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学校の講義についぼんやりしそうになり、克海はいやいや、と首を小さく振って自分に活を入れる。
昨日、兄と弟の気持ちを知ってしまった。引くとかそういうのはなかったが、だが咄嗟に思ったことは「あり得ない」ではあった。血の繋がった兄弟でそして同性。到底理解できない。ただそれでもやっぱり二人のことは兄弟として大好きで。
でも、と克海はまたぼんやり考えていたことに気づきながら、ノートに置いた手を見る。
でも、いつものように戻れてよかった。
そう思いつつも、わかってはいる。いつもとは、やはり違う。
智空に嫌われていないと明確にわかったのは嬉しいが、向けられている気持ちの方向性が違った。それには答えてあげられない。それが切なくあるが、どうしようもない。ただ智空への接し方は自分でも変わったなと思う。わざとではないが、弟への境界線をここまで広げ、ここで留めるといった風に、前よりつかみやすくなったように思える。智空の気持ちに答えられないので申し訳なさもあるが、正直嬉しかったりもする。弟に対して遠慮なく接することができると言うのだろうか。普通なら気持ちを知ってしまった分、以前より遠慮してしまう流れなのかもしれない。だが元々反抗期のベクトルをある意味向けられていた克海としては、今のほうが遠慮なくぶつけやすい。ただ、それが智空の気持ちを利用しているのではないかと一瞬思えて、そんなつもりはないものの申し訳なさを覚えた。とはいえ、変に遠慮してしまうほうが智空を傷つけるような気もするので、今のままでいいかと思うことにする。
陸史に対してが、むしろ読めないかもしれない。元々遠慮など全くしていなかった兄だ。それが気持ちを知ってしまって逆に遠慮してしまうだろうかと危惧していたが、幸いというのか、それはなかった。ただ、陸史がどう接してくるのかが読めない。
「好きでいるだけじゃなくて、好きになってもらうために動くよ。いい?」
そう言っていたが、あの後の流れを考えると、克海がいつものように戻ってもらうため言っただけかもしれない。だが陸史だけに本当にわからない。本当のことを言ったのかもしれない。
本当のことだったらまずくないか、俺。兄に対して何つーか、貞操の危機とでも言うのか? いやいや、まさか。いやでもあいつほんっと読めない……。
あれだけずっと一緒にいた気がする兄だというのに、思えば陸史が普段している言動も、わかっているようでわかっていないかもしれない。あのやたらと明るいところも、もしかしたら表面だけという可能性だってないとは言えない。
克海は昨日見た、陸史の苦しそうで切なそうな様子を思い浮かべた。そして陸史に対し「一体、いつからこうして上手く笑うようになっていたのだろうか」と思った自分を思い返す。そして胸がずきりと痛んだ。
結局今の講義ほとんどが頭に入ってこないままだった。ノートも全然とれていない。
「……鈴原」
普段同じ講義をとることの多い、隣に座っていた友人へ、克海はため息つきながら話しかけた。鈴原は本やノートをまとめて鞄にしまうところだった。
「何」
「ノートしまうの待って。それ、ちょっと貸してくれない? 今の授業、全然ノートとってなかった」
「寝てはなかったよな?」
「まぁ」
「何か悩みごと?」
「うーん」
「ま、いいけど。じゃあコーヒー、ホイップましましで」
「コーヒーは了解したけど学食にそういう設定ないからな」
「っち」
「何で舌打ち? あーもう。わかったよ。学校出たとこのカフェ行けばいいんだろ」
「ニューヨークチーズケーキもつけてくれ」
「真顔で厚かましいなお前」
微妙な顔をして鈴原を見ると、無言でノートを顔のそばにかざしてきた。
「わかったよ!」
「あとミルクレープ」
「増やすな!」
その後、昼前に陸史から『昼一緒に食う?』と連絡が来ていた。鈴原ありがとう、と少しだけ感謝を込めて心の中でだけ礼を言うと『鈴原と食う約束。ノート借りる代わりにコーヒーおごる羽目になって』と返信した。別に陸史と顔を合わせたくないのではない。今まで通りでいたいと願ったのは克海だ。ただ、陸史が読めないだけに多少構えてしまうのは仕方ない、と自分に言い聞かせる。だがまた返ってきた内容を見て苦笑した。
『居眠りでもしたのか? じゃあ代わりに帰りつき合ってね。どうせ買い物行くだろ?』
そう言われると断る理由が浮かばない。
『わかった』
簡潔にそれだけ返すと、克海はため息をまた少しついた。嫌なのではない。陸史のことは変わらず好きだ。兄として。でも読めない相手に、どう接していいのか戸惑いそうでそれが嫌だ。戸惑いたくない。普通でいたい。
「何。愛しの兄ちゃんからじゃないのか?」
「愛しの、は余計なんだよ。陸史からで合ってるけど」
「いつもだったら『まただよ面倒だな』とか言いながらニコニコしてるだろお前。ツンデレかよって言いたくなる」
「ツンデレじゃないし煩いんだよ鈴原。ミルクレープつけないぞ」
「え、ホイップたっぷりコーヒーとチーズケーキとガトーショコラの他にミルクレープもつけてくれるつもりだったのか。ありがとう」
