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122話
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──ニ……。
……。
……ニ。
「……ぅ……」
……クニ──
秋星……?
「……ックニ……!」
何かよく分からない不思議な夢を見ていた気がする。そしてずっと呼ばれていた気がする。その声は秋星の声だと、無意識の内に分かった。思わず邦一は薄らと目を開けていたのか、ぼんやりと秋星の顔を見ていた。
いつも飄々としている秋星が、普段から青白い顔色を更にとてつもなく青白くしている。
「……しゅ……」
「クニ……、クニ、気づいたんか? クニ……、クニ……!」
お前は誰だと思わず言いたくなるくらい、秋星が取り乱している。だがその秋星が泣きそうな顔になったのに気づいた邦一は「大丈夫だ」と声をかけようとした。
だが実際に出た声は酷いものだったし、身動ぎしたとたん、あまりの気持ち悪さに吐きそうだった。
「気持ち悪いんか……? 俺の手に吐くか?」
本当にお前は誰だよ。
そう思いつつもじわじわと自分の状況を思い出し、邦一はとてつもなく秋星を愛しい気持ちが湧いてくる。ものすごく気持ちが悪いが、構わずに何とか手を伸ばした。
……ちゃんと五本の指がついてる……。
皮膚が無事かは包帯のせいで分からないけどもと思いながら、まだ取り乱している様子の秋星を横たわっている自分へ引き寄せた。いつ何時、何があるか分からない。だからせめて後悔のないよう、できることはしないとと邦一は何とか出ない声を振り絞り囁いた。
「……秋星……また会えて……よかった……愛してる……」
確か捕まっている間も、泣くはずがないと思いながらも秋星が泣かないようとずっと願っていた。なのに結局泣かせてしまった。堰を切ったかのように泣き出した秋星を、だが邦一はやはり愛しく思い、あやすようにしながら何とか抱きしめた。
その後、また邦一は意識を失ったようだ。次に目が覚めると柳もいて静かに頭を撫でてくれた。それが気持ちいいからか、また眠るように意識が飛びかける。何とかその意識を保とうとしていると「目覚める度によくなっていくから、安心して眠りなさい」と優しく言われた。邦一はホッとして意識を手放した。
夢の中で、秋星が誰かを今にも殺そうとしている姿を邦一は見ていた。相手は人間だった。
何故そういう状況になったかはわかっている。その人間が邦一を刺したからだ。わかっているのに、夢の中の邦一は小さな子どもだからか怯えていた。人の姿をしていない秋星が怖いのではない。刺される前も誘拐されたことに怯えてはいたが、体を縛られ動けないことと自分が多分このまま死んでしまうこと、何よりその後秋星がどうなってしまうかわからないことが怖かった。
そしてシルバーの髪に赤ではなく金色の目をした秋星がそれこそあまりにも怖いほどに美しかった。赤い花が咲き乱れる中で赤と混じり合いながらも染まらない、凛と咲く白い花のようだった。
次に目が覚めると両親が邦一を見ていた。
「……ごめ……」
邦一が両親に、我が子が死ぬかもしれないと思わせたのが既に二度目なのだと改めて気づいた。申し訳なさに心が痛い。心配をかけてごめんと謝りたかったが、まだあまり声が出ないようだった。目を覚ました邦一を見て母親が泣きじゃくっている気がするが、父親が「お前がここにいてくれて本当に良かった」と穏やかな声で言ってくれて、また安心して意識を手放す。
柳が言っていたように一応覚醒する度に少しずつ元気になっている気がしていた。
見ていた夢を脳内で反芻しながら、そういえば……、と今回秋星が助けに来てくれた時もまるで白昼夢のように昔の記憶がフラッシュバックしたことも、断片的に思い出す。だが秋星に過去の事件を思い出したことを告げるのはまた改めようと思った。邦一に今まで思い出させようとしなかったのは、思い出して欲しくなかったからだろう。あの背中の傷も、秋星とついでに母親は誤魔化してきたがあの時にできたものなのだなとわかった。
今、思い出したことを告げるとただでさえまだ邦一を何とも言えない目で見てくる秋星がまた泣いてしまうのではないかと、考え過ぎかもしれないが思ってしまう。もう少し元気になってから言えばいいと邦一は考えた。
数日後、そこそこ普通に話せるようになり、そろそろ寝返りも自分でできそうだと思っていると、秋星が誰かと一緒に入ってきた。あの秋星が誰かとやって来るとは珍しいと邦一は内心思う。
「あんま煩くしなや」
秋星が忌々しそうにその誰かを促している。
「……え、っと……臨太郎……?」
邦一は忘れっぽいほうではない。少し疑問系になったのは忘れていたからではないし、怪我が酷い邦一があの時のことはショックなどもあってまだあやふやになっているが、他の記憶に障害が出たからでもない。
臨太郎の顔半分が包帯に隠れているからだ。
「お兄さん、元気?」
「いや……あまり元気とは言いがたい、けどアンタこそ元気……?」
「いや、結構キッツい」
「お前が悪いんやろ」
「どうかしたのか?」
邦一が秋星に聞くと「この純血のお兄さんにぼこぼこにされた」と臨太郎が答えてきた。
「普通ならもっと早く治るんだけどさー、この純血のお兄さんに受けた傷は全然治らないんだよね、呪いでも込められてんのかな」
「お前のためなんかに使う魔力はないけどな、込められるなら込めるわ。魔物同士やと相性悪かったらそぉなることくらい、お前でも知ってるやろ。それに俺の力とお前の力、比べもんにならんしな」
「……は? えっと、何で秋星が……」
「当たり前や。クニに対する役にたたへん注意も大概やけどな、……クニをこんなにしてもぉて……」
「え、っと、犯人は臨太郎じゃない、けど……」
あの時のことはまだ少し混乱して記憶があやふやとはいえ、さすがにそこは間違えようがない。
すると秋星がまた何とも言えない目で邦一を見てきた。
「……クニ……覚えてへんかもしれんけどな……お前、……もう……人間やなくなったんや」
……。
……ニ。
「……ぅ……」
……クニ──
秋星……?
「……ックニ……!」
何かよく分からない不思議な夢を見ていた気がする。そしてずっと呼ばれていた気がする。その声は秋星の声だと、無意識の内に分かった。思わず邦一は薄らと目を開けていたのか、ぼんやりと秋星の顔を見ていた。
いつも飄々としている秋星が、普段から青白い顔色を更にとてつもなく青白くしている。
「……しゅ……」
「クニ……、クニ、気づいたんか? クニ……、クニ……!」
お前は誰だと思わず言いたくなるくらい、秋星が取り乱している。だがその秋星が泣きそうな顔になったのに気づいた邦一は「大丈夫だ」と声をかけようとした。
だが実際に出た声は酷いものだったし、身動ぎしたとたん、あまりの気持ち悪さに吐きそうだった。
「気持ち悪いんか……? 俺の手に吐くか?」
本当にお前は誰だよ。
そう思いつつもじわじわと自分の状況を思い出し、邦一はとてつもなく秋星を愛しい気持ちが湧いてくる。ものすごく気持ちが悪いが、構わずに何とか手を伸ばした。
……ちゃんと五本の指がついてる……。
皮膚が無事かは包帯のせいで分からないけどもと思いながら、まだ取り乱している様子の秋星を横たわっている自分へ引き寄せた。いつ何時、何があるか分からない。だからせめて後悔のないよう、できることはしないとと邦一は何とか出ない声を振り絞り囁いた。
「……秋星……また会えて……よかった……愛してる……」
確か捕まっている間も、泣くはずがないと思いながらも秋星が泣かないようとずっと願っていた。なのに結局泣かせてしまった。堰を切ったかのように泣き出した秋星を、だが邦一はやはり愛しく思い、あやすようにしながら何とか抱きしめた。
その後、また邦一は意識を失ったようだ。次に目が覚めると柳もいて静かに頭を撫でてくれた。それが気持ちいいからか、また眠るように意識が飛びかける。何とかその意識を保とうとしていると「目覚める度によくなっていくから、安心して眠りなさい」と優しく言われた。邦一はホッとして意識を手放した。
夢の中で、秋星が誰かを今にも殺そうとしている姿を邦一は見ていた。相手は人間だった。
何故そういう状況になったかはわかっている。その人間が邦一を刺したからだ。わかっているのに、夢の中の邦一は小さな子どもだからか怯えていた。人の姿をしていない秋星が怖いのではない。刺される前も誘拐されたことに怯えてはいたが、体を縛られ動けないことと自分が多分このまま死んでしまうこと、何よりその後秋星がどうなってしまうかわからないことが怖かった。
そしてシルバーの髪に赤ではなく金色の目をした秋星がそれこそあまりにも怖いほどに美しかった。赤い花が咲き乱れる中で赤と混じり合いながらも染まらない、凛と咲く白い花のようだった。
次に目が覚めると両親が邦一を見ていた。
「……ごめ……」
邦一が両親に、我が子が死ぬかもしれないと思わせたのが既に二度目なのだと改めて気づいた。申し訳なさに心が痛い。心配をかけてごめんと謝りたかったが、まだあまり声が出ないようだった。目を覚ました邦一を見て母親が泣きじゃくっている気がするが、父親が「お前がここにいてくれて本当に良かった」と穏やかな声で言ってくれて、また安心して意識を手放す。
柳が言っていたように一応覚醒する度に少しずつ元気になっている気がしていた。
見ていた夢を脳内で反芻しながら、そういえば……、と今回秋星が助けに来てくれた時もまるで白昼夢のように昔の記憶がフラッシュバックしたことも、断片的に思い出す。だが秋星に過去の事件を思い出したことを告げるのはまた改めようと思った。邦一に今まで思い出させようとしなかったのは、思い出して欲しくなかったからだろう。あの背中の傷も、秋星とついでに母親は誤魔化してきたがあの時にできたものなのだなとわかった。
今、思い出したことを告げるとただでさえまだ邦一を何とも言えない目で見てくる秋星がまた泣いてしまうのではないかと、考え過ぎかもしれないが思ってしまう。もう少し元気になってから言えばいいと邦一は考えた。
数日後、そこそこ普通に話せるようになり、そろそろ寝返りも自分でできそうだと思っていると、秋星が誰かと一緒に入ってきた。あの秋星が誰かとやって来るとは珍しいと邦一は内心思う。
「あんま煩くしなや」
秋星が忌々しそうにその誰かを促している。
「……え、っと……臨太郎……?」
邦一は忘れっぽいほうではない。少し疑問系になったのは忘れていたからではないし、怪我が酷い邦一があの時のことはショックなどもあってまだあやふやになっているが、他の記憶に障害が出たからでもない。
臨太郎の顔半分が包帯に隠れているからだ。
「お兄さん、元気?」
「いや……あまり元気とは言いがたい、けどアンタこそ元気……?」
「いや、結構キッツい」
「お前が悪いんやろ」
「どうかしたのか?」
邦一が秋星に聞くと「この純血のお兄さんにぼこぼこにされた」と臨太郎が答えてきた。
「普通ならもっと早く治るんだけどさー、この純血のお兄さんに受けた傷は全然治らないんだよね、呪いでも込められてんのかな」
「お前のためなんかに使う魔力はないけどな、込められるなら込めるわ。魔物同士やと相性悪かったらそぉなることくらい、お前でも知ってるやろ。それに俺の力とお前の力、比べもんにならんしな」
「……は? えっと、何で秋星が……」
「当たり前や。クニに対する役にたたへん注意も大概やけどな、……クニをこんなにしてもぉて……」
「え、っと、犯人は臨太郎じゃない、けど……」
あの時のことはまだ少し混乱して記憶があやふやとはいえ、さすがにそこは間違えようがない。
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