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25話
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「そろそろ出たほうがいいかもしれません」
本に集中しているとサファルの声が聞こえてきた。ハッとしてカジャックはサファルを見る。
「何か崩れる音がたまにほんの少しですが聞こえてきます。本の重みに耐えてた分でギリギリ限界だったのかも……」
「……分かった」
頷くと、カジャックは小さく一言、詠唱した。鋭い風が研ぎ澄まされた剣のように本を繋いでいた鎖へ向かって走り抜ける。
「……あんた、何したの」
見ればポカンとしたサファルがカジャックの手元を凝視している。
「鎖を切った」
「いや、うん、それは見たら分かるけどその方法……! カジャックって火属性なんじゃないの?」
「多分そうだな」
「多分て……。え、でも今のってそれこそ多分、風魔法だよなっ? ……あ、いえ、ですよね?」
「別に敬語じゃなくていいが……」
基本的に遠慮がない癖に変なところで律儀だなとカジャックが苦笑しているとサファルがブンブンと頭を振ってきた。
「いやいや、今そんな話じゃなくて……って、そんな話もしてる場合じゃないですね、とりあえず出ましょう」
「ああ」
部屋を出ると、部屋の奥で石が崩れる音が聞こえてきた。二人はそのまま急いで教会らしき建物からも脱出する。外に出た途端、中で何かが崩れる大きな音がした。おそらく二階が抜け落ちたのではないかと思われる。
「ぅわー……危なかったですね……」
「そうだな」
「危なかったって思ってないでしょ」
「思っている」
二人そろって近くの木陰まで行くと腰をおろした。そして何となくホッとすると家から持ってきて残っているパンを取り出して食べる。
「カジャックはパンも作れるんですね」
「まぁ。小麦粉が基本手に入りにくいから、大抵雑穀や豆とか木の実で代用してるけどな」
「やっぱあんたはすげーなぁ」
そんな事にいちいち感心するサファルに、カジャックは笑みを向ける。
「お前は変なやつだよな」
「何で! にしてもさっきは何を熱心に……、じゃなくて、そうだ! それで、さっきの風魔法……」
「ああ」
「何で? 火属性なのに」
「何がそんなに不思議なんだ。逆に火が得意だからこそ、風はまだ使いやすいんじゃないのか?」
カジャックからしたらサファルが何故そんなに不思議そうなのかが不思議だ。
「何で?」
「火は風に強いしな。水には弱い。だからだろうけど、俺は水魔法が一番苦手だよ」
「……そういえばそういうの、聞いたことが……、っでも、それでも通常は耐久的に強いとか弱いってだけで、他属性の魔法は使いこなせませんよ。特殊な魔法具や魔方陣を使うならまだしも……」
「少し詠唱しただろ」
「あんなの、一瞬だったじゃないですかっ?」
「火ならほぼ呟く必要もないレベルの力だ。でも魔法詠唱しないと俺も難しいってことだ」
「それでも……やっぱり凄いですよ」
その言葉に、カジャックはもしかして怯えられたのだろうかとサファルを見た。だがサファルはキラキラとした目でカジャックを見ている。
「怯えは……」
「ないです、っていうかあるわけない。カッコいい……」
実際、どこかうっとりとしたように見てくるサファルに、カジャックは思わず吹き出した。
「何で笑うんです」
「いや、さすがだなと」
「何が?」
「……サファル」
口元を綻ばせたまま、カジャックはサファルの名を呼び、頭を撫でた。途端にサファルは顔を赤くしながらも複雑そうな顔をしている。
「めちゃくちゃ嬉しい……のに子どもとか弟みたいな扱いされてる感じしてすげー微妙……」
そしてぶつぶつと呟いている。カジャックはまた小さく笑った。
「扱いというなら、敬語じゃなくていいと言っているのに」
「うーん……これは何というか、俺の流儀とあとはまじないです」
「流儀? まじない?」
「元々俺、目上の人には少なくとも慣れるまでは敬語使うようにしてて。カジャックの場合はもう慣れさせてもらってるつもりだけど、こう、その、あれです、その、カジャックが俺のこと、そういう目線で見てくれるようになるまでは敬語で、みたいな。まじないというよりは賭けでしょうか」
珍しく言いにくそうにしてきたかと思うとそういうことを言われ、カジャックは今度は苦笑する。
「……まぁ、サファルらしいんじゃないか」
「っ俺らしいとか思える程度には俺のこと、知ってもらえました? 受け入れてもらえました?」
「そういう目線にはなってないけどな」
「そこはあえて言わないまま夢見させてくださいよ……」
サファルの言い方にまた少し笑った後、サファルは持ってきた本をサファルに掲げた。
「それ……?」
「住民録のようなものだ。ここにジンの名前があった。ただの同名という可能性も、もちろんあるが……多分ジンはここの住民だったんだと思う」
「っえ?」
「だから町が無くなった後も訪れていたんじゃないかと思ってる。それに──」
明確ではないが、何となく名簿を見ていてカジャックには思うところがあった。だがカジャックでは答えが出そうにない。
……ジンの友人だったアルゴに聞けば分かるだろうか……。
