バカな子犬は今日も尻尾を振る

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6話

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 今日は朝からひたすら首を傾げることが多かった気がする。大典は悟について行きながら思っていた。
 朝や仕事中はひたすら何を言えば響いてくれるのかなびいてくれるのか考えていたのだが、今は先ほど悟が言った言葉について主に考えている。

「俺にお願いしてくださいよ。真剣に乞うような感じで。仲よくさせてくださいって」

 そんな風に言われた。聞き間違いかと思ったが合っているとも言われた。
 考えるまでもなく今までは特に誘わなくても誰かしらから逆に誘われていたというか、もし大典が誘ったとしても二つ返事で受け入れてもらっていたのもあって、悟に対しての誘い方がどうにもよくわからなかったのは自分でも把握している。それでも悟は無視することなく対応してくれていた。例え周りから見たら基本流しているのだそうでも、大典からしたら正直嬉しく思っていた。とはいえ確かに「半端ない」とばかり言われていた気がするし何が半端ないのかわからない。そんな悟から願いを乞えと言われた。どうしたって戸惑う。

「ここっすよ」

 悟について来ていたのは社員寮に案内してもらっていたからだ。戸惑っていた大典に「居酒屋やらでお願いするのはさすがにやりにくいでしょ」とこれまたよくわからないことを言われて連れてこられた。大典としては戸惑いはさておき、別に「仲よくして」と願うくらいどこででもできるため、やりにくいとは? とさらに戸惑っている。ただ結局のところ、悟の部屋に来られるのなら何でもいいかとあまり気にしないことにした。

「へえ。思ってたより広い」
「そっすか?」

 何となく六畳あるかどうかの一部屋がドアを開けたらいきなりあるようなイメージがあった。だが寮とはいえ一見普通のマンションみたいだし部屋も一人暮らし用のマンションのようだ。狭いキッチンもあり1Kといったところか。寮には談話室的なところがあってそこで社員同士喋ったり煙草を吸ったりしているらしいことは以前別の誰かからは聞いたことはあるが、部屋は本当に部屋だけなイメージを大典は勝手に持っていた。
 適当に座ってくださいと言いながら、悟は作業着を脱ぎだす。

「え、いきなりっ?」
「は? 何すか」
「いや、服」
「はぁ。そりゃ着替えますよ。何で自分の部屋で作業着のまんまでいなきゃなんすか」
「そ、それな」

 いきなり勘違いしてテンションが上がりそうになっていた。

「まぁ、俺が綺麗な恰好してもあんたは汚いままいればいっすよ」
「なんて?」
「適当に座っていっすけどベッドには腰掛けねーでくださいねっつったんっすよ」

 あれ? いい奴なんだけどでもちょっとどこか?

 大典はまた首を傾げる。だが確かに大典は着替えを今持ってないし、作業着のままで自分のベッドに腰掛けるのは大典も嫌なので「そりゃそうだな」と納得した。
 というか首を傾げて考えていたせいでせっかく悟が目の前で着替えていたというのにほぼ見ていない。残念過ぎる。

「なあ、お前もう一回着替えないか?」
「ほんと半端ないっすねえー、何のために」
「そりゃ……」

 お前の裸をマジマジと見たいからだと思ったがさすがにそこまであからさまに言うのはどうかと思い「何となく」と続ける。

「は。それよりも先輩」
「うん?」
「仲よくしてくださいって俺にお願い、するんでしょ」
「え? あー、えっと、そう、だな。仲よくしてくれるか?」

 何だろう、やりにくい。怪訝に思いつつも笑顔で言えばため息を吐かれた。意味がわからない。

「何だよ」
「もっと必死に言えねーんすか」
「え。必死……」
「残念」

 何が?

「まあ、先輩っすもんね」

 え、だから何が?

「どういう……」
「別に。まぁ仲よくしますよ。じゃあ用、済んだんで帰っていいっすよ」
「いや待って!」
「何すか」
「何かこう、おかしくないか?」
「そっすか?」

 部屋着であろう、シンプルなジャージ姿の悟がベッドに腰かけて、いつものように冷めたような顔で大典を見てくる。シンプルだけに体のラインも作業服よりもわかる気がする。腕は何度も見たことがあり、結構筋肉があるのは知っているが、やはり痩せ気味に見えた。男前な見た目と相まって、とてもそそられる。
 思わずじっと見てしまっているとまた、ため息を吐かれた。

「ほんと先輩……」
「な、何だよ」
「いえ。気をつけて帰ってくださいね」
「は? 別に俺が気をつけるようなこと何もない……っつーか結局何なんだよ。わざわざここまで来て」
「お願いしたかったんじゃないんっすか?」
「いや、まぁそりゃ仲よくして欲しいけど」

 そうじゃなくて、俺はお前と付き合いたいしエロいことしてーんだよ。

「先輩」

 座ったまま悶々と考え事をしていると呼ばれた。気づけば悟がそばまで来ていた。

「ちゃんとね、ちょっとだけ仲よくしてあげますよ」

 笑みを浮かべながら何とも言えない目つきで囁いてくると、悟は体を少し屈ませてぺろりと大典の唇を舐めてきた。

「は……?」
「じゃあ、帰ってください」
「い、いやいや。そんなことされて俺が何もしねえで帰るとでも」

 慌てて悟をつかもうとしたら逆に手首をつかまれた。

「マジ先輩半端ないっすねえー、駄目っすよ。後輩には優しくしないと。あとあんたのが背はあっても力で俺が負けるとでも?」

 悟の顔がまた近づく。半ば閉じたような目で見下ろしてくる。そんな状況に大典は正直さらにその気になる。だが悟はまたニッコリと笑みを浮かべると座っている大典を引き上げてきた。確かに力は強い。

「そんじゃ、また明日。お疲れ様っす」

 そして大典は部屋から追い出された。
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