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55話
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城から覗く世界は緑か白で、それはとても綺麗なものだった。いつか我が手にと思うと尚更美しく見えていた。
たまにラルフによって連れ出される町への道のりも、生い茂った緑あふれた森や気持ちよく広がる草原だったし、ちょっとした散歩で歩く雪道も周りは一面の銀世界で光に当たってキラキラとしていた。この村へやって来る途中の景色も美しかった。
だが村から少し出て今こうして改めて見る光景は灰色だった。
おそらく細々ながらに安定した暮らしを送っていたであろう村は魔物によって荒らされ、焼け落ち、損傷を受けている。逃げ遅れた人間や家畜の死体は二次災害を防ぐためもあって既にルイの部下により身元確認と共に片付けられてはいるものの全体的に灰色の光景だった。
魔王時代にこんなよりももっと壮絶な光景だって見たことがある。それこそ自らが生殺与奪な存在だったし他にも強い者は皆そんなものだった。
だというのに、何故こんなにも気持ちが上がらないのだろうかとウィルフレッドは思った。この村に入った時や警備に向かおうとしている時はあれほど向上していたはずだというのに。
『あなたは元魔王とはいえ、今は人間として小さな頃からここで育ってきている。だから冷静になって改めてこの状況を見、そうなったのではないですか』
『人の心を勝手に読むな』
見るからにいかつい顔とはいえ小型犬もどきによって冷静に分析され心の中で言われ、ウィルフレッドはジロリとフェルを睨んだ。
『ウィルフレッド様が語りかけてきたのですが』
『語りかけてなどおらん』
『思うのと語るのを上手く分ける訓練をなさってください』
『煩い。貴様が選別する訓練をしろ』
『中々に難しいことを言われる』
フェルは笑うように「クフン」と鳴いた。ウィルフレッドはさらに睨みつけるが、見た目が小型犬だけにどうしようもない。結局舌打ちをしてからフェルを抱き上げた。
「王子、大丈夫ですか」
レッドが気遣うように聞いてくる。
「大丈夫だ。……珍しいな。貴様が俺を気遣うなどと」
「俺はいつだって気遣ってますが」
「嘘を吐くな。いつだって揚げ足ばかり取るだろうが! っち。何故この周りにはああ言えばこう言うやつばかりなのだ」
「……? 今は俺と王子しかおりませんが」
「フェルがいるだろうが」
「フェルですか……はぁ、まあおります、けどね……」
「残念そうな顔で俺を見るのはやめろ……!」
「御意」
御意じゃねえよとウィルフレッドはレッドを今度は睨みつける。だが次の瞬間、何かの気配を感じた。それはレッドやフェルも同じだったようだ。
「王子!」
レッドがウィルフレッドを抱き寄せると同時に剣を構える。フェルはウィルフレッドの腕に抱かれたままだったが『私の首輪を外してください』と言ってきた。
『分かった』
すぐに外すとフェルはウィルフレッドの腕からするりと抜け、地面の着くと同時に体を大きくしてきた。首輪を取っても定期的に薬を飲んでいるからか異常なほどのデカさにはならないが、普通の人間が見れば驚くであろうサイズになる。だがレッドは気を取られることもなく向こうからやってくる魔物に剣を構えたままだった。
「……ミノタウロスか」
ウィルフレッドは呟いた。
辛うじて人型をした牛の頭を持つ魔物が何匹も現れ、近づいてきていた。今までどこに隠れていたのだろうかとウィルフレッドは怪訝に思った。これほどの数なら先に騎士たちが村の中だけでなくその周辺の様子を窺っていた時に見つけそうなものだ。
ミノタウロスは人の言葉は話さず知能もほぼ無いと言って等しいが、人型をしているため手を器用に使って戦ってくる。目の前にいる魔物も恐ろしく筋肉の発達したミノタウロスだった。建物が壊されているのも恐らくこの魔物の仕業だろう。焼け落ちているところは壊されている過程で恐らく火事になったのだと思われた。
