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目の前で克海が「今年のハロウィンは病室でになるかもだな」と笑っている。苦笑した後、だが改めて本当に嬉しそうに笑うから、陸史も自然と顔が綻んだ。そのせいか、縫ったところが引きつれた感じがして、一瞬顔をしかめる。
「陸史、傷、痛いのか?」
すると目ざとく見ていたらしい克海が速攻で聞いてきた。
「いや、そうでもないよ」
ちゃんと発音しているつもりだが、おそらくまだ「しょうれもないよ」などと聞こえるのだろう。克海が複雑そうな顔する。言い方がおかしいため笑いたいのと、口の中の傷を思ってまた泣きたいのと半々といったところか。
「笑うなら笑え。だから話すの嫌なんだ」
わざとそう言うと、ようやくまた少し笑ってきた。
「お前まだ目が覚めなかった時に寝言を言っていたんだけど、その時のほうがちゃんと話してた気がする」
「意識なかったんだろ。傷の痛みも無視で喋ってたんだろなー。今の俺は意識もしっかりしてヘタレだからね。かわいそうだろ?」
「なるほど。まあせっかくの見舞いで貰った美味しそうなお菓子とかも食べられないもんな。それはかわいそうかもな」
「俺の克海が素っ気ない」
「誰がお前のだよ」
今でこそこんなやりとりしているが、陸史が目を覚ました当初の克海は男の意地も何もへったくれなく泣いていたのを覚えている。目を覚ましてからしばらくのことはわりとぼんやりとしているのだが、そのことは鮮明に覚えていた。だが陸史はあえて何も言わないし、克海も言わない。
そんな克海も、起きて二日ほどはどうやらぼんやりしていたらしい陸史がようやくはっきりしてきたとわかると、途端に説教モードに入ってしまった。曰く「助けてくれたのは凄く嬉しいしありがとうって思ってる。でもお前の命を代替えする気なんてない。感謝してるけどそんな風に助かるなんてごめんだからな。次やったら殴る」だそうだ。次は陸史もないほうがありがたいし、こんな傷だらけで克海のパンチを喰らうのは相当きつそうなので「わかった」と素直に頷いた。だが顔が笑っていたそうでまた叱られた。そして今に至る。
ちなみに見舞いで貰った菓子のほとんどは智空の胃袋を満たしている。結構いいものを貰っているようでかなり美味しいらしく「もっと貰ってよ」などと言ってくる。
そんな智空も陸史が目を覚ましたと知らせを受けての学校帰り、顔をぐちゃぐちゃにしながら駆け込んできたのを陸史はちゃんと覚えている。それについても何も言っていないが、いつかそっと智空に「鼻水すら垂らしながらいっぱい泣いてくれてたね」と耳打ちしたらきっとかわいい楽しい反応を見せてくれそうだなと密かに想像して楽しんでいたりする。
克海に対しては弟としてだけでなく違う意味でもとてつもなく愛しいが、とにかく二人とも改めてかわいくて大切な陸史の弟だなとしみじみ思った。
傷だらけだし俺、ハロウィンの仮装なしでもいけそうだろ、などと言って克海から「馬鹿野郎」という言葉を頂いたりした後、一人になってから陸史は目を閉じて考えた。
変な夢を見た気がするのだ。自分であって自分でない自分。そんな自分が死んだ後の友人とのこと。
ハロウィンが近づいているからそういったよくわからない夢を見たのだろうか。いつ見ていたかは定かでない。手術していた時か、その後昏々と眠っていた時か。もしくはそれらの間ずっとか。
夢なので全てはっきり覚えているわけではないが、ぼんやりながらにわりと覚えている気もする。
……以前見た夢に似ている。
自分がその少年なのではと思っているからか、実際夢の中ではそうだからかはわからないが、その少年の顔はよくわからないため全く同じ少年なのかどうか断言できないが、状況や雰囲気が同じような気がする。だが続き物の夢なんてそんな何度も日を結構空けて見るものなのだろうか。それも普段と関係のないような不思議な設定だ。
まさか前世? それも死後の世界っぽいとこのある? いやまさか。そんなものあるなんて信じてもないのに?
