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輪廻転生は本当にあると、宵は身をもって体験している。
なぜなら宵には生まれる前の記憶がある。
目の前で、また恋人に振られたと酒を煽る友人を見ながら思う。
小さい頃からずっと、体験したはずのない記憶に悩まされていた。幼かった宵は前世と現世の記憶の区別が中々つかなかった。そのため妙な言動もあったのだろう。心配した親に連れられて心療内科にも通ったことがある。おそらくおかしなことばかり言う宵を周囲は心の病だと思ったのだろう。
宵は宵で「自分は皆と何か違うんだ」とは薄々わかるようになり、あまり口にしないようになっていった。
それまでは「この辺は石でできた道とかお家ないね」「みな、はやりやまいにかからないの?」「火あぶりはヤだ」などと口にして、怪訝な顔をされたり心配されたりしていた。
中学生になり、暁に出会ってようやく「ああ、この記憶は自分がおかしいのでも想像の産物でもなく、過去のものなんだ」と理解した。過去と今の自分について整理が出来、落ち着いた。
そう、暁を一目見た瞬間に分かった。
過去に恋人だった人だ、と。
もちろん見た目も何もかも違う。でもわかった。雰囲気がそのものだった。後で性格も恋人だった頃と変わらないと知った。
暁を見た瞬間に過去の出来事や想いが甦り、宵は涙が溢れてきた。本人の目の前でなくてよかったと思った。じゃないと、いきなり泣き出す男と親しくしてくれるか怪しいところだっただろう。
ところで甦った記憶は他にもある。宵の生まれ変わりは一度ではなかった。幾度と生まれ変わっては愛しい相手を思った。生まれ変わるたびに時代も国も違ったが、それでも想う気持ちは変わらなかった。
そばに居たい。
会いたい、隣に居たいと生まれ変わるたびに変わらない想いを抱いてきた。
だから暁に出会ったのは偶然ではなく必然だと宵は思っている。
いつもずっと会いたかった。
いつも本当に会いたかった。
だが「お前は俺の恋人だったんだよ」などと言えるはずもない。
暁が宵と違って過去の記憶を持っていないことは出会ってすぐに分かった。しかも同性だ。前世で恋人だったんだ、などと言っても迷惑でしかない。
だから宵はいつものように想いを封じた。過去を閉ざした。暁に対し友だちでいることを選んだ。暁に大切な相手が出来ることを望んだ。
それならそばにいられる。そして見守っていられる。今度こそ暁には幸せになってもらいたい。そしてそんな暁を見ていたい。
それは過去の自分が望んだことでもある。その気持ちに嘘はない。
ずっと望んできた。
悲しく辛い記憶は忘れ、来世で幸せになりますよう、と。そして自分はそんな恋人の姿を見守りたい、と。
何度、男や女に生まれ変わっても宵の記憶がその度に残っているのはきっと、そのせいなのだろう。
生まれ変わる度に愛しい人に出会えた訳ではなかった。同じ時に生まれ変わらなかったか、同じ場所に生まれ変わらなかったか。それはそうだろう。一緒だという保証など何一つない。宵は必然だとさえ思ってはいるが、むしろ同じ時に同じ場所で生まれ変わることは奇跡と言えるかもしれない。
心に残っていても出会えない生涯もあった。それはそれで苦しかった。ただ、出会えても向こうにはいつも記憶がなかった。その度に宵は「初めまして」から始める。それも結構切なかった。それに中々見守るのも難しかった。
例えばとある時代のとある場所で出会った時は既にもう、相手は婚約した状態だった。それでも幸せに暮らせるのならよかっただろう。宵も満足して、もしかしたらこの転生の連鎖は終わっていたかもしれない。だが政略結婚だった。大切な相手はその時既に落ちぶれ始めていた貴族の娘で、宵は政略結婚相手に仕えているただの側近だった。どうすることが出来ただろうか。
奪ってさらう?
