眠りのターリア

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17話

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 顕太の家に数日滞在していた間、はっきり言って自分の親とも新二はばったり会っている。家が近いのだから当たり前といえば当たり前なのだが、顕太の実家にいる状態で顔を合わせるのがどうにも落ち着かないとそっと思っていた。

「新二ってばまだ俺とのこと、家族にバレバレなのに変な意識してんの?」
「お前がバラしたようなもんだけどな? 家族に恋愛事情とかバレんの、普通落ち着かねーだろ。平気なお前がおかしい」
「そうかなあ。好きな人のことだからこそ家族にも言いたくないか? まあ俺は言い過ぎなんか、家族総出で馬鹿扱いされるけどな!」
「ほんとにな……」

 アハハ、と笑う顕太に微妙な顔を向ける。すると顕太も少し微妙な顔をしてきた。

「親や兄貴はまだ貶しつつも愛だって思えんだけどさ、ニーナには俺、もしかしてマジで嫌われてんのかなってそろそろ思い始めてきた」

 そしてそう言うと顔をくしゃりと歪める。

 なんだかんだでほんと家族のこと、好きなんだよな。

 新二は内心そっと笑うと顕太の額に軽くデコピンを食らわせる。

「馬鹿が。本気で嫌いならお前のSNSなんかいちいち見てねーと思うぞ」

 彩愛は今回の帰省でも何度か顕太のSNSのことに触れていた。どれも大抵「この新二見てる顔とか馬鹿じゃないの」「これ、へらへらしてキモい」「そーゆのばっかかまけてんの最悪」だのと散々だったが、新二からすると「全部見てるのか」だ。指摘すると拗ねたり怒ったりされそうなのでそっとしていたが、本当に気持ち悪いだの嫌いだの思っているなら見ないと新二は思っている。

「そーかなぁ」
「そうそう。つかお前も妹に貶されるの辛いならまずSNS控えろよ、特に俺載せんのから控えていけ」
「あ、それは無理」
「なんでだよ……」

 数日後、今度は新二の実家へ二人で向かった。いざ向かってみると新二としては顕太の家へ行くよりも微妙な気持ちになるなと実感する。

「改めて久しぶり、新二母ちゃん!」
「久しぶりね、けんちゃん」

 まずその呼び方よ……と新二は何とも言えない顔で顕太を見た。
 ただ付き合う前から顕太は新二の両親のことを「新二父ちゃん」「新二母ちゃん」と呼んでいたので新二としては何も言えないというか、言えばむしろ自分が変に付き合っていることを意識しているみたいで言いにくいというか。
 母親はだがそう呼ばれ慣れているからか特に気にしていないようだった。
新二の家族にもバレてしまえとばかりにSNSへ馬鹿みたいに新二のことを載せていた上に元々人懐こい顕太は、新二の家だというのに物怖じすることも緊張することもなく寛いでいる。

「お前には羞恥心とか緊張とかなんかそういうの、ないのか?」
「俺が変なヤツみたいに言うなよな。あるよ人並みに。でも昔から慣れてるお前の家族に対してなんで今さら緊張すんだよ」
「わかってないなら言っておくけどな、俺らのことが俺の家族にバレてからお前、まだちゃんと顔合わせてなかったぞ」
「あー、そっか。はは、照れる!」
「なんでだよ」

 新二は微妙な顔をした後に言い聞かせるように顕太を見た。

「お前も知ってるだろ。俺んとこの家族はお前んとこみたいにある意味軽くねーぞ」
「別に俺んちも軽くないけど」

 そんな話をリビングで、新二だけがこそこそとしていると母親が飲み物を持って入ってきた。

「新二母ちゃんありがと!」
「……けんちゃん……本当にうちの新二と付き合ってるの?」

 もしこの話題を持ちかけるなら兄である泰宜(たいき)が持ちかけてくるだろうと予測していた新二はギョッとした。母親は予測していなかった。ただ、顕太は全く気にしていないようでヘラリと笑う。

