金のシルシ

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6話

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 その日の夜は野営した。準備している間も食事中も、ルーフォリアがどうにも物言いたげといった顔でじっと見てくる。それでも何とかスルーしていたのだが、そろそろ耐えられなくなってきた。例え幼児でも美形の力はすごいなと茶化すように内心ため息を吐く。

「わかった」

 二人して眠るために横になっていたが、とうとうルートはむくりと起き上がり、その場へ座った。ルーフォリアもじっとルートを見たまま起き上がって向かい合うように座る。

「ルーフォリアが何を言いたいかわかってるよ。わかったよ、言う。言うからそんな顔でずっと見てくるの、やめようね」
「……そんなかお……」

 怪訝そうに首を傾げているルーフォリアを見て、自分の顔面の威力に対して自覚がないらしいとルートは苦笑する。

「あー、えっと。俺は……確かに人間って訳じゃあ、ない。……でもエルフでもない、かな」
「……?」
「ハーフなんだ」

 人間とエルフとの間に生まれた。父親が人間で母親がエルフだった。過去形なのはもう二人ともいないからだ。
 ルートには家がないだけでなく、親もいない。小さな頃に母親と共に奴隷商に捕まり、それを助けようとして父親は命を落とした。ルートを何とか逃がすことで母親も結局亡くなってしまった。一人残ったルートは最初こそ、自分だけ残して逝ってしまった親を恋しく思い、いっそ自分も殺して欲しかったと願ったが、そのうち親の守ってくれた命を愛しく思えるようになった。それからは何とか一人で生きてきた。
 エルフからしたらルートは野蛮な人間の血が流れている欠陥品だろう。
 一部の人間からしたら純エルフではないものの、それでも使えるものとして今日のように狩りの対象になる。
 それもあってエルフの里へは行けないし、人間にも上手く馴染めず、ルートはずっと一人で旅を続けていた。もちろん旅にも慣れたし、一般的な人間とは一期一会もあって上手くやれている。今日のような奴隷商に対しても、これまで上手く逃げてきた。これでも日々、それなりに楽しく過ごしている。

「髪はね、染めてる」

 ハーフであることを告げ、簡単に説明した後、ルートはにっこりと笑って簡単な呪文を唱えながら手櫛で髪をすいていく。すると赤茶けた色は次第に薄いベージュ色へと変わっていった。目の前のエルフのような美しい金髪とはいかなくとも、この辺の人間には持ち得ない色だ。

「ごめんね、騙しているつもりはなかったんだよ。別に言うことでもないかなって思って」

 いや、少し嘘だ。
 わざわざ言う必要がないとは確かに思いつつも、あんなに懐いてくれていたルーフォリアが純エルフである故にルートは恐れていた。

「……ルート、かみ、きれい」

 ぽかんとしていたルーフォリアが微笑みながらそっとルートの髪に触れてきた。別にそういう訳ではないのだろうが、それがまるでルーフォリアに、ひいてはエルフから認められたような気持ちになり、ルートは少し目が潤みかけた。

 純エルフの君のほうが透けるような金色をしていて百倍綺麗だよ。

 そう思いつつ胸が痛くて口元が綻ぶ。

「はは……ありがとう」

 変に震えないよう、何とか何でもないようルートがにっこり笑うと、ルーフォリアは立ち上がり、顔を近づけてキスをしてきた。
 またこの子はと思いつつも、ハーフだと打ち明けた後だけにルートとしても何となく嬉しかった。

「おれは、ルート、だいすき」
「ありがとう。俺もルーフォリアが大好きだよ」
「にんげん、でもハーフ? でも、かわら、ない」
「……嬉しいな」

 その後、小さな体でぎゅっとルートを抱きしめるかのようにして眠ってしまったルーフォリアを、ルートは優しく微笑みつつ眺め、そしてたまにするように金色のペンダントトップをそっと握った。
 母親の形見だ。
 その後自分も眠りに陥った。
 翌日以降もエルフの情報を得る旅は続いた。そうしてようやく、とある村の近くでエルフを見かけたという情報を得られた。エルフを見かけたという簡単な情報だけでどれだけ日数がかかっただろうと苦笑しつつ、それほどにエルフが基本的に人間の前に姿を表さないのだろうなと実感する。
 噂から想定される森を、二人は即座に目指した。だか案の定と言うのだろうか。ルートとしては普通に進んでいるつもりだったが、どうやらある程度奥に差し掛かったところで同じ場所をぐるぐると回っていたようだ。ルーフォリアに指摘されてルートも気づいた。指摘されなければ中々気づかなかっただろうし、恐らく普通の人間ならもっとわからなくて下手をすると森の中で遭難していただろうと思われる。
 そろそろ辺りも暗くなってきていたため、仕方なく今日のところは切り上げ、この場で野営することにした。

「ねえルーフォリア」
「?」
「ルーフォリアはエルフだし、何かこう、感じるものとか、ない?」
「……ない」
「じゃ、じゃあせめて入口を見つける方法とか、入れてもらえる連絡の取り方とか」
「ごめん、なさい。おれ、さとからでた、ことない、からしら、ない」
「そっか。うん、そうだよな。ルーフォリアが謝る必要ないよ。俺もごめんね。よし、明日はまたうろうろしながら時折呼びかけてみよっか。ルーフォリアはエルフ語で話してみて」

 申し訳なさそうにしているルーフォリアに笑いかけると少し黙った後にじっと見上げてきた。その様子がまた可愛い。

「ん?」
「……おれ、もしみつからなくて、も……ルートといっしょ、うれしい」
「っう、うん」

 俺も嬉しい。そう思った後で内心首をぶんぶんと振った。
 まだ幼児なのだ。ルーフォリアはちゃんとエルフの里で成長すべきだ。

「ありがとう。でもきっと見つかるよ。がんばろ?」
「う、ん」

 頷いた後、ルーフォリアが微笑んできた。
 翌日は言っていたように時折呼びかけてみたりルーフォリアにはエルフ語で何やら話してもらった。はたから見たら少々胡散臭いというか不審者のようだったかもしれない。それでもきっとこの森の中のどこかに入口はあると、ルートは妙な確信があった。きちんとした理由はない。情報はエルフを見かけたというものだけだったし、そこからこの森を予測しただけだ。それでも何故かここだとルートには思えた。もちろんそれがルーフォリアの里という確証はない。別のエルフの里かもしれない。だがエルフの里にさえ入れてもらえれば、ルーフォリアの里もきっとすぐにわかるだろう。
 不審者の如くうろうろし続けて三日目、とうとう一人のエルフが不機嫌そうな顔をしながらルートたちの前に姿を現した。
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