そうしてあの時代に二人、路頭に迷うか捕まり牢屋行きか。
せめて出来たことは、一度だけ、さりげなく花を贈ったことくらいだ。「記憶」の花言葉を持つスターチスの花を見た相手は「可愛い花」だと喜んでくれた。その後は自分の主人と大切な相手が心を通わせ少しでも幸せな生活を送られるよう、側近の範疇で心を砕いた。
とある時はどちらも男だった。大切な相手とは現世のように学生の頃に知り合い、仲良くなった。大切な人は見合い結婚をし、自分は独身のままで、そしてお互い兵士として戦場へ赴いた。男であってもあの局面だ。お互い生きて帰ろうとスターチスの花を渡した。だが相手はその花を手に帰らぬ者となった。大切な人の訃報を耳にした後、自分も上陸後の制圧中に殺された。
それでも側に居られるのならずっと可能な限り、隣で見守ってきた。
もちろん、なれるのなら恋人にまたなりたかった。性別なんて障害にもならない。
ただ自分の遺伝子に組み込まれているかの如く、ずっと培ってきた「見守りたい」という強い過去の想いと、自分と付き合ったり名乗ることがきっかけで辛く悲しい過去を思い出させてしまうのではないかと思うと怖かった。
なぁ、だけど暁……知ってるか?
お前が記憶にないはずの過去の俺という存在を口にするたびに、俺はすごく切なくて苦しいんだ。
もちろんそんな気持ちはおくびにも出せない。だから心の中で必死に堪えている。
自分で望んだはずだ。だが暁の隣という今の自分がある場所に、宵はとても苦しさを感じていた。
これは過去に大切な相手を、時代だからとはいえ救えなかった呪いなのだろうか。これからも未来永劫、この記憶の連鎖は続いていくのだろうか。
それでも、今まで一度も記憶がなければいいと思ったことはない。どんな時も、どんな立場でもそれは変わらなかった。
暁……俺はお前の魂そのものを愛してる。
例え呪いだろうがそれともやはり俺の望みが歪な形で叶っているだけだろうが、これだけは間違いない。
愛している。
なぜなら宵には生まれる前の記憶がある。
目の前で、また恋人に振られたと酒を煽る友人を見ながら思う。
小さい頃からずっと、体験したはずのない記憶に悩まされていた。幼かった宵は前世と現世の記憶の区別が中々つかなかった。そのため妙な言動もあったのだろう。心配した親に連れられて心療内科にも通ったことがある。おそらくおかしなことばかり言う宵を周囲は心の病だと思ったのだろう。
宵は宵で「自分は皆と何か違うんだ」とは薄々わかるようになり、あまり口にしないようになっていった。
それまでは「この辺は石でできた道とかお家ないね」「みな、はやりやまいにかからないの?」「火あぶりはヤだ」などと口にして、怪訝な顔をされたり心配されたりしていた。
中学生になり、暁に出会ってようやく「ああ、この記憶は自分がおかしいのでも想像の産物でもなく、過去のものなんだ」と理解した。過去と今の自分について整理が出来、落ち着いた。
そう、暁を一目見た瞬間に分かった。
過去に恋人だった人だ、と。
もちろん見た目も何もかも違う。でもわかった。雰囲気がそのものだった。後で性格も恋人だった頃と変わらないと知った。
暁を見た瞬間に過去の出来事や想いが甦り、宵は涙が溢れてきた。本人の目の前でなくてよかったと思った。じゃないと、いきなり泣き出す男と親しくしてくれるか怪しいところだっただろう。
ところで甦った記憶は他にもある。宵の生まれ変わりは一度ではなかった。幾度と生まれ変わっては愛しい相手を思った。生まれ変わるたびに時代も国も違ったが、それでも想う気持ちは変わらなかった。
そばに居たい。
会いたい、隣に居たいと生まれ変わるたびに変わらない想いを抱いてきた。
だから暁に出会ったのは偶然ではなく必然だと宵は思っている。
いつもずっと会いたかった。
いつも本当に会いたかった。
だが「お前は俺の恋人だったんだよ」などと言えるはずもない。
