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42話
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ようやく自分の屋敷に戻ったフィンリーはここのところ、気づけばぼんやりとしていた。
「どこか具合を悪くされたんですか」
ジェイクが心配そうに聞いてくる。
ルカスの元から戻ってきた翌日の朝、フィンリーを見るなり顔をくしゃくしゃにして思い切り抱きしめてきたジェイクに対して、つい大型の犬を連想してしまったのは多分カリッドのせいだと思われる。駆けつけてきたリースも心底ホッとした顔でフィンリーを抱きしめてきた。そして軽率に拉致監禁されてしまったフィンリーを叱るどころか「本当に申し訳ない」と何度も謝ってきた。
「リースのせいじゃない」
「でも僕の兄がしたことだ」
「ルカス卿とリースは兄弟だけど、でもそれだけだよ。リースのせいじゃない。むしろリースのおかげで助かったようなものじゃないか。ありがとう、リース」
カリッドが言っていたように、身内とはいえリースを含めたフラートン家に対しては一部の土地を没収するだけで済んだようだ。貴族に対して降格することはまあ滅多にないにしても、下手をすれば家族や一族皆、同じく処刑されたり追放されることはある。そういった処罰から免れて本当によかったとフィンリーはホッとした。
ルカスに関してもカリッドが働いてくれたのか、処刑は免れそうだと聞いた。だが爵位を剥奪されたルカスが今後どう生きていくのかはフィンリーにもわからないし、そこまで面倒は見きれない。ただ平民も悪くないので強く生きて欲しいとは一応思う。思うが、平民が悪くないと言えるのは前世の記憶もあるからだろうし、ずっと位の高い貴族として生きてきた大抵の貴族には難しいことだろう。
義母とアイリスには改めて話した。このまま黙っていようかと思っていたが、外野から噂話で耳に入るかもしれない。噂話は妙な尾びれがつくこともある。そんな形で聞いて変に心配されるよりはフィンリーの口からちゃんとした事実をあらかじめ話しておいたほうがいいし、実際フィンリーはこうしてどこも怪我なく自宅に戻ってきているので問題ないだろうと思ってのことだ。二人は青ざめショックを受けていたようだが、フィンリーが「ルカス卿からはびっくりするくらい丁重な扱いを受けたし、すぐに第二王子殿下が助けに来てくれたからちょっとした冒険で終わったよ」と笑って言えば少しホッとしているようだった。
フィンリーが話したと知ってリースは義母とアイリスにも頭を下げたようだが、やはり二人からは「あなたのせいじゃない」と取り合ってもらえなかったらしい。
ともかく、裁判などにより結局周りの貴族たちにも騒がれた今回の事件はこれで一応は片付いた。貴族派の者たちもさすがにしばらくは大人しくしているだろうと思われる。だというのにフィンリーは気づけばぼんやりとしている。ジェイクが心配するのも無理はない。
「具合は悪くないよ」
「ですが……では何故最近よくぼんやりとされてるんです」
「あー、えっと、多分ほら、騒がれただろ? それでちょっと疲れたのかも」
「フィンリー様は被害者でしかないというのに疲れさせるなど。馬鹿な貴族が多いですね。オレがちょっと片を付けてきましょうか」
誰に。
どうやって。
考えるのも怖そうなので流すことにした。
「ちょっと気分転換に散歩してくる」
「あ、ではオレも……」
「自分の庭園ぶらつくだけだから。ジェイクは他にすることあるだろ」
相変わらずのどかで空気は美味しいし鳥の鳴き声も気持ちがいい。散歩するにはうってつけな広い庭を、フィンリーは歩きながらまたぼんやりとしていた。
疲れたわけではない。仕事はいつも通りだし、騒がれたのは鬱陶しかったが、周りに恵まれたのかあまり面倒なことに巻き込まれたりはしなかった。食事は美味しいし夜はぐっすり眠っている。
変な夢は見るけれども。
今日もまた変な夢を見てしまった。
普通に社交の場で誰かと話していたはずなのに、気づけばどこか知らない部屋にいて戸惑っていると、カリッドがやってきて何やら言ってくる。聞こえなくて何とか聞き取ろうとしたら、顔を近づけられキスをされた。
「……何でこんな夢見るんだ」
落ち着かないし、ぼんやりもする。
夢に限らず、ふと気づくとカリッドのことを思い出したりしていて、フィンリーとしては意味がわからなかった。
男に興味はないし、乙女ゲームの世界に入り込んだ性別も心も男のままのヒロインとしては警戒心しかない。だから余計に意味がわからない。
あの事件のせいで騒がしいこともあり、また今のフィンリーの感情的な状況もあって、最近は町にもあまり出かけていなかった。事件の後に一度出かけてアートに会い、自分に起きた出来事をあまり詳しくはなく簡単に話して聞かせると心配してくれたし、飲んだり喋ったりゲームをしたりして気を紛らわせてくれた。楽しかったし、やはりアートは友人として好きだなと思ったが、つい気もそぞろとなってしまうため、結局あまり出かけられていない。
助けに来てくれた日以来、カリッドと会えていないせいもあるのかもしれない、とフィンリーは考えてみた。
多分、改めてちゃんとお礼を言えていないから気になっているのかもしれない、と。
「一度会えばすっきりするのかなぁ」
