虎と豹とキリン

Guidepost

文字の大きさ
21 / 44

悶々とするキリン

しおりを挟む
 親友に赤くなってしまうだけでなく、上半身裸になっている颯一をまともに見ることすら困難になった。

「俺、もう……そうに顔向けできない……」

 友悠は真剣に悩んでいた。この休みに颯一を追いだすように家へ帰らせたのも、傍になるべくいたくないからだ。
 いや、いたくないというのは語弊がある。いたい。傍にいたいし、颯一が楽しそうに笑っている顔を見たい。
 それだけならまだいいが、友悠の本能がもっと違うものをさらに求めようとしてしまう。同じクラスというだけならそこまで考えないようなことすら、こうして同じ部屋で過ごしていると考えてしまう。
 ノンケでしかも未だにいまいち男子高の寮に慣れ切っていないせいか、颯一は無防備だ。廊下へ出ればもう少し警戒するのかもしれないが、友悠を信頼し友人と思ってくれているからだろう。
 もちろん今までなら友悠もそれで何ら問題はなかった。だからなおのこと顔向けできない。
 朝ぼんやりと服を脱ぎ散らかし裸になる颯一。
 夜洗面所で脱ぎ着しても、何かあれば平気で上半身裸で出てくる颯一。下だって下手すれば下着だけやタオル一枚だったりする。
 そして最近暑くなってきたからか、エアコンをかけていても布団を跳ねのけお腹を丸出しにして気持ちよさげに眠っている颯一。
 これらは別に友悠が何とも思っていなかった頃には全く気にならなかった。でも今はある意味苦痛でしかない。
 あの華奢な体をギュッと抱きしめたらどんな気分になるだろうか。
 あの健康そうな肌に手を這わすとどんな手触りなのだろうか。どんな反応が返ってくるのだろうか。
 そしてあの唇にキスをしたら。下腹部に触れたら。
 颯一はキスすら、まともにしたことない。小さな女の子と、そして渉とも掠める程度の事故。そんな颯一にちゃんとしたキスしたら、どんな風になるのだろうか。

「……俺こそ変態だ……」

 渉が「そうちゃん、そうちゃん」とやってくる度に「死ね、変態」とドン引きしている颯一を思い出す。自分が考えていることを知れば颯一は、と思うと切ない。バレてはいけないと思い、そしてそう思うからこそ同じ部屋にいるのが苦痛になる。嬉しいのに苦痛。
 今、颯一は家に帰っている。渉も後をついていったらしい。他の寮生が「馬見塚先輩ほんっと好きだよな、込谷のこと」と言っていた。
 渉の行動は確かに色々普通ではないが、それでもやっていることはある意味正しい。あからさまに颯一を好きだと言ってまとわりつくことで、まず他の生徒から守っている。
 ここの生徒は皆いい人ばかりという訳ではない。余所の学校でもそうだろうが、どこにでもどうしようもないタイプはいる。その上男ばかりでの生活の中はびこる嗜好は少し行き過ぎな行動すら生み出す。男相手ならある程度何をしても大丈夫では、という考えを持っている生徒は少なくない。
 もちろん無理やりの行為が明らかになれば停学や退学といった処分が待っている。とはいえ襲われた側がそれを告発するのは思っている以上に少ない。男としてのプライドや、学校中にバレることで他の輩にも標的にされたり揶揄されるのを恐れるからだろう。
 そういったこともあり、襲われやすいタイプの生徒は早々に特定の自分を守ってくれる相手や恋人を作ったりも多かった。
 颯一も本人は未だに自覚はあまりないようだが、比較的襲われやすいタイプだ。外部生というのも大きな理由だが、一見大人しそうで普通タイプの颯一はよく見れば笑った表情が結構かわいい。女装しても違和感のなさそうな顔立ちは中学の頃女子にモテなかったかもしれないが、残念ながらこの高校では歓迎される。
 性格がかなり男前なので対象外とする輩もいるが、友悠も把握しているように颯一は所々かわいらしい。本人は理解できないそうだが、そのため今でも狙っている生徒はいる。
 そんな中、色んな意味で有名な渉が「俺の嫁」と宣言し傍にいることでかなり颯一は安全な立ち位置にあるのだ。よくないこと企む輩の気を削ぐし、今後颯一を本当に好きになるかもしれない相手への大きな牽制にもなる。
 そう、牽制にも。

