5 / 9
5話
しおりを挟む
その後も転々と村や町を変え、何かしら情報が得られないかと聞いて回った。しかしさすが人間嫌いのエルフとでも言おうか。見かけたという話はとんと聞かない。これでは埒が明かないなと思いつつも他にいい方法がない。地道にやっていくしかなかった。そのせいで村はさておき町に泊まることも多くなる。それなりに十分な蓄えはあったが念のため、ルートは途中何度かギルドに紹介してもらい簡単な日雇いの仕事やあまりレベルの高くはない魔物討伐も気軽に請け負った。
体つきは華奢なほうかもしれないが、それなりに筋肉はある。それに普段滅多に使わないしさすがに怪我を治せはしないが、ルートの魔力はかなり強い。なのでそこそこ強い魔物であっても一人で対応できるが、宿で待たせているルーフォリアを思うと面倒はせずにさっさと片付けたかった。あと目立ちたくないという個人的な理由もある。なのであまりレベルの高い依頼は避けた。
「ただいま、ルーフォリア」
一仕事追えて宿に戻ると、ルーフォリアが駆けつけてきてルートの足に抱きついてくる。相変わらず可愛いなあと思いつつ「留守番させてごめんね」と笑いかけた。
「ルート、いつも、なにして、る? エルフさがし、ならおれも……」
「ああ、違う違う。ちょっとしたお仕事だよ」
「……それも、おれ、いっしょ、に」
いやいや、どこの世界に幼児に体使った仕事をさせるやつがいるんだよ。
苦笑しながらもルートはルーフォリアを抱き上げた。
「ありがとう。でもルーフォリアは誰にも見つからないようここでお留守番するのが仕事だよ」
にっこり笑って言ったにも関わらず、ルーフォリアは不満そうな顔をしている。ちなみにそんな顔ですら綺麗だし可愛いのでエルフはすごいと思うし、自分の庇護欲も末期かもしれないとルートは思った。
「……ち、っちゃくて、ごめん、なさい」
本当に末期かもしれない。
胸を詰まらせながらルートはますます笑いかけた。
「何で謝るのかわからないな。俺、君のそんなあどけない様子にこうやって癒されてるのに」
ぎゅっと抱きしめる。そして「さすがにずっとは抱っこできないなあ。重い。ちゃんと君が日々成長してる証だよ」と笑いかけながら下ろした。
実際、ルーフォリアがエルフ狩りを生業にしている人間に見つかると厄介だ。一般人になら見つかっても問題はないしむしろ珍しがられながらも好意的に見られるかもしれないがと、頬を赤くしてまだ不満そうな顔の、整った造形の持ち主をルートは見る。しかしどこから情報など洩れるかわからない。ルートがあまり大々的に聞いて回らないのもそのためだ。
だが、油断したつもりがなくとも問題事は起きる。とある大きな町を出た後に、とうとうルートはルーフォリア共々追手から逃げる羽目に陥っていた。町を出る辺りから不穏な空気は感じ取っていた。
その後上手く巻いたつもりだったが、運が味方してくれなかったのか追い込まれ囲まれた。もちろん決してルーフォリアのせいではない。ルーフォリアは幼いながらにとても機敏に動いてくれていた。
「……ごめんね、俺が至らなかったかも」
ぼそりと謝ると、また不満そうな顔でルーフォリアが見上げてきた。いつもはそれでも綺麗で可愛いなと思うのだが、こういった場だけにむしろつい笑えてきた。
「兄ちゃん、余裕だな」
「……、そうでもないよ」
長い詠唱は向かないから、簡単な言葉で発動する魔法を使って一旦退けた後に改めて逃げるか、それとも諦めてしばらく動けない程度に倒すか──
「おっと、変な動きはするなよ。でないとそのチビ殺すぞ」
それこそ、いつの間にか詠唱を終わらせていたらしい。囲ってきた相手の内一人がほんのり黄色く光る、かざした手をルーフォリアへ向けている。
「なっ、お前らが狙ってるのはこの子じゃないのか?」
「は? まあこのチビえらく綺麗な顔してるしな。これはこれで売れるだろうし殺すにゃ惜しいが、目的はお前に決まってんだろ」
「バレてないとでも思ってんのか? 忘れられてんなら悲しいねえ。以前俺らから逃げた時のことをよ」
「……」
ルーフォリアの正体がバレた訳ではないことにホッとしながらも、まさか以前も追いかけられた者たちだったとはとルートは唇を噛み締めた。すると一人が近づいてきてルートの髪をつかんだ。そして耳を露わにしてくる。
「よーく見ねぇとわからねえけどな」
囁くように言いながら、耳のふちをなぞってくる。その指の動きにルートはぞっとした。
「気持ち、悪い! 触るな!」
「は。髪で隠してるようだけどな、このほんのり尖ってる耳は人の持ちもんじゃねぇ。それに色白の整った顔立ち。あー……髪は赤茶色に染めてるのか? せっかくいいもん持ってるだろうにもったいねぇな?」
「黙れ!」
「っち」
詠唱もなく使える簡単な魔法で相手を退けると、向こうは舌打ちした後に「おい、そのチビ、やれ!」と仲間に言い放ってきた。そしてルートをまた引き寄せようとしてくる。
「待っ」
待ってくれ。
そう口にする暇もなかった。その前に、囲っていた者たちは一気に激しい上昇気流によって巻き上げられ、地面に叩きつけられていた。
「は……?」
何が起こったか把握できないでいるルートに、恐ろしく不満げな顔をしたルーフォリアが見上げてきた。
「ころ、す?」
「っ? えっ? あ、こっ、殺さなくていい! あ、え、えっと、助けてくれてありがとう、ルーフォリア……でも殺しちゃ、だめだ」
あちこち折れてはいるだろうけれども、と内心思う。
ルーフォリアはコクリと素直に頷いてきた。とりあえずそれにホッとしていると「でも、ルートの、きおく、けす」と、思い切り飛ばされたせいで呻きながら気絶している男どもをルーフォリアは睨んだ。
「記憶を? そ、んなこともできるのか?」
純エルフの魔力が半端ないことは知っていたが、こんな幼子でもできるのかとルートは唖然とルーフォリアを見た。
「いち、おう。かんぜん? にはむり、かも」
何やら聞いたことのない呪文を呟いているルーフォリアを、ルートは改めてポカンと眺めるしかできなかった。
体つきは華奢なほうかもしれないが、それなりに筋肉はある。それに普段滅多に使わないしさすがに怪我を治せはしないが、ルートの魔力はかなり強い。なのでそこそこ強い魔物であっても一人で対応できるが、宿で待たせているルーフォリアを思うと面倒はせずにさっさと片付けたかった。あと目立ちたくないという個人的な理由もある。なのであまりレベルの高い依頼は避けた。
「ただいま、ルーフォリア」
一仕事追えて宿に戻ると、ルーフォリアが駆けつけてきてルートの足に抱きついてくる。相変わらず可愛いなあと思いつつ「留守番させてごめんね」と笑いかけた。
「ルート、いつも、なにして、る? エルフさがし、ならおれも……」
「ああ、違う違う。ちょっとしたお仕事だよ」
「……それも、おれ、いっしょ、に」
いやいや、どこの世界に幼児に体使った仕事をさせるやつがいるんだよ。
苦笑しながらもルートはルーフォリアを抱き上げた。
「ありがとう。でもルーフォリアは誰にも見つからないようここでお留守番するのが仕事だよ」
にっこり笑って言ったにも関わらず、ルーフォリアは不満そうな顔をしている。ちなみにそんな顔ですら綺麗だし可愛いのでエルフはすごいと思うし、自分の庇護欲も末期かもしれないとルートは思った。
「……ち、っちゃくて、ごめん、なさい」
本当に末期かもしれない。
胸を詰まらせながらルートはますます笑いかけた。
「何で謝るのかわからないな。俺、君のそんなあどけない様子にこうやって癒されてるのに」
ぎゅっと抱きしめる。そして「さすがにずっとは抱っこできないなあ。重い。ちゃんと君が日々成長してる証だよ」と笑いかけながら下ろした。
実際、ルーフォリアがエルフ狩りを生業にしている人間に見つかると厄介だ。一般人になら見つかっても問題はないしむしろ珍しがられながらも好意的に見られるかもしれないがと、頬を赤くしてまだ不満そうな顔の、整った造形の持ち主をルートは見る。しかしどこから情報など洩れるかわからない。ルートがあまり大々的に聞いて回らないのもそのためだ。
だが、油断したつもりがなくとも問題事は起きる。とある大きな町を出た後に、とうとうルートはルーフォリア共々追手から逃げる羽目に陥っていた。町を出る辺りから不穏な空気は感じ取っていた。
その後上手く巻いたつもりだったが、運が味方してくれなかったのか追い込まれ囲まれた。もちろん決してルーフォリアのせいではない。ルーフォリアは幼いながらにとても機敏に動いてくれていた。
「……ごめんね、俺が至らなかったかも」
