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36話
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おい、とカジャックは微妙な顔になって長身の男を見据えた。自分との身長の高低さに、ただでさえ悪い目付きが思い切り睨み上げるような形になったが、カジャックの目付きに慣れているアルゴは全く気にしていない。むしろ、何も発言していないかのようにシレッとした顔をあらぬ方へ向けた。
どこから自分はそう思うようになったのかと思ったところだっただけに、アルゴの言葉にカジャックは「お前か……!」とある意味すっきりした気分になった。
ただアルゴが今、「洗脳」と言いかけたのを聞き逃していない。しかも言い直しても「植え付けた」だ。響きがろくでもない。明らかに企みがあってのこととしか思えない。
カジャックが「どういうことだ」と聞く前にだが、サファルが先に口を開いていた。
「別に男女で恋愛をするものだと考えるのは全然悪くないんですが、植え付けたってどういうことですか? 何だかその、強制的な感じ、に……聞こえ……ます……」
聞いている途中でアルゴが更に威圧感溢れる表情でサファルを見下ろしたようだ。言葉の勢いがどんどんなくなっていった。
「アルゴ。威圧的にサファルを見るな」
「私はそんなことはしていない。ただ見ただけだ」
「そんな訳ないだろう。それに俺も聞きたい。洗脳と言いかけたな? 何か意味があってのことだろう」
「……さすがジンの息子だ。耳聡い」
「育ての親だとは思っているが血は繋がってない」
「知っておるわ、そのくらい。……それでもお前はジンの息子だ……ジンの……だからいずれ惚れた女を見つけて一緒になり、子を成して欲しいと思ってだな」
「アルゴさん……」
何故かサファルが感動して泣きそうになっている。アルゴとジンのことを何一つ知らないのに、「ジンの友人」という情報から今の話でよくそこまで感情移入が出来るなとカジャックは苦笑した。
ただ、実際アルゴにとってジンはとても大切な存在だったのをカジャックも知っている。何故人間をあまり好んでいないエルフのアルゴがジンと仲良くなったのかはあまり知らないが、ジンの生きていた頃はよくここへもやって来ていた。そしてジンの作った酒を一緒に飲みながら色々な話をしていた。一見、年老いた男とまだまだ精悍そうな男だがお互い対等に接し、時に真剣に話し、そして時に楽しげに笑い合っていた。カジャックはそんな二人を眺めているとじんわりとした気持ちになったものだ。当時は分からなかったが、あれが幸せという感情だったのだろうと思う。
ジンが亡くなってからも暫くは頻繁にここへアルゴはやって来ていた。
「幼いお前ひとりでは辛いだろう。私と来なさい」
そう言われたことも何度かあった。だがカジャックがアルゴの住むエルフの村でやっていくのは難しいのではと子ども心にも疑問だった。魔力が異様に強い人間の子だ。あまり歓迎されないとしか思えなかった。かといってずっと大切に思っていたであろうジンが亡くなり憔悴しているアルゴを、ジンのいなくなったばかりのこの家に頻繁に来させるのも酷な話だと思えた。
「俺はここに残る……。ジンが生きてきたここに。ジンの教えを生かしてひとりでやってみたい。だから──」
「……そうか。分かった。では応援しよう。ただし私にもたまには様子を見に来させてくれ」
悪い人ではないのを、カジャックは昔から知っている。ただ、少々度が過ぎるのも知っている。
「それでも、そういった嗜好を押し付けるな。洗脳とかろくでもない」
「……別に極端な思考ではないだろう。男女とは生命の神秘を一番味わえる恋愛なのだぞ」
「……はぁ。その前にそもそも俺は人が苦手なのだと思い出すといい」
「それは分かった上でだ。誰かを好きになるのに理由などない。苦手だろうがお前が誰ともつがいにならないとは言い切れない」
「分かります! そうですよね! 分かります!」
アルゴの言葉に、カジャックではなくサファルが力いっぱい反応してきた。
「……カジャック。この無駄に暑苦しい子どもは本当にお前の友人なのか?」
「……もちろんだ」
「俺はもう成人してます……! それにカジャックも肯定するのを躊躇しないで」
「子ども、いくつだ」
「子どもじゃないってば。俺はもう十八です」
「……は」
得意げに言うサファルに対し、アルゴが鼻で笑った。確かにエルフからすれば十八など赤子同然だろうが、それを言うなら多分二十四くらいのカジャックも同じだろう。微妙な顔で「アルゴ。お前は俺に対しても鼻で笑うのか」とあえて聞いた。
「カジャックは我が子同然に可愛いのだから違う意味で子どもだ。だが中身がこの子どもと全然違うだろうが」
「それは否定しません。カジャックは本当にしっかりしていて大人だし最高にカッコいいですし!」
「ほぉ? そうだろうそうだろう。子どもだが分かっているではないか。つい今しがたまではその髪色と瞳の色をしておきながら小うるさいただのつまらぬ子どもかと苛立ちを覚えたが」
アルゴが少々満足げに頷いた。
「髪と瞳?」
またカジャックが聞く前にサファルが聞いていた。この辺りが話下手と話上手の違いか、と見当違いなことをカジャックが思っているとアルゴがサファルの髪に触れてきた。
「……手触りも似ている気がする」
「え?」
