銀色の魔物

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10話

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「魚ってそういえばあまり食べないなぁ」

 カジャックが下処理をした後、棒に突き刺して焼き始めた魚をサファルはじっと見ていた。

「ラーザの近くにも川はあるんですけどね。普段は山菜や豆が多いなぁ」

 魚が珍しいのだろうかとカジャックはスープを作りながら思った。

 あまり捕れなかったがサファルに多めにやろう。俺はじゃがいもと小麦粉を混ぜて作るクレーセを多めに食べればいい。

 カジャックは無言でクレーセにかけるつもりのスープをかき混ぜた。
 サファルは恋愛として好きだとカジャックに言ってきた。それに対して怪訝な顔をしていたカジャックに「何でそんな不思議そうな顔をするんですか」と笑ってきた。

「……お前は男に見えたが……」
「ですね。俺も俺は男に見えるし中身もそのつもりです」

 ニコニコしつつも淡々と答えてくるサファルにカジャックはますます怪訝な顔を向けた。
 その後もサファルはこんな調子のままだった。今も魚を見ていた後にニコニコとカジャックのほうを向いてくる。

「少なくとも嫌悪の顔じゃないこと、喜べばいいですかね」
「……あまり若者のノリはわからないから反応に困る」
「は? っていうかカジャックも若者でしょ。ちなみにいくつなんですか?」

 サファルは聞いてやったとばかりに嬉しそうな顔をしてくる。

「はっきりはわからない。多分二十四かその辺」
「え、俺より六つも上なんですね。上だとは思ってましたがそんなに変わらないって思ってました」

 これに対しても反応のしようがないので流していると「カジャック」とサファルがじっと見てきた。
 改めて「怖がられてないんだな」と思う。

「年齢について流すのはいいですけど、俺の気持ちについてはあまり流して欲しくないです」

 何故そういうことを淡々と言えるのか理解できない。おまけに同性だ。
 カジャックは微妙な顔をしながら「できた。食うぞ」と呟く。

「また流す……! でもはい、お腹も空きました」

 サファルは怒るでもなく楽しそうだ。本当によくわからないと思う。

 こいつは何を考えてるんだ?

 もしくは何も考えてないのかもしれない。

「魚、久しぶりに食うと旨いですね。まぁ俺は肉がやっぱ好きですけど」

 サファルはそう言いながら二匹目の魚をカジャックに差し出してきた。

「何だ」
「あんたは肉より魚のが好きそう。だったらあんたのが一杯食べて。俺はカジャックお手製のクレーセとスープたくさんもらいます」
「……何で魚のが好きだって……」
「え、そんなの見てたらわかるでしょう? カジャックって案外顔に出るんですね」

 可愛い、とサファルは笑ってきた。

「そういうのも女相手に言え」
「んー。さっきの子孫ってのもそうだけど、カジャックってもしかして生産性のない恋愛、しないタイプなんですか」
「そもそも人に会うことがないのでしないタイプだ」
「あんたも冗談言うんですね!」

 いつ言った?

 カジャックがポカンとしていると「人を好きになるのに性別は気にならないタイプです、俺」とクレーセをモグモグと頬張りながらサファルがまた淡々と口にしてくる。カジャックは返事をすることなく遠慮せずに二匹目の魚に手を出した。だいたい遠慮もなにも、自分が捕ってきた魚だ。

「また流す。まぁいいですけどね。とりあえず俺の気持ちがちゃんと自分の中でも確認できたのと、あんたに伝えられましたし」
「……」
「でね、カジャックとゆっくり話をしたいなあって思って今日は泊まらせてもらうつもりだったんです。いいですか?」
「……お前結構厚かましいな」
「あれ? どんどん流してくるから今のも流されるって思ったのに」
「……」
「ほら、また流す」
「……人と接する機会がないからお前と違って器用な対応ができないだけだ」
「俺、器用ですか?」

 軽い皮肉のつもりだったが、サファルはえへへ、とほんのり嬉しそうに笑う。
 何というか、とにかく調子を崩される。ただ今までほぼ誰とも接してきていないため、サファルのような感じが普通なのかどうかがわからない。自分が人と違う可能性も高い。
 だから嫌だとは思わないというのもあるが、そもそも調子が崩されてもサファルの反応や態度に嫌なところがないと言うのだろうか。ついていけなくとも多分悪いやつではないとは思える。

「って感じなのにね、ルーカスってば剣術の先生しながら農業やってんですよね。農業、大事だけどもったいないなあってまだ思ってて。あ、俺はね、商売やってます」
「……よく喋るな」 

 食事を終えてもサファルはほぼ一人で話していた。おかげで会ったことのないサファルの妹や幼馴染みとやらの人となりまで把握しそうだ。

「そりゃね。カジャックと話したいって言ったじゃないですか。でもあんたはほぼ喋ってくんないし」
「何も話すことがない」
「あー、あー、そーでしょうよ。いいですよ、だから俺がいっぱい話してんです」

 とめどなく話すサファルの頭の中はどうなっているのだろうとさえ思う。よく次から次へと言葉が浮かぶものだと感心する勢いだ。
 カジャックはため息を吐くと立ち上がった。

「どこ行くんですか」
「……別にどこも。よく喋るお前の喉を潤してやろうと思ってな」
「潤す?」

 ポカンとしているサファルを無視し、カジャックは台所へ向かった。
 台所といっても大した設備はないし、簡単なものを作るなら囲炉裏でこと足りるが、貯蔵食品や飲み物などはここにまとめて置いている。今取りにきたのも蜂蜜酒だ。
 カジャックを拾い、育ててくれたジンがよく作っていた。酒を個人で作るのは違法らしいが知ったことではない。

「ほら」
「何です? ん……、わあ、お酒だ。美味しい!」

 一口飲んだサファルはまた嬉しそうに笑いかけてきた。
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