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26話
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二人が今いる場所は、どう見てもここ数年で滅びたようには見えない。何十年も経たないとこんな風にはならないだろう。ジンがそんな町の住民だったかもしれないとカジャックはさらりと言う。
カジャックが小さい頃にジンはカジャックを拾って育てた。その時点で少なくともジンは子どもではなかった筈だ。子どもだったとしてもそれなりに大きかった筈である。そしてその後カジャックがある程度成長してから亡くなっている筈だ。
サファルは混乱してきた。カジャックとジンの歳は離れているだろうとは思っていた。だが離れているなんてものではないような気がしてならない。
答えはすぐに分かった。サファルの「ジンっていくつ?」という質問に、カジャックはどうってことのない様子で答えてきた。
「俺が多分十三の時に亡くなったから……享年は八十八だったか……」
「……はい?」
「俺を拾ってくれた時で既に八十だったからな。俺の年齢がそもそも確かではないが、多分捨てられたのは五歳くらいだったし……」
今、一気に情報が流れてきた感じがする。サファルは思わず馬鹿みたいに「はわわ」といった声が出そうになった。カジャックの情報……! と興奮しつつ、サファルはとてつもなく脱力感を覚えた。
俺は八十越えたじいさんに嫉妬してたの……?
尊敬こそすれ、嫉妬するのがお門違い過ぎて恥ずかしくなった。
「……どうかしたか?」
カジャックが不審そうな顔をサファルへ向けてきた。
「お、俺、ジンさんってもっと若いと思ってました」
「あー、まぁ年齢言ってなかったもんな」
何でもない風にカジャックは頷いている。それはそうだろう。カジャックにしてみれば、サファルが既に亡くなっている、それもかなりの年齢である育ての親のような男に嫉妬していたなどと、まさか思いもよらないに違いない。
ほんと、俺、恥ずかしいし情けない……。
「……サファル? 大丈夫か?」
落ち込んでいると、カジャックが心配そうに聞いてきた。
「……うん、ありがとうございます。はぁー、カジャック……やっぱ好きだ……」
「……お前は何でもそこへ行くんだな」
「あは、すみません」
今度は呆れて微妙な顔をしてきたカジャックにサファルは笑ってみせた。いつか言うにしても、今はさすがに「俺、あんたの育ての親のじいさんにヤキモチやいてました」とは情けない気持ちが溢れ過ぎていて言えない。
それとは別に、好きだとついまた口にしてしまったのはもちろん適当な気持ちではない。ずいぶん、サファルには色んな表情を見せてくれるようになった。それがとても嬉しいのと、やっぱり格好がいいなと思っての言葉だ。
にしても……カジャック……そんな小さな頃に捨てられたんだ……。
いくつくらいの時に捨てられたんだろう、ある程度ひとりで何でも出来る年齢だったのだろうか、などとサファルは以前考えていた。その時はジンの存在を知らなかったから余計だ。ひとりでずっと生きてきたのだと思っていた。ただ、いくらジンがいたといっても、たった五歳でと思うとサファルの胸が痛む。サファルが五歳の頃は、まだ生きていて大好きだった両親に甘えたいだけ甘えていた。
そんな年齢で周りから、そして親から拒否されるなんて……酷すぎる。
サファルの目がじわりと熱くなる。ただ、自分が泣くのはお門違いだと我慢した。
何も分からないような歳で捨てられたカジャックにとって、ジンは例えようのないほどかけがえのない人だっただろうとはサファルでも分かる。高齢だと知ってもやはり少しだけヤキモチを妬きそうだが、ようやくサファルもジンという存在がカジャックにとって本当に大切なんだなと素直に思えるようになった。
「ああ、えっと……あ、そうだ、でもジンさん、もしかして見た目がめちゃくちゃ若かったとか……」
「泣きそうな顔をしてたかと思えば、今度は何の話だ」
カジャックが微妙な顔で言ってくる。
「な、泣いてませんよっ?」
「ああ。でも泣きそうだった」
今度は少し笑うとカジャックはまたサファルの頭を撫でてくる。
バレてる。
サファルも微妙な気持ちになった。
多分、小さな頃のカジャックを思って泣きそうになっていたの、バレてるよ……。
「今度は赤いな」
「俺の顔の実況はいらないですし!」
「ふふ。……で、見た目が、とは?」
「あ、えっと。ジンさんってもしかしてエルフだったとか、そういうことはないですか?」
エルフだとしたら八十歳だろうが二百歳だろうが話は別だ。むしろ八十歳なんてエルフからしたら子どものようなものだろう。
「何故そう思うのか分からないが……違うな。エルフの友人はいたが本人は人間だった」
「そ、そうですか」