「増えてんぞ……!」
昨日、兄と弟の気持ちを知ってしまった。引くとかそういうのはなかったが、だが咄嗟に思ったことは「あり得ない」ではあった。血の繋がった兄弟でそして同性。到底理解できない。ただそれでもやっぱり二人のことは兄弟として大好きで。
でも、と克海はまたぼんやり考えていたことに気づきながら、ノートに置いた手を見る。
でも、いつものように戻れてよかった。
そう思いつつも、わかってはいる。いつもとは、やはり違う。
智空に嫌われていないと明確にわかったのは嬉しいが、向けられている気持ちの方向性が違った。それには答えてあげられない。それが切なくあるが、どうしようもない。ただ智空への接し方は自分でも変わったなと思う。わざとではないが、弟への境界線をここまで広げ、ここで留めるといった風に、前よりつかみやすくなったように思える。智空の気持ちに答えられないので申し訳なさもあるが、正直嬉しかったりもする。弟に対して遠慮なく接することができると言うのだろうか。普通なら気持ちを知ってしまった分、以前より遠慮してしまう流れなのかもしれない。だが元々反抗期のベクトルをある意味向けられていた克海としては、今のほうが遠慮なくぶつけやすい。ただ、それが智空の気持ちを利用しているのではないかと一瞬思えて、そんなつもりはないものの申し訳なさを覚えた。とはいえ、変に遠慮してしまうほうが智空を傷つけるような気もするので、今のままでいいかと思うことにする。
陸史に対してが、むしろ読めないかもしれない。元々遠慮など全くしていなかった兄だ。それが気持ちを知ってしまって逆に遠慮してしまうだろうかと危惧していたが、幸いというのか、それはなかった。ただ、陸史がどう接してくるのかが読めない。
「好きでいるだけじゃなくて、好きになってもらうために動くよ。いい?」
そう言っていたが、あの後の流れを考えると、克海がいつものように戻ってもらうため言っただけかもしれない。だが陸史だけに本当にわからない。本当のことを言ったのかもしれない。
本当のことだったらまずくないか、俺。兄に対して何つーか、貞操の危機とでも言うのか? いやいや、まさか。いやでもあいつほんっと読めない……。
あれだけずっと一緒にいた気がする兄だというのに、思えば陸史が普段している言動も、わかっているようでわかっていないかもしれない。あのやたらと明るいところも、もしかしたら表面だけという可能性だってないとは言えない。
克海は昨日見た、陸史の苦しそうで切なそうな様子を思い浮かべた。そして陸史に対し「一体、いつからこうして上手く笑うようになっていたのだろうか」と思った自分を思い返す。そして胸がずきりと痛んだ。
結局今の講義ほとんどが頭に入ってこないままだった。ノートも全然とれていない。
「……鈴原」
普段同じ講義をとることの多い、隣に座っていた友人へ、克海はため息つきながら話しかけた。鈴原は本やノートをまとめて鞄にしまうところだった。
「何」
「ノートしまうの待って。それ、ちょっと貸してくれない? 今の授業、全然ノートとってなかった」
「寝てはなかったよな?」
「まぁ」
「何か悩みごと?」
「うーん」
「ま、いいけど。じゃあコーヒー、ホイップましましで」
「コーヒーは了解したけど学食にそういう設定ないからな」
「っち」
「何で舌打ち? あーもう。わかったよ。学校出たとこのカフェ行けばいいんだろ」
「ニューヨークチーズケーキもつけてくれ」
「真顔で厚かましいなお前」
微妙な顔をして鈴原を見ると、無言でノートを顔のそばにかざしてきた。
「わかったよ!」
「あとミルクレープ」
「増やすな!」
その後、昼前に陸史から『昼一緒に食う?』と連絡が来ていた。鈴原ありがとう、と少しだけ感謝を込めて心の中でだけ礼を言うと『鈴原と食う約束。ノート借りる代わりにコーヒーおごる羽目になって』と返信した。別に陸史と顔を合わせたくないのではない。今まで通りでいたいと願ったのは克海だ。ただ、陸史が読めないだけに多少構えてしまうのは仕方ない、と自分に言い聞かせる。だがまた返ってきた内容を見て苦笑した。
『居眠りでもしたのか? じゃあ代わりに帰りつき合ってね。どうせ買い物行くだろ?』
そう言われると断る理由が浮かばない。
『わかった』
簡潔にそれだけ返すと、克海はため息をまた少しついた。嫌なのではない。陸史のことは変わらず好きだ。兄として。でも読めない相手に、どう接していいのか戸惑いそうでそれが嫌だ。戸惑いたくない。普通でいたい。
「何。愛しの兄ちゃんからじゃないのか?」
「愛しの、は余計なんだよ。陸史からで合ってるけど」
「いつもだったら『まただよ面倒だな』とか言いながらニコニコしてるだろお前。ツンデレかよって言いたくなる」
「ツンデレじゃないし煩いんだよ鈴原。ミルクレープつけないぞ」
「え、ホイップたっぷりコーヒーとチーズケーキとガトーショコラの他にミルクレープもつけてくれるつもりだったのか。ありがとう」
「増えてんぞ……!」
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