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35話
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家へ戻ったらまだほんのり濡れている服をちゃんと乾かすために干そうとサファルは思っていた。そろそろ夏になるというのに森の奥だからだろうか、濡れた体は乾いても少し肌寒さを感じたサファルはコートのフードを目深に被っていた。コートの前を閉めれば解決するのだろうが、あいにくカジャックのコートであるためにサファルには小さい。意外にも筋肉質なカジャックだからこそ、こうして羽織ることは出来るのだがそれが限界だ。手でなんとか合わせるくらいしか出来ない。
だがコートのことなどアルゴというエルフを見た時には忘れていた。挨拶をする時に目元を覆うように被っていたフードには気づいて脱いだが、前が開いていることは完全に失念していた。それほどにアルゴは圧倒される雰囲気を醸し出していた。
エルフが珍しいからというのもある。クラフォンの町で見かけることはあったが、こんな近くで見たのは初めてだった。
年齢はエルフだけに分からないが、外見もサファルやカジャックよりはずっと上に見える。そしてとても美しかった。男らしい顔立ちなのにものすごく美しいと断言出来る。金髪も透けるように繊細で美しい色をしている。エルフの特徴とも言える尖った耳には本人にとても合った装飾をつけている。ただ、首元のネックレスは意外にも地味だ。
尊大な雰囲気ではあるが、エルフは大抵人間をあまり信用していないというか好まないと聞いたことがあるので気にならなかった。
「君は裸にコートを羽織る趣味でもあるのか?」
だが、そう言われてようやく自分の姿を意識した。明らかに変態だ。肌身離さずつけているブレスレットの他は辛うじて下着を身につけているものの、裸にコートを見て親近感の湧く者など例えエルフでなくともいないだろう。
「っえ? あっ、違、これは趣味じゃないです、違……っ」
両手を自分の前でばたばたと振りながら、サファルは必死になって説明しようとした。だが動揺し過ぎて上手く言葉が出ない。どう考えても格好悪いし情けないし変態だ。
「何が違うのだ。現に裸にコートではないか」
ですよね……!
「いや、だからこれは仕方なく……」
「仕方なくそんな格好をするのもどうかと思うが? 私のカジャックにそんな格好で近づかないでいただこうか」
そうですよね……!
俺だっていきなり知らない人がこんな格好で知り合いといたら気持ち悪いし心配だし嫌だ。ましてや「私のカジャック」というほどの仲なら──
私のカジャック。
私の。
私、の?
「わ、わた、私のカジャックゥゥゥ?」
あまりにすっとんきょうな声だったのか、アルゴが真顔なのに驚いているのが分かる妙な表情をしてきた。
カジャックがため息を吐いた後に「川に落ちて服が濡れてるんだ。そのコートは俺のを貸した」とサファルが持つ布を指差す。
「なるほど。で、この人間は何だ」
「俺の大事な──」
俺の大事、な……?
サファルの平たい胸が高鳴る。
「友人だ」
ですよね……!
とはいえ、人が苦手であるカジャックに友人と言ってもらえるのは実際のところ嬉しかった。
「そうか。カジャックにもとうとう友人が……私は嬉しいぞ」
「はぁ……。サファル、この人はアルゴ。アルゴ、サファルだ」
カジャックらしいこの上ない簡単な紹介だった。おかげで名前しか分からない。
カジャックは人が苦手だ。だから森の奥でひとり、ひっそりと暮らしている。小さな頃に村からも親からも捨てられたが、代わりにジンがずっとカジャックを育ててくれていた。だからずっとひとりだった訳ではない。訳ではないが、サファルの中ではカジャックには誰も知り合いすらいないのだとは思い込んでいた。
確かに人間ではない。エルフだ。それでもカジャックに知人がいることにサファルは驚いていた。
今は俺だけがカジャックの知り合いだとでも自惚れていたのか?
自分が浅ましく思えた。
カジャックが完全に孤独ではないことを喜ぶべきだろうに、自分以外の知人がいることに、それも聞かされていなかったことにもやもやとしている自分を感じ、浅ましく思えた。しかもカジャックとの関係が気になって仕方がない。
俺、ほんと器ちっちゃいな……。
「サファル……アルゴはジンの友人だ」
じっとサファルを見てきたカジャックがぼそりと呟く。
「え?」
「いや……何となくお前が気にしているように思えて」
「カジャック……!」
また胸が高鳴った。
アルゴがジンの友人だと分かったからというのもあるが、あのカジャックがサファルを気にかけて言ってくれたことが何より嬉しくて仕方がない。
人が苦手なのもあってカジャックは恋愛的感情に疎い。そして言い方は悪いが、朴念仁だ。今までならサファルが気にしているとは思わなかった気がする。どういった心情の変化か、もしかしたらただ単に偶然何となくかもしれないが、それでも嬉しかった。
「もちろんジンの友人だが、ジンの息子のようなものなのだ、カジャックは。大事な私のカジャックと言って差し支えないだろう」
「いや、アルゴ。差し支えあるぞ。どうやら世間では同性でも恋愛対象となり得るらしい。だからアルゴの言い方はもしかしたら誤解を招く」
ほんの少しではあるがカジャックの頑固で屈強そうな考えが本当にほんの少しではあるが柔らかくなっている気がした。
「どういうことだ」
アルゴが呟く。まさかエルフだから普段引きこもっていてカジャック以上に色々世間を知らないのかとサファルは一瞬思った。だがすぐに「いや、ないだろ」と自分の考えを否定する。
長寿のエルフは昔から博識で有名だ。世間を知らないエルフというサファルの発想が稚拙で痛すぎる。
では一体、とサファルがアルゴを見たところでアルゴが続けてきた。
「私がカジャックに恋愛は男女でするものだと洗の……植え付けたはずなのに……」
はい?
サファルは思わずポカンとアルゴを見た。
だがコートのことなどアルゴというエルフを見た時には忘れていた。挨拶をする時に目元を覆うように被っていたフードには気づいて脱いだが、前が開いていることは完全に失念していた。それほどにアルゴは圧倒される雰囲気を醸し出していた。
エルフが珍しいからというのもある。クラフォンの町で見かけることはあったが、こんな近くで見たのは初めてだった。
年齢はエルフだけに分からないが、外見もサファルやカジャックよりはずっと上に見える。そしてとても美しかった。男らしい顔立ちなのにものすごく美しいと断言出来る。金髪も透けるように繊細で美しい色をしている。エルフの特徴とも言える尖った耳には本人にとても合った装飾をつけている。ただ、首元のネックレスは意外にも地味だ。
尊大な雰囲気ではあるが、エルフは大抵人間をあまり信用していないというか好まないと聞いたことがあるので気にならなかった。
「君は裸にコートを羽織る趣味でもあるのか?」
だが、そう言われてようやく自分の姿を意識した。明らかに変態だ。肌身離さずつけているブレスレットの他は辛うじて下着を身につけているものの、裸にコートを見て親近感の湧く者など例えエルフでなくともいないだろう。
「っえ? あっ、違、これは趣味じゃないです、違……っ」
両手を自分の前でばたばたと振りながら、サファルは必死になって説明しようとした。だが動揺し過ぎて上手く言葉が出ない。どう考えても格好悪いし情けないし変態だ。
「何が違うのだ。現に裸にコートではないか」
ですよね……!
「いや、だからこれは仕方なく……」
「仕方なくそんな格好をするのもどうかと思うが? 私のカジャックにそんな格好で近づかないでいただこうか」
そうですよね……!
俺だっていきなり知らない人がこんな格好で知り合いといたら気持ち悪いし心配だし嫌だ。ましてや「私のカジャック」というほどの仲なら──
私のカジャック。
私の。
私、の?
「わ、わた、私のカジャックゥゥゥ?」
あまりにすっとんきょうな声だったのか、アルゴが真顔なのに驚いているのが分かる妙な表情をしてきた。
カジャックがため息を吐いた後に「川に落ちて服が濡れてるんだ。そのコートは俺のを貸した」とサファルが持つ布を指差す。
「なるほど。で、この人間は何だ」
「俺の大事な──」
俺の大事、な……?
サファルの平たい胸が高鳴る。
「友人だ」
ですよね……!
とはいえ、人が苦手であるカジャックに友人と言ってもらえるのは実際のところ嬉しかった。
「そうか。カジャックにもとうとう友人が……私は嬉しいぞ」
「はぁ……。サファル、この人はアルゴ。アルゴ、サファルだ」
カジャックらしいこの上ない簡単な紹介だった。おかげで名前しか分からない。
カジャックは人が苦手だ。だから森の奥でひとり、ひっそりと暮らしている。小さな頃に村からも親からも捨てられたが、代わりにジンがずっとカジャックを育ててくれていた。だからずっとひとりだった訳ではない。訳ではないが、サファルの中ではカジャックには誰も知り合いすらいないのだとは思い込んでいた。
確かに人間ではない。エルフだ。それでもカジャックに知人がいることにサファルは驚いていた。
今は俺だけがカジャックの知り合いだとでも自惚れていたのか?
自分が浅ましく思えた。
カジャックが完全に孤独ではないことを喜ぶべきだろうに、自分以外の知人がいることに、それも聞かされていなかったことにもやもやとしている自分を感じ、浅ましく思えた。しかもカジャックとの関係が気になって仕方がない。
俺、ほんと器ちっちゃいな……。
「サファル……アルゴはジンの友人だ」
じっとサファルを見てきたカジャックがぼそりと呟く。
「え?」
「いや……何となくお前が気にしているように思えて」
「カジャック……!」
また胸が高鳴った。
アルゴがジンの友人だと分かったからというのもあるが、あのカジャックがサファルを気にかけて言ってくれたことが何より嬉しくて仕方がない。
人が苦手なのもあってカジャックは恋愛的感情に疎い。そして言い方は悪いが、朴念仁だ。今までならサファルが気にしているとは思わなかった気がする。どういった心情の変化か、もしかしたらただ単に偶然何となくかもしれないが、それでも嬉しかった。
「もちろんジンの友人だが、ジンの息子のようなものなのだ、カジャックは。大事な私のカジャックと言って差し支えないだろう」
「いや、アルゴ。差し支えあるぞ。どうやら世間では同性でも恋愛対象となり得るらしい。だからアルゴの言い方はもしかしたら誤解を招く」
ほんの少しではあるがカジャックの頑固で屈強そうな考えが本当にほんの少しではあるが柔らかくなっている気がした。
「どういうことだ」
アルゴが呟く。まさかエルフだから普段引きこもっていてカジャック以上に色々世間を知らないのかとサファルは一瞬思った。だがすぐに「いや、ないだろ」と自分の考えを否定する。
長寿のエルフは昔から博識で有名だ。世間を知らないエルフというサファルの発想が稚拙で痛すぎる。
では一体、とサファルがアルゴを見たところでアルゴが続けてきた。
「私がカジャックに恋愛は男女でするものだと洗の……植え付けたはずなのに……」
はい?
サファルは思わずポカンとアルゴを見た。
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