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20話
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ガタガタと揺れる馬車の中は二重の意味で快適ではなかった。
そもそも馬車というのはもっと優雅なものだとフィンリーは思っていた。だが想像以上に揺れるしあちこちが硬くて痛い。多分前世で言うサスペンションがないのかもしれない。バネがないから緩衝されないのだろう。たくさんのクッションなどで緩和してはいるが前世で車という乗り物を知っているフィンリーとしてはあまり好ましい乗り物とは思えなかった。とはいえどこもかしこも広々としているせいで馬に乗るか馬車に乗るかしないと移動もままならない。
そして今はそれに加え、ジェイクという存在が快適さを妨げている。
「まったくあなたは。油断するとアートでしたっけ? 庶民と逢瀬などなさって。こんな昼下がりにだらだらとカフェで酒など飲んでろくでもないじゃないですか」
「待て待て。酒に関しては毎日仕事してんだしたまには休日ってことでゆっくり飲んでてもいいだろ。というか逢瀬とか言うな。言葉の意味を把握して使えよ。逢瀬は男女が隠れながら会うことだろ」
「合ってるじゃないですか。別に男女に限りませんし」
「いや言葉の意味! 何で俺とアートが人目をはばかってこそこそ会う必要あんの。ただの友だちだってのに。というかさ、何であの場所わかったの? 俺、どこへ行くって言ってなかったよね? 例え町に来たんだと思っても町って広いだろ? なのに何であの場所わかったの? 偶然?」
「偶然です」
返事の速度は0.2秒といったところか。いくらなんでも速すぎる。フィンリーは顔を近づけてジェイクをじっと見た。
「俺に嘘、吐くんだ?」
「……リース様が魔導発信装置をお使いになられました」
「なんて」
自分の耳を疑いそうになったが、毎日悩みはあれども心身ともに健康に暮らしているつもりだし耳も至って健康な筈だ。おまけに一旦顔を離したものの先ほどの近さで聞き間違えるわけがない。フィンリーはじろりとジェイクを見たが、ジェイクはさりげなく視線を逸らしている。
魔導というものは前世では存在しなかったものだけに未だに言葉すら少々聞き慣れないが、この言葉が付く道具は実際現世でもあまり出回っているものではなく、貴族くらいしか手に入れることのない珍しいものではある。魔力を使ったいわゆる機械みたいなものを指す。よほどのものでない限り大した魔力を必要としないため、使える人もそこそこはいるらしい。ただしフィンリーは使えなかった。魔力で動く目覚まし時計もどきを以前もらったのだが未だに作動したことはない。
ただ今回はその魔導はどうでもいい。発信装置。おそらく前世でいうGPS発信機のことでしかないだろう。ちなみにいくら現世に多少魔法があろうが、GPSや携帯電話などを思うと前世のほうがよほど魔法の世界みたいなものだったとフィンリーは思っている。
「発信装置? どういうことだよ。俺、そんなの身につけてなんか……」
言いかけながら、フィンリーは前に十七歳の誕生日プレゼントとしてリースがくれたピアスを思い出した。いつもやたら高そうなものをくれるリースだが、珍しくシンプルなピアスだったので少し驚きつつも派手でやたら高そうなものより使いやすそうだと、喜んで身につけたものだ。
フィンリーは無言でそのピアスを耳から外した。そしてジェイクに突きつける。ジェイクはサッと顔を逸らした。多分これで間違いないようだとフィンリーは確信した。
「わかるのは居場所だけか? それとも盗聴もできんのか?」
「トウチョウ?」
「盗み聞きだ」
「……居場所だけだそうです」
はぁ、とため息を漏らすとジェイクが吐いた。むしろため息を吐きたいのはこちらだとフィンリーはピアスを握る手をさらにグッと握りしめた。
「リース……何考えてんだ」
「いつもですとフィンリー様がリース様を責められるのでしたら、まぁまず滅多にありませんが大歓迎いたします、が、今回ばかりはオレ、リース様の肩を持ちます」
「何でだよ」
「最近のフィンリー様はふらふらなさり過ぎです。カリッド王子にいい顔をなさったかと思えばあんな得体の知れない男にたびたび会いに行くなんて」
「何でここで王子出てくんだよ。いついい顔したってんだよ。それに得体のって……大手商会の息子だぞ」
「得体が知れません。どんな商会だろうがあちらは庶民です。あなたは貴族、それも公爵家ご子息ですよ。いずれは公爵様となられる方なんですよ? その上あの男の軽薄さ。羊が狼に会いに行っているようなものです。食われたいんですか」
またため息を吐きながらジェイクはとんでもないことを言ってくる。
「何て怖いこと言うんだよ……それにアートは俺と同じで女の子が好きなの。わかる? 男に興味ないの。ここ、何より大事だからもっかい言うけど! 男に興味ないの! 俺も! アートも!」
「そういった欲に男も女もありません。あなたはもっと警戒すべきです」
毎日してるからな! 前世の記憶を得た五歳の頃から警戒して十二年経ってる勢いだからな!