ついホッとしてしまう自分は改めて小さいなとサファルは思った。
「サファルはエルフを知っているのか?」
「あ、知り合いにはいませんが……商売で町に出向いた時にほんのたまに見かけることがありました。彼らってあまり人間の前に現れないから……」
「そうらしいな」
「どうかしました?」
「ん? ああ、いや。もう少し奥を見たら帰ろうか。あまりゆっくりしていられないだろう、すぐに夕暮れになる」
カジャックが立ち上がった。
「野宿どんと来いですよ! もちろん、今度は俺が火の番しますし!」
出来れば寄り添って眠れたら最高だけれども、とサファルはそっと思いながら自分も立ち上がった。
カジャックが小さい頃にジンはカジャックを拾って育てた。その時点で少なくともジンは子どもではなかった筈だ。子どもだったとしてもそれなりに大きかった筈である。そしてその後カジャックがある程度成長してから亡くなっている筈だ。
サファルは混乱してきた。カジャックとジンの歳は離れているだろうとは思っていた。だが離れているなんてものではないような気がしてならない。
答えはすぐに分かった。サファルの「ジンっていくつ?」という質問に、カジャックはどうってことのない様子で答えてきた。
「俺が多分十三の時に亡くなったから……享年は八十八だったか……」
「……はい?」
「俺を拾ってくれた時で既に八十だったからな。俺の年齢がそもそも確かではないが、多分捨てられたのは五歳くらいだったし……」
今、一気に情報が流れてきた感じがする。サファルは思わず馬鹿みたいに「はわわ」といった声が出そうになった。カジャックの情報……! と興奮しつつ、サファルはとてつもなく脱力感を覚えた。
俺は八十越えたじいさんに嫉妬してたの……?
尊敬こそすれ、嫉妬するのがお門違い過ぎて恥ずかしくなった。
「……どうかしたか?」
カジャックが不審そうな顔をサファルへ向けてきた。
「お、俺、ジンさんってもっと若いと思ってました」
「あー、まぁ年齢言ってなかったもんな」
何でもない風にカジャックは頷いている。それはそうだろう。カジャックにしてみれば、サファルが既に亡くなっている、それもかなりの年齢である育ての親のような男に嫉妬していたなどと、まさか思いもよらないに違いない。
ほんと、俺、恥ずかしいし情けない……。
「……サファル? 大丈夫か?」
落ち込んでいると、カジャックが心配そうに聞いてきた。
「……うん、ありがとうございます。はぁー、カジャック……やっぱ好きだ……」
「……お前は何でもそこへ行くんだな」
「あは、すみません」
今度は呆れて微妙な顔をしてきたカジャックにサファルは笑ってみせた。いつか言うにしても、今はさすがに「俺、あんたの育ての親のじいさんにヤキモチやいてました」とは情けない気持ちが溢れ過ぎていて言えない。
それとは別に、好きだとついまた口にしてしまったのはもちろん適当な気持ちではない。ずいぶん、サファルには色んな表情を見せてくれるようになった。それがとても嬉しいのと、やっぱり格好がいいなと思っての言葉だ。
にしても……カジャック……そんな小さな頃に捨てられたんだ……。
いくつくらいの時に捨てられたんだろう、ある程度ひとりで何でも出来る年齢だったのだろうか、などとサファルは以前考えていた。その時はジンの存在を知らなかったから余計だ。ひとりでずっと生きてきたのだと思っていた。ただ、いくらジンがいたといっても、たった五歳でと思うとサファルの胸が痛む。サファルが五歳の頃は、まだ生きていて大好きだった両親に甘えたいだけ甘えていた。
そんな年齢で周りから、そして親から拒否されるなんて……酷すぎる。
サファルの目がじわりと熱くなる。ただ、自分が泣くのはお門違いだと我慢した。
何も分からないような歳で捨てられたカジャックにとって、ジンは例えようのないほどかけがえのない人だっただろうとはサファルでも分かる。高齢だと知ってもやはり少しだけヤキモチを妬きそうだが、ようやくサファルもジンという存在がカジャックにとって本当に大切なんだなと素直に思えるようになった。
「ああ、えっと……あ、そうだ、でもジンさん、もしかして見た目がめちゃくちゃ若かったとか……」
「泣きそうな顔をしてたかと思えば、今度は何の話だ」
カジャックが微妙な顔で言ってくる。
「な、泣いてませんよっ?」
「ああ。でも泣きそうだった」
今度は少し笑うとカジャックはまたサファルの頭を撫でてくる。
バレてる。
サファルも微妙な気持ちになった。
多分、小さな頃のカジャックを思って泣きそうになっていたの、バレてるよ……。
「今度は赤いな」
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「ふふ。……で、見た目が、とは?」
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