金のシルシ

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7話

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 とてつもなく不機嫌そうな顔を見て「あ、俺もしや殺されるのでは」とつい思ってしまったルートは仕方がないと思う。それほどまでに姿を現してきたエルフの表情は嫌悪と怒りに満ちていた。
 だがルートが何かを言う前に、そのエルフが何かをする前に、ルーフォリアが間に遮るようにして入ってき、エルフ語だろう、何やら話し始めた。とたんにそのエルフの顔が優しくなる。
 俺はどうしようか、とルートが思っていると声をかけられた。

「おい」
「は、はい」
「……、……っ、……入れて、やる。来い」

 心底とてつもなく嫌そうに言われ、ルートはむしろ苦笑した。警戒心が強く閉鎖的なエルフにとってハーフエルフは下手をすると人間よりも汚らわしいものと見なされる場合がある。それはもう、差別云々というよりは培ってきたそういう文化なのだ、致し方ないと思うしかない。
 ルーフォリアが心配そうに見上げながらルートの手をぎゅっと握ってきた。ルートは「大丈夫だよ」という意味を込めて微笑みながら優しく握り返す。
 少し歩いていると風景がくらりと歪んだ。まるで少しずつ色彩がずれていくかのような違和感と気持ち悪さに、せめてと目線をずらしながら進んだ。気づけば目の前に大きなオークの木があった。こんな大きなオークの木なんてあっただろうかとルートが思っていると、エルフはじろりと見てきた後、黙ってその裏へ回る。ルートはルーフォリアの手を繋ぎながら慌ててその後へ続くと、幹の間に入っていくエルフを見た。
 えっ、と焦りつつもルートはそれに倣う。こんな隙間に入って一体、と思っていると今度は目の前に自然に囲まれたいくつもの美しい丸太小屋のある光景が広がっていた。
 丸太小屋に美しいという表現はおかしいかもしれないが、今ルートが見ている光景はそうとしか言い様がない。思わず見惚れていると「こっちだ」と言われた。
 一番大きな小屋に案内され、しばらくルーフォリアと一緒に待つ。二人は床に直接置かれた、ガマの葉で編まれた平たい座布団に座っていた。普段床に直接座ることなどないためルートは少し落ち着かない気持ちでいると「待たせてしまったな」と奥から誰かが出てきた。見れば、先ほどのエルフも美しかったがこれまたさらに美しいエルフが近づいてくる。その上とても威厳があり、ますますルートは落ち着かなかった。

「私がこの里の責任を預かる者だ。そこのルーフォリアとやらからは簡単な話を先ほどの者が聞いたようだが。お前からの話を聞こう」

 そう言われ、確かにハーフエルフが純エルフの子を連れてこの辺をうろうろしていれば一見ただの不審者でしかないと改めて気づいた。何かよからぬことを企んでいると思われて先ほどのエルフに嫌悪に満ちた顔で見られても仕方がない。
 ルートは慌てて、これまでの経緯を話した。話ながら妙に嬉しさも感じたのは、ハーフエルフである自分の話をこうしてエルフの長が聞こうと言ってくれたからだろう。自分のような半端者に対し、警戒心の強いエルフにどんな形であれ向き合ってもらえたことが、卑屈になったつもりはなくとも嬉しいのだ。

「わかった。そこのルーフォリアはこちらで預かろう。……守ってくれて感謝する」

 感謝。

 まさかエルフからそう言ってもらえるとは。ルートは思わず無意識に自分のペンダントトップをそっと握っていた。いつも何かあればこれに願いを、感謝を告げていた。
 すると長がそれをじっと見てくる。その視線に気づいてルートは怪訝な顔を向けた。

「あの……?」
「……何でもない。出口まで送ってくるがいい、ルーフォリア」

 ルーフォリアがこくりと頷いた。
 案内されて来た道を今度は二人でゆっくりと歩く。

「よかったね、里に入れて」

 少しもやもやとルートの胸に渦巻く何かは、多分寂しいという感情なのだろう。ルーフォリアと出会ってから今までの旅は、中々見つからないという焦りはありつつもとても楽しかった。
 歩きながらのルートの言葉に、ルーフォリアは頷き、ぎゅっと手を握ってきた。

「ルート」

 恐らくここを抜けたら元の場所に戻るのだろうといったところでルーフォリアが名前を呼んできた。

「ん?」
「ナイフ、もって、る?」
「? 持ってるよ」

 出る時は必要なのだろうかと怪訝に思いながらルートはナイフを見せた。するとそれを奪われる。

「あっ、駄目だよ危ない!」

 慌てて、だがルーフォリアが怪我をしないよう慎重に奪い返そうとするルートに、ルーフォリアがにっこりと笑いかけてきた。そしてとても美しい自分の髪を一房、ナイフで切った。それをルートの腕に器用にくくりつけてくる。

「何を……」
「これ、もって、て」
「持って?」
「ずっと、もってて」

 ルートは思わず頷いていた。

「おれ、とあなた、がまた、め……めぐりあい? ますよう」
「……ルーフォリア」
「ありが、と……ルート」

 微笑み、腕を伸ばしてくるルーフォリアに、ルートも笑って体を屈めた。そしてお互いぎゅっと抱き合う。

「また、ね、ルート」

 さよならは言わないつもりなのだなとルートは頷く。

「うん、また。ルーフォリア」

 とん、と優しく押された。次の瞬間にはルートは元の森に戻っていた。

 いつもの日常に戻っただけだ。

 そう思い、歩き始めたものの、ぎゅっと握ってくる小さな手がなくて。
 ルート、と呼ぶ片言で舌ったらずの声が聞こえなくて。
 テントを張る時のむしろ邪魔な勢いでのちょこまかと周りをうろうろする姿がなくて。
 そして眠る時に寄り添い感じるじわりと暖かい温度がなくて。

 多分寂しい、なんてものじゃない。

 しんとした空気が寂しくて心がぽっかりとした感じが淋しいと、ルートは今自分の頬が涙に濡れていることに気づきながら心底思い知っていた。
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