「おや、ではお会いされますか?」
「ええ、うーん。どうだろう……、……、……っデ、イリーさんっ?」
普通に受け答えしかけ、フィンリーはハッとなり微妙な顔を声が聞こえてきたほうへ向けた。
「どこか具合を悪くされたんですか」
ジェイクが心配そうに聞いてくる。
ルカスの元から戻ってきた翌日の朝、フィンリーを見るなり顔をくしゃくしゃにして思い切り抱きしめてきたジェイクに対して、つい大型の犬を連想してしまったのは多分カリッドのせいだと思われる。駆けつけてきたリースも心底ホッとした顔でフィンリーを抱きしめてきた。そして軽率に拉致監禁されてしまったフィンリーを叱るどころか「本当に申し訳ない」と何度も謝ってきた。
「リースのせいじゃない」
「でも僕の兄がしたことだ」
「ルカス卿とリースは兄弟だけど、でもそれだけだよ。リースのせいじゃない。むしろリースのおかげで助かったようなものじゃないか。ありがとう、リース」
カリッドが言っていたように、身内とはいえリースを含めたフラートン家に対しては一部の土地を没収するだけで済んだようだ。貴族に対して降格することはまあ滅多にないにしても、下手をすれば家族や一族皆、同じく処刑されたり追放されることはある。そういった処罰から免れて本当によかったとフィンリーはホッとした。
ルカスに関してもカリッドが働いてくれたのか、処刑は免れそうだと聞いた。だが爵位を剥奪されたルカスが今後どう生きていくのかはフィンリーにもわからないし、そこまで面倒は見きれない。ただ平民も悪くないので強く生きて欲しいとは一応思う。思うが、平民が悪くないと言えるのは前世の記憶もあるからだろうし、ずっと位の高い貴族として生きてきた大抵の貴族には難しいことだろう。
義母とアイリスには改めて話した。このまま黙っていようかと思っていたが、外野から噂話で耳に入るかもしれない。噂話は妙な尾びれがつくこともある。そんな形で聞いて変に心配されるよりはフィンリーの口からちゃんとした事実をあらかじめ話しておいたほうがいいし、実際フィンリーはこうしてどこも怪我なく自宅に戻ってきているので問題ないだろうと思ってのことだ。二人は青ざめショックを受けていたようだが、フィンリーが「ルカス卿からはびっくりするくらい丁重な扱いを受けたし、すぐに第二王子殿下が助けに来てくれたからちょっとした冒険で終わったよ」と笑って言えば少しホッとしているようだった。
フィンリーが話したと知ってリースは義母とアイリスにも頭を下げたようだが、やはり二人からは「あなたのせいじゃない」と取り合ってもらえなかったらしい。
ともかく、裁判などにより結局周りの貴族たちにも騒がれた今回の事件はこれで一応は片付いた。貴族派の者たちもさすがにしばらくは大人しくしているだろうと思われる。だというのにフィンリーは気づけばぼんやりとしている。ジェイクが心配するのも無理はない。
「具合は悪くないよ」
「ですが……では何故最近よくぼんやりとされてるんです」
「あー、えっと、多分ほら、騒がれただろ? それでちょっと疲れたのかも」
「フィンリー様は被害者でしかないというのに疲れさせるなど。馬鹿な貴族が多いですね。オレがちょっと片を付けてきましょうか」
誰に。
どうやって。
考えるのも怖そうなので流すことにした。
「ちょっと気分転換に散歩してくる」
「あ、ではオレも……」
「自分の庭園ぶらつくだけだから。ジェイクは他にすることあるだろ」
相変わらずのどかで空気は美味しいし鳥の鳴き声も気持ちがいい。散歩するにはうってつけな広い庭を、フィンリーは歩きながらまたぼんやりとしていた。
疲れたわけではない。仕事はいつも通りだし、騒がれたのは鬱陶しかったが、周りに恵まれたのかあまり面倒なことに巻き込まれたりはしなかった。食事は美味しいし夜はぐっすり眠っている。
変な夢は見るけれども。
今日もまた変な夢を見てしまった。
普通に社交の場で誰かと話していたはずなのに、気づけばどこか知らない部屋にいて戸惑っていると、カリッドがやってきて何やら言ってくる。聞こえなくて何とか聞き取ろうとしたら、顔を近づけられキスをされた。
「……何でこんな夢見るんだ」
落ち着かないし、ぼんやりもする。
夢に限らず、ふと気づくとカリッドのことを思い出したりしていて、フィンリーとしては意味がわからなかった。
男に興味はないし、乙女ゲームの世界に入り込んだ性別も心も男のままのヒロインとしては警戒心しかない。だから余計に意味がわからない。
あの事件のせいで騒がしいこともあり、また今のフィンリーの感情的な状況もあって、最近は町にもあまり出かけていなかった。事件の後に一度出かけてアートに会い、自分に起きた出来事をあまり詳しくはなく簡単に話して聞かせると心配してくれたし、飲んだり喋ったりゲームをしたりして気を紛らわせてくれた。楽しかったし、やはりアートは友人として好きだなと思ったが、つい気もそぞろとなってしまうため、結局あまり出かけられていない。
助けに来てくれた日以来、カリッドと会えていないせいもあるのかもしれない、とフィンリーは考えてみた。
多分、改めてちゃんとお礼を言えていないから気になっているのかもしれない、と。
「一度会えばすっきりするのかなぁ」
「おや、ではお会いされますか?」
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