金のシルシ

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2話

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 食事を終えてもエルフの幼子はルートから距離を取り、じっと窺うように見てくる。

「……えーっと、俺はルート。ひたすら旅をしてるんだ。ここへも特に目的があった訳じゃなくてね、たまたま通っただけ。といっても先を急ぐ旅じゃないから早めに野営準備でもしてゆっくり眠るかなあって思って。それで焚き火用の木々を集めてたんだよ。そしたら倒れてる君を見つけちゃって」

 やはりゆっくりと、そして淡々とルートは話して聞かせた。

「その、怪我、痛くない? 大丈夫?」
「……けが?」
「うん。君、怪我してたよ」

 短い復唱でも初めて答えてくれたのもあってルートはホッとしたような嬉しいような気持ちになる。

「……」

 幼子は怪訝そうな顔をしながら自分の腕や足を見た。目が覚めた時にも怪我のことを口にしたはずだし、今までも見えていたものだとなんとなく思っていたが、どうやら本人は気づいていなかったようだ。巻かれている包帯におそらく驚いている。
 少なくとも痛みはないってことだなと内心ホッとして思っていると幼子がまたルートをじっと見てきた。

「……おまえ……」
「ん?」
「おまえ、がやった、の?」
「ん? あー、包帯? うん」
「……」

 幼子は俯くと自分の服をきゅっと握っている。どうしたのだろうかとルートが怪訝に思っていると、俯いたまま驚くことにじりじりと近づいてきた。そしてそばまで来ると自分の服を握っていた手を離して少し逡巡した後に今度はルートの服の端をきゅっと握ってきた。

「……あ、り……がと」

 何この生き物可愛い……。

 ルートに警戒していたはずの見目麗しい容姿をした幼子の突然のデレに、大抵のことには慣れていたはずのルートは心臓を鷲掴みにされた。思わずぎゅっと抱きしめそうになり、何とか留まる。
 そんなことしたらまた警戒されちゃうかもだもんな。
 そう思っていると、むしろ幼子のほうから抱きついてくる。

「ど、どうした」
「……ルー、ト?」
「ん? うん」
「おれ……おれのなまえ、ルーフォリア」
「ルーフォリア」

 つい繰り返すと、抱きついたまま顔を離してルートを見上げ、ルーフォリアはにっこりと嬉しそうに笑ってきた。
 抱きついて来たものの、それでもしばらくはルーフォリアの接し方はぎこちなかった。改めてエルフの警戒心はよほど強いものらしいとルートは実感していた。しかし何故あそこで倒れていたのかを聞かされると、それも仕方のないことだなと納得する。

「せいれい、のいずみにみなで、むかうとちゅう、にんげん、がおそって、きた」
「襲って……」
「エルフがり」
「……怖かったね……。それで逃げてはぐれちゃったの?」

 こくり、とルーフォリアが頷いた。

「つかまっ、ちゃったエルフ、はたぶんいない。みなにげられた、おもう……いきなりだったし、たたかうつもりなかった」
「そっか……」
「……ここ、しらないもり……。おれ、もう、かえられないの、かな……」

 ルーフォリアが悲しそうに俯いた。さぞ不安で寂しいだろうとルートは心が痛んだ。
 エルフは集団生活をそれぞれのエルフの里で行っている。ただ、いろんな森に住まう彼らを見つけることは森に慣れているルートにも不可能だった。彼らは外の世界から見つからないよう、目眩ましの結界を張っている。エルフはただでさえ魔力が強い上に、その結界は相当強い魔力が使われているため、エルフ以外の種族には自力で見つけることは叶わないし、ルートであっても不可能だ。そして例えエルフでも、ルーフォリアのようにまだ大人でない者にも難しいだろうと思われる。
 ひとりぼっちは、さぞ寂しいし不安だろう。自分もひとりぼっちだったからわかる。とはいえ、ルートにはどうすることもできない。かといってこんな小さな子どもをこんなところに一人、放っておくわけにはいかない。

「なぁ、ルーフォリア」
「?」
「俺が何とかしてお前の里を探してみせるよ」
「……ほ、んと?」
「うん。俺の中の人間の血が……探すことの障害になるかもだけど……」
「?」
「でもきっと見つかるよ」
「ルート……ありが、とう」

 ルーフォリアがまた嬉しそうにぎゅっと抱きついてきた。ルートは静かにルーフォリアの背中を優しくぽんぽんと触れる。

「でもおれ、どこのもりにすんでたかもわからない、よ?」

 これほど小さいならそれも無理はないだろう。

「さと、でたことなかったから……なさけなく、てごめんなさい」
「情けなくなんかないよ。まだ小さいんだから仕方のないことだよ」

 頭を撫でながら言うと、ルーフォリアが大きな目をさらに大きくしながら見上げてきた。

「うん?」
「……ううん。からだ、ちっちゃいのと、まだおぼえてるとこ、で、人間、のはなしかたもうまくなく、てごめんなさい」
「そんなことないよ。むしろルーフォリアはとてもしっかりしてると思うよ」

 本当に思っていることを口にすると、また嬉しそうに抱きついてきた。

 ……可愛いなぁ。

 かなり絆されている自分にルートは少し苦笑した。そしてふと気づく。

「……っていうか、覚えてるとこって、エルフは元々俺らと言語違うの?」
「エルフのことば。でも、あるていどしたら、おぼえる。そと、でるときはこっちのことば、つかう」
「そっか……」

 無事送り届けられるかは正直わからない。だが見つけるしかない。幸いルートの旅は特に目的もなく、あてどなくさまよっているだけだ。
 とりあえずは町へ向かって、話を聞いてみるしかないか。
 やみくもに探すよりは、情報を仕入れたほうがいいだろう。町のギルドや酒場などだと様々な情報が行き交う。あまり人の集まるところは苦手だが、そうも言っていられない。
 ルーフォリアと寄り添うようにして横になりながら、ルートは服の中にあるペンダントを上からぎゅっと握った。

 ……お母さん……どうぞこの小さな子を守ってください。

 そっと祈ると自分もようやく眠りについた。
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