるので、湿っていると中々燃焼してくれない。
 とはいえ別に急ぐ理由は何一つないので、ルートは周りの状況を把握しつつゆっくり木を集めていた。すると少し先に違和感を覚える。

「……? まさか……人?」

 こんな鬱蒼とした森の中にいるのは元々ここで生きている生き物か自分くらいだと思っていたルートは一瞬ぎょっとした。人で間違いないならどう見ても倒れている上に、どうにも小さい。

「まさか子ども? 捨てられた、とか……?」

 まさかね、と自分の考えを打ち砕くように鼻で笑いつつもルートは用心しつつ近づいた。そして近づいたことを少し後悔する。

「……エル、フ……」

 五歳くらいだろうか、小さな子どもが実際倒れていた。しかも人間ではないことはその耳の形ですぐに分かった。

「うーん……」

 ずっと遥か昔は人間もエルフもわだかまりなく共存していたと聞いたことがある。その後魔力も知性も高く寿命も長いエルフは人間を野蛮なものとみなし、エルフだけが住む里に引きこもるようになったとも聞いた。
 そんなエルフは人間にとっても珍しい存在となる。希少価値があり見た目の美しさから奴隷にしたがる者が出てくる。またエルフの体のあらゆるものは薬になると言われており、その髪は魔力を持つためとてもいいアミュレットなどになるとも言われている。そのため、奴隷商などがエルフを狙う。結果、エルフはますます人間を野蛮な生き物と見なし警戒心が強くなったのらしい。
 目の前に倒れているのは間違いなくエルフだろう。だが助けていいものかルートは迷った。エルフでそして幼子だ。どう考えても警戒される様子しか浮かばない。とはいえ捨て置くこともできそうになかった。
 そっと触れてみるが反応はない。まさか死んでいるのではと思ったが、脈はゆっくりだがある。しかしよく見ると軽くではあるが手足に怪我をしていた。

「……はぁ。放っておけないなぁ」

 集めていた木々を腰にぶら下げていた袋やベルトになんとか詰め、よいしょ、とルートは幼子を抱えた。

「純粋なエルフってやっぱり綺麗なんだな」

 テントへ運んで寝かせると、今度は近くに発見していた湧き水の場所へ向かった。一旦味見をしてから水瓶として使っている容器に水を入れた。戻って怪我をしている部分をその水で軽く洗うついでに布に水を浸して顔や腕などの汚れた部分も拭いた。そうして改めて幼子を見てルートはしみじみ思う。奴隷にしたい気持ちは皆目分からないが、確かに幼子でさえかなり美しい容姿をしていると実感する。
 怪我は大したことはなさそうだがばい菌が入らないよう、綺麗な包帯を巻いた。
 その後寝かせたままスープを作っていると「う……」っという呻くような声が聞こえてきた。見れば幼子がゆっくり起き上がっている。

「おはよう」
「……、……っ?」
「傷はどう? 痛いとこ他にない? 大丈夫?」
「……!」

 ぼんやりとしていた幼子だが次第にハッキリとしてきたのか、一気に鋭い目をルートに向けてきた。あからさまな程に警戒心が伝わってくる。

「ああ。……えっと……言葉は多分わかる、よね。っていうか国が違ったらあれだけど同じ言語でよかった、よね? 大丈夫、安心して。俺は君に危害は加えない。捕まえもしない。なんなら今すぐ逃げたいなら逃げていい。俺は追わない。でも怪我してるし、もし俺への警戒が多少でも解けたならご飯、食べない? 丁度温かいスープができたとこなんだ」

 あえてゆっくり、穏やかにルートは話しかけた。器にスープを盛ると「これ」とその場から動かずになるべく自分から離れ幼子に近い場所へ置く。そして自分も同じように器へ盛ったものを「毒もないよ」と見せつけるように口に入れた。

「……うん、我ながら美味い」
「……」

 幼子はまだ警戒しているようだったが、とても腹も空いていたのだろう。じっとルートから目を離すことなくじりじりと器へ近づいてそれを手にした。そうしてまたルートから距離を取ると器をじっと見、またルートを見てくる。ルートは笑いかけると自分の空になった器を見せ、お代わりを注いだ。すると安心したのか、幼子はようやく恐る恐る容器の中身を口にする。唇をきゅっと内側へ含めた後にハッとした顔になり、今度は慌てたように中身を食べだした。

 ──何か小動物を手懐けてる気分。

 ほんのりそんなことを思いつつ、ルートは自分もお代わりをまた口にした。
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