サファルはポカンとしている。それはそうだろう。カジャックもよく分からないまま無言でアルゴを見た。
「子ども。お前のブラウンの髪と青い瞳はジンと同じ色をしている」
アルゴは低い声で囁くように呟いた。
どこから自分はそう思うようになったのかと思ったところだっただけに、アルゴの言葉にカジャックは「お前か……!」とある意味すっきりした気分になった。
ただアルゴが今、「洗脳」と言いかけたのを聞き逃していない。しかも言い直しても「植え付けた」だ。響きがろくでもない。明らかに企みがあってのこととしか思えない。
カジャックが「どういうことだ」と聞く前にだが、サファルが先に口を開いていた。
「別に男女で恋愛をするものだと考えるのは全然悪くないんですが、植え付けたってどういうことですか? 何だかその、強制的な感じ、に……聞こえ……ます……」
聞いている途中でアルゴが更に威圧感溢れる表情でサファルを見下ろしたようだ。言葉の勢いがどんどんなくなっていった。
「アルゴ。威圧的にサファルを見るな」
「私はそんなことはしていない。ただ見ただけだ」
「そんな訳ないだろう。それに俺も聞きたい。洗脳と言いかけたな? 何か意味があってのことだろう」
「……さすがジンの息子だ。耳聡い」
「育ての親だとは思っているが血は繋がってない」
「知っておるわ、そのくらい。……それでもお前はジンの息子だ……ジンの……だからいずれ惚れた女を見つけて一緒になり、子を成して欲しいと思ってだな」
「アルゴさん……」
何故かサファルが感動して泣きそうになっている。アルゴとジンのことを何一つ知らないのに、「ジンの友人」という情報から今の話でよくそこまで感情移入が出来るなとカジャックは苦笑した。
ただ、実際アルゴにとってジンはとても大切な存在だったのをカジャックも知っている。何故人間をあまり好んでいないエルフのアルゴがジンと仲良くなったのかはあまり知らないが、ジンの生きていた頃はよくここへもやって来ていた。そしてジンの作った酒を一緒に飲みながら色々な話をしていた。一見、年老いた男とまだまだ精悍そうな男だがお互い対等に接し、時に真剣に話し、そして時に楽しげに笑い合っていた。カジャックはそんな二人を眺めているとじんわりとした気持ちになったものだ。当時は分からなかったが、あれが幸せという感情だったのだろうと思う。
ジンが亡くなってからも暫くは頻繁にここへアルゴはやって来ていた。
「幼いお前ひとりでは辛いだろう。私と来なさい」
そう言われたことも何度かあった。だがカジャックがアルゴの住むエルフの村でやっていくのは難しいのではと子ども心にも疑問だった。魔力が異様に強い人間の子だ。あまり歓迎されないとしか思えなかった。かといってずっと大切に思っていたであろうジンが亡くなり憔悴しているアルゴを、ジンのいなくなったばかりのこの家に頻繁に来させるのも酷な話だと思えた。
「俺はここに残る……。ジンが生きてきたここに。ジンの教えを生かしてひとりでやってみたい。だから──」
「……そうか。分かった。では応援しよう。ただし私にもたまには様子を見に来させてくれ」
悪い人ではないのを、カジャックは昔から知っている。ただ、少々度が過ぎるのも知っている。
「それでも、そういった嗜好を押し付けるな。洗脳とかろくでもない」
「……別に極端な思考ではないだろう。男女とは生命の神秘を一番味わえる恋愛なのだぞ」
「……はぁ。その前にそもそも俺は人が苦手なのだと思い出すといい」
「それは分かった上でだ。誰かを好きになるのに理由などない。苦手だろうがお前が誰ともつがいにならないとは言い切れない」
「分かります! そうですよね! 分かります!」
アルゴの言葉に、カジャックではなくサファルが力いっぱい反応してきた。
「……カジャック。この無駄に暑苦しい子どもは本当にお前の友人なのか?」
「……もちろんだ」
「俺はもう成人してます……! それにカジャックも肯定するのを躊躇しないで」
「子ども、いくつだ」
「子どもじゃないってば。俺はもう十八です」
「……は」
得意げに言うサファルに対し、アルゴが鼻で笑った。確かにエルフからすれば十八など赤子同然だろうが、それを言うなら多分二十四くらいのカジャックも同じだろう。微妙な顔で「アルゴ。お前は俺に対しても鼻で笑うのか」とあえて聞いた。
「カジャックは我が子同然に可愛いのだから違う意味で子どもだ。だが中身がこの子どもと全然違うだろうが」
「それは否定しません。カジャックは本当にしっかりしていて大人だし最高にカッコいいですし!」
「ほぉ? そうだろうそうだろう。子どもだが分かっているではないか。つい今しがたまではその髪色と瞳の色をしておきながら小うるさいただのつまらぬ子どもかと苛立ちを覚えたが」
アルゴが少々満足げに頷いた。
「髪と瞳?」
またカジャックが聞く前にサファルが聞いていた。この辺りが話下手と話上手の違いか、と見当違いなことをカジャックが思っているとアルゴがサファルの髪に触れてきた。
「……手触りも似ている気がする」
「え?」
サファルはポカンとしている。それはそうだろう。カジャックもよく分からないまま無言でアルゴを見た。
「子ども。お前のブラウンの髪と青い瞳はジンと同じ色をしている」
アルゴは低い声で囁くように呟いた。
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