「うん。ほんとだよ」
「そう……」

 戸惑ったように笑った後に母親は何も言わずに立ち上がった。そしてそのまま出て行こうとする。顕太はヘラリと笑ったままだ。

「っちょ、あの、母さん……」
「なあに?」

 そんな態度はない、と言いかけた新二は少しポカンとした。母親はいつも通りに振り返ってくる。

「え? あ、いや……その」
「夕飯の準備があるから言いたいことあるならさっさと言ってね」
「……なんでわざわざ顕太に聞いたんだよ……それに聞いたくせに素っ気ないっつーか……」
「そりゃ聞くでしょ。あんただってもしお兄ちゃんが凄くできのいいお嬢さん連れてきたら『ほんとに付き合ってんの?』って聞きたくならないの?」
「そりゃなるけ……ど、……あの、ちょっと今の質問の意味がわからない」
「けんちゃんがもの凄く頭いいの、お母さん知ってるんだからね。お兄ちゃんのひとしちゃんも出来が良かったけどけんちゃんはそれ以上に頭いいらしいじゃないの。新二も走るのは凄かったってお母さん知ってるけど、なんていうか頭はそんなによくないでしょう? なんだか釣り合わなさそうで申し訳なくて。聞いたもののそう、としか言えなかったわよ」
「はぁっ?」
「わーどこの母ちゃんも似たり寄ったりだな」

 新二の母親の話を聞いて顕太が楽しそうに笑った後に「新二母ちゃん」と呼びかけた。

「なあに」
「晩飯食べる時に、俺ちゃんと挨拶するから」
「そう。……お母さんはね、前に新二にも言ったように、したいようにすればいいと思ってるから。あんた達が幸せならね、それでいいのよ。でもまぁ、お父さんが戸惑いそうだからお手柔らかにね。あの人、まだ少し戸惑ってるから」
「はーい」

 二人の会話を聞きながら、新二は「なんだこの、肩透かしというか茶番というかなんというか……」とぼんやり思っていた。
 それなのに、と新二は思う。
 顕太の家で自分も確かにちゃんと言わなければと皆が揃っている夕食の席で「よろしくお願いします」と付き合っていることを自分の口から告げた。だから新二も改めて付き合っていることを言うのだろうなと少し照れというか居た堪れない感じがして落ち着かなかった。
 それなのに。

「新二がさっき言ったように、新二、ナルコレプシーっていう病気だったんだけど、新二父ちゃん、新二母ちゃん、泰宜兄ちゃん、安心して。俺がずっとこれからも新二の側にいて支えてく。ずっと大切にしてく。大好きなんだ。だから俺も……そりゃこれからも浅黄顕太だけど、菅家の家族の一員としてこれからも仲良くして欲しいんだー。俺はずっと新二のものだし、新二は新二で俺のものになって欲しいんだ。男同士だし苦労だってあるのは承知で言う。結婚とかそりゃ日本では出来ないけど……父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん、新二をください。お願いします」

 そんなことを言われ、普通だったら「馬鹿が!」と言っていたであろう新二は何も言えなかった。病気がはっきりする前から心配してくれ、はっきりしてからも「ずっと支えるから」と言ってくれていた顕太だから、言えなかった。それどころか、顕太の二の舞を踏むことになるとは思わなかった。

「も、もう新二ったら男の子なのに泣いちゃって……」

 母親の涙混じりの声が聞こえる。

「顕太、お勉強以外はずっと馬鹿だとばかり思ってたのに……成長したなあ」

 少しずれたような泰宜の感心するような声が聞こえる。

「……顕太くん、色々行き届かない息子だけど……その、なんだ……、……よろしく……頼む……」

 普段から無口な、絞り出すような父親の声が聞こえた時は既に新二は顕太に引き寄せられ、その胸に思い切り濡れている目を押し当てていた。
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