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戦々恐々な豹
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その日は颯一にとって散々な日だった。渉が変なこと言わないか冷や冷やしたし、少しでも妙なこと言った時に颯一が抗議すると親や兄に「口が悪い」と叱られる。
「んなこと言ったって……ていうかことごとく渉のせいじゃねーか」
夜は夜で父親とも楽しげに話をしている渉を、颯一はどこか恨めしげに見る。自分の父親や兄と何やら難しい話をしている渉が羨ましくもあり腹立たしくもあった。
ただ、やはり渉は何でもできるんだなと改めて思うし、それは羨ましいながらも感心する。何もしなくても整った顔やスタイルだけで生きていけそうなくらいだが、渉の知識が豊富だたり頭がいいのやスポーツができるのは、何もしていないからではないと颯一は知っている。もちろん勉強などしなくとも元々頭はいいのだろうが、渉は昔から日々勉強をしっかりしているし体も鍛えている。そういった努力を当然のようにするのが渉だった。
だからこそ今こうして三人で話している何やらビジネス的な会話もついて行けるのだろうと思われた。日々努力を怠っている颯一には時勢などほぼわからない。凄いなとは思う。
だからこそというか、本当に腹立たしい。
何でそんなに頭よくて真面目でしっかりしているくせに、俺に対してああなんだ?
元々仲がよかったし颯一自身、渉のことは好きだった。幼馴染として。
なのに何でああなんだ……?
渉が風呂へ入っている間に文字通り逃げるように自分の部屋へ引っ込みつつ、颯一はため息ついた。
だがその後で一人用にしては広いベッドに思い切り飛びこむ。数か月離れていただけだが、やはり自分の部屋は落ち着く。
寮の同居人は友悠だから特に不安になることも緊張することもましてや危惧することもないのだが、やはり一人で自由にできる、自分の部屋はいい。
颯一のそんな考えを聞いたら友悠は色んな意味で微妙な顔するだろう。今までとてつもなく自由気ままにしているようにしか見えなかったと思うだろう。そして今の友悠ならさらに申し訳なさそうに「危惧した方がいいよ」と思うだろう。
ただそんなことは知らない颯一は、とりあえずベッドに横になったまま伸びをした。直行したベッドしか見ていなかった颯一はそのままようやく部屋を見渡す。そして床にあるものを見て怪訝な顔をした。
……何で布団敷いてあるんだ。
嫌な予感がした途端「入るぞそうちゃん」という声とともに渉が部屋へ入って来た。その時の颯一の顔は一見の価値があったかもしれない。渉ですら「ぶふ」と少し吹き出していた。
「っおま、おま……」
「……? おまけ?」
「っ違う! 何でいきなり『おまけ』なんて叫ぶんだよ! お前何だよ、何の用だよ何で入ってきたんだよとりあえず出て行け!」
「おまけとは、と聞きそうになったよ。何の用というか休みに来たし、何で入ってきたのかというのも休みに来た、としか。だから出ていかないし、俺が何なのかという問いかけは、哲学的な何かか?」
「あああああくそ! ほんっともうああもう! だいたい何で俺がお前に哲学的な問いかけをいきなりするんだよ意味わかんねえだろうが……!」
颯一は真っ赤になって怒る。だが渉は少し怪訝な顔をしつつも淡々とした様子で、颯一のベッドの傍に置かれている布団へ近づいた。
「こっち来んな! ていうか休みにって……まさかここで寝るのか?」
颯一は今度は青くなりながら壁にそっとへばりついた。渉はますます怪訝そうな顔をしながら「そうだが」と頷いてくる。
「そうだが、じゃねえよ。何だよ部屋なら他に一杯あるだろ? 何でわざわざここで寝んだよ……」
「布団を用意してくれたのはおばさんだし、おばさん曰く久しぶりに家でそうちゃんとゆっくり話をすればいいとのことで、多分配慮してくれた上での好意だと思うんだが」
「……っく」
余計なことを、と颯一は自分の母親に呪った。ここで渉をむりやり追い出しても、母親に直接抗議に行っても、叱られるのは自分だということぐらいはわかる。
「幼馴染を追いだすなんて」
「一緒にいたくないなんてどういうことなの?」
そんな風に言われ言葉に窮す自分しか見えない。
「な、何も、何もすんなよ……!」
「何を言ってるんだそうちゃん。俺を見損なうな。大切な俺の将来の嫁に対して結婚もしていないのに手、出すわけないだろう?」
「っその言い方がもうすでにおかしいと気づけよ……!」
颯一がツッコミをいれるも、渉は「おかしなそうちゃんだな」などと言いながら部屋の入り口へ向かった。
「電気消すぞ」
渉はスイッチを消した後、敷いてある布団へ入り横になる。
「懐かしいな、昔はよくこうして眠った。楽しかったな」
穏やかにそう呟く渉はどこか少し笑っているような気がして、颯一もふと懐かしい思いが込み上げた。
「おやすみ……そうちゃん」
渉は囁くように言うと、その後は黙ってしまった。颯一は首を振って布団へもぐりこむ。
いくら幼馴染でも、懐かしくても、ここにいるのはあの変態だ。いつも抱きついてきたり変なことしか言ってこないというのに、この二人きりの真っ暗な部屋の中、颯一に何もしないなんて保証どこにあるというのか。
そして優しい日差しに包まれ、雀の鳴く声が聞こえてくる今、颯一は頭を抱えていた。
一晩中、うつらうつらしながらも「何かされるんじゃ」と戦々恐々としていた。だが何もなかった。渉は「おやすみ」と言うと本当に礼儀正しく静かに眠っていた。
その事実を朝になりようやく噛みしめ、颯一はポカンとした後で頭を抱えていた。
キモイ、俺がマジキモイ……! 何なの俺。ひたすらハラハラしてちゃんと眠れてないとか。まるでいっそ期待しているみたいで嫌過ぎる……!
密かに布団の中でのたうっていると「……どうかしたのか、そうちゃん」と声がした。ハッとなり布団から顔を出すと、怪訝な表情をした渉が枕元を覗きこんでいる。
「な、何でもない……!」
言えるか。
言い返した顔は恥ずかしさと布団に籠っていたせいで真っ赤だった。
「ああそうちゃん。そんな顔で見ないでくれ。俺も男だ、自制にも限度がある。本当は今すぐにでもそうちゃんを抱いてあげたいけれども、結婚してからじゃないとな。これで我慢してくれ」
「は?」
何をと颯一がポカンとして見上げると、渉が颯一の額に軽くキスをしてきた。
「な……」
「おでこは物足りないか? でも唇にはさすがにな」
渉は何を勘違いしたのかそう言うと、今度は頬にちゅっとキスしてくる。
「っおま! 何しやがる……! だいたい俺は何もそんなこと!」
いや、何かされるかもと戦々恐々とはしていたけれども! だけど期待していたのではなく!
「っていうか唇にはとか言いながらなんでデコや頬は平気なんだよ」
「額や頬は親愛の証だしな。だが唇は最愛の人にするものだし、もちろん今でも最愛の人ではあるけれどもまだ早いだろ」
「……あ、……っほんっとお前は……お前は……! いい加減にしろよ……何かもうやっぱおかしいんだよ変態! 馬鹿! 死ね!」
颯一はまた真っ赤になって怒る。内心、だんだん今の渉に慣れているような気がする自分がさらにキモいと思っていた。
「んなこと言ったって……ていうかことごとく渉のせいじゃねーか」
夜は夜で父親とも楽しげに話をしている渉を、颯一はどこか恨めしげに見る。自分の父親や兄と何やら難しい話をしている渉が羨ましくもあり腹立たしくもあった。
ただ、やはり渉は何でもできるんだなと改めて思うし、それは羨ましいながらも感心する。何もしなくても整った顔やスタイルだけで生きていけそうなくらいだが、渉の知識が豊富だたり頭がいいのやスポーツができるのは、何もしていないからではないと颯一は知っている。もちろん勉強などしなくとも元々頭はいいのだろうが、渉は昔から日々勉強をしっかりしているし体も鍛えている。そういった努力を当然のようにするのが渉だった。
だからこそ今こうして三人で話している何やらビジネス的な会話もついて行けるのだろうと思われた。日々努力を怠っている颯一には時勢などほぼわからない。凄いなとは思う。
だからこそというか、本当に腹立たしい。
何でそんなに頭よくて真面目でしっかりしているくせに、俺に対してああなんだ?
元々仲がよかったし颯一自身、渉のことは好きだった。幼馴染として。
なのに何でああなんだ……?
渉が風呂へ入っている間に文字通り逃げるように自分の部屋へ引っ込みつつ、颯一はため息ついた。
だがその後で一人用にしては広いベッドに思い切り飛びこむ。数か月離れていただけだが、やはり自分の部屋は落ち着く。
寮の同居人は友悠だから特に不安になることも緊張することもましてや危惧することもないのだが、やはり一人で自由にできる、自分の部屋はいい。
颯一のそんな考えを聞いたら友悠は色んな意味で微妙な顔するだろう。今までとてつもなく自由気ままにしているようにしか見えなかったと思うだろう。そして今の友悠ならさらに申し訳なさそうに「危惧した方がいいよ」と思うだろう。
ただそんなことは知らない颯一は、とりあえずベッドに横になったまま伸びをした。直行したベッドしか見ていなかった颯一はそのままようやく部屋を見渡す。そして床にあるものを見て怪訝な顔をした。
……何で布団敷いてあるんだ。
嫌な予感がした途端「入るぞそうちゃん」という声とともに渉が部屋へ入って来た。その時の颯一の顔は一見の価値があったかもしれない。渉ですら「ぶふ」と少し吹き出していた。
「っおま、おま……」
「……? おまけ?」
「っ違う! 何でいきなり『おまけ』なんて叫ぶんだよ! お前何だよ、何の用だよ何で入ってきたんだよとりあえず出て行け!」
「おまけとは、と聞きそうになったよ。何の用というか休みに来たし、何で入ってきたのかというのも休みに来た、としか。だから出ていかないし、俺が何なのかという問いかけは、哲学的な何かか?」
「あああああくそ! ほんっともうああもう! だいたい何で俺がお前に哲学的な問いかけをいきなりするんだよ意味わかんねえだろうが……!」
颯一は真っ赤になって怒る。だが渉は少し怪訝な顔をしつつも淡々とした様子で、颯一のベッドの傍に置かれている布団へ近づいた。
「こっち来んな! ていうか休みにって……まさかここで寝るのか?」
颯一は今度は青くなりながら壁にそっとへばりついた。渉はますます怪訝そうな顔をしながら「そうだが」と頷いてくる。
「そうだが、じゃねえよ。何だよ部屋なら他に一杯あるだろ? 何でわざわざここで寝んだよ……」
「布団を用意してくれたのはおばさんだし、おばさん曰く久しぶりに家でそうちゃんとゆっくり話をすればいいとのことで、多分配慮してくれた上での好意だと思うんだが」
「……っく」
余計なことを、と颯一は自分の母親に呪った。ここで渉をむりやり追い出しても、母親に直接抗議に行っても、叱られるのは自分だということぐらいはわかる。
「幼馴染を追いだすなんて」
「一緒にいたくないなんてどういうことなの?」
そんな風に言われ言葉に窮す自分しか見えない。
「な、何も、何もすんなよ……!」
「何を言ってるんだそうちゃん。俺を見損なうな。大切な俺の将来の嫁に対して結婚もしていないのに手、出すわけないだろう?」
「っその言い方がもうすでにおかしいと気づけよ……!」
颯一がツッコミをいれるも、渉は「おかしなそうちゃんだな」などと言いながら部屋の入り口へ向かった。
「電気消すぞ」
渉はスイッチを消した後、敷いてある布団へ入り横になる。
「懐かしいな、昔はよくこうして眠った。楽しかったな」
穏やかにそう呟く渉はどこか少し笑っているような気がして、颯一もふと懐かしい思いが込み上げた。
「おやすみ……そうちゃん」
渉は囁くように言うと、その後は黙ってしまった。颯一は首を振って布団へもぐりこむ。
いくら幼馴染でも、懐かしくても、ここにいるのはあの変態だ。いつも抱きついてきたり変なことしか言ってこないというのに、この二人きりの真っ暗な部屋の中、颯一に何もしないなんて保証どこにあるというのか。
そして優しい日差しに包まれ、雀の鳴く声が聞こえてくる今、颯一は頭を抱えていた。
一晩中、うつらうつらしながらも「何かされるんじゃ」と戦々恐々としていた。だが何もなかった。渉は「おやすみ」と言うと本当に礼儀正しく静かに眠っていた。
その事実を朝になりようやく噛みしめ、颯一はポカンとした後で頭を抱えていた。
キモイ、俺がマジキモイ……! 何なの俺。ひたすらハラハラしてちゃんと眠れてないとか。まるでいっそ期待しているみたいで嫌過ぎる……!
密かに布団の中でのたうっていると「……どうかしたのか、そうちゃん」と声がした。ハッとなり布団から顔を出すと、怪訝な表情をした渉が枕元を覗きこんでいる。
「な、何でもない……!」
言えるか。
言い返した顔は恥ずかしさと布団に籠っていたせいで真っ赤だった。
「ああそうちゃん。そんな顔で見ないでくれ。俺も男だ、自制にも限度がある。本当は今すぐにでもそうちゃんを抱いてあげたいけれども、結婚してからじゃないとな。これで我慢してくれ」
「は?」
何をと颯一がポカンとして見上げると、渉が颯一の額に軽くキスをしてきた。
「な……」
「おでこは物足りないか? でも唇にはさすがにな」
渉は何を勘違いしたのかそう言うと、今度は頬にちゅっとキスしてくる。
「っおま! 何しやがる……! だいたい俺は何もそんなこと!」
いや、何かされるかもと戦々恐々とはしていたけれども! だけど期待していたのではなく!
「っていうか唇にはとか言いながらなんでデコや頬は平気なんだよ」
「額や頬は親愛の証だしな。だが唇は最愛の人にするものだし、もちろん今でも最愛の人ではあるけれどもまだ早いだろ」
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