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1話

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「なんだよ、また来たのかよ?」

 深夜。
 月島 佐紅(つきしま さく)は呆れたようにため息を吐いた。目の前ではマンションのベランダから入ってきた佐紅の幼馴染である瀬名 真尋(せな まひろ)が無表情でありながらも少しだけ首を傾げてくる。だがそのまま佐紅に近づき、佐紅の体に触れてきた。佐紅はもちろん、こんなことを続けては駄目だと思っている。
 間違っている。歪んでいる。
 だが、抗えない。
 真尋と佐紅は家が隣同士の幼馴染で、昔から高校二年生の今に至るまで一緒にいることが多かった。
 佐紅は小さい頃から言いたい事はハッキリと言う明るい性格で、勉強も運動もできる上に整った綺麗な顔立ちのため、友人が多いだけでなく女子にとてもモテている。とはいえ付き合って体の関係を持っても、いつもすぐに別れてしまう。
 一方真尋は未経験どころか、誰とも付き合ったことはなかった。かといって別に見た目は悪くない、というか長身であり整った容姿をしているのだが、基本的に無口で表情が読み取れないほどの無表情であるため、女子からは遠巻きに見られてしまうのだと思われた。実際性格も割とぼんやりとしていて学校の成績も中の下といったところだろうか。口を利いても、佐紅とは違ったタイプのハッキリ言うタイプと言えばいいのか、あまりオブラートに包まない。そのため、友人も佐紅とは違ってあまり多いとは言えなかった。
 ただ、佐紅とは昔から仲がよく、無表情な真尋の表情も、佐紅は読み取ることができる。それもあって、真尋は懐いていると言っても過言ではなく、佐紅のことが幼馴染として大好きなようだった。

「……ん、く」

 暫く真尋は佐紅の服の中に手を這わせてきた後に、大きな手をズボンの中へやって佐紅のものを包み込む。しばらくそのまま弄った後にズボンから取り出すと、ゆっくりと上下に動かしてきた。先から溢れ出すとそれを手に絡め、さらにぬるぬると動かしたかと思うと真尋のものを取り出し、一緒に擦り合わせてくる。

「は、ぁ……」

 好奇心旺盛な中学生の頃に、この関係は始まった。とはいえ抜き合っているだけだ。だけ、というのもおかしな言い方ではあるが、性交をするのと抜き合うのでは雲泥の差があると佐紅は思っている。
 佐紅としては、まだ抜き合いならセーフのような気がしていた。キスやもっとちゃんとした愛撫、それに挿入。そういったことをしていなければ、思春期の馬鹿同士、まだやりそうなことだ、と。
 だがそろそろこんな関係を止めないといけないとも思っている。セーフだと言い聞かせてはいても、誰にも言えない行為なのだ。家族にも、友人にも言えない明らかな秘め事でしかない。
 頭では分かっている。止めるべきだと。抗うべきだと。
 しかし抗えなかった。
 佐紅は真尋が好きだからだ。
 いつ頃からそういう風に思っていたのかはわからないが、好きだと気づいた瞬間ならわかる。それはこういうことをするようになるよりは前のことだ。
 真尋がいくら仲のいい幼馴染だとはいえ、佐紅には男同士でそういうことをする趣味はない。周りに女子は沢山いるのだ。どうせなら女子としたい。
 昔から真尋のことは、突き放せないとは思っていた。小さい頃は佐紅よりも小柄で、そして無口なのもあって自分が面倒を見なければという変な使命感さえ感じていたのかもしれない。そういった庇護欲のようなものが、何故恋愛感情へ変わったのかは自分でも理解できないのだが、積み重ねなのだろうなとは思っている。
 真尋のわかりにくいけれども可愛いところ、優しいところ。そういった佐紅にとって好感を覚える部分をずっと見てきて、知らない内に好きになっていたのだろう。
 そしてふとある時に、佐紅しか見えていないといった勢いで真尋が自分に駆け寄ってきた瞬間に気づいてしまった。
 だから好奇心旺盛とはいえ、この行為は佐紅にとっては私欲でしかなかった。それでも中学生だったからこそできたのだと思う。今の佐紅にとってのこの行為は言い表し難い苦しささえあった。
 真尋は多分、ただ気持ちがいいことを幼馴染としているという感覚でしかないのだと思う。だから先ほどのように佐紅のため息に対して怪訝そうに首を傾げてくるのだ。自分はそんな真っ直ぐな真尋をも歪めているような気、すらしてしまう。
 これではいけないと、何人か女子とも付き合ったりしてみたのだが、結局長続きせずに別れてしまう。

「ん……、っく。……俺、そろそろやばいな」

 行為中にボソリと呟けば、真尋がまた首を傾げてきた。だがその後に「そういう意味か」と、手の動きを速めてきた。

「お前との関係もな」

 後でさらにぼそりと佐紅は付け足した。
 その後真尋は佐紅の布団に潜り込んでくる。そしてそのまま寝てしまうことが多い。まるで半同棲のようだ。
 元々昔から家族同士の仲がいいのもあり、真尋が佐紅と一緒に寝ていようが、その後一緒にいようが誰も気にもしない。現に翌日部屋から一緒に出てきたのを見た母親も「あら。朝ごはん、パンでいい?」と普通に真尋に対して聞いてきた。
 その日の放課後、佐紅は別のクラスの女子に呼ばれた。

「月島くん、その……好きです。つ、付き合ってください」

 見かけたことがあるくらいのよく知らない女子だったが、小柄で可愛らしい子だった。嬉しいとは思ったが、佐紅は先日付き合っていた彼女と別れたばかりだった。さすがに節操がないなと思い、断った。それでも縋ってくる子が必死だったので、付き合ってみてもいいかなとも思ったが、だいたい付き合う理由が「まひろへの気持ちを誤魔化すため」なだけに節操がないだけでなく誠実さの欠片もないと思え、「ごめんな」としか言いようがなかった。
 教室に戻ると真尋が居た。家でもよく一緒にいるというのに今年は学校のクラスまで同じだ。嬉しい気持ちと駄目だという気持ちに日々挟まれている。
 帰る準備をしていると真尋が近づいてきた。そして佐紅の前の机の上に座る。

「さく、告白されてたんだろ?」
「ああ、まぁ」
「付き合うのか」
「いや、この間別れたばかりだし今は誰かと付き合う気分でもないし。っていうか、お前こそ誰かいないの」
「俺はいらない」

 真尋は照れるでもなく、迷惑そうでもなく、ただ純粋に興味がないといった風に答えてくる。その間も顔の表情は一見無表情で、佐紅以外だと本当になにを考えているのかわからないのだろうなと思われた。

「……あ、そう」

 佐紅も淡々と頷いた。だが内心では、むしろ真尋が誰かと付き合えば、もしかしたら吹っ切れるかもしれないのにと思っていた。
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