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24話
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「納得がいかん」
大いに不満だといった風に呟けば「必然の結果でしょう」と返ってきた。
「必然だと……」
「あれほど雨に打たれてびしょ濡れになったんです」
それはそうだが、なら貴様も同様に濡れていたではないか、なのにぴんぴんしているではないか。
内心そう言いつつウィルフレッドはレッドを力なく睨んだ。
「……うるさい。お前の声は頭に響く」
物静かで淡々と話すレッドにムッとしながらウィルフレッドは顔を背けた。その際に実際頭がガンガンと内側から打ち鳴らされているかのように痛んだ。
薬のせいで高ぶり火照った体に雨はむしろ心地よかった。水をたくさん飲んだのもあるが、染み込むようにして冷やしてくれた。おかげで馬鹿みたいに必死になって自己処理を行うといった羽目にならずに済んだ。そしてその夜、くしゃみが止まらなくなったかと思うと寒気がして今に至る。
薄らと覚えているかいないかといったところだが、ウィルフレッドが赤ん坊の頃はあまり体が丈夫ではなかったらしい。その後まるで悪魔と取引をしたかのように体の成長と引き換えかと言いたくなるほど、成長は芳しくないものの健康で丈夫な体になったはずだった。
「雨ごときで熱を出すなど……」
不満でしかない。魔王だった頃ならむしろ病原菌のほうが「勘弁してください」とばかりに逃げ出す勢いだったのでなおさらだ。
ちなみに魔王の時だけでなく、幼児の頃からは逆に病気らしい病気をしてこなかったのもあってか、ウィルフレッドは熱に全く強くないようだ。第二王子のラルフなどは子どもの頃に熱を出すことがあっても、側近のイーサンに「頼むから寝ていてくれ」とお願いされていた気がする。
「あれだけ濡れれば体調も崩します」
お前はどうなのだ。
「水浴びをしても水に濡れるだろうが」
「そうですね」
「……貴様。今適当に返事をしただろう」
「ところで少し起き上がれますか」
「無視をするな! で、……何故だ」
「薬を飲むために、少しでも食事をしていただきたいので」
「……薬も食事もいらん」
これほど頭がガンガンとしているというのに何かを腹に入れられるとは思えない。
「そうですね、確かに難しいことをお願いしましたね、王子に出来るはずもなかったかと」
「何だと、ふざけるな……! この俺が出来ないとでも思っているのか!」
侮辱されるいわれはないとばかりに怒鳴り、勢いよく起き上がったところで脳天に剣で刺し殴られるような攻撃を受けた気がした。
「が……っ」
「……ゆっくりでいいんですよ……」
こんな時でも真顔で淡々と言ってくるレッドが忌々しい。頭を抱え、涙目になりながらじろりと睨み上げると、だが少し微笑まれた気がした。
「では」
レッドは少し後ろを向いて何かをしていたかと思うと、深みのある器を手に持ってウィルフレッドに近づけた。そのままスプーンで中身を掬うと「口を開けてください」と静かに言ってくる。
「じ、自分で食べるわ」
「お任せしていたら王子は中々食べないでしょう」
「ぅ……」
今さらながらに気づいた匂いで分かるが、中身は温かいブルーベリースープだ。ローズマリースープならまだしも、ウィルフレッドはこのブルーベリースープがあまり好きではない。だがこの国だけなのか、大抵の人間が風邪の時にブルーベリースープを飲んでいた。ブルーベリーを水から煮込んで潰し、そこにパン粉だか小麦粉だかを入れてとろみをつけられている。ウィルフレッドはこのとろみと温かさがあまり好きでなかった。そこへ時にアーモンドミルクが混ぜられ、砂糖で甘く仕上げられている。
渋々口を開けると、レッドは少し「ふぅ」っと息を吹きつけて冷ましてからスプーンを中に入れてきた。とろりとした甘味と酸味が口の中に広がる。
「……何故皆このようなものを好むんだ……」
「ブルーベリーお嫌いでしたっけ?」
「普通に食いたい」
「あとでアイスクリームにブルーベリーソースをかけようかと思ってましたが……」
「それは食うぞ」
「……」
「今、お前笑わなかったか」
「気のせいです。さ、残りも食べてください」
「……ぅう」
ひたすら食べさせられた後、レッドは「これが薬です」とまたどろりとした様子の飲み物を出してきた。
「……これは何だ」
「さあ。術者殿に作ってもらいましたので」
「何だとっ? あの野郎の作ったものなど飲まんからな」
「滋養の薬は頼まれずとも飲まれましたよね」
「……」
「俺としても出来れば術者殿に頼みたくありませんでしたが仕方なく頭を下げてきました。王子ならこんな気持ちを分かっていただけるかと思ったのですが」
「分かるぞ……、あ、いや……分かるものか! だが仕方あるまい、貴様が哀れだから飲んでやろう」
「感激です」
感激と言いつつも相変わらず淡々としているレッドを軽く睨みつつ、ウィルフレッドは薬を受け取った。口にすると想像通り苦くて不味い。
「……ぐ」
「がんばって飲み干してください。その間にアイスクリームを用意してきます」
アイスクリームが待っているのなら仕方がない。ウィルフレッドは一気に飲むと吐きそうだと思ったのでちびちびと流し込んだ。後で「こっそり捨てたりしなかったようでさすが王子です」と言われ、捨てるという方法もあったなと気づいた。
薬のせいか熱にやられてか、しばらくすると眠くなった。
夢の中でレッドが頬に唇をつけてきた気がするが、多分ふと「そういえば何故レッドはクライドに頼むのが嫌なのだ」となんとなく眠る前に思っていたから変な夢を見たのだろう。
大いに不満だといった風に呟けば「必然の結果でしょう」と返ってきた。
「必然だと……」
「あれほど雨に打たれてびしょ濡れになったんです」
それはそうだが、なら貴様も同様に濡れていたではないか、なのにぴんぴんしているではないか。
内心そう言いつつウィルフレッドはレッドを力なく睨んだ。
「……うるさい。お前の声は頭に響く」
物静かで淡々と話すレッドにムッとしながらウィルフレッドは顔を背けた。その際に実際頭がガンガンと内側から打ち鳴らされているかのように痛んだ。
薬のせいで高ぶり火照った体に雨はむしろ心地よかった。水をたくさん飲んだのもあるが、染み込むようにして冷やしてくれた。おかげで馬鹿みたいに必死になって自己処理を行うといった羽目にならずに済んだ。そしてその夜、くしゃみが止まらなくなったかと思うと寒気がして今に至る。
薄らと覚えているかいないかといったところだが、ウィルフレッドが赤ん坊の頃はあまり体が丈夫ではなかったらしい。その後まるで悪魔と取引をしたかのように体の成長と引き換えかと言いたくなるほど、成長は芳しくないものの健康で丈夫な体になったはずだった。
「雨ごときで熱を出すなど……」
不満でしかない。魔王だった頃ならむしろ病原菌のほうが「勘弁してください」とばかりに逃げ出す勢いだったのでなおさらだ。
ちなみに魔王の時だけでなく、幼児の頃からは逆に病気らしい病気をしてこなかったのもあってか、ウィルフレッドは熱に全く強くないようだ。第二王子のラルフなどは子どもの頃に熱を出すことがあっても、側近のイーサンに「頼むから寝ていてくれ」とお願いされていた気がする。
「あれだけ濡れれば体調も崩します」
お前はどうなのだ。
「水浴びをしても水に濡れるだろうが」
「そうですね」
「……貴様。今適当に返事をしただろう」
「ところで少し起き上がれますか」
「無視をするな! で、……何故だ」
「薬を飲むために、少しでも食事をしていただきたいので」
「……薬も食事もいらん」
これほど頭がガンガンとしているというのに何かを腹に入れられるとは思えない。
「そうですね、確かに難しいことをお願いしましたね、王子に出来るはずもなかったかと」
「何だと、ふざけるな……! この俺が出来ないとでも思っているのか!」
侮辱されるいわれはないとばかりに怒鳴り、勢いよく起き上がったところで脳天に剣で刺し殴られるような攻撃を受けた気がした。
「が……っ」
「……ゆっくりでいいんですよ……」
こんな時でも真顔で淡々と言ってくるレッドが忌々しい。頭を抱え、涙目になりながらじろりと睨み上げると、だが少し微笑まれた気がした。
「では」
レッドは少し後ろを向いて何かをしていたかと思うと、深みのある器を手に持ってウィルフレッドに近づけた。そのままスプーンで中身を掬うと「口を開けてください」と静かに言ってくる。
「じ、自分で食べるわ」
「お任せしていたら王子は中々食べないでしょう」
「ぅ……」
今さらながらに気づいた匂いで分かるが、中身は温かいブルーベリースープだ。ローズマリースープならまだしも、ウィルフレッドはこのブルーベリースープがあまり好きではない。だがこの国だけなのか、大抵の人間が風邪の時にブルーベリースープを飲んでいた。ブルーベリーを水から煮込んで潰し、そこにパン粉だか小麦粉だかを入れてとろみをつけられている。ウィルフレッドはこのとろみと温かさがあまり好きでなかった。そこへ時にアーモンドミルクが混ぜられ、砂糖で甘く仕上げられている。
渋々口を開けると、レッドは少し「ふぅ」っと息を吹きつけて冷ましてからスプーンを中に入れてきた。とろりとした甘味と酸味が口の中に広がる。
「……何故皆このようなものを好むんだ……」
「ブルーベリーお嫌いでしたっけ?」
「普通に食いたい」
「あとでアイスクリームにブルーベリーソースをかけようかと思ってましたが……」
「それは食うぞ」
「……」
「今、お前笑わなかったか」
「気のせいです。さ、残りも食べてください」
「……ぅう」
ひたすら食べさせられた後、レッドは「これが薬です」とまたどろりとした様子の飲み物を出してきた。
「……これは何だ」
「さあ。術者殿に作ってもらいましたので」
「何だとっ? あの野郎の作ったものなど飲まんからな」
「滋養の薬は頼まれずとも飲まれましたよね」
「……」
「俺としても出来れば術者殿に頼みたくありませんでしたが仕方なく頭を下げてきました。王子ならこんな気持ちを分かっていただけるかと思ったのですが」
「分かるぞ……、あ、いや……分かるものか! だが仕方あるまい、貴様が哀れだから飲んでやろう」
「感激です」
感激と言いつつも相変わらず淡々としているレッドを軽く睨みつつ、ウィルフレッドは薬を受け取った。口にすると想像通り苦くて不味い。
「……ぐ」
「がんばって飲み干してください。その間にアイスクリームを用意してきます」
アイスクリームが待っているのなら仕方がない。ウィルフレッドは一気に飲むと吐きそうだと思ったのでちびちびと流し込んだ。後で「こっそり捨てたりしなかったようでさすが王子です」と言われ、捨てるという方法もあったなと気づいた。
薬のせいか熱にやられてか、しばらくすると眠くなった。
夢の中でレッドが頬に唇をつけてきた気がするが、多分ふと「そういえば何故レッドはクライドに頼むのが嫌なのだ」となんとなく眠る前に思っていたから変な夢を見たのだろう。
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