ただ、オーガやトロールなどであったならまだ運悪く、たまたま強い亜種がいてたまたま村を見つけたまたま魔法壁が壊されたのかもしれないと思うことも出来た。しかしそれらより強いミノタウロスはウィルフレッドの知っている限り、現在あまり人間界──少なくともこの周辺にはいないはずだ。いたとしても国内を徘徊しているイメージはなかった。
「王子、下がっていてください」
言うが早いか、レッドがミノタウロスの方へ走ったかと思うと剣を振るった。屈強な体は一見ただの剣だと傷もつかないように見えたが、レッドの腕のせいだろう、あっという間に倒されていく。フェルは逆にウィルフレッドの側に留まり唸り続けていた。レッドが奮闘しているにも関わらず一匹がこちらへやって来る。レッドがハッとなったように体勢を変えようとしたが、ウィルフレッドは「フェルがいる! 貴様はそちらで集中しろ!」と命令した。実際体の大きなフェルは、何度かミノタウロスの持つこん棒のような凶器で殴られることを屁とも思わず前足で押さえつけ、潰してしまった。
『いくら元魔王でも今のあなたにとっては初陣のようなものです。ここはレッドに任せ、様子を見てあまり派手に動かれないほうがよろしいかと』
「分かっておるわ」
動じずに様子を見ていたウィルフレッドはまたやってきたミノタウロスを睨みつけ「ミノタウロスごときが。動くな。止まれ」と手をそちらへ向けて言い放った。途端、知能がほぼなくても感じるものがあったのか、ミノタウロスは恐れを覚えたかのように逡巡を見せた。すかさずフェルがそのミノタウロスも潰してしまう。
『さすが我が主』
「……どうせなら俺だって剣か魔法で倒したいものだが」
『大物は後ろでふんぞり返って偉そうに命令を下していればいいのですよ』
「貴様の言い方はどこか気に食わんな……、……っ動くな下郎が!」
フェルと言い合っていたウィルフレッドが気配に気づき、またやってきていたミノタウロスに言い放つと、そのミノタウロスも怯えたように体を一瞬硬直させた。そしてフェルによってあっという間に潰される。
とはいえ大半のミノタウロスを倒したのはレッドであろう。さすがに少し息を荒げながら、それでもすべて倒したレッドがウィルフレッドに駆けつけてきた。
「お怪我はないですか……」
「この通り無事だ。お前は……さすがにお疲れだったな」
そっと手を伸ばし、ウィルフレッドはレッドの腕、少し傷ついた服に触れる。
「……労いありがとうございます」
レッドは少し顔を逸らしながらぼそりと呟いた。
たまにラルフによって連れ出される町への道のりも、生い茂った緑あふれた森や気持ちよく広がる草原だったし、ちょっとした散歩で歩く雪道も周りは一面の銀世界で光に当たってキラキラとしていた。この村へやって来る途中の景色も美しかった。
だが村から少し出て今こうして改めて見る光景は灰色だった。
おそらく細々ながらに安定した暮らしを送っていたであろう村は魔物によって荒らされ、焼け落ち、損傷を受けている。逃げ遅れた人間や家畜の死体は二次災害を防ぐためもあって既にルイの部下により身元確認と共に片付けられてはいるものの全体的に灰色の光景だった。
魔王時代にこんなよりももっと壮絶な光景だって見たことがある。それこそ自らが生殺与奪な存在だったし他にも強い者は皆そんなものだった。
だというのに、何故こんなにも気持ちが上がらないのだろうかとウィルフレッドは思った。この村に入った時や警備に向かおうとしている時はあれほど向上していたはずだというのに。
『あなたは元魔王とはいえ、今は人間として小さな頃からここで育ってきている。だから冷静になって改めてこの状況を見、そうなったのではないですか』
『人の心を勝手に読むな』
見るからにいかつい顔とはいえ小型犬もどきによって冷静に分析され心の中で言われ、ウィルフレッドはジロリとフェルを睨んだ。
『ウィルフレッド様が語りかけてきたのですが』
『語りかけてなどおらん』
『思うのと語るのを上手く分ける訓練をなさってください』
『煩い。貴様が選別する訓練をしろ』
『中々に難しいことを言われる』
フェルは笑うように「クフン」と鳴いた。ウィルフレッドはさらに睨みつけるが、見た目が小型犬だけにどうしようもない。結局舌打ちをしてからフェルを抱き上げた。
「王子、大丈夫ですか」
レッドが気遣うように聞いてくる。
「大丈夫だ。……珍しいな。貴様が俺を気遣うなどと」
