不機嫌な子猫

Guidepost

文字の大きさ
31 / 150

31話

しおりを挟む
 毎年この国にも一応短い夏はやってくる。冬が長い分、皆が夏をとても楽しみにしている。ザリガニパーティーもその一つだが、他にも昼の間はずっと日光浴を楽しんだり自然の中に身を置いてのんびり過ごしたりもする。

「クリード。何をそんなにかしこまっているのです」

 ウィルフレッドたちも今、王子や王女という肩書きと仕事を忘れてのんびり城の裏にある湖のほとりで日光浴を楽しんでいた。
 リストリア王国第一王子であるクリードも久しぶりに仕事としてではなく遊びにこのケルエイダ王国へやってきており、アレクシアが「では皆と一緒に日光浴でも」と誘ったらしい。
 一度ラルフに誘われ城下町の者があつまる公園へウィルフレッドは足を運んだことがある。そこでは皆、羞恥心をどこへ置き忘れてきたのかと問いたくなるくらいほぼ裸で過ごしていた。魔界ですらむしろパーティーなどでは皆秩序ある姿で過ごしていた記憶しかない。

「日光浴は気持ちいいし最高の眺めでしょ」

 ラルフはニコニコと言っていたが、女より男が多かったし、自分と同じものがぶら下がっている肌色の光景に多少引いていたウィルフレッドは「俺は奥ゆかしいほうが好みなので」と適当な返事をしておいた。
 その時のことをことを思えば、日光浴と言えども皆控えめな露出でしかない。だというのにクリードは少し耳を赤くしながら実際かしこまっているように見えた。
 ウィルフレッドは生ぬるい目でクリードをそっと見る。
 兄たちも相当美形ではあるが、クリードも負けていない。しかもリストリア王国次期王という存在だ。あれでモテなければ誰がモテるというのか。普通に考えれば女慣れし過ぎている勢いのはずだ。
 次に同じくそっとルイやラルフを見る。この二人を見慣れているから余計にクリードの様子に生ぬるい気持ちになるのだろうかと思う。
 ルイはあまり派手な噂はないものの、全く何もない訳じゃないことは女性への接し方を見れば一目瞭然だ。そしてラルフは言わずもがな。
 アレクシアに関しては分からない。さすがに王女だけに浮いた噂は弟であるウィルフレッドも全く聞かないのだが、クリードへの接し方を見ていると、どう見ても余裕で手のひらで転がしているようにしか見えないのだ。
 今も何故クリードがかしこまっているか分かっているだろうに、何でもないかのように声をかけてそばへ近寄って行った。クリードはと言えばさらに顔を赤くしながらそわそわしている。

 ……魔性だ。姉上は魔性の生き物。

 自分の中で改めて再確認しつつ、ウィルフレッドはそっとクリードのために祈ってやった。とはいえ元魔王だ。祈ると言っても神の信者にはなれないし祈りの言葉も覚える気がない。恐らく敬虔な信者からすれば冒涜的な呪いでさえあるかもしれない。ウィルフレッドには魔力がほぼないので何の効力もないのがむしろ幸いといったところかもしれない。

「何考えてんの」

 アレクシアたちから少し離れたところでウィルフレッドがぼんやりしているとラルフが声をかけてきた。

「……兄上。兄上はクリードのこと、どう思いますか」
「クリード? また何で。まぁうん、いい人だよね。俺らの兄様と違って」

 ニコニコと言うラルフにウィルフレッドは微妙な顔を向けた。

「ルイ兄様のことですか……」
「だって兄様ほどひたすら含みありそうな人、俺知らないもん」

 確かにそれは否定しないが、と内心頷いてからウィルフレッドはさらに聞いた。

「でも姉上に対して少し物足りないやつなのでは」
「まぁ、今さっきのような様子を見てたらねえ。でもウィルはあまり他の国を知らないからかもだけど、クリードって結構やり手だし男としてもかなりスマートな人だよ」
「……あれで?」
「あはは。まぁそう見えないよねー姉様と一緒のとこ見てたら」

 でも、とラルフはニコニコ続けてきた。
 リストリア王国の第一王子として、クリードは余りあるほどの功績を残しているのだという。また、ルイと同い年であり、アレクシアよりも社交界デビューの早かったクリードは当然のように引く手あまたといった風に女性が近づいてきていたが、とても上手くあしらっていたらしい。

「そもそも我らが兄様と対等に付き合える時点で凄くない? さすがに童貞ではないだろうけど、誰かに言い寄られても基本的に丁重なお断りをしてたみたいだよ。もったいないよねえ」
「……もったいないと思うのは兄上くらいです」
「えー。ウィルって結構ストイックだよね」

 飽きただけだ、と心の中で言い返す。

「じゃあ、ああなるのは姉上に対してだけってやつですか」
「みたいだねー。よほど好きなんじゃない? クリードもかわいそうに。姉様みたいな人に惚れちゃってさ」

 まあ、それは分かる。

「でもさ、クリードだからこそ、姉様も受けたんだと思うよ、結婚の話。要はそれほどの人ってことだよ、クリードも」

 相変わらずニコニコと言うラルフに、ウィルフレッドはそういえばとふと思った。
 クリードのことから全然離れるが、基本的にチャラくていい加減そうなラルフだが、人を悪く言うことがまずない。褒めることならこうやって楽しげに話すが、貶すような内容は避けられる内容ならわりと避けているように思える。

 ……こいつも結構読めないやつだと前から思っているが、基本善人だからなのだろうか。

「ところでウィル。その薄着、扇情的だね。よかったらここ抜けて二人きりでもっと楽しいことしようか」
「よくないのでしません」
「えぇー、冷たい」

 いや、例え善人でなくてもこいつほんと何考えてんのか分かんねーわ……!

 ウィルフレッドは微妙な顔でじろりとラルフを見ながら思い直した。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...