金のシルシ

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3話

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 精霊の泉はこの森からは少々距離がある。とはいえルーフォリアたちもそこへ目指していたのであって、元々生活をしていた場所がそこから遠いか近いかもわからない。
 まずはこの近辺にある村や町から当たってみるか、とルートは湧水で顔を洗いながら思った。そしてその後にその水をまた瓶に注ぐ。

「あ、おはよう。ルーフォリア」

 テントへ戻るとルーフォリアが寝具から出て少し不安そうに辺りを見回しているところだった。だがルートに気づくと嬉しそうに顔を綻ばせ、駆けつけてくる。

「おは、よう」
「走っても大丈夫なのか? 本当に怪我したとこ、痛くない?」
「ん。もう、なおした」
「え?」
「ん?」

 きょとんとしているルーフォリアに「ちょっとごめんね」と断りを入れながら、ルートは小さな腕を取り、包帯をほどいていった。

「傷が、ない……」
「なおした」

 確かに軽い怪我ではあった。だがそれでも出血はしていたし昨日の今日で跡形もなくなるものでもない。

「すごいな、こんなこともできるんだ」
「? ふつう……。かるいけが」
「普通? 俺はできないよ」
「ルートはにんげん、だし」
「……ああ。はは、なるほど」

 苦笑しているとルーフォリアが不思議そうな目でルートを見上げてくる。

「ん?」
「ルートのめ、きれい」
「えっ? そ、そうかな。ありがとう」

 君の目や髪のほうがよほど綺麗だけどと思いつつ、ルートは照れ臭くなる。町などで容姿を褒められても流すことに慣れているが、こんな純粋そうな幼子から言われるとさすがに照れた。

「デルフィニウムのようないろ」
「デルフィニウム?」
「はな。きれい」
「そっか。ありがとう」
「でもかみはにんげんっぽい……にんげんだけど」
「あはは」

 残念そうに言ってくるルーフォリアにルートは苦笑した。そして自分の赤茶色をしている髪にそっと触れる。

「……っでもきれい、ルート、きれい、だから」

 何だか幼子に同情されたような気がして、ルートはますます苦笑した。それに別に自分は綺麗でなくてよかったんだけどねと心の中で思った。
 その後朝食をとる前にルートは一旦服を脱いで水を含ませた布で体を拭いた。近くに湧き水はあっても残念ながら川が見当たらないので、せめて体を拭いてすっきりしたかった。
 少し離れたところでルーフォリアが何故か照れるような顔をして逸らしたりルートを見たり、また逸らしたりと不思議な行動をしている。

「どうしたの?」

 聞いてもフルフルと頭を振っている様子に首を傾げた後「ああそうか」とルートは納得した。

「ルーフォリアの体も拭いてあげる。すっきりしたいよね」
「ふぇっ?」
「ほら、おいで」

 ニコニコと手を差し伸べる。初めはまたフルフルと頭を振っていたルーフォリアだったがおずおずといった様子で近づいてきた。もしかしたらまだ多少警戒されていたのだろうか。
 布で体を拭きながら、改めて透き通るような白い肌にルートは感嘆した。今は見たところ五歳くらいだろう。大人になったらどんな風になるんだろうなと思わず微笑んだ。
 朝食後、ルートはしゃがんでルーフォリアに「あのさ」と話しかける。

「ルーフォリアは魔法、使えるみたいだけど」

 それに対しコクリと頷いてくるルーフォリアに、少々躊躇しながら続けた。

「その耳、隠すことってできる?」

 エルフは警戒心が強いが、確か矜持も高い。自らの容姿にしても隠さねばならないということに対して嫌がりそうな気がしていた。

「みみ……かくすの?」
「エルフ狩りを避けるために。俺一人なら対応できても、君を守りながら戦ったり逃げたりはそんなに自信持って大丈夫だよとはごめんね、言えないから」
「わかった」

 ルーフォリアは案外素直に頷いてくれた。そして何かを唱えたかと思うとエルフ特有の尖った耳はあっという間に人間のような形になる。

「ありがとう。ごめんね」

 どこか気に食わなさそうに魔法で変えた自分の耳を弄っているルーフォリアに謝ると、途端に悲しそうな顔をされた。

「ルート、あやまるひつよう、ない……おれの、せい」
「君のせいだなんて。俺、ずっと一人で旅してたしね、たまには旅の道連れができてわりと嬉しいなって思ってるよ」
「ほん、と?」
「ほんと」

 またしゃがんでニッコリと笑うと、小さな手が伸びてきた。そしてルートの両頬にそっと添えられる。何だろうと思いつつ可愛いのでそのまま見ているとルーフォリアは背伸びしてルートの唇に自分の唇を合わせてきた。

 ん?

 一瞬状況が分からずに固まっていたが、ゆっくりと脳が「今のはいわゆるキスだね」と信号を出してくる。

「……え、っと」
「ありがと、う。ルート。だいすき」

 動揺しているルートにルーフォリアは嬉しそうに笑顔を見せてきた。
 最近の五歳児は大胆だなと思いつつ、そういえば自分も小さな頃、母親や父親にキスをしたりされたりしていたことを思い出す。唇ではなく頬だったが、とても懐かしい。
 少し切ない気持ちになりつつもルートはルーフォリアに微笑んだ。

「俺もルーフォリア好きだよ」
「ほんと?」
「うん。里、見つかるといいな」
「うん!」
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