「はあ……」

 今は二人きりで帰っているのだろうか。二人でどこかに遊びに行ったりとかもするだろうか。

 ……いや、多分颯一がそんな気にはならないだろうけども……。

 渉がライバルとかもう胃潰瘍になるしかない。色々大変そうだしつらい。変なところに対抗するのもつらいが、渉は何だかんだ言えども颯一を本当に大切にしているのがわかるだけに余計だ。
 友悠が颯一を変な目で見るようになってしまったせいでよくわかるのだが、颯一は本当に危なっかしい。でもそれを渉は上手く支えている。

 ……あんなだけど。

 この間も暑くなってきたせいか、颯一は制服のシャツのボタンをかなり開けて着ていた。それは他の男子もするので一見おかしくはない。下手したら上半身裸で授業を受け、先生に立たされている間抜けな生徒もいるくらいだ。
 だが颯一がそれをするのはまったくもって、いけない。幸いクラスメイトにあまり颯一を変な目で見る生徒がいないのでまだいいが、廊下を歩くとよくない。共学で女子が前のボタンを大きく開けて男子の前を歩いているようなものだと、本当に誰か勇気のあるものが言い聞かせて欲しいと友悠や他のクラスメイトが思っていると、そこへ渉が来た。
 ちなみに勇気と言ったのは、誰かがそれを言おうものなら颯一に心底ドン引きされた挙句下手すれば手か足による暴力が待っているからだ。

「そうちゃん、何て制服の着方してるんだ!」

 渉は目ざとく颯一のシャツに目をやると、慌ててシャツをつかみ、ボタンを止めようとしてきた。

「は? ちょ、おま……っ、勝手に触んな変態!」
「酷いなそうちゃん。俺はただ、制服はちゃんと着てと言っているだけだ。俺が模範だ。俺のように一寸の隙もなくだな」
「うるさい馬鹿、とにかく勝手に触んな。あとお前が真面目すぎんのはわかったけど、暑いんだよ。他の奴らだって適当に着てんだろ」
「……わかってないな、そうちゃん。そうしてボタンをせずはだけさせることによってだな、鎖骨や見えそうで見えない胸元に目がいくだろうが!」
「……お前マジ、マジキモい! キモい! もうやだほんっとキモい!」

 案の定ドン引きしながらも、颯一は慌ててシャツのボタンを留め始めた。途端、一部の邪な生徒以外のクラス一同が内心「先輩、グッジョブ……!」と心の中で思っていた。そして「お疲れ様……!」とも。
 颯一の身は守られたかもしれないが、颯一から見た渉の評価がまた下がったのが簡単に見てとれたからだ。
 自分の体を張ってまで颯一を守る渉が凄いと友悠も思っている。あまりにも斜め上でいて、そしてとてつもなく大切に颯一を思っているのであろう渉とライバルになるというのは多分友悠でなくても気が重いだろう。

 ……しかも、あんなあからさまに思いぶつけるわりに、意志は本当に固いんだよな。

 何となく渉なら、颯一と同じ部屋で生活していても手を出さないような気が友悠はしていた。口では散々好きだと言っていても、きっと手を出さない。初夜云々と言っているのは冗談ではないだろう。いつか本当に颯一と相思相愛になって人生を共にする気で、その時に初めてと本気で考えていそうな気が、友悠にはしていた。
 だが友悠は無理だ。これ以上朝も夜も傍にいて無防備な颯一を見ていたら、多分耐えられなくなって何か酷いことしてしまいそうだ。

「……山本先輩も家に帰らずにいるかな……。相談、しに行ってもいいかな……」

 友悠はポツリと独り言を漏らした。憧れすらある晃二に「結局ルームメイトを好きになってしまいました」と打ち明けるのはかなり恥ずかしいしつらい。でもこれ以上一人で悶々としているのは、もっとつらかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

処理中です...