虎と豹とキリン

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体を作りたい豹

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 夜に友悠と食堂へ向かい、颯一は「今日は焼肉定食だ」と喜んだ。学校の食堂ではメニューを選べるが、朝晩食べる寮の食堂では決まったメニューが出てくる。

「そう。お前いつも昼そればかり食べてなかった? なのに夜もそれだって喜ぶって、どんだけ……」

 テーブルに着き、箸を持ったところで友悠が苦笑してくる。実際メニューは素朴でも、良い材料を使っているため確かにおいしいが、飽きないのかと言うことだろう。

「んん?」

 すでに肉を口に頬張ろうとしていた颯一はとりあえずそれを口へ放り込み、暫く咀嚼した後でニッコリ笑う。

「だってさ、肉食べないと身長伸びねえだろ?」
「は?」
「それにさー俺筋肉もつけたいし」
「いや、まあ何ていうかその、肉食べたからって身長伸びたり筋肉つくってわけじゃ……」

 友悠が唖然と呟くように言う。颯一は「だって兄ちゃんが言ってたし」と首を傾げた。
 颯一には兄がいる。二十四歳になる兄はとても格好がよく、颯一にとって小さい頃から自慢の兄であり、そして羨ましくてならなかった。
 颯一自身はよく母親似だと言われるが、兄の隼颯(はやて)は父親似だった。しっかりとした男らしい体つきに長身のイケメン。
 小さい頃は特に小柄で顔つきも大人しげだった颯一はとても兄に憧れていた。その兄が肉好きで、肉料理の時は喜んで沢山食べていた。

「しっかり肉食わないと俺みたいにならないぞ」

 そして颯一によくそんなこと言ってきていた。
 兄ちゃんは肉を食べてあんなに大きくなったのだし、がっしりとしたカッコいい人になったんだ。
 颯一はまるで擦り込みのようにそう考えるようになっていた。

「兄ちゃんマジカッコいいんだよな。それにすげぇ美人の彼女いるんだ。俺も肉食ってああなる」
「ああもうこの子は……」
「この子、て。子ども扱い何でだよ」
「そうの、そういう単じゅ……素直なとこは俺も友だちとしてかわいいと思うよ?」
「いや、思わなくていいよ」
「でもその、体作る前にもうちょっと……そうだな、その、勉強でもがんばろう、か」

 遠慮気味だが、なにげに失礼なこと言われている気がする。

「とも……」
「それでその、ムリヤリ食べてるわけ……?」
「別にムリヤリじゃねーよ? 俺、肉好きだもん。特に唐揚げが好きだな! でも何つーかアレはさすがにいつも食ってたら、上に伸びる前に横に伸びそうだろ?」
「別に俺らって育ちざかりだし、普通に食ってる限りじゃ、そう簡単には」

 ただでさえ颯一は渉のせいもあるが、普段から走り回っている。あれほどカロリーを消化しているのだからむしろ簡単には太れないのでは、と友悠は言う。
「それに、そうは肉を食べればいいと思っているからか、野菜と一緒に肉を沢山食べるだろ。それもあって他よりもご飯を食べてない気がするんだよ」

 確かに一応茶碗に軽く一杯は入れるが、大抵皆は自分で入れられるのをいいことに大盛り入れているし、お替わりしている生徒も多い。

「それってむしろダイエットになってるんじゃないかな。っていうか燃費悪くなりそうだけど」
「……こないだあった身体測定で実は痩せてたんだ。まだ肉食い足りねぇのかなって思ってたけど……」
「……っぶ」

 それを聞いて友悠は思わずといった風に吹き出してきた。

「何だよ?」
「い、いや。何でも。その、あれだよ。別に肉にこだわらなくても、何でもまんべんなく食べたらいいと思うよ」
「えー、そうなのかなー。でもマジ兄ちゃん肉すげー食ってたイメージあるしさ……」
「そうはお兄さん好きなんだな」
「お? まーな。だってマジカッコいいんだよ兄ちゃん。仕事のことになるとすげー頭切れるしさ。……俺頭よくないのに何で兄ちゃん顔とかだけじゃなく頭もいいんだよな、その辺もほんと羨ましい」

