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もうひと眠りするといい、そう促し横になった克海を見てから部屋を出た。とりあえず朝食は無理だろうなと判断しながら、陸史はため息ついた。
「……まだ時期じゃなかったんだけどな」
智空が目を覚ましたなら克海も覚ましているかもしれないと考えるべきだった。起きているなんて少しも疑っていなかった。浅はか過ぎると、自分を腹立たしく思う。それに智空が寝ぼけていたとはいえ、克海に告げていたとは。
そのまま一階へ向かおうとしていると「あつ兄……」と背後から呼びかけられる。振り返り智空の表情を見て、部屋での話をどこからかはわからないが、智空が聞いていたのだと陸史はわかった。
浅はか過ぎる、第二弾だなと自分に対して揶揄する。
目の前にいる末の弟は、まるで雨に打たれた子猫のようだった。とてつもなく落ち込んでいるであろう頭に、陸史はそっと手を置いた。
「大丈夫だよあき。克海はきっと受け止めてくれるよ」
あまり無責任なことを言うつもりはないが、実際克海なら陸史や智空を兄弟としてすら受け入れられなくなるなんてことはきっとないと思えた。
「だから朝飯、食おう」
今の智空に食欲などないだろうけれども、食べさせないと後できっといつものように戻ってくれると信じている克海に怒られる。
「せっかく美味しい、玉ねぎたっぷりの味噌汁を作ったんだぞ。残すなよ?」
あえて茶化すように言う。智空は無言のままだったが頷いてきた。その肩を抱いて陸史は一階へ下りた。両親はすでに出かけているようで、よかったとぼんやり思う。
「あつ兄……俺、何でかつ兄好きになっちゃったんだろ。嫌いになれれば楽なのに……悲しませたくなんかなかった」
席に着くと智空は我慢していたものが崩壊したかのように、溢れ出てしまったかのように、堰を切ったかのように泣き出した。その気持ちは陸史もわかる。一緒だった。持ってはいけない恋情を抱えてしまった。それをせめて一人でひっそり抱えていられればいいものを、抑えることもできない。
だが悪いことをしているという気持ちだけはなかった。いや、もちろん克海に対しては本当に申し訳ないと思う。悪いと思う。ただ、誰かを好きになる気持ちが悪いとは思わない。例えもし誰かに知られ、間違っていると言われても、それだけは認めない。自分は間違ってなんかいない。兄弟としか見られない克海を苦しめることは認めても、この気持ちが間違っているとだけは絶対に認めない。
「あき……兄弟だろうがなんだろうが、好きになった気持ちは間違ってない。誰にも止められないし、お前の気持ちはお前だけのものだ。好きになるな、なんて誰にも言う権利なんてないし言わせない。確かに克海を苦しめていることは間違いない。でも、お前のその気持ちを非難する権利は克海にだってないんだ。だから嫌いになればなんて思わなくていい……」
ひたすら涙を溢れさせている智空を陸史はきつく抱きしめた。
真面目で優しい智空は、きっと陸史が思っているよりももっと、好きだという気持ちに対して割り切れることができなかっただろう。何度も何度も悩み、自分を責め続け、どうにか諦めようとしたのかもしれない。陸史は多分他からすれば呆れるほど切り替えられていただろうが、智空はそうはなれなかったのだろう。
そう思うと、諦められるなら諦めたほうが楽なのだろうなとは思う。別にライバルだからだとか、やはりこの恋情は間違っているからだとかそういうつもりはないし、止めるべきだなんて言うつもりもない。むしろ智空のことも弟としてずっとそばにいて欲しいしいたいと思っている陸史にとって、同じ相手を想ってくれているほうがおかしな話だが安心さえできた。だが、もし諦められるのなら、智空にとってはそのほうがきっと本当にいいことのようには思える。
自分でも性格が悪いと自覚しているし自分が幸せでないのなら他の誰かを幸せになんてできないとさえ陸史は思っている。だが当然ながら、克海や智空には当たり前に幸せでいて欲しい。
間違った気持ちだとはこれっぽっちも思わないが、この感情が世間では間違っていると思われることも知っているし、罪だとさえ思われることも知っている。男同士でさえまだまだ風当たりが強いというのに兄弟という近親相姦など、あり得ないことだ、と。それでも陸史は克海が兄弟でよかったと思っているし、運命だとさえ思って受け入れている。
ただ、智空には耐えられない重さなのだとしたら、固執するよりは諦めたほうが智空のためなのだろうと思えた。
それでも、陸史の口からは「こうするべきだ」とは言わない。嫌いになれればなどといった考えに対しては「そんな風に思う必要はない」とは言うが、だからといって「好きでいろ」とも「いっそもう諦めろ」とも言わない。
どうか、苦しくてひたすら悩み続けたとしても、智空が望むままにいて欲しいと思う。
……俺は性格悪いから、肝心なことは言わないくせにあれこれ余計なことは言うかもだけど。でも実際は何だかんだ言って、何よりもお前の幸せは結局のところ俺の幸せでもあるから。
