バカな子犬は今日も尻尾を振る

Guidepost

文字の大きさ
3 / 20

3話

しおりを挟む
「これが俺がいつも話している悟だ」

 大典は連れてきた悟をぐっとつき出すようにニコニコと紹介した。

「マジ先輩半端ないっすねえー、勝手にどんな話されてんだか」
「……ほんと大典、お前って」

 悟は淡々と、大吉はカウンター内から微妙そうな顔で大典を見てくる。だが他の客に「注文いっすか」と言われ、大吉はそちらへ行ってしまった。

「今のが俺の昔からの親友。いい奴だぞ。あと飯も美味いからまぁ、とりあえず食え」
「はぁ」

 ビールといくつかの小皿料理を注文し、先に来たビールで乾杯した。

「お前、馬鹿なこと言って悠賀くん困らせんじゃねーぞ」

 ビールを置いてきた大吉が呆れたような顔で言ってくる。

「きっちゃん、何でそういうこと言うんだよ。俺がそんなことするはずないだろう? なあ、悟」
「はは」
「……ったく。あの、悠賀くん」
「はい?」
「こいつ、鬱陶しいかもだけど根はいいやつなんであまり嫌わねーでやって」
「はぁ」
「ひでぇな、何で俺嫌われてる前提なんだよ」
「自分の胸に聞いてみろ」
「……なんも返ってこねーぞ」
「ほんとに聞くやつがあるか」

 大典と大吉が慣れたやり取りをしている間、悟は黙々と食べているようだった。
 せっかくの機会だし酒の力を借りたらどうにかなるのではと実は内心ちょっとだけ思っていた大典だが、結局どうにもならなかった。大典が何を言おうが悟はのらりくらりとしていた。翌日は土曜で休みなのもあり、どんどん飲めと勧めた大典がむしろ飲み過ぎた勢いだ。

「なぁお前堅物なの?」
「そう見えるならそれでいっすけど」
「俺、お勧めだぞ」
「マジ先輩半端ないっすねえー、ほんとに。あんた自分の性別忘れてんの? それともどう見ても男にしか見えない俺が女に見えるヤバイ薬でもキめてんの?」
「キめてねぇよ……! 俺、多分どっちもいけんの」
「へぇ。そっすか」
「悟は無理?」
「まぁ、基本的にはそっすね」
「んだよー何でも試せよぉ」

 どうやらその後軽くだが泣きながら絡んでいたらしい。翌日思い切り呆れながら大吉が携帯電話で教えてくれた。とてつもなくやらかした感しかない。これからがんがん恰好よく攻めてやろうと狙っている相手にまず醜態を見せてどうするのか。幸いというか大吉が「こいつの面倒は見とくから悟くんはもう帰りなよ。ごめんな。金はこいつからもらっとくし」と対処してくれたようだ。ちなみに携帯電話で教えてくれたのはその金を寄越せという連絡のついでだ。
 大典は職場が家から近いため自宅通いで、ついでに昔から仲のいい大吉の店も近い。悟も社員寮に入っているのを大典は知っているので大吉の店からそう遠くはないだろう。とはいえ醜態を見せただけでなく一人で帰す羽目になって申し訳なさしかない。
 ただ謝りたくとも悟の連絡先をまだ聞いていないことに今さら気づいた。明後日顔を合わせたら是が非でも謝った上で聞き出そうと心に誓う。
 その日の夜も大吉の店へ行った。昨日の金を払うついでに結局そこでおでんを食べる。

「俺めちゃくちゃ失態してんじゃねえか」
「ほんとにな」
「悟、怒ってた?」
「別に怒ってねーけど引いてたんじゃね?」
「っうぅ」
「何、大典。失恋でもしたん?」

 常連の一人が楽しそうに聞いてきた。

「リコちゃん、何で楽しそうなの」
「そりゃ楽しいよ。ヤンキーっぽいのはさておき、あんたみたいに背が高くて美形イケメンが失恋して嘆いてる様、楽しくない訳ないっしょ」
「リコちゃん鬼かよ」
「酒のあてによいわー」
「一度寝た仲だろ!」
「一度だけでそんなこと言われてもな。あとウチ今彼氏持ちだから絶対それ軽々しく口にすんなよ」
「リコちゃんマジ鬼」

 一度そういう関係になったと言っても、その時はお互い彼氏彼女と別れたてで魔が差したというのだろうか。別にお互いそういう意味で好きになることもなく、かと言って気まずくなることもなく、この店で顔を合わせれば今のように話したりする仲が続いている相手だ。

「馬鹿をからかうのその辺にしといてやって」
「はーい大将。その代わりこれ。この長ネギときのこの和風アヒージョ、大典のつけで」
「リコちゃん本気で鬼かよ……」

 すでに連れとなにやら楽しげに喋っている常連客に呟いた後、大典は「俺、美形なんだよな?」と大吉に聞く。

「俺に聞くなよ」
「なのに何で悟はその気にならねーんだ」
「お前が股にぶら下げてるもんあるからだろ」
「そんなもん人間の半分はぶら下げてんだろ」
「そういう問題じゃねえし、俺にそういう話振るのやめろ。相談相手になれねぇぞ、男相手とかわかんねーんだから」
「きっちゃんまでつれねぇ」

 週明け、作業現場に向かう車は別だったので現場で隙を見て大典は悟に話しかけた。

「悟、ごめんな」
「何すか」
「いや、醜態見せちゃって、その」
「ああ。全然問題ないっすね」
「マジかよ、やっぱ悟、いい奴だな」

 さらっと流され、大典は一気にテンションが上がった。

「じゃあよ、せっかくだから仕事の後デートしねーか」
「何がせっかくなんすか。マジ先輩半端ないっすねえー、とっととこの部分仕上げてください」
「まあ俺にかかればあっという間だしな」
「はは」
「お前も俺にかかればあっという間にとろとろになんぞ。マジだから」
「マジ先輩半端ないっすねえー、どっちがって話っすよ」
「何か言ったか?」

 口癖は聞こえたのだがその後がよく聞こえなかった。

「いえ、作業に集中してくださいっつったんすよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

後輩の幸せな片思い

Gemini
BL
【完結】設計事務所で働く井上は、幸せな片思いをしている。一級建築士の勉強と仕事を両立する日々の中で先輩の恭介を好きになった。どうやら先輩にも思い人がいるらしい。でも憧れの先輩と毎日仕事ができればそれでいい。……と思っていたのにいざ先輩の思い人が現れて心は乱れまくった。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...