 羨ましいと言うが颯一には妬みや嫉みはない。いくら兄弟でも、いや、兄弟だからこそ、片方に備わっている優れた点を僻んだりすることもあるのかもしれないが、颯一は純粋に兄を慕っている。

「そういうさ、そうの素直な性格、とてもそうらしくていいね」
「そ、そっかな。……でも普段は兄ちゃん、大概天然だけどな!」
「そうもわりと天ね……あ、いや。へえ、そうなんだ」

 友悠は何か言いかけてやめ、ニッコリ相槌を打ってきた。

「あの渉ですら、俺の兄ちゃんには懐いて『はや兄』とか言ってたんだよな。今でもあいつ、俺の兄ちゃんに懐いたりするんだろーか」

 ニコニコ言った後で颯一は首を傾げる。男前で変わりものの渉が大人の男性に「はや兄」と言って懐いているところを想像しようとして、颯一だけでなく友悠も断念したようだ。

「何か気持ち悪……!」
「ちょ、そう、それは言い過ぎ……」
「でもともだって想像できなかったろ?」
「そ、それはその、あれだよ。そうのお兄さんがどんな人か知らないから」

 友悠は適当に言い訳してきた。

「あーなるほどな。俺写真持ってんだ。部屋戻ったら見せてやるよ」

 別に見せてもらいたいほどの関心があるわけではないだろうに、友悠は嬉しく思ってる颯一を見て「ありがとう、見せてもらう」と笑ってきた。
 相変わらず渉は朝晩の寮での食事中はいつものようにちょっかいをかけてこないため、二人はゆっくり夕飯を食べた後、部屋へ戻る。

「ほら、見て見て。めっちゃカッコいいだろ?」

 颯一は早速、兄の写真を友悠に見せた。そこに写っている人物は多分誰が見ても格好いいと思うだろう。颯一と並んでいる写真で、そのため背の高さもなんとなくよくわかる。
 背が伸びたいとよく言っている颯一自身、大きくはないが別に小さくもない普通の身長なのだが、兄が長身だから余計、大きくなりたいと思ってしまう。

「あとさー、写真ではわかりにくいだろけど、兄ちゃんめっちゃ筋肉もあってカッコいいんだよな」

 最早ブラコンかといった勢いで颯一は自分の兄をべた褒めする。

「へぇ、そうなんだ」
「おう。……でもとももさぁ、わりと背あるし筋肉もついてるよな。今そうでもないけど、中学ん時とかにやっぱ肉いっぱい食ってない?」
「……いや、人並み程度だよ……。ていうかさ、別にそうは小さくないだろ」

 呆れたように友悠が言ってくる。颯一はため息ついた。

「そりゃ今はチビってほどじゃないけどさ……昔はちっさかったし。きっと肉食ったからここまでこれたんじゃないかなー」
 ただの成長期です、と友悠が呟いている。
「それに俺、体薄いだろ。もっと分厚い感じになりたいんだよ。中学の時なんか女子とかさー俺を男扱いしてくれなかったんだぞ?」
「え? 女子扱い……」
「……何言ってんだ、とも……? いくら何でもそれはねーよ! 何つーか『弟みたい』て言われたことある……」

 微妙な表情で友悠を見てから、颯一は落ち込みながら呟く。

「ああ……弟……」

 友悠がそっとではあるが思わず口にしている。友悠も颯一をどこか弟のように扱ってくることあるような気がしないでもなかったが、その感じは間違っていないのかもしれない。
 颯一がますます微妙な顔していると「で、でも別にそう、お前そんなにガリガリってわけでも……」と困ったように笑いかけてきた。

「痩せてるよ! ほら、ちゃんと見てみろよ!」

 とりなすように言ってきた友悠に対し、颯一はムッとしながら服をめくり上げた。途端、友悠がよくわからない表情してくる。困惑だろうか。あと少し顔色が赤くなった気がするのでやはり困惑しているのかもしれない。

「ちょ、何してんの、そう! おろして!」

 困惑であろう戸惑ったような表情ながらに焦ったように咎めてきたのは、颯一の体など見ても仕方ないからと、もしかしたら渉が浮かんだのかもしれない。

「……そこまで慌てなくても」
「いいからおろして!」

 友悠の少々過剰な反応にそれこそ困惑しながら、颯一は服をおろす。
 そして渉がやってくるまであと少し。
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