金のシルシ

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5話

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 その後も転々と村や町を変え、何かしら情報が得られないかと聞いて回った。しかしさすが人間嫌いのエルフとでも言おうか。見かけたという話はとんと聞かない。これでは埒が明かないなと思いつつも他にいい方法がない。地道にやっていくしかなかった。そのせいで村はさておき町に泊まることも多くなる。それなりに十分な蓄えはあったが念のため、ルートは途中何度かギルドに紹介してもらい簡単な日雇いの仕事やあまりレベルの高くはない魔物討伐も気軽に請け負った。
 体つきは華奢なほうかもしれないが、それなりに筋肉はある。それに普段滅多に使わないしさすがに怪我を治せはしないが、ルートの魔力はかなり強い。なのでそこそこ強い魔物であっても一人で対応できるが、宿で待たせているルーフォリアを思うと面倒はせずにさっさと片付けたかった。あと目立ちたくないという個人的な理由もある。なのであまりレベルの高い依頼は避けた。

「ただいま、ルーフォリア」

 一仕事追えて宿に戻ると、ルーフォリアが駆けつけてきてルートの足に抱きついてくる。相変わらず可愛いなあと思いつつ「留守番させてごめんね」と笑いかけた。

「ルート、いつも、なにして、る? エルフさがし、ならおれも……」
「ああ、違う違う。ちょっとしたお仕事だよ」
「……それも、おれ、いっしょ、に」

 いやいや、どこの世界に幼児に体使った仕事をさせるやつがいるんだよ。

苦笑しながらもルートはルーフォリアを抱き上げた。

「ありがとう。でもルーフォリアは誰にも見つからないようここでお留守番するのが仕事だよ」

 にっこり笑って言ったにも関わらず、ルーフォリアは不満そうな顔をしている。ちなみにそんな顔ですら綺麗だし可愛いのでエルフはすごいと思うし、自分の庇護欲も末期かもしれないとルートは思った。

「……ち、っちゃくて、ごめん、なさい」

 本当に末期かもしれない。

 胸を詰まらせながらルートはますます笑いかけた。

「何で謝るのかわからないな。俺、君のそんなあどけない様子にこうやって癒されてるのに」

 ぎゅっと抱きしめる。そして「さすがにずっとは抱っこできないなあ。重い。ちゃんと君が日々成長してる証だよ」と笑いかけながら下ろした。
 実際、ルーフォリアがエルフ狩りを生業にしている人間に見つかると厄介だ。一般人になら見つかっても問題はないしむしろ珍しがられながらも好意的に見られるかもしれないがと、頬を赤くしてまだ不満そうな顔の、整った造形の持ち主をルートは見る。しかしどこから情報など洩れるかわからない。ルートがあまり大々的に聞いて回らないのもそのためだ。
 だが、油断したつもりがなくとも問題事は起きる。とある大きな町を出た後に、とうとうルートはルーフォリア共々追手から逃げる羽目に陥っていた。町を出る辺りから不穏な空気は感じ取っていた。
 その後上手く巻いたつもりだったが、運が味方してくれなかったのか追い込まれ囲まれた。もちろん決してルーフォリアのせいではない。ルーフォリアは幼いながらにとても機敏に動いてくれていた。

「……ごめんね、俺が至らなかったかも」

 ぼそりと謝ると、また不満そうな顔でルーフォリアが見上げてきた。いつもはそれでも綺麗で可愛いなと思うのだが、こういった場だけにむしろつい笑えてきた。

「兄ちゃん、余裕だな」
「……、そうでもないよ」

 長い詠唱は向かないから、簡単な言葉で発動する魔法を使って一旦退けた後に改めて逃げるか、それとも諦めてしばらく動けない程度に倒すか──

「おっと、変な動きはするなよ。でないとそのチビ殺すぞ」

 それこそ、いつの間にか詠唱を終わらせていたらしい。囲ってきた相手の内一人がほんのり黄色く光る、かざした手をルーフォリアへ向けている。

「なっ、お前らが狙ってるのはこの子じゃないのか?」
「は? まあこのチビえらく綺麗な顔してるしな。これはこれで売れるだろうし殺すにゃ惜しいが、目的はお前に決まってんだろ」
「バレてないとでも思ってんのか? 忘れられてんなら悲しいねえ。以前俺らから逃げた時のことをよ」
「……」
 ルーフォリアの正体がバレた訳ではないことにホッとしながらも、まさか以前も追いかけられた者たちだったとはとルートは唇を噛み締めた。すると一人が近づいてきてルートの髪をつかんだ。そして耳を露わにしてくる。

「よーく見ねぇとわからねえけどな」

 囁くように言いながら、耳のふちをなぞってくる。その指の動きにルートはぞっとした。

「気持ち、悪い! 触るな!」
「は。髪で隠してるようだけどな、このほんのり尖ってる耳は人の持ちもんじゃねぇ。それに色白の整った顔立ち。あー……髪は赤茶色に染めてるのか? せっかくいいもん持ってるだろうにもったいねぇな?」
「黙れ!」
「っち」

 詠唱もなく使える簡単な魔法で相手を退けると、向こうは舌打ちした後に「おい、そのチビ、やれ!」と仲間に言い放ってきた。そしてルートをまた引き寄せようとしてくる。

「待っ」

 待ってくれ。

 そう口にする暇もなかった。その前に、囲っていた者たちは一気に激しい上昇気流によって巻き上げられ、地面に叩きつけられていた。

「は……?」

 何が起こったか把握できないでいるルートに、恐ろしく不満げな顔をしたルーフォリアが見上げてきた。

「ころ、す?」
「っ? えっ? あ、こっ、殺さなくていい! あ、え、えっと、助けてくれてありがとう、ルーフォリア……でも殺しちゃ、だめだ」

 あちこち折れてはいるだろうけれども、と内心思う。
 ルーフォリアはコクリと素直に頷いてきた。とりあえずそれにホッとしていると「でも、ルートの、きおく、けす」と、思い切り飛ばされたせいで呻きながら気絶している男どもをルーフォリアは睨んだ。

「記憶を? そ、んなこともできるのか?」

 純エルフの魔力が半端ないことは知っていたが、こんな幼子でもできるのかとルートは唖然とルーフォリアを見た。
「いち、おう。かんぜん? にはむり、かも」
 何やら聞いたことのない呪文を呟いているルーフォリアを、ルートは改めてポカンと眺めるしかできなかった。
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