ぼそりと謝ると、また不満そうな顔でルーフォリアが見上げてきた。いつもはそれでも綺麗で可愛いなと思うのだが、こういった場だけにむしろつい笑えてきた。
「兄ちゃん、余裕だな」
「……、そうでもないよ」
長い詠唱は向かないから、簡単な言葉で発動する魔法を使って一旦退けた後に改めて逃げるか、それとも諦めてしばらく動けない程度に倒すか──
「おっと、変な動きはするなよ。でないとそのチビ殺すぞ」
それこそ、いつの間にか詠唱を終わらせていたらしい。囲ってきた相手の内一人がほんのり黄色く光る、かざした手をルーフォリアへ向けている。
「なっ、お前らが狙ってるのはこの子じゃないのか?」
「は? まあこのチビえらく綺麗な顔してるしな。これはこれで売れるだろうし殺すにゃ惜しいが、目的はお前に決まってんだろ」
「バレてないとでも思ってんのか? 忘れられてんなら悲しいねえ。以前俺らから逃げた時のことをよ」
「……」
ルーフォリアの正体がバレた訳ではないことにホッとしながらも、まさか以前も追いかけられた者たちだったとはとルートは唇を噛み締めた。すると一人が近づいてきてルートの髪をつかんだ。そして耳を露わにしてくる。
「よーく見ねぇとわからねえけどな」
囁くように言いながら、耳のふちをなぞってくる。その指の動きにルートはぞっとした。
「気持ち、悪い! 触るな!」
「は。髪で隠してるようだけどな、このほんのり尖ってる耳は人の持ちもんじゃねぇ。それに色白の整った顔立ち。あー……髪は赤茶色に染めてるのか? せっかくいいもん持ってるだろうにもったいねぇな?」
「黙れ!」
「っち」
詠唱もなく使える簡単な魔法で相手を退けると、向こうは舌打ちした後に「おい、そのチビ、やれ!」と仲間に言い放ってきた。そしてルートをまた引き寄せようとしてくる。
「待っ」
待ってくれ。
そう口にする暇もなかった。その前に、囲っていた者たちは一気に激しい上昇気流によって巻き上げられ、地面に叩きつけられていた。
「は……?」
何が起こったか把握できないでいるルートに、恐ろしく不満げな顔をしたルーフォリアが見上げてきた。
「ころ、す?」
「っ? えっ? あ、こっ、殺さなくていい! あ、え、えっと、助けてくれてありがとう、ルーフォリア……でも殺しちゃ、だめだ」
あちこち折れてはいるだろうけれども、と内心思う。
ルーフォリアはコクリと素直に頷いてきた。とりあえずそれにホッとしていると「でも、ルートの、きおく、けす」と、思い切り飛ばされたせいで呻きながら気絶している男どもをルーフォリアは睨んだ。
「記憶を? そ、んなこともできるのか?」
純エルフの魔力が半端ないことは知っていたが、こんな幼子でもできるのかとルートは唖然とルーフォリアを見た。
「いち、おう。かんぜん? にはむり、かも」
何やら聞いたことのない呪文を呟いているルーフォリアを、ルートは改めてポカンと眺めるしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます
春凪アラシ
BL
「君がどうしてもっていうなら、付き合ってあげないこともないけど?」
完璧すぎる僕、ブルーノ。美貌も才能も自信も満点のはずなのに、初めての恋ではまさかの振られ体験!?
誰もが振り返るほどの魅力を持つ猫獣人が、運命の軍人さんに出会い、初恋に落ち、全力で恋を追いかける――奮闘ラブストーリー!
前作の「『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。」と同じ世界線です。このお話だけで読めますが、トアの物語が気になったらこちらも是非よろしくお願いします!
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで
0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。
登場人物はネームレス。
きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。
内容はタイトル通りです。
※2025/08/04追記
お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる