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慄くキリン
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クラスメイトに誘われ、颯一と友悠は談話室にいた。
「ホラーってさ、一人で観る派と大勢で観る派てありそじゃね」
そう言いながら、誰かが大画面のテレビにDVDをセットしている。
少し前に部屋へ来た友人が「今からホラー観賞会しねぇ?」と誘ってきた。談話室は学年関係なしに利用できるがさほど広くはない。今も集まった皆はわりと密集していた。
「……何か男ばっかで密集とか暑苦しい……」
颯一がとてつもなく嫌そうに呟く。
「うるせーな、俺だってどうせお近づきになるならかわいい女の子とくっつきたいわ!」
別の友人が颯一をジロリと見、そしてニヤリと笑う。
「ホラーだからどうせビビってくっつくって! 絶対」
「は? 俺別にホラー平気だぞ」
颯一が怪訝そうに言うと別の友人が意外そうに見ている。
「マジで? 何か込谷てそういうのダメそうに見える」
「あー俺もそー思った」
「わかる」
「だよな」
「……何だよお前らどういう意味だよ? 口ぐちに言ってくんな」
ムッとして言い返す颯一の隣で、友悠は苦笑した。多分見た目だろうなと、ノンケである友悠でも一応わかる。大人しそうでかよわそうにも見える颯一が、ホラーを見て怖がる姿を想像するのは難くない。とはいえ現実では「ふざけんな」などと言いながら足で友人の背中を今もゲシゲシと蹴っているような性格ではあるが。
「男ばっかはムサイけどさー、あれじゃね。込谷て地味なくせに絶対化粧したら似合うと思うんだよな」
「は?」
「何だったら花添えるつもりで女装して観てくれてもいいのよ」
「ざけんな」
そんな会話しつつ、映画が始まると皆黙って画面を観だした。映画は少し古いものだったが、中々しっかりとした話の作りではあった。おどろおどろしいシーンなどが出ると、中には「うぉ」などと言って本気で驚いたり怖がったりしているヤツもいる。
その点颯一は自分で言ってたように平気みたいで、体を丸めることもなく何かを持ちながら怯えつつ観ることもなく、普通のドラマを観ているかのように画面に向いている。
友悠自身も別にホラー系は特に苦手でもないので、話に引き込まれつつ画面を見入っていた。
ただとあるシーンで登場人物が血まみれになると、颯一が急にギュッと隣にいた友悠の手を握ってきた。えっと思い颯一を見ると目を逸らせている。だが友悠の手を握っているのはどうも気づいていなさそうだった。なのでとりあえず友悠もそっとしておく。
そのまま放っておくと血まみれのシーンが終わり、その後はただ怖いだけの内容だったからか、颯一はまた普通に画面を観ている。自分でも気づいていないのだろうかな、と友悠はまた思った。
とはいえあえて言うのも何だしと思いつつ、自分の手を見おろす。無意識でつかんできたからだろうか、颯一はまだ友悠の手を握っていた。
男に握られるというのは正直気持ちいいものではない。だが自分よりも小さな手がぎゅっと握ってくるというのはかわいらしい。
……それが女の子なら。
友悠はふと考えてみる。颯一が女子だったらもしかしたらかわいかっただろうし、自分も友人ではなく別の意味で好きになったりしてただろうか。多分今の颯一を思うに、女子だったらきっとかわいい顔立ちだったかもしれないし、さほど小柄ではないものの、とても華奢な感じも悪くないような気がする。
性格は限りなく男前だが友悠自身、あまり女の子女の子しているよりは元気な子が好きだ。自分があまりワイワイ騒がないタイプだからだろうか、元気な女の子を見るとかわいいなと思う。あまり煩い子や口の悪い子はさすがに苦手だが、颯一くらいなら許容範囲だと思う。
そしてそんな元気で男前な性格で、ホラーなんかも全然平気で。なのに何か怖いものがあったからと無意識にキュッと友悠の手を握ってくる女子。
……かわいいな、それ。
そしてハッとなる。それでも今、自分の手を握っているのは間違いなく自分と同じものが生えている男であり、そして親友である。女の子だったらかわいいとして、颯一相手に何考えてと、友悠は自分に呆れた。あと自分の息子に対しても呆れる。
確かに映画に集中するため部屋を暗くしているので、はっきり顔は見えない。だからより自分の手に触れている人の手の感触がはっきり伝わってくる。
変な想像などしなければよかったと友悠は後悔した。いくら男に興味がない友悠でも、思春期の性少年だ。溜まるものは、溜まる。最近あまり抜いてないからなあと友悠は内心ため息ついた。
寮生活なのでさすがに堂々と抜けない。なので大抵の生徒は自室のトイレやシャワールームで抜くことが多い。友悠も普段そうしているのだが、嫌な言い方かもしれないがある意味、渉に気を取られて最近していない。さすがにないとわかってはいるのだが、トイレやシャワールームを渉に盗撮されていたらどうしようと考えてしまい、ヤル気になれないのだ。考え過ぎなのはわかっているが、性格なのでどうしようもない。
そしてそのせいで今、しなくていい主張を息子がしている。とりあえず映画が終わるまでに違うこと考えて沈めようとそっとため息ついた。ついでに颯一が手を離してくれたらいいなと思いつつ。
映画は佳境に入った。主人公の背後にゆっくりと忍び寄る呪われた霊。そして気づかない主人公。呪われた存在はさらに近づく。
ゆっくり、ゆっくり、と。
そして―
「貴様死ね……!」
「ひぃっ?」
「ギャアッ!」
「な、何事っ?」
途端誰かが部屋のスイッチを入れた。皆驚き怯え、青くなりつつ抱き合ったり何かにしがみついたりしている。いきなりの声に、心臓が止まりそうなほど驚いている者が多かった。
「渉てめぇ……! 何のつもりだよ、余興か……!」
「そう。それはさすがに違うかと……、って馬見塚さん……あの、いきなりはほんと……」
「黙れ友人。俺のそうちゃんの手を握る変態め……! 許さん」
途端颯一が驚き、慌てて友悠の手を離してきた。
「わ、マジごめん! 気づいてなかった……!」
自分が無意識にしたことが恥ずかしいのか、颯一は赤くなっている。死ぬほど驚かされた周りもそれを見て「かわいいヤツめ」「やっぱ怖いんじゃん」などとからかっている。ついでに渉にも「ほんと今のはマジ怖かったですから!」「何のサービスですか」などとツッコミを入れ始めた。
友悠はある意味ホッとしていた。死ぬほど驚かされたおかげで息子は荒ぶるのを止めたようだ。誰にもバレなくてよかったと思う反面、だが今自分をとんでもない表情で見てきている渉に対し、こんどは荒ぶる胃を押さえだした。
「ホラーってさ、一人で観る派と大勢で観る派てありそじゃね」
そう言いながら、誰かが大画面のテレビにDVDをセットしている。
少し前に部屋へ来た友人が「今からホラー観賞会しねぇ?」と誘ってきた。談話室は学年関係なしに利用できるがさほど広くはない。今も集まった皆はわりと密集していた。
「……何か男ばっかで密集とか暑苦しい……」
颯一がとてつもなく嫌そうに呟く。
「うるせーな、俺だってどうせお近づきになるならかわいい女の子とくっつきたいわ!」
別の友人が颯一をジロリと見、そしてニヤリと笑う。
「ホラーだからどうせビビってくっつくって! 絶対」
「は? 俺別にホラー平気だぞ」
颯一が怪訝そうに言うと別の友人が意外そうに見ている。
「マジで? 何か込谷てそういうのダメそうに見える」
「あー俺もそー思った」
「わかる」
「だよな」
「……何だよお前らどういう意味だよ? 口ぐちに言ってくんな」
ムッとして言い返す颯一の隣で、友悠は苦笑した。多分見た目だろうなと、ノンケである友悠でも一応わかる。大人しそうでかよわそうにも見える颯一が、ホラーを見て怖がる姿を想像するのは難くない。とはいえ現実では「ふざけんな」などと言いながら足で友人の背中を今もゲシゲシと蹴っているような性格ではあるが。
「男ばっかはムサイけどさー、あれじゃね。込谷て地味なくせに絶対化粧したら似合うと思うんだよな」
「は?」
「何だったら花添えるつもりで女装して観てくれてもいいのよ」
「ざけんな」
そんな会話しつつ、映画が始まると皆黙って画面を観だした。映画は少し古いものだったが、中々しっかりとした話の作りではあった。おどろおどろしいシーンなどが出ると、中には「うぉ」などと言って本気で驚いたり怖がったりしているヤツもいる。
その点颯一は自分で言ってたように平気みたいで、体を丸めることもなく何かを持ちながら怯えつつ観ることもなく、普通のドラマを観ているかのように画面に向いている。
友悠自身も別にホラー系は特に苦手でもないので、話に引き込まれつつ画面を見入っていた。
