ヒロイン効果は逃れられない

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4話

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 フィンリーは今現実の年齢上、そろそろ体力的に限界を感じ始めていた。要は眠い。五歳児にとってすでに深く眠っているはずの時間だ。
 だがとりあえずリースについて書き留めてからでないと眠れない気がした。いや、眠いのだがきっと深い眠りにつけないというのだろうか。他にもいる攻略キャラに関してはまた後回しにするとしても今日出会ってしまったリースくらいまでは書いておきたい。
 リース・フラートンは現実でもゲームの中でもフラートン家の三男だ。フィンリーにとってもそうだが、ゲームのヒロインにとっても幼馴染で兄のような存在の従兄である。ただゲームではヒロインの婚約者でありシューリス家の次期当主となる予定だった。婿養子という、家同士の政略婚である。皇帝派であるシューリス家に対し貴族派であるフラートン家の結びつきは、お互いかなり有力な貴族であったため、両派の派閥を緩和させいい流れになるというのが両家の目論見でもあった。とはいえ他キャラを攻略するルートではリースは妹のようにヒロインを大事に思ってくれており、親の説得に協力してくれたりと束縛系とは思えない行動を取ってくれる。ただ分岐前はやはり所々束縛してくるらしい。ヤンデレよりは怖くないかもしれないが、普通がなによりだと思う弘斗にとっては束縛系も十分怖いと思っていた。
 リースとジェイクどちらかを選ぶ分岐でリースを選ぶと、今度はリースがメアリとジェイクからヒロインが受けている嫌がらせなどについて話を聞くこととなる。リースが直接ヒロインの継母や妹と話をしようとするが無駄だった。そんな中、リースに慰められている内に二人はお互い本気で好意を持つようになる。ヒロインと結婚すれば継母や妹とも義理の家族となる訳だが、束縛が強いだけあってヒロインが他の者から不幸にされることだけは許せず、結局自分のルートでもリースはヒロインの父親に手紙を送る。その後はジェイクルートと似ている。継母と妹は家を出て、二人は晴れて結婚し結ばれる。ヤンデレだったはずのジェイクからはヒロインが幸せならと、報復されることはない。都合のよいハッピーエンド第二弾だ。婚約者だったことを思えばジェイクルートよりは正規なのだろうか。
 ここまでをメモしてようやくフィンリーは安心し、灯りを消してベッドへ入った。だがまだどこかスッキリしない。何か肝心なことを忘れている気がする。だが幼児として起きていられない眠気に勝つことができず結局そのまま眠ってしまったが、朝目が覚めた途端「ヒロイン俺じゃねぇか……!」と叫んでいた。

「フィンリー様? どうかされましたか?」

 朝の支度はさすがにまだジェイクの仕事ではないため他の使用人がついているのだが、ベッドまでやってきたその人が驚いている。

「な、なんでもないよ。ちょっとへんなゆめみちゃった」

 あはは、と誤魔化しつつ、フィンリーの脳内ではひたすら「いやいやいやいやいや待って待って待って」と騒がしい。
 ゲームのヒロインの名前はフィンリー・シューリスだった。自分の名前と一語一句変わらない。そういえば顔はさておき髪や目の色も同じだ。どう考えてもヒロイン枠だ。
 ただ、今のところ出会っている他のキャラとの関りが所々微妙な違いがある中でひと際大きな重要な違いがある。性別だ。「俺」ことフィンリー・シューリスは到底ヒロインにはなり得ない。乙女ゲームであり攻略キャラたちが皆男である上で、自分もまごうことなき男だからだ。

 だよ、な? 俺はヒロイン枠だけどヒロインにはならねえよな?

 脳内で言い切った後に少し気弱になりながら自分に言い聞かせた。きっとあれだ。ヒロインと攻略キャラとの恋愛ではなく、主人公と登場人物たちとの友情を育むあれだ。絶対そうに違いない。だいたい妹の桃がプレイしていたゲームは間違いなく乙女ゲームだった。BLも軽く嗜む妹ではあったが、少なくとも決してBLゲームではなかった。大丈夫だ。それに桃から聞いたことのある転生ものの話でたまにある、乙女ゲームにうっかり転生した主人公は男だというのにその中では女扱いを受けてしまい恋人や嫁として求婚される、といったパターンもあり得ない。フィンリーは昔から「坊ちゃん」として認識されているし今のところ出会ってしまった攻略キャラ二人もフィンリーのことを男だと把握している。大丈夫だ。
 言い聞かせつつ、昨日のジェイクの顔が浮かんだ。見間違いであるはずの表情をした顔だ。

 いやうん、絶対あれ、見間違い! 絶対! 大丈夫だ!

 必死にうんうんと頷いていると「どうかされましたか」とジェイクの声が聞こえた。

「っひ?」
「フィンリーさま?」

 ハッとなり振り返ると、とてつもなく間近にジェイクがいた。心配そうにじっとフィンリーを見ている。

「な、なんでもないよ! っていうかなんでここにジェイクがいるの? まだ俺、きがえすんでないよ?」
「しょうらいはオレがフィンリーさまのみのまわりのおせわをするので、いまからおてつだいしておぼえようとおもって」

 待て、とフィンリーは焦った。このままいくと将来もしかしたらあんな顔で自分とリースを見てきたかもしれないジェイクが自分の服を脱がし、服を着せることになる。

 え、無理。自意識過剰かもしれないが、無理だろそんなの。

「え、ええっと! いや、俺さ、その、じりつするおとなめざしてるから、そろそろじぶんできがえようとおもってたんだよね! だからジェイクのても、あなたのてもかりずにおきがえするよ! ふたりはあっちいってて」
「ですがフィンリー様……」
「ほんとだいじょうぶ。俺、じぶんできがえてみたいんだ」
「かしこまりました。ジェイク、行きましょう」
「……うん」

 ジェイクが少し悲しげに頷く。やはり自意識過剰すぎたのだろうか、このいたいけなショタを傷つけてしまっただろうかとフィンリーは少しドキリとした。ジェイクの様子を窺おうとして少し覗き込もうとしたフィンリーはだが、とてつもなくじっとこちらを見ていたジェイクに気づき、ベッドの上で思い切り飛び退いた。
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