背中を優しく叩きながら、陸史は目の前の弟に思う。そして、今は眠っているのであろう愛しい弟に対しても思っていた。
「……まだ時期じゃなかったんだけどな」
智空が目を覚ましたなら克海も覚ましているかもしれないと考えるべきだった。起きているなんて少しも疑っていなかった。浅はか過ぎると、自分を腹立たしく思う。それに智空が寝ぼけていたとはいえ、克海に告げていたとは。
そのまま一階へ向かおうとしていると「あつ兄……」と背後から呼びかけられる。振り返り智空の表情を見て、部屋での話をどこからかはわからないが、智空が聞いていたのだと陸史はわかった。
浅はか過ぎる、第二弾だなと自分に対して揶揄する。
目の前にいる末の弟は、まるで雨に打たれた子猫のようだった。とてつもなく落ち込んでいるであろう頭に、陸史はそっと手を置いた。
「大丈夫だよあき。克海はきっと受け止めてくれるよ」
あまり無責任なことを言うつもりはないが、実際克海なら陸史や智空を兄弟としてすら受け入れられなくなるなんてことはきっとないと思えた。
「だから朝飯、食おう」
今の智空に食欲などないだろうけれども、食べさせないと後できっといつものように戻ってくれると信じている克海に怒られる。
「せっかく美味しい、玉ねぎたっぷりの味噌汁を作ったんだぞ。残すなよ?」
あえて茶化すように言う。智空は無言のままだったが頷いてきた。その肩を抱いて陸史は一階へ下りた。両親はすでに出かけているようで、よかったとぼんやり思う。
「あつ兄……俺、何でかつ兄好きになっちゃったんだろ。嫌いになれれば楽なのに……悲しませたくなんかなかった」
席に着くと智空は我慢していたものが崩壊したかのように、溢れ出てしまったかのように、堰を切ったかのように泣き出した。その気持ちは陸史もわかる。一緒だった。持ってはいけない恋情を抱えてしまった。それをせめて一人でひっそり抱えていられればいいものを、抑えることもできない。
だが悪いことをしているという気持ちだけはなかった。いや、もちろん克海に対しては本当に申し訳ないと思う。悪いと思う。ただ、誰かを好きになる気持ちが悪いとは思わない。例えもし誰かに知られ、間違っていると言われても、それだけは認めない。自分は間違ってなんかいない。兄弟としか見られない克海を苦しめることは認めても、この気持ちが間違っているとだけは絶対に認めない。
「あき……兄弟だろうがなんだろうが、好きになった気持ちは間違ってない。誰にも止められないし、お前の気持ちはお前だけのものだ。好きになるな、なんて誰にも言う権利なんてないし言わせない。確かに克海を苦しめていることは間違いない。でも、お前のその気持ちを非難する権利は克海にだってないんだ。だから嫌いになればなんて思わなくていい……」
ひたすら涙を溢れさせている智空を陸史はきつく抱きしめた。
真面目で優しい智空は、きっと陸史が思っているよりももっと、好きだという気持ちに対して割り切れることができなかっただろう。何度も何度も悩み、自分を責め続け、どうにか諦めようとしたのかもしれない。陸史は多分他からすれば呆れるほど切り替えられていただろうが、智空はそうはなれなかったのだろう。
そう思うと、諦められるなら諦めたほうが楽なのだろうなとは思う。別にライバルだからだとか、やはりこの恋情は間違っているからだとかそういうつもりはないし、止めるべきだなんて言うつもりもない。むしろ智空のことも弟としてずっとそばにいて欲しいしいたいと思っている陸史にとって、同じ相手を想ってくれているほうがおかしな話だが安心さえできた。だが、もし諦められるのなら、智空にとってはそのほうがきっと本当にいいことのようには思える。
自分でも性格が悪いと自覚しているし自分が幸せでないのなら他の誰かを幸せになんてできないとさえ陸史は思っている。だが当然ながら、克海や智空には当たり前に幸せでいて欲しい。
間違った気持ちだとはこれっぽっちも思わないが、この感情が世間では間違っていると思われることも知っているし、罪だとさえ思われることも知っている。男同士でさえまだまだ風当たりが強いというのに兄弟という近親相姦など、あり得ないことだ、と。それでも陸史は克海が兄弟でよかったと思っているし、運命だとさえ思って受け入れている。
ただ、智空には耐えられない重さなのだとしたら、固執するよりは諦めたほうが智空のためなのだろうと思えた。
それでも、陸史の口からは「こうするべきだ」とは言わない。嫌いになれればなどといった考えに対しては「そんな風に思う必要はない」とは言うが、だからといって「好きでいろ」とも「いっそもう諦めろ」とも言わない。
どうか、苦しくてひたすら悩み続けたとしても、智空が望むままにいて欲しいと思う。
……俺は性格悪いから、肝心なことは言わないくせにあれこれ余計なことは言うかもだけど。でも実際は何だかんだ言って、何よりもお前の幸せは結局のところ俺の幸せでもあるから。
背中を優しく叩きながら、陸史は目の前の弟に思う。そして、今は眠っているのであろう愛しい弟に対しても思っていた。
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