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14話
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大典はといえばますます戸惑う、というか混乱しているようだった。
「お前、そういうやつだっけ?」
「幻滅しました?」
「いや、それはねえけど……ただちょっと言ってる意味が結構わからねえっつーか」
幻滅はしないのかと悟はますます大典に笑いかけた。思っていたのと違う云々とここで言われたら勝手だとは思うが少し萎えていたかもしれない。
悟は別に本性を隠しているほどではない。とはいえ馬鹿のように晒すものでもないと思っている。だから基本的に寡黙なほうかもしれないし、中には優しい人だと何故か勘違いする者もいるがそれは特殊として、大抵の者には淡々として適当に受け流すやつだと思われがちだ。だいたいは合っているがその上で悟を知り、悟の性格をさらに知ると「そういう人だったんだ」と言われたりする。別に言ってもいいが、勝手に決めつけた性格と違うからと興味を持たれるならまだしも非難されるいわれはないし、それこそそういうタイプの人とは距離を取りたい。
「ねえ先輩」
「何だよ」
「あんたは俺が好きなんすよね」
ニッコリと笑みを浮かべながら聞けば少し顔を赤くしながら「お、おぅ」と戸惑いつつ頷いている。とても夜の狼などと主張する人と同一人物とは思えない。
「じゃあ俺をその気にさせてみてくださいよ」
「だから毎日言ってんだろ!」
「マジ半端ねぇな……まさか本気であれらの言葉で俺がどうこうなると思ってんすか」
「……じゃあどーしたらいいっつーんだよ。俺、今まで自分からマジで口説いたりとかしたことねーからわかんねえんだよ」
一見自慢のようにも聞こえそうだが、大典は本当に困惑したような顔をしている。格好つけているつもりのくせに、そういうところをサラッと見せてくる。大典のそういった自然な言動がわりとその気にさせてくるということを本人は多分一生気づくことがないのだろうなと悟は楽しく思った。
「じゃあ、あんたはいつもどうやって誘惑されてたんすか」
「そりゃ、好きって言われて……」
「それで?」
「付き合ってって言われたり、……ああ!」
そうだ、と言わんばかりの表情をしたかと思うと、大典は顔を近づけて悟にキスをしてきた。触れた唇はだがすぐに離れる。
「直線的過ぎません?」
「な、何だよ。でもマジで好きっつって抱きついてちゅーしてくる女とかいたけど」
「もし先輩がその相手のこと興味ないどころか嫌いだったらどーすんっすか」
「そりゃ、うわってなるだろしそれとなく……ってどーゆー意味だよ! まさかお前、俺のこと嫌いなの?」
「なんでまさかって言えるんっすかね。そもそも俺は基本男は無理っすよ、言いませんでした? あと少なくとも先輩のこと、好きとも嫌いとも俺はまだ何も言ってねえっすね」
そう答えると大典はショックを受けたようにあからさまに落ち込んでいる。本当にわかりやすい人だと思う。あと、でき得るならそのまま泣いて欲しい。そうしたらきっと愛しくて、目に溢れる涙にキスのお返しくらいはするのに、と悟はまた頬杖をつきながら大典を見た。
「……何でそんな見てくんだよ」
「泣きそうだなあと」
「んなことで泣くかよ」
「……ふふ。あ、先輩。よかったら泊まっていくっすか?」
頬杖をついたままニコニコと言えば、またポカンとしてきた。だがすぐに嬉しそうにそわそわし出す。
「いいぞ。そんで俺とゆっくり月でも眺めながら……」
「今日は見えねーんじゃねえっすかね。あとそんな優雅に眺められるようなベランダねえっすよ」
「……。つか、そんだら着替え買ってくる」
「そうだ。泊まられるならここで酒でも飲みますか」
「おぉ、いいな! そんでお前を酔わしてやる」
どうやら調子を取り戻したようだ。悟は立ち上がってジャージの上着を取り出しながら「その前に酔って泣き出すのは先輩なのにね」と口にした。だが調子に乗ってきた大典は聞いていないようだ。ただ悟を見て上着を着ているのには気づいてきた。
「お前もコンビニ一緒に来んのか?」
「何か問題でも?」
「え、ああいや! ねぇけどよ」
ははは、と笑いながら目を逸らしている。どうやら一緒に行っては何か不都合でもあるみたいだ。
「一緒に行きましょ、先輩」
悟はむしろそう言い放ってニッコリ微笑んだ。
コンビニエンスストアはマンションを出てすぐのところにある。悟は普段水を買うくらいでしかあまり立ち寄ることはない。
「結構ここ、種類あんのな。お、このチューハイも買っとくか」
「あんたそんなに買って飲めるんっすか」
「全部飲めなくても置いときゃいいだろ。お前が飲まねえんなら俺がまた今度来た時飲む」
「今度があると思ってんすか」
「何て」
「先輩のお金ならついでに水も何本か買っといてください」
「厚かましいなお前」
「後輩の甘えっすよ」
「え」
「甘えてんすよ」
「そ、そうかよ」
大典はいそいそとペットボトルの水をいくつかカゴに入れ出した。大典ではなくちょろすけと改名してもいいのではと思いながら悟は久しぶりに来た店内の様子を多少の好奇心で眺める。
カップラーメンは非常用として数個家にあるにはあるが特に食べたいとは思わない。嫌いではないが好きでもないというのだろうか。菓子も食べられない訳ではないが特に買ってまで食べたいとも思っていない。
こうして考えると人間の三大欲と言われている欲の中でそれなりに満たしているのは睡眠欲くらいかもしれないなと悟がぼんやり思っていると、いつの間に会計を済ませたのか「帰んぞ」という大典の声がした。ハッとなり店を出ようとして店員がじっと悟を見てきているのに気づく。なんだろうと見返すとスッと逸らされた。
