銀色の魔物

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2話

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 しばらくそのままでいたが、フードの男はただ睨んでくるだけでサファルを殺そうとするでもなく、文句を言うでもない。怖じ気づいて固まっていたサファルもさすがに戸惑う。

「えっと……あの」
「……具合は大丈夫か……?」
「えっ? っと、は、はい」

 あれ? 優しい?

 今もまだ睨まれている気がするのだが、聞いてくる内容は親切そうに感じられる。

「なら良かった。……ひとりで帰られそうか?」

 そう聞かれ、つい律儀に反応して出入口まで移動すると布から外を覗いた。全く見たことのない光景だった。どこかの村かと無意識に思っていたようだが、見る限りどうやら森の中という感じがする。ルークの森だとしたら遠く離れた自分の知らない村とかだろうか。それとも別の森だろうか。

「うーん……道、分かるかなぁ。……あ、いやでも多分大丈夫です、何とかします」

 あははと笑顔を向けた。すると睨まれつつも怪訝な顔をされた気がする。変なことを言っただろうかと思っていると「体の具合が大丈夫かという意味でひとりで帰られそうかと聞いていた」と言われた。

「あ、なるほど……すみません、それに関してはほんと大丈夫なんで」

 やはりいい人の気がしてきた。目も、もしかしたら睨んでいるのではないのかもしれない。目付きが悪いだけで。

 ……そういえば目付きの悪さにビビってそればかりに気を取られてたけど……綺麗な目の色だな。

 白目の割合が多いのだが、瞳の色はバイオレットで、まるで綺麗な花弁のようだとサファルは思った。肌も白そうだ。色素が薄いのだろうか。髪はどんな色をしているのだろう。フードを深く被っているせいでよく見えない。少し好奇心が湧いた。

「道が分からないってことか……だったら途中までは送ってやる……」
「わ、本当ですか。ありがとうございます」

 やはりいい人だ、とまた笑みを向けたところで、サファルの腹が盛大な音を立てた。
 さすがにこれは恥ずかしい。サファルは少し顔が熱くなるのが分かった。誰も立ち入らない森の奥に迷い込んだ挙げ句魔物に襲われかけ、それを助けてもらっただけでなく途中まで送ってくれると言ってくれた相手に腹の虫を聞かせる。改めて考えてもやはり恥ずかしい。

「す、すみません」
「……いや。……肉が煮えた頃だろうし……、……」
「肉っ?」

 恥ずかしいと思っていたとは思えない勢いで口にしてしまっていた。思わず「俺というやつは……」と両手で顔を覆う。

「……良かったら、食べていくといい……」

 フードの男は戸惑い気味とはいえそう言ってくれた。
 どうやら煮物に入れる為の香草を摘みに行っていたらしい。鍋の蓋を開けると既に入っていたのであろう別の香草の匂いと野菜とともに煮られた肉の匂いが漂った。サファルの腹がまた盛大に音を立てる。

「ぅう。すみません……」
「いや……」

 フードの男は目付きが悪いだけでなく、どうやら無口らしい。どうりで先ほどは黙って睨み付けられているように思えた、とサファルはそっと苦笑する。

 というか──

「あの、そういえば名前、まだ聞いてない」
「……別に名乗る必要ない」
「え、何でです?」

 ぽかんとしてサファルが聞くと、新たな香草を加えてまた蓋をしたフードの男が微妙そうな顔をしてきた。これも先ほどだったら睨み付けられていると思ったところだろう。

「もう会うこともないだろ」
「え? 何で? そんなにここ、俺が住んでる村から遠いところなんですか。俺、ラーザ村の者なんです。知ってます? ラーザ村」
「……ああ。それに別に遠い訳じゃ……ここはルークの森だし」
「え、ルークの森の中でいいんですか! なんだ、てっきり俺、知らない村か町超えちゃってたのかと」

 あははと笑うとまた微妙な顔をされた。そのあと、黙って鍋の蓋を覗いている。

「って、流さないでくださいよ……。遠くないんだし、これからも会えるじゃないですか。名前、教えてください」
「……会う必要はないだろ」
「そりゃ必要はないかもですが……別に必要なんてなくてもよくないですか?」

 すると怪訝な顔をされた……と思う。少なくとも睨まれたのではないのだろう。

「……えーと……。あえて口に出すことないんでアレですが……友だちになろうって言ってるんですが……」
「友だち……?」

 今度は読めない表情をされた。ひょっとして嫌がられているのだろうかとサファルは首を傾げる。

 うーん……でもそれなら飯食ってけとは言わなくないか? いや、でも俺の腹の虫が煩すぎて言うしかなかっただけで本当は迷惑極まりないのかもしれないよな……。

 知らない者をわざわざ危険かもしれないのに助けてくれるようないい人なのだ。腹を空かせている相手を無下に出来なかったのかもしれない。

「……迷惑でしたか?」
「……いや……でも俺に近づかないほうがいい」
「何で? あ、ひょっとして風邪ですか? なら大丈夫ですよ、俺、風邪めったにひかないんで」

 何だそうかとニコニコ言えば、また微妙な顔をされた。

「あれ? 違いました?」
「……はぁ。出来た。食おう」
「やった……! ってまた流す……」

 黙々と用意してあった皿に煮物を入れるフードの男に唇を尖らせていると皿を差し出された。

「ありがとうございます」

 そこは素直に受け取ると、男が睨み付けて──いや、じっと見てきた。

「どうしました?」
「……お前、俺のこと怖くないの」

 顔、というか目にびびっていたのがバレたのかとサファルは苦笑した。

「あは、確かにちょっと目付き、一瞬怖かったけどあんたがいい人なんで、もう怖くないです」

 すると戸惑ったような顔をされる。

 ……この人無口で目付き悪いけど、意外にも表情、豊かだったりして?

 さすがに知り合ったところだし、そもそも名前すら知らない相手なのでまだ読めない部分も多いが、サファルはなんとなくそう思った。というか目付きにとらわれすぎているが色素が薄そうだけじゃなくとても綺麗な顔立ちなのではないだろうか。

「……カジャックだ」
「え?」

 何を、と言いかけて気づいた。名前だ。

「あ、改めて初めましてカジャックさん。俺のことはサファルとでもサフとでも呼んでください」

 名乗ってもらっただけで妙に嬉しい。達成感にも似た気持ちが湧いた。
 サファルが笑みを浮かべていると、カジャックも少しだが口元を緩めてきた。

 ……今、笑った?

 それだけのことに内心動揺していると、カジャックがようやくフードを脱いできた。
 髪は珍しいシルバーの色をしていた。
 目付きが悪いけれどもやはり綺麗だとサファルは思った。

「……俺のことも呼び捨てでいい。初めまして、サファル」
「好きです」

 気づけばつるりとそんなことを言っていた。
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