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123話
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「え……?」
ポカンとしていると、秋星は切なそうな顔で邦一を見た後に今度は腸が煮えくり返りそうだというのにそれを留めているかのような複雑な表情で臨太郎を見ている。複雑そうでありながら邦一でもすぐに読み取れる表情の秋星はレアかもしれないと、とんでもないことを言われたにも関わらず邦一はぼんやり思う。いつも一見表情は豊かな感じでありながら邦一からしたら仮面でも付けているかのような秋星の、今の表情は本物に見えた。
……臨太郎相当腹立てられてるけど何したんだよお前……。
微妙な顔になりつつ、自分はもっと気にすることがあるだろうと邦一は意識を自分に戻した。
『人間ではなくなった』
俺は今、人間じゃないってことか?
そのわりに目が覚めてからもずっと体はガタガタだ。秋星のように一瞬のうちに治ったりしていない。
……あ、でも臨太郎は包帯巻いてるし治らんって言ってるよな。魔物でも体質とかあんのか。それとも魔物が魔物にやられると治りにくいのか。いやでも秋星は相性が悪いって言ったのと、そもそもあの男にやられた時は俺、人間だった。そういえば秋星、臨太郎に対して力の差がどうこう言っていた気がする。あの野良ヴァンパイアと俺だと俺が弱すぎるから治らないとかか……?
「クニ……ぶつぶつ言うんはええけどな、気にするとこそこなんか……」
秋星が微妙な顔をして呆れている。
「え、また俺、声に出てたのか? いやだって俺、魔物って感じしない……ってまさか、魔物じゃなくて幽霊とかっ?」
ハッとなり、つい大きめの声が出た。おかげで体が痛い。
「……何でやねん。おじさんたちとも普通に喋っとったやろお前。……さすがクニというか……。……なぁ、そん時のこと、思い出したいか? それともうやむやのほうがええか?」
秋星が聞いてきたことに邦一はほんの少し驚いた。小さな頃の記憶は邦一が無くしているのをいいことに隠そうとさえしていたというのに、と思ってしまう。
「そ、そりゃ思い出せるなら……」
「……そぉか。……俺もその場は見てへんからな、チャラ猫に説明させよぉかと思ってたけど……、なぁクニ。お前の脳、ちょっと刺激させてえぇか」
脳を?
そう言われて邦一の脳裏に、あの男が自分の言語を理解できるようにするために魔力を使ってきた時のことが浮かんだ。
「それって頭、鈍器かなにかでかち割られるような感じなのか?」
「いや、何でやねん。どっから出てきてん。だいたい俺がお前にそんな思いさせる、思ってんか」
「そ、そうだよな。いや、あの男に無理やりあいつの言葉、わかるようにさせられて。そん時、頭かなり痛かったからさ……」
「何やてっ? あのクソボケ、そんなこともしとったんか……やっぱり俺が……、……」
「俺が、何」
「何でもない」
そういえばあの男はどうなったのかも聞いていない。囚われていたであろう女性たちがどうなったかも聞いていない。もしかしたら今のように何らかの拍子で魔物になった経緯も思い出すかもしれない。だが秋星を見ていると何となくさっさと思い出すほうがいいように思えた。それからあの男のことや諸々についてゆっくり把握していけばいいかもしれない。
「秋星、俺、思い出したい。刺激っての、やってくれ」
「わかった」
「なぁ、俺、いる意味あんの?」
秋星が頷き、手を邦一へ伸ばそうとした時に臨太郎がおずおずと秋星を見ながら言ってきた。
「そうだよな、怪我もまだ酷そうだし、別に……」
「ええからそこにおっとけチャラ猫。後で意味出てくるわ」
イライラと秋星に言われ「はい」とあの好き勝手に生きてそうな臨太郎が萎縮しながら答えていた。
……そういえば純血怖いとか言ってたしな……。
その上怪我もさせられたならなおさらだろうと邦一は同情した。
秋星がスッと手を伸ばし、邦一の額にほんの少し指先を触れさせる。
「……魔方陣みたいなの、浮かぶ?」
「これくらいの力、俺はそんなんせんでも問題ない」
淡々と言ってのけると、実際呪文すら唱えずに一言、何やら呟いただけだった。だが邦一の頭の奥で、白く光るようなものが浮かんだかと思いきや、気づけばあの時のことを思い出していた。頭痛どころかむしろ心地よささえ感じた。
そういえば秋星はいつも俺に気持ちのいいことしかしない……。
例の男がほぼ痛みしか与えてこなかったことを思うと改めて実感する。あの男は快楽を与えてくる時ですら、暴力だとしか思えなかった。あの男よりもはるかに力が強いであろう秋星だが、例え吸血行為に及ぼうとも欲の衝動を抑えて昔からずっと邦一を大切に扱ってきてくれたのだなと胸が熱くなる。
あと、こんなに簡単にできるのに子どもの時起きたことを隠してきたのは、やはり邦一のことを思ってなのかもしれない。
それにしても、と邦一は自分の包帯まみれの手を見た。思い出したというのにやはり実感がない。本当にあれで自分は魔物になったのだろうかと疑問でしかない。
もちろん、あんなボロボロになったというのにこうして生きている時点で、間違いなく人間の治癒力や生きる力の範疇を越えているのはわかる。むしろあの状態でまだ虫の息だろうが死んでいなかったことに我ながら驚くくらいだ。
「クニ、思い出したか?」
秋星が気がかりそうに聞いてきた。
「……うん。何で秋星が臨太郎に複雑そうな気持ちを抱えているのかわかった」
恐らく生死の狭間にいた時に見た夢であろう内容も思い出した。夢の中では自分で魔物となったことを思い出していたというのに、目覚めてからは完全に忘れていた。
ポカンとしていると、秋星は切なそうな顔で邦一を見た後に今度は腸が煮えくり返りそうだというのにそれを留めているかのような複雑な表情で臨太郎を見ている。複雑そうでありながら邦一でもすぐに読み取れる表情の秋星はレアかもしれないと、とんでもないことを言われたにも関わらず邦一はぼんやり思う。いつも一見表情は豊かな感じでありながら邦一からしたら仮面でも付けているかのような秋星の、今の表情は本物に見えた。
……臨太郎相当腹立てられてるけど何したんだよお前……。
微妙な顔になりつつ、自分はもっと気にすることがあるだろうと邦一は意識を自分に戻した。
『人間ではなくなった』
俺は今、人間じゃないってことか?
そのわりに目が覚めてからもずっと体はガタガタだ。秋星のように一瞬のうちに治ったりしていない。
……あ、でも臨太郎は包帯巻いてるし治らんって言ってるよな。魔物でも体質とかあんのか。それとも魔物が魔物にやられると治りにくいのか。いやでも秋星は相性が悪いって言ったのと、そもそもあの男にやられた時は俺、人間だった。そういえば秋星、臨太郎に対して力の差がどうこう言っていた気がする。あの野良ヴァンパイアと俺だと俺が弱すぎるから治らないとかか……?
「クニ……ぶつぶつ言うんはええけどな、気にするとこそこなんか……」
秋星が微妙な顔をして呆れている。
「え、また俺、声に出てたのか? いやだって俺、魔物って感じしない……ってまさか、魔物じゃなくて幽霊とかっ?」
ハッとなり、つい大きめの声が出た。おかげで体が痛い。
「……何でやねん。おじさんたちとも普通に喋っとったやろお前。……さすがクニというか……。……なぁ、そん時のこと、思い出したいか? それともうやむやのほうがええか?」
秋星が聞いてきたことに邦一はほんの少し驚いた。小さな頃の記憶は邦一が無くしているのをいいことに隠そうとさえしていたというのに、と思ってしまう。
「そ、そりゃ思い出せるなら……」
「……そぉか。……俺もその場は見てへんからな、チャラ猫に説明させよぉかと思ってたけど……、なぁクニ。お前の脳、ちょっと刺激させてえぇか」
脳を?
そう言われて邦一の脳裏に、あの男が自分の言語を理解できるようにするために魔力を使ってきた時のことが浮かんだ。
「それって頭、鈍器かなにかでかち割られるような感じなのか?」
「いや、何でやねん。どっから出てきてん。だいたい俺がお前にそんな思いさせる、思ってんか」
「そ、そうだよな。いや、あの男に無理やりあいつの言葉、わかるようにさせられて。そん時、頭かなり痛かったからさ……」
「何やてっ? あのクソボケ、そんなこともしとったんか……やっぱり俺が……、……」
「俺が、何」
「何でもない」
そういえばあの男はどうなったのかも聞いていない。囚われていたであろう女性たちがどうなったかも聞いていない。もしかしたら今のように何らかの拍子で魔物になった経緯も思い出すかもしれない。だが秋星を見ていると何となくさっさと思い出すほうがいいように思えた。それからあの男のことや諸々についてゆっくり把握していけばいいかもしれない。
「秋星、俺、思い出したい。刺激っての、やってくれ」
「わかった」
「なぁ、俺、いる意味あんの?」
秋星が頷き、手を邦一へ伸ばそうとした時に臨太郎がおずおずと秋星を見ながら言ってきた。
「そうだよな、怪我もまだ酷そうだし、別に……」
「ええからそこにおっとけチャラ猫。後で意味出てくるわ」
イライラと秋星に言われ「はい」とあの好き勝手に生きてそうな臨太郎が萎縮しながら答えていた。
……そういえば純血怖いとか言ってたしな……。
その上怪我もさせられたならなおさらだろうと邦一は同情した。
秋星がスッと手を伸ばし、邦一の額にほんの少し指先を触れさせる。
「……魔方陣みたいなの、浮かぶ?」
「これくらいの力、俺はそんなんせんでも問題ない」
淡々と言ってのけると、実際呪文すら唱えずに一言、何やら呟いただけだった。だが邦一の頭の奥で、白く光るようなものが浮かんだかと思いきや、気づけばあの時のことを思い出していた。頭痛どころかむしろ心地よささえ感じた。
そういえば秋星はいつも俺に気持ちのいいことしかしない……。
例の男がほぼ痛みしか与えてこなかったことを思うと改めて実感する。あの男は快楽を与えてくる時ですら、暴力だとしか思えなかった。あの男よりもはるかに力が強いであろう秋星だが、例え吸血行為に及ぼうとも欲の衝動を抑えて昔からずっと邦一を大切に扱ってきてくれたのだなと胸が熱くなる。
あと、こんなに簡単にできるのに子どもの時起きたことを隠してきたのは、やはり邦一のことを思ってなのかもしれない。
それにしても、と邦一は自分の包帯まみれの手を見た。思い出したというのにやはり実感がない。本当にあれで自分は魔物になったのだろうかと疑問でしかない。
もちろん、あんなボロボロになったというのにこうして生きている時点で、間違いなく人間の治癒力や生きる力の範疇を越えているのはわかる。むしろあの状態でまだ虫の息だろうが死んでいなかったことに我ながら驚くくらいだ。
「クニ、思い出したか?」
秋星が気がかりそうに聞いてきた。
「……うん。何で秋星が臨太郎に複雑そうな気持ちを抱えているのかわかった」
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