「お前、そういうやつだっけ?」
「幻滅しました?」
「いや、それはねえけど……ただちょっと言ってる意味が結構わからねえっつーか」
幻滅はしないのかと悟はますます大典に笑いかけた。思っていたのと違う云々とここで言われたら勝手だとは思うが少し萎えていたかもしれない。
悟は別に本性を隠しているほどではない。とはいえ馬鹿のように晒すものでもないと思っている。だから基本的に寡黙なほうかもしれないし、中には優しい人だと何故か勘違いする者もいるがそれは特殊として、大抵の者には淡々として適当に受け流すやつだと思われがちだ。だいたいは合っているがその上で悟を知り、悟の性格をさらに知ると「そういう人だったんだ」と言われたりする。別に言ってもいいが、勝手に決めつけた性格と違うからと興味を持たれるならまだしも非難されるいわれはないし、それこそそういうタイプの人とは距離を取りたい。
「ねえ先輩」
「何だよ」
「あんたは俺が好きなんすよね」
ニッコリと笑みを浮かべながら聞けば少し顔を赤くしながら「お、おぅ」と戸惑いつつ頷いている。とても夜の狼などと主張する人と同一人物とは思えない。
「じゃあ俺をその気にさせてみてくださいよ」
「だから毎日言ってんだろ!」
「マジ半端ねぇな……まさか本気であれらの言葉で俺がどうこうなると思ってんすか」
「……じゃあどーしたらいいっつーんだよ。俺、今まで自分からマジで口説いたりとかしたことねーからわかんねえんだよ」
一見自慢のようにも聞こえそうだが、大典は本当に困惑したような顔をしている。格好つけているつもりのくせに、そういうところをサラッと見せてくる。大典のそういった自然な言動がわりとその気にさせてくるということを本人は多分一生気づくことがないのだろうなと悟は楽しく思った。
「じゃあ、あんたはいつもどうやって誘惑されてたんすか」
「そりゃ、好きって言われて……」
「それで?」
「付き合ってって言われたり、……ああ!」
そうだ、と言わんばかりの表情をしたかと思うと、大典は顔を近づけて悟にキスをしてきた。触れた唇はだがすぐに離れる。
「直線的過ぎません?」
「な、何だよ。でもマジで好きっつって抱きついてちゅーしてくる女とかいたけど」
「もし先輩がその相手のこと興味ないどころか嫌いだったらどーすんっすか」
「そりゃ、うわってなるだろしそれとなく……ってどーゆー意味だよ! まさかお前、俺のこと嫌いなの?」
「なんでまさかって言えるんっすかね。そもそも俺は基本男は無理っすよ、言いませんでした? あと少なくとも先輩のこと、好きとも嫌いとも俺はまだ何も言ってねえっすね」
そう答えると大典はショックを受けたようにあからさまに落ち込んでいる。本当にわかりやすい人だと思う。あと、でき得るならそのまま泣いて欲しい。そうしたらきっと愛しくて、目に溢れる涙にキスのお返しくらいはするのに、と悟はまた頬杖をつきながら大典を見た。
「……何でそんな見てくんだよ」
「泣きそうだなあと」
「んなことで泣くかよ」
「……ふふ。あ、先輩。よかったら泊まっていくっすか?」
頬杖をついたままニコニコと言えば、またポカンとしてきた。だがすぐに嬉しそうにそわそわし出す。
「いいぞ。そんで俺とゆっくり月でも眺めながら……」
「今日は見えねーんじゃねえっすかね。あとそんな優雅に眺められるようなベランダねえっすよ」
「……。つか、そんだら着替え買ってくる」
「そうだ。泊まられるならここで酒でも飲みますか」
「おぉ、いいな! そんでお前を酔わしてやる」
どうやら調子を取り戻したようだ。悟は立ち上がってジャージの上着を取り出しながら「その前に酔って泣き出すのは先輩なのにね」と口にした。だが調子に乗ってきた大典は聞いていないようだ。ただ悟を見て上着を着ているのには気づいてきた。
「お前もコンビニ一緒に来んのか?」
「何か問題でも?」
「え、ああいや! ねぇけどよ」
ははは、と笑いながら目を逸らしている。どうやら一緒に行っては何か不都合でもあるみたいだ。
「一緒に行きましょ、先輩」
悟はむしろそう言い放ってニッコリ微笑んだ。
コンビニエンスストアはマンションを出てすぐのところにある。悟は普段水を買うくらいでしかあまり立ち寄ることはない。
「結構ここ、種類あんのな。お、このチューハイも買っとくか」
「あんたそんなに買って飲めるんっすか」
「全部飲めなくても置いときゃいいだろ。お前が飲まねえんなら俺がまた今度来た時飲む」
「今度があると思ってんすか」
「何て」
「先輩のお金ならついでに水も何本か買っといてください」
「厚かましいなお前」
「後輩の甘えっすよ」
「え」
「甘えてんすよ」
「そ、そうかよ」
大典はいそいそとペットボトルの水をいくつかカゴに入れ出した。大典ではなくちょろすけと改名してもいいのではと思いながら悟は久しぶりに来た店内の様子を多少の好奇心で眺める。
カップラーメンは非常用として数個家にあるにはあるが特に食べたいとは思わない。嫌いではないが好きでもないというのだろうか。菓子も食べられない訳ではないが特に買ってまで食べたいとも思っていない。
こうして考えると人間の三大欲と言われている欲の中でそれなりに満たしているのは睡眠欲くらいかもしれないなと悟がぼんやり思っていると、いつの間に会計を済ませたのか「帰んぞ」という大典の声がした。ハッとなり店を出ようとして店員がじっと悟を見てきているのに気づく。なんだろうと見返すとスッと逸らされた。
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