守りたいもの

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 気持ちを認めても、というか認めたからこそなおさら苦しいといった様子の克海は、智空に打ち明けることでおそらくずいぶん気持ちは軽くなったのではと陸史は思っていた。
 だからといって「じゃあつき合おう」とニコニコ言ってくれるはずもなく、我ながら改めてどうしようもなくクソ真面目な男前を好きになってしまったなと苦笑する。
 また酒でも飲ませて、などと邪なことも考えたが、実行する前に克海から「お前と二人で酒は飲まないからな」と釘を刺されてしまった。

「ええー。じゃあハロウィンの時も?」
「その時は別に二人きりじゃないだろ。智空だけじゃなくて夜は父さん、母さんもいるし。あと鈴原が兄さんのパンプキンパイがどうしても食べたいんだってさ。だから家に来るし」

 馬鹿め、飲んだら終わりだよ克海。その夜更けにめちゃくちゃ楽しいことしてやる。

 そう小狡いことを考えた後でハッとなった。

「って、愉快な仲間、来んの? えぇー……」
「何だよ。兄さんも友だち呼べばいいだろ。何人もいるじゃないか」
「やだよ。第一そんな何人も入んないって。どんだけ家、豪邸なんだよ。庶民の家だろ」
「じゃあ木下さんだけでもさ」
「何で木下名指しなの? まさか好きなの? 許さないけど?」
「はぁっ? そんなわけないだろ……何で名前出しただけでそーなんの。第一木下さん男」
「俺も男ですけど」

 陸史がそう言い返すと、怪訝な顔した後で克海が顔を赤らめ逸らしてきた。自分が陸史のことを好きだとはっきり口にしたことを思い出したのだろう。

「かわいい」
「はぁ……お前ほんとやだ」
「俺は好きだよ、克海」
「煩い」
「克海も俺が好きでしょ。もう聞いたし」
「なら兄弟でってのが許されないし、ずっと後ろめたく思うって俺が言ったことも聞いたよな」
「聞いたよ」
「じゃあわかるだろ。そういうことだ」
「……そうとは聞いたけど、だからつき合わない、とは聞いてないしね」
「何か言った?」

 ぼそりと言い返した言葉が聞こえなかったようで、克海が聞き返してくる。陸史はニッコリ笑った。

「別に?」

 クソ真面目で男前は面倒だと思う。だが逆手に取れば、これほど扱いやすい相手もないとも思う。
 キスした時も我に返ると殴ってきた克海だが、だからといってそれが原因で嫌いになるとかはなかった。ファーストキスはすでに陸史が前に頂いているものの、意識のある克海にとっては三度目とは思わずとも、二度目のキスだ。しかも一度目の本人がすでに酔っていたキスとは違い、素面だ。ちなみに酔っていた時も翌朝殴ってきただけで終わった。とてつもなく落ち込むということもない。気持ち悪がるといったこともない。

 だったら既成事実だよね。

 陸史は改めてニッコリ一人微笑んだ。
 克海が全く陸史を受け入れることもできず、兄弟という関係以外を完全に拒否してくるのなら、陸史もひょっとしたらただの兄でいようと思った。かもしれない。だがほんの少しでも隙があるのなら逃さないし、こうして克海も陸史のことをそういう意味で好きになってくれた。自ら口にして認めてきた。なら今度は完全に受け入れてもらうまでだ。それには今までと違い、様子を見るだのゆっくり諭していくだのするより実力行使だ。克海なら折れないできっと受け入れてくれる、というかこうなったら受け入れるしかない、と思い込んでくれるだろう。

 ……俺、もしかしたら事後、また入院する羽目になるかもだけど。

 そんなこと思いつつ後日、陸史は克海をカラオケへ誘った。

「カラオケだけじゃなくてな、人工だけど温泉もついてんだよ」
「そんなのあんの?」
「うん。ホテルなんだけど最近だとよく女子会にも使われるとこでさ。同性同士でもオッケーなとこだから、割と俺の友だちも終電逃した時とか友だち同士で泊まってるらしい。綺麗だし部屋についてる温泉広いしカラオケし放題なのに安いから便利なんだよ」
「へえ」

 あまりに使いふるされたベタな誘い方だし、同性同士でも問題ないという説明で違和感を覚えるかとも思ったが、克海は気にも留めなかったようだ。もしかして陸史に対して、二人きりの酒に気をつければいいくらいしか考えてないのか。

 俺の育て方の賜物だけど、もうちょっと危機感持ってね克海。

 陸史は笑いそうになりながらも改めて今後も牽制のため、大いにブラコン兄として学校でも幅を利かせようと心に誓った。



「おま……っ、騙したのかっ?」
「騙してないよ。カラオケしたし、実際広い温泉、部屋についてたのも入ったでしょ」
「じゃあそれで終われよ……!」
「無理でしょそんなの」

 いざベッドへ押し倒すとかなり抵抗してきた克海だが、途中からは受け入れたというより諦めたのか抵抗しなくなった。

「受け入れてくれんの?」
「馬鹿野郎……! お前がまたヤバイ怪我したらって思ったら変に動けないんだよ! ああもう……後で覚えてろよ。絶対キスの時の五倍は殴るからな」
「じゃあ俺はキスの時の百倍、お前気持ちよくしてあげる」
「クソ馬鹿陸史」

 とりあえず先にイかせた。その間ずっと涙目で怒っている克海が堪らなくかわいかった。
 泊まるつもりで予約はしていたので、これでもかというほど時間はあった。その後「もう勘弁してくれ……」と克海に力なく言われるくらい、後ろを解した。

「こんなに柔らかくなるんだね。あとローションのせいですごく濡れてるのエロいな、克海」
「お前ほんっともう……最悪。馬鹿。ろくでなし。クソ兄キ。最低」
「ぼろくそだなあ。でも好きなんだろ、俺のこと」
「煩い」
「嫌いになんかなれないでしょ? 俺、知ってるもんね」
「だからってほんっと最悪だな! も、これ以上後ろ広げてくんな馬鹿」
「何で。痛いより気持ちいいほうがいいだろ? ここら辺触ったら、お前ビクビクしてくる」

 それに一度達したはずのペニスも硬く反ったまま、先がとろとろ濡れている。陸史は後ろから優しく克海にキスをした。

「っ、ぁ、も……。っ無理! いい! もういい! いいから入れたらいいだろ! これ以上無理。お前な! これどんだけ恥ずかしいと思ってんだよ!」
「馬鹿だな、克海」

 ほんとかわいい。

 陸史はニッコリ微笑みながら、正直怒張し過ぎて痛くて堪らない自分のものを出し、コンドームをつけた。

「指で恥ずかしいって。じゃあ今からきっともっと恥ずかしいよ」
「え……、ぁ、あ、あっ」

 克海の中はとても温かく、ギュッと陸史を締めつけてきた。最高に気持ちよく、だけれども極力克海に痛みを与えないよう、ゆっくりゆっくり動いた。

「好きだよ克海。愛してる。これからもずっと」
「……馬鹿、やろ……」

 ずっと枕に顔を埋めていた克海の籠った声は聞き取りづらかったが、馬鹿と言った後に小さく「俺もだ」と聞こえた気がしたのは陸史の妄想だろうか。
 行為の後、殴る余裕がないようで克海は「足と尻が死んだ……」などと呟いたあと「明日……明日、覚えとけよ」と陸史を睨みつけてきた。そして気を失うように眠ってしまった。それすらも愛しくて堪らなかった。
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