銀色の魔物

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3話

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 その日はいつものように食料調達のつもりでカジャックは森を徘徊していた。とはいっても獣を狩る予定ではなかった。獣肉は食べられるが魚のほうが好きだ。なのでたんぱく質は川で釣れる魚でとることが多い。徘徊していたのは木の実や山菜、香草目的だった。
 いつもは静かな森だが、少し離れたところで物音が聞こえた時は獣か魔物が餌でも見つけたのだろうと直ぐに察した。この辺にいる魔物はカジャックにとって特に脅威でもないため放っておいてもよかったのだが、聞こえてくるうなり声がいつもと少し違う気がして気配を消し、様子を見るために近づいていった。
 まさか人間がいるとは思わなかった。いや、カジャックも人間だが、自分以外の人間が森の奥深くにまで来るはずがないと思っていたので心底驚いた。
 猪の魔物はその人間を殺す気満々といったところで、カジャックは仕方なく人間を庇い即座に魔法を放った。
 カジャックの魔力は強い。幼い頃は制御がなかなか出来なかった。そのせいで辛いこともあったが、今では一応制御も出来る。猪の魔物一匹を倒すのにも大した力を使うことなく、簡単な火魔法詠唱で即座に倒した。

「お前……大丈……」

 大丈夫かと言いかけながら振り返ると、庇った男が倒れていた。
 倒れる要素に思い当たることがなかったのでむしろ心配になった。既に攻撃でもされていたのかと思い、簡単に体を調べたが外傷は何もない様子だった。少し考えて、もしかしたら魔物を見たことがなかったのかもしれないという考えに至った。この森も大した魔物はいないが、村や街に住んでいると見かけること自体ないだろう。だから精神的に負担がかかったのかもしれない。
 何にせよこのまま転がしておけば他の魔物か獣に襲われかねない。出来れば人間と接触はしたくなかったが、カジャックは渋々その男を背負った。自分のほうが小柄であっても背負うくらい問題はなかった。
 カジャックの家までそう離れてはいなかったため、男を寝かせるとまた先ほどの場所へ戻る。魔物はまだ倒れたままだった。ウェルダンとまではいかないが、そこそこ火の通った魔物を今度は担ぎ、家まで持ち帰った。他の獣や魔物が仕留めたものなら放置するが、自分が仕留めた以上責任を持って活用する。
 毛皮は焼けてしまっているがとりあえず皮を剥いだ。使えそうだったので一旦水に浸けて水戻しをする。後で石灰浸けをしてから表と裏面の二枚に分け鞣していくつもりだ。出来上がる革は色々なものに使えるため重宝する。
 肉は長期保存しやすいものは塩漬けや燻製にし、どうしても消費出来なさそうなものは所定の場所へ置いてきた。恐らくいつも来る獣たちが持ち去るだろう。飼っている訳ではないが、いつのまにかそういうサイクルが出来上がっていた。残った肉は使いやすいように切り、とりあえず固い部位は鍋に放り込んだ。固い肉ほど煮込めば柔らかくなる。適当な野菜と調味料、香草で煮込む。
 これだけのことをしている間も男は目を覚まさなかった。どこか悪いのではないかとまた心配になったが、見たところどちらかというと気持ち良さそうに眠っている気がしないでもない。
 カジャックは小さくため息を吐くと、男を寝かせたままにしてまだ採っていなかった仕上げ用の香草を探しに出た。出ている間に目を覚まされても問題ない。むしろそのまま出ていってくれたらありがたい。
 カジャックは人間が苦手だ。出来れば接触を避けたい。こうしてずっとひとりで森の奥で引きこもっているのもそのためだ。
 目的の香草を摘んでまた家に戻ってきたが、中へ入る前に物音に気づいた。倒れていた男が目を覚ましたのかもしれない。しばらく戻らなければ出ていってくれるかもしれないと思ったが、意識を失っていたのはやはり心配でもあるため、仕方なく中へ入った。その際にコートのフードを深く被る。
 魔力でもそうだが、昔から見た目も怖がられる。今もやはり怖がられたようだ。男は最初、にこやかな様子で声をかけてきた。

「あの、あなたが助けてくれたんですよね? ありがとうございます。俺、サファルって言います」

 思っていたより落ち着いた感じの声で、親しげに手を差し伸べてきた。だがフードを被ったままカジャックが見ると、サファルは笑顔のままその場に固まった。やはり怯えているのだろうと思いつつも、あまりに人間を見るのが久しぶり過ぎてカジャックはつい相手をじっと観察してしまった。
 背はそこそこあるようだが、先ほど怪我を確認する時にも思ったように鍛えられた体つきはしていなさそうだ。格闘や剣術は苦手なのかもしれない。
 魔力に関しては分からない。カジャックが魔法に秀でてようが、さすがに相手の魔力を何も見ないまま測ることは出来ない。
 ブラウンの髪はそこそこ長さがあるのか後ろでまとめて垂らす総髪にしている。魔法を使う者は時に髪にも力があると信じ伸ばす者がいる。この男もそうなのだろうかと見ながら考えた。
 ふと目を見ると美しい青をしている。そしてそこに怯えと戸惑いを感じた。

「えっと……あの」
「……具合は大丈夫か……?」

 大丈夫ならとっとと帰ってもらおう。出来れば自分に会ったことは誰にも言わないでもらえたらいいなとカジャックはそっと思った。
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