フィンリーは顔を手で覆って大いに嘆く。
「そんなに食べられたいならオレが食いますけど」
「今なんか言ったっ?」
「油断し過ぎだと言ってるんです。あと先ほどと同じように普段なら絶対しませんが今回だけはリース様の名誉のために言っておきますけども、基本的にはフィンリー様のプライベートを大切になさっておられるようで魔導発信装置を使われたのは今回で五度くらいだそうです」
「十分だよ……!」
そもそも馬車というのはもっと優雅なものだとフィンリーは思っていた。だが想像以上に揺れるしあちこちが硬くて痛い。多分前世で言うサスペンションがないのかもしれない。バネがないから緩衝されないのだろう。たくさんのクッションなどで緩和してはいるが前世で車という乗り物を知っているフィンリーとしてはあまり好ましい乗り物とは思えなかった。とはいえどこもかしこも広々としているせいで馬に乗るか馬車に乗るかしないと移動もままならない。
そして今はそれに加え、ジェイクという存在が快適さを妨げている。
「まったくあなたは。油断するとアートでしたっけ? 庶民と逢瀬などなさって。こんな昼下がりにだらだらとカフェで酒など飲んでろくでもないじゃないですか」
「待て待て。酒に関しては毎日仕事してんだしたまには休日ってことでゆっくり飲んでてもいいだろ。というか逢瀬とか言うな。言葉の意味を把握して使えよ。逢瀬は男女が隠れながら会うことだろ」
「合ってるじゃないですか。別に男女に限りませんし」
「いや言葉の意味! 何で俺とアートが人目をはばかってこそこそ会う必要あんの。ただの友だちだってのに。というかさ、何であの場所わかったの? 俺、どこへ行くって言ってなかったよね? 例え町に来たんだと思っても町って広いだろ? なのに何であの場所わかったの? 偶然?」
「偶然です」
返事の速度は0.2秒といったところか。いくらなんでも速すぎる。フィンリーは顔を近づけてジェイクをじっと見た。
「俺に嘘、吐くんだ?」
「……リース様が魔導発信装置をお使いになられました」
「なんて」
自分の耳を疑いそうになったが、毎日悩みはあれども心身ともに健康に暮らしているつもりだし耳も至って健康な筈だ。おまけに一旦顔を離したものの先ほどの近さで聞き間違えるわけがない。フィンリーはじろりとジェイクを見たが、ジェイクはさりげなく視線を逸らしている。
魔導というものは前世では存在しなかったものだけに未だに言葉すら少々聞き慣れないが、この言葉が付く道具は実際現世でもあまり出回っているものではなく、貴族くらいしか手に入れることのない珍しいものではある。魔力を使ったいわゆる機械みたいなものを指す。よほどのものでない限り大した魔力を必要としないため、使える人もそこそこはいるらしい。ただしフィンリーは使えなかった。魔力で動く目覚まし時計もどきを以前もらったのだが未だに作動したことはない。
ただ今回はその魔導はどうでもいい。発信装置。おそらく前世でいうGPS発信機のことでしかないだろう。ちなみにいくら現世に多少魔法があろうが、GPSや携帯電話などを思うと前世のほうがよほど魔法の世界みたいなものだったとフィンリーは思っている。
「発信装置? どういうことだよ。俺、そんなの身につけてなんか……」
言いかけながら、フィンリーは前に十七歳の誕生日プレゼントとしてリースがくれたピアスを思い出した。いつもやたら高そうなものをくれるリースだが、珍しくシンプルなピアスだったので少し驚きつつも派手でやたら高そうなものより使いやすそうだと、喜んで身につけたものだ。
フィンリーは無言でそのピアスを耳から外した。そしてジェイクに突きつける。ジェイクはサッと顔を逸らした。多分これで間違いないようだとフィンリーは確信した。
「わかるのは居場所だけか? それとも盗聴もできんのか?」
「トウチョウ?」
「盗み聞きだ」
「……居場所だけだそうです」
はぁ、とため息を漏らすとジェイクが吐いた。むしろため息を吐きたいのはこちらだとフィンリーはピアスを握る手をさらにグッと握りしめた。
「リース……何考えてんだ」
「いつもですとフィンリー様がリース様を責められるのでしたら、まぁまず滅多にありませんが大歓迎いたします、が、今回ばかりはオレ、リース様の肩を持ちます」
「何でだよ」
「最近のフィンリー様はふらふらなさり過ぎです。カリッド王子にいい顔をなさったかと思えばあんな得体の知れない男にたびたび会いに行くなんて」
「何でここで王子出てくんだよ。いついい顔したってんだよ。それに得体のって……大手商会の息子だぞ」
「得体が知れません。どんな商会だろうがあちらは庶民です。あなたは貴族、それも公爵家ご子息ですよ。いずれは公爵様となられる方なんですよ? その上あの男の軽薄さ。羊が狼に会いに行っているようなものです。食われたいんですか」
またため息を吐きながらジェイクはとんでもないことを言ってくる。
「何て怖いこと言うんだよ……それにアートは俺と同じで女の子が好きなの。わかる? 男に興味ないの。ここ、何より大事だからもっかい言うけど! 男に興味ないの! 俺も! アートも!」
「そういった欲に男も女もありません。あなたはもっと警戒すべきです」
毎日してるからな! 前世の記憶を得た五歳の頃から警戒して十二年経ってる勢いだからな!
フィンリーは顔を手で覆って大いに嘆く。
「そんなに食べられたいならオレが食いますけど」
「今なんか言ったっ?」
「油断し過ぎだと言ってるんです。あと先ほどと同じように普段なら絶対しませんが今回だけはリース様の名誉のために言っておきますけども、基本的にはフィンリー様のプライベートを大切になさっておられるようで魔導発信装置を使われたのは今回で五度くらいだそうです」
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