暁が宵と違って過去の記憶を持っていないことは出会ってすぐに分かった。しかも同性だ。前世で恋人だったんだ、などと言っても迷惑でしかない。
だから宵はいつものように想いを封じた。過去を閉ざした。暁に対し友だちでいることを選んだ。暁に大切な相手が出来ることを望んだ。
それならそばにいられる。そして見守っていられる。今度こそ暁には幸せになってもらいたい。そしてそんな暁を見ていたい。
それは過去の自分が望んだことでもある。その気持ちに嘘はない。
ずっと望んできた。
悲しく辛い記憶は忘れ、来世で幸せになりますよう、と。そして自分はそんな恋人の姿を見守りたい、と。
何度、男や女に生まれ変わっても宵の記憶がその度に残っているのはきっと、そのせいなのだろう。
生まれ変わる度に愛しい人に出会えた訳ではなかった。同じ時に生まれ変わらなかったか、同じ場所に生まれ変わらなかったか。それはそうだろう。一緒だという保証など何一つない。宵は必然だとさえ思ってはいるが、むしろ同じ時に同じ場所で生まれ変わることは奇跡と言えるかもしれない。
心に残っていても出会えない生涯もあった。それはそれで苦しかった。ただ、出会えても向こうにはいつも記憶がなかった。その度に宵は「初めまして」から始める。それも結構切なかった。それに中々見守るのも難しかった。
例えばとある時代のとある場所で出会った時は既にもう、相手は婚約した状態だった。それでも幸せに暮らせるのならよかっただろう。宵も満足して、もしかしたらこの転生の連鎖は終わっていたかもしれない。だが政略結婚だった。大切な相手はその時既に落ちぶれ始めていた貴族の娘で、宵は政略結婚相手に仕えているただの側近だった。どうすることが出来ただろうか。
奪ってさらう?
そうしてあの時代に二人、路頭に迷うか捕まり牢屋行きか。
せめて出来たことは、一度だけ、さりげなく花を贈ったことくらいだ。「記憶」の花言葉を持つスターチスの花を見た相手は「可愛い花」だと喜んでくれた。その後は自分の主人と大切な相手が心を通わせ少しでも幸せな生活を送られるよう、側近の範疇で心を砕いた。
とある時はどちらも男だった。大切な相手とは現世のように学生の頃に知り合い、仲良くなった。大切な人は見合い結婚をし、自分は独身のままで、そしてお互い兵士として戦場へ赴いた。男であってもあの局面だ。お互い生きて帰ろうとスターチスの花を渡した。だが相手はその花を手に帰らぬ者となった。大切な人の訃報を耳にした後、自分も上陸後の制圧中に殺された。
それでも側に居られるのならずっと可能な限り、隣で見守ってきた。
もちろん、なれるのなら恋人にまたなりたかった。性別なんて障害にもならない。
ただ自分の遺伝子に組み込まれているかの如く、ずっと培ってきた「見守りたい」という強い過去の想いと、自分と付き合ったり名乗ることがきっかけで辛く悲しい過去を思い出させてしまうのではないかと思うと怖かった。
なぁ、だけど暁……知ってるか?
お前が記憶にないはずの過去の俺という存在を口にするたびに、俺はすごく切なくて苦しいんだ。
もちろんそんな気持ちはおくびにも出せない。だから心の中で必死に堪えている。
自分で望んだはずだ。だが暁の隣という今の自分がある場所に、宵はとても苦しさを感じていた。
これは過去に大切な相手を、時代だからとはいえ救えなかった呪いなのだろうか。これからも未来永劫、この記憶の連鎖は続いていくのだろうか。
それでも、今まで一度も記憶がなければいいと思ったことはない。どんな時も、どんな立場でもそれは変わらなかった。
暁……俺はお前の魂そのものを愛してる。
例え呪いだろうがそれともやはり俺の望みが歪な形で叶っているだけだろうが、これだけは間違いない。
愛している。
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