ヒロイン効果は逃れられない

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40話

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「一体どういうことなんですか」

 フィンリーは渋々、カリッドを見上げるようにして聞いた。身動きが上手く取れないので仕方がない。

「どういう、ですか? あなたがどうやらさらわれたらしいとリース卿からの報告を受けたので助けに参上させていただいたのですが」

 ガタガタと馬車が揺れる音がするが、今のフィンリーには少しの振動しか伝わってこない。
 あの時に小型の箱から聞こえてきた、質の悪いながらも誰が何を話しているのかはわかる声を聞くとルカスはがっくりとうなだれた。その後デイリーが部屋の外に「連れていけ」と声をかけると何人もの騎士たちが入ってきてルカスを促し、どこかへ連れていってしまった。展開にいまいちついていけていないフィンリーを、カリッド自身がまるで介護するかのごとく世話をして連れ出してきて今に至る。

「殿下……端折り過ぎです」
「ではそなたが聞きたいことを私に聞いてください」

 胡散臭い笑みだというのに、間近で見すぎてあまり心臓によくない。フィンリーはほんのり視線を外すと「ルカス卿はどこへ」とまず聞いた。

「王都へ連行します。その後裁判を受けてもらいます」
「……どういう結果になるんでしょうか」
「私のフィンリーに手出しをした罪は重い。おそらくは処刑でしょうか」

 私のフィンリーというのは何だ、それにそれは罪に関係ないだろうとフィンリーは微妙な顔をした。

「死刑にするほど、でしょうか」
「私のそなた、を抜きにしても、卿は次期公爵であるロード・エーレンを拉致監禁したのです。しかも我々王族の派閥を理由になどして。罪が軽いわけないでしょう。その場で切って捨ててもよかったくらいです」

 その場で切って捨ててくれなくて本当によかった、とフィンリーは心底思った。五歳の頃に転生を自覚してからずっとこの世界の人間であることを意識して生きてはきているが、なまじ前世の記憶があるだけに当たり前のように人が切られて殺される感覚にも未だ馴染めていない。ついでに処刑という感覚もピンとこない。前世でも死刑は確かにあったが、身近でなさ過ぎて現実味がない。

「そ、れでも俺は殺されるために拉致されたのではありません」
「思い通りに動かないと結局殺されていたというのに?」
「そ、れはそう、なんですが……」

 カリッドがふっと笑みを浮かべるとフィンリーを引き寄せてきた。ただでさえ近いのにますます近くなる。

「そなたは優しいですね」
「そういうのとはまたちょっと違うんで……ただの慣れ、と言いますか……」
「? とにかくルカス卿のことはこちらに任せなさい」
「……リースたちはどうなるんですか」

 本当はこちらをまず聞きたかったのだが、少し怖くてすぐに聞けなかった。

「リース卿を含むフラートン家の領地を少々取り上げることとなるでしょう。ですが褫爵ちしゃくまではいきません。今回もリース卿が報告してくれたことで発覚しましたし、その兄上であるカーシアン公爵も協力的でした」
「そう……ですか」

 心底ホッとしているとぎゅっと抱きしめられた。
 介護のような世話を受けていた時に緊張の糸が切れたせいか崩れ落ち、体を震わせていたフィンリーを、ブランケットで包み込んできたカリッドは馬車に乗る際も包まれた状態のまま横抱きにして乗り込み、挙句の果てに自分の膝上に抱えるようにして乗せてきた。そのせいで身動きが上手く取れなかった上にやたらと近い状態だったわけだが、ブランケットに包まれているだけでなくそもそもそんな気力すらなくて逃げることもままならなく、フィンリーはそのままにしていた。だが抱きしめられるとさすがに逃れたくなる。

「離して、ください」
「嫌です。……フィンリー……私がどれほど心配だったか」

 ブランケットごと抱きしめ耳元で切なげに言われ、耐性のないフィンリーとしては居たたまれなさすぎて爆発しそうだ。じたばたと暴れようにもやはり身動きが上手く取れず、せめて何か気を紛らわせるというか平常心をまず保つために何か、と必死で考えを集中しようとしてハッとなった。

「そういえば先ほどの小型の箱は何なのですか」
「リース卿から預かったものですが。魔道具の開発は凄いですね、どんどん新しいものが出てくる。発信装置は私も聞いたことがありましたが、まさか声を盗み聞きし、保存することまでできるとは」

 それを聞いた途端、フィンリーは以前ジェイクに聞いた時のやり取りを思い出した。

「分かるのは居場所だけか? それとも盗聴もできんのか?」
「トウチョウ?」
「盗み聞きだ」
「居場所だけだそうです」

 あのわずかな言葉だけでジェイクもしくはジェイクからそれを聞いたリースは前世で言う「録音タイプの盗聴機能」まで搭載させたというのか。
 もしかしたら今までも、自分の軽率な発言に諸々反応されていたのかもしれないと、フィンリーは今さらながらにクラクラとした。

「フィンリー? どうされたのですか、もしや具合が悪く……」
「い、いえ! そんなんじゃありませんし、ちょっと緊張の糸は切れたかもだけど具合自体は全く悪くなってません。むしろ健康です。っあの、確かに貴族派としてルカス卿はろくでもないことを企んできましたが、あの場に連れてこられた俺は多分丁寧な扱いを受けてたんじゃないかと思います。よかったらその辺も考慮してください」

 ルカスのことは腹立たしいし貴族派もろくでもないとは思うが、自分が原因でそれも従兄が処刑されるというのはとてつもなく後味が悪い。

「……わかりました。考慮、しましょう」

 少しの間の後、カリッドは小さく笑うと抱きしめていた力を少し緩め、フィンリーにキスをしてきた。
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