ただとあるシーンで登場人物が血まみれになると、颯一が急にギュッと隣にいた友悠の手を握ってきた。えっと思い颯一を見ると目を逸らせている。だが友悠の手を握っているのはどうも気づいていなさそうだった。なのでとりあえず友悠もそっとしておく。
そのまま放っておくと血まみれのシーンが終わり、その後はただ怖いだけの内容だったからか、颯一はまた普通に画面を観ている。自分でも気づいていないのだろうかな、と友悠はまた思った。
とはいえあえて言うのも何だしと思いつつ、自分の手を見おろす。無意識でつかんできたからだろうか、颯一はまだ友悠の手を握っていた。
男に握られるというのは正直気持ちいいものではない。だが自分よりも小さな手がぎゅっと握ってくるというのはかわいらしい。
……それが女の子なら。
友悠はふと考えてみる。颯一が女子だったらもしかしたらかわいかっただろうし、自分も友人ではなく別の意味で好きになったりしてただろうか。多分今の颯一を思うに、女子だったらきっとかわいい顔立ちだったかもしれないし、さほど小柄ではないものの、とても華奢な感じも悪くないような気がする。
性格は限りなく男前だが友悠自身、あまり女の子女の子しているよりは元気な子が好きだ。自分があまりワイワイ騒がないタイプだからだろうか、元気な女の子を見るとかわいいなと思う。あまり煩い子や口の悪い子はさすがに苦手だが、颯一くらいなら許容範囲だと思う。
そしてそんな元気で男前な性格で、ホラーなんかも全然平気で。なのに何か怖いものがあったからと無意識にキュッと友悠の手を握ってくる女子。
……かわいいな、それ。
そしてハッとなる。それでも今、自分の手を握っているのは間違いなく自分と同じものが生えている男であり、そして親友である。女の子だったらかわいいとして、颯一相手に何考えてと、友悠は自分に呆れた。あと自分の息子に対しても呆れる。
確かに映画に集中するため部屋を暗くしているので、はっきり顔は見えない。だからより自分の手に触れている人の手の感触がはっきり伝わってくる。
変な想像などしなければよかったと友悠は後悔した。いくら男に興味がない友悠でも、思春期の性少年だ。溜まるものは、溜まる。最近あまり抜いてないからなあと友悠は内心ため息ついた。
寮生活なのでさすがに堂々と抜けない。なので大抵の生徒は自室のトイレやシャワールームで抜くことが多い。友悠も普段そうしているのだが、嫌な言い方かもしれないがある意味、渉に気を取られて最近していない。さすがにないとわかってはいるのだが、トイレやシャワールームを渉に盗撮されていたらどうしようと考えてしまい、ヤル気になれないのだ。考え過ぎなのはわかっているが、性格なのでどうしようもない。
そしてそのせいで今、しなくていい主張を息子がしている。とりあえず映画が終わるまでに違うこと考えて沈めようとそっとため息ついた。ついでに颯一が手を離してくれたらいいなと思いつつ。
映画は佳境に入った。主人公の背後にゆっくりと忍び寄る呪われた霊。そして気づかない主人公。呪われた存在はさらに近づく。
ゆっくり、ゆっくり、と。
そして―
「貴様死ね……!」
「ひぃっ?」
「ギャアッ!」
「な、何事っ?」
途端誰かが部屋のスイッチを入れた。皆驚き怯え、青くなりつつ抱き合ったり何かにしがみついたりしている。いきなりの声に、心臓が止まりそうなほど驚いている者が多かった。
「渉てめぇ……! 何のつもりだよ、余興か……!」
「そう。それはさすがに違うかと……、って馬見塚さん……あの、いきなりはほんと……」
「黙れ友人。俺のそうちゃんの手を握る変態め……! 許さん」
途端颯一が驚き、慌てて友悠の手を離してきた。
「わ、マジごめん! 気づいてなかった……!」
自分が無意識にしたことが恥ずかしいのか、颯一は赤くなっている。死ぬほど驚かされた周りもそれを見て「かわいいヤツめ」「やっぱ怖いんじゃん」などとからかっている。ついでに渉にも「ほんと今のはマジ怖かったですから!」「何のサービスですか」などとツッコミを入れ始めた。
友悠はある意味ホッとしていた。死ぬほど驚かされたおかげで息子は荒ぶるのを止めたようだ。誰にもバレなくてよかったと思う反面、だが今自分をとんでもない表情で見てきている渉に対し、こんどは荒ぶる胃を押さえだした。
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