カジャックが考えていると、サファルがすっとんきょうな声を出してきた。
「待って! ジンっていくつっ?」
本に集中しているとサファルの声が聞こえてきた。ハッとしてカジャックはサファルを見る。
「何か崩れる音がたまにほんの少しですが聞こえてきます。本の重みに耐えてた分でギリギリ限界だったのかも……」
「……分かった」
頷くと、カジャックは小さく一言、詠唱した。鋭い風が研ぎ澄まされた剣のように本を繋いでいた鎖へ向かって走り抜ける。
「……あんた、何したの」
見ればポカンとしたサファルがカジャックの手元を凝視している。
「鎖を切った」
「いや、うん、それは見たら分かるけどその方法……! カジャックって火属性なんじゃないの?」
「多分そうだな」
「多分て……。え、でも今のってそれこそ多分、風魔法だよなっ? ……あ、いえ、ですよね?」
「別に敬語じゃなくていいが……」
基本的に遠慮がない癖に変なところで律儀だなとカジャックが苦笑しているとサファルがブンブンと頭を振ってきた。
「いやいや、今そんな話じゃなくて……って、そんな話もしてる場合じゃないですね、とりあえず出ましょう」
「ああ」
部屋を出ると、部屋の奥で石が崩れる音が聞こえてきた。二人はそのまま急いで教会らしき建物からも脱出する。外に出た途端、中で何かが崩れる大きな音がした。おそらく二階が抜け落ちたのではないかと思われる。
「ぅわー……危なかったですね……」
「そうだな」
「危なかったって思ってないでしょ」
「思っている」
二人そろって近くの木陰まで行くと腰をおろした。そして何となくホッとすると家から持ってきて残っているパンを取り出して食べる。
「カジャックはパンも作れるんですね」
「まぁ。小麦粉が基本手に入りにくいから、大抵雑穀や豆とか木の実で代用してるけどな」
「やっぱあんたはすげーなぁ」
そんな事にいちいち感心するサファルに、カジャックは笑みを向ける。
「お前は変なやつだよな」
「何で! にしてもさっきは何を熱心に……、じゃなくて、そうだ! それで、さっきの風魔法……」
「ああ」
「何で? 火属性なのに」
「何がそんなに不思議なんだ。逆に火が得意だからこそ、風はまだ使いやすいんじゃないのか?」
カジャックからしたらサファルが何故そんなに不思議そうなのかが不思議だ。
「何で?」
「火は風に強いしな。水には弱い。だからだろうけど、俺は水魔法が一番苦手だよ」
「……そういえばそういうの、聞いたことが……、っでも、それでも通常は耐久的に強いとか弱いってだけで、他属性の魔法は使いこなせませんよ。特殊な魔法具や魔方陣を使うならまだしも……」
「少し詠唱しただろ」
「あんなの、一瞬だったじゃないですかっ?」
「火ならほぼ呟く必要もないレベルの力だ。でも魔法詠唱しないと俺も難しいってことだ」
「それでも……やっぱり凄いですよ」
その言葉に、カジャックはもしかして怯えられたのだろうかとサファルを見た。だがサファルはキラキラとした目でカジャックを見ている。
「怯えは……」
「ないです、っていうかあるわけない。カッコいい……」
実際、どこかうっとりとしたように見てくるサファルに、カジャックは思わず吹き出した。
「何で笑うんです」
「いや、さすがだなと」
「何が?」
「……サファル」
口元を綻ばせたまま、カジャックはサファルの名を呼び、頭を撫でた。途端にサファルは顔を赤くしながらも複雑そうな顔をしている。
「めちゃくちゃ嬉しい……のに子どもとか弟みたいな扱いされてる感じしてすげー微妙……」
そしてぶつぶつと呟いている。カジャックはまた小さく笑った。
「扱いというなら、敬語じゃなくていいと言っているのに」
「うーん……これは何というか、俺の流儀とあとはまじないです」
「流儀? まじない?」
「元々俺、目上の人には少なくとも慣れるまでは敬語使うようにしてて。カジャックの場合はもう慣れさせてもらってるつもりだけど、こう、その、あれです、その、カジャックが俺のこと、そういう目線で見てくれるようになるまでは敬語で、みたいな。まじないというよりは賭けでしょうか」
珍しく言いにくそうにしてきたかと思うとそういうことを言われ、カジャックは今度は苦笑する。
「……まぁ、サファルらしいんじゃないか」
「っ俺らしいとか思える程度には俺のこと、知ってもらえました? 受け入れてもらえました?」
「そういう目線にはなってないけどな」
「そこはあえて言わないまま夢見させてくださいよ……」
サファルの言い方にまた少し笑った後、サファルは持ってきた本をサファルに掲げた。
「それ……?」
「住民録のようなものだ。ここにジンの名前があった。ただの同名という可能性も、もちろんあるが……多分ジンはここの住民だったんだと思う」
「っえ?」
「だから町が無くなった後も訪れていたんじゃないかと思ってる。それに──」
明確ではないが、何となく名簿を見ていてカジャックには思うところがあった。だがカジャックでは答えが出そうにない。
……ジンの友人だったアルゴに聞けば分かるだろうか……。
カジャックが考えていると、サファルがすっとんきょうな声を出してきた。
「待って! ジンっていくつっ?」
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