だがもし。もし本当に何か陸史に関わりのある事柄なのだとしたら、陸史はもしかしたら克海や智空を道連れにしたのかもしれない。ただの夢だろうが前世だろうが、あの二人の友人は克海や智空だとなぜか断言できた。もちろん百パーセント現実だなどと今でも思っていないが、もしそうなのだとしたらという仮定の下で考えると、あの二人はそうにちがいない。
もしそうなのだとしたら、あの二人が兄弟となり、しかもその内の二人がもう一人を好きになるだなどと、ひょっとしてやはり罰を受けているのだろうかとさえ思えてくる。
いや、まさか。そんなまさか。
夢だろ。そう、夢。
そんな超現象みたいなことが現実にあり得るわけない。
「まさか、だよ、な」
思わず声に出て、そして間違いなく今の自分はシリアスな気持ちになって考えていたのだが、その声が「ましゃか、らよ、な」だったため、陸史はとてつもなく気が抜けた。思い切り深呼吸をする。
「いて、て」
今回の事故で肺は別に支障なかったようだが、深呼吸の際、他の傷に響いたようだ。今度は小さく息をはくと、陸史はゆっくりベッドから下りた。なるべく早く治したい。
「今年のハロウィンは病室でになりそうだな」
そう言って笑っていた克海を思い、陸史はリハビリのため、ゆっくりトイレまでの道を歩いた。そして指に取りつけられている、酸素を測るパルスオキシメーターを外すしかないためすぐに看護師にバレ、「まだ歩く時はいちいち言ってね」と優しく怒られた。
「陸史、傷、痛いのか?」
すると目ざとく見ていたらしい克海が速攻で聞いてきた。
「いや、そうでもないよ」
ちゃんと発音しているつもりだが、おそらくまだ「しょうれもないよ」などと聞こえるのだろう。克海が複雑そうな顔する。言い方がおかしいため笑いたいのと、口の中の傷を思ってまた泣きたいのと半々といったところか。
「笑うなら笑え。だから話すの嫌なんだ」
わざとそう言うと、ようやくまた少し笑ってきた。
「お前まだ目が覚めなかった時に寝言を言っていたんだけど、その時のほうがちゃんと話してた気がする」
「意識なかったんだろ。傷の痛みも無視で喋ってたんだろなー。今の俺は意識もしっかりしてヘタレだからね。かわいそうだろ?」
「なるほど。まあせっかくの見舞いで貰った美味しそうなお菓子とかも食べられないもんな。それはかわいそうかもな」
「俺の克海が素っ気ない」
「誰がお前のだよ」
今でこそこんなやりとりしているが、陸史が目を覚ました当初の克海は男の意地も何もへったくれなく泣いていたのを覚えている。目を覚ましてからしばらくのことはわりとぼんやりとしているのだが、そのことは鮮明に覚えていた。だが陸史はあえて何も言わないし、克海も言わない。
そんな克海も、起きて二日ほどはどうやらぼんやりしていたらしい陸史がようやくはっきりしてきたとわかると、途端に説教モードに入ってしまった。曰く「助けてくれたのは凄く嬉しいしありがとうって思ってる。でもお前の命を代替えする気なんてない。感謝してるけどそんな風に助かるなんてごめんだからな。次やったら殴る」だそうだ。次は陸史もないほうがありがたいし、こんな傷だらけで克海のパンチを喰らうのは相当きつそうなので「わかった」と素直に頷いた。だが顔が笑っていたそうでまた叱られた。そして今に至る。
ちなみに見舞いで貰った菓子のほとんどは智空の胃袋を満たしている。結構いいものを貰っているようでかなり美味しいらしく「もっと貰ってよ」などと言ってくる。
そんな智空も陸史が目を覚ましたと知らせを受けての学校帰り、顔をぐちゃぐちゃにしながら駆け込んできたのを陸史はちゃんと覚えている。それについても何も言っていないが、いつかそっと智空に「鼻水すら垂らしながらいっぱい泣いてくれてたね」と耳打ちしたらきっとかわいい楽しい反応を見せてくれそうだなと密かに想像して楽しんでいたりする。
克海に対しては弟としてだけでなく違う意味でもとてつもなく愛しいが、とにかく二人とも改めてかわいくて大切な陸史の弟だなとしみじみ思った。
傷だらけだし俺、ハロウィンの仮装なしでもいけそうだろ、などと言って克海から「馬鹿野郎」という言葉を頂いたりした後、一人になってから陸史は目を閉じて考えた。
変な夢を見た気がするのだ。自分であって自分でない自分。そんな自分が死んだ後の友人とのこと。
ハロウィンが近づいているからそういったよくわからない夢を見たのだろうか。いつ見ていたかは定かでない。手術していた時か、その後昏々と眠っていた時か。もしくはそれらの間ずっとか。
夢なので全てはっきり覚えているわけではないが、ぼんやりながらにわりと覚えている気もする。
……以前見た夢に似ている。
自分がその少年なのではと思っているからか、実際夢の中ではそうだからかはわからないが、その少年の顔はよくわからないため全く同じ少年なのかどうか断言できないが、状況や雰囲気が同じような気がする。だが続き物の夢なんてそんな何度も日を結構空けて見るものなのだろうか。それも普段と関係のないような不思議な設定だ。
まさか前世? それも死後の世界っぽいとこのある? いやまさか。そんなものあるなんて信じてもないのに?
だがもし。もし本当に何か陸史に関わりのある事柄なのだとしたら、陸史はもしかしたら克海や智空を道連れにしたのかもしれない。ただの夢だろうが前世だろうが、あの二人の友人は克海や智空だとなぜか断言できた。もちろん百パーセント現実だなどと今でも思っていないが、もしそうなのだとしたらという仮定の下で考えると、あの二人はそうにちがいない。
もしそうなのだとしたら、あの二人が兄弟となり、しかもその内の二人がもう一人を好きになるだなどと、ひょっとしてやはり罰を受けているのだろうかとさえ思えてくる。
いや、まさか。そんなまさか。
夢だろ。そう、夢。
そんな超現象みたいなことが現実にあり得るわけない。
「まさか、だよ、な」
思わず声に出て、そして間違いなく今の自分はシリアスな気持ちになって考えていたのだが、その声が「ましゃか、らよ、な」だったため、陸史はとてつもなく気が抜けた。思い切り深呼吸をする。
「いて、て」
今回の事故で肺は別に支障なかったようだが、深呼吸の際、他の傷に響いたようだ。今度は小さく息をはくと、陸史はゆっくりベッドから下りた。なるべく早く治したい。
「今年のハロウィンは病室でになりそうだな」
そう言って笑っていた克海を思い、陸史はリハビリのため、ゆっくりトイレまでの道を歩いた。そして指に取りつけられている、酸素を測るパルスオキシメーターを外すしかないためすぐに看護師にバレ、「まだ歩く時はいちいち言ってね」と優しく怒られた。
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