「俺はいつだって気遣ってますが」
「嘘を吐くな。いつだって揚げ足ばかり取るだろうが! っち。何故この周りにはああ言えばこう言うやつばかりなのだ」
「……? 今は俺と王子しかおりませんが」
「フェルがいるだろうが」
「フェルですか……はぁ、まあおります、けどね……」
「残念そうな顔で俺を見るのはやめろ……!」
「御意」
御意じゃねえよとウィルフレッドはレッドを今度は睨みつける。だが次の瞬間、何かの気配を感じた。それはレッドやフェルも同じだったようだ。
「王子!」
レッドがウィルフレッドを抱き寄せると同時に剣を構える。フェルはウィルフレッドの腕に抱かれたままだったが『私の首輪を外してください』と言ってきた。
『分かった』
すぐに外すとフェルはウィルフレッドの腕からするりと抜け、地面の着くと同時に体を大きくしてきた。首輪を取っても定期的に薬を飲んでいるからか異常なほどのデカさにはならないが、普通の人間が見れば驚くであろうサイズになる。だがレッドは気を取られることもなく向こうからやってくる魔物に剣を構えたままだった。
「……ミノタウロスか」
ウィルフレッドは呟いた。
辛うじて人型をした牛の頭を持つ魔物が何匹も現れ、近づいてきていた。今までどこに隠れていたのだろうかとウィルフレッドは怪訝に思った。これほどの数なら先に騎士たちが村の中だけでなくその周辺の様子を窺っていた時に見つけそうなものだ。
ミノタウロスは人の言葉は話さず知能もほぼ無いと言って等しいが、人型をしているため手を器用に使って戦ってくる。目の前にいる魔物も恐ろしく筋肉の発達したミノタウロスだった。建物が壊されているのも恐らくこの魔物の仕業だろう。焼け落ちているところは壊されている過程で恐らく火事になったのだと思われた。
ただ、オーガやトロールなどであったならまだ運悪く、たまたま強い亜種がいてたまたま村を見つけたまたま魔法壁が壊されたのかもしれないと思うことも出来た。しかしそれらより強いミノタウロスはウィルフレッドの知っている限り、現在あまり人間界──少なくともこの周辺にはいないはずだ。いたとしても国内を徘徊しているイメージはなかった。
「王子、下がっていてください」
言うが早いか、レッドがミノタウロスの方へ走ったかと思うと剣を振るった。屈強な体は一見ただの剣だと傷もつかないように見えたが、レッドの腕のせいだろう、あっという間に倒されていく。フェルは逆にウィルフレッドの側に留まり唸り続けていた。レッドが奮闘しているにも関わらず一匹がこちらへやって来る。レッドがハッとなったように体勢を変えようとしたが、ウィルフレッドは「フェルがいる! 貴様はそちらで集中しろ!」と命令した。実際体の大きなフェルは、何度かミノタウロスの持つこん棒のような凶器で殴られることを屁とも思わず前足で押さえつけ、潰してしまった。
『いくら元魔王でも今のあなたにとっては初陣のようなものです。ここはレッドに任せ、様子を見てあまり派手に動かれないほうがよろしいかと』
「分かっておるわ」
動じずに様子を見ていたウィルフレッドはまたやってきたミノタウロスを睨みつけ「ミノタウロスごときが。動くな。止まれ」と手をそちらへ向けて言い放った。途端、知能がほぼなくても感じるものがあったのか、ミノタウロスは恐れを覚えたかのように逡巡を見せた。すかさずフェルがそのミノタウロスも潰してしまう。
『さすが我が主』
「……どうせなら俺だって剣か魔法で倒したいものだが」
『大物は後ろでふんぞり返って偉そうに命令を下していればいいのですよ』
「貴様の言い方はどこか気に食わんな……、……っ動くな下郎が!」
フェルと言い合っていたウィルフレッドが気配に気づき、またやってきていたミノタウロスに言い放つと、そのミノタウロスも怯えたように体を一瞬硬直させた。そしてフェルによってあっという間に潰される。
とはいえ大半のミノタウロスを倒したのはレッドであろう。さすがに少し息を荒げながら、それでもすべて倒したレッドがウィルフレッドに駆けつけてきた。
「お怪我はないですか……」
「この通り無事だ。お前は……さすがにお疲れだったな」
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