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56話
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周りが安全だと確認した上で、ウィルフレッドたちは村から少し離れることになるが徒歩で移動していた。辺りを確認しつつ、ミノタウロスが現れたであろう付近を調べる。ただ、魔力のほぼないウィルフレッドとレッドにとってはただの平原でしかない。
『ウィルフレッド様、あちらの辺りに妙な魔力を感じます』
『そうか』
改めてフェルを連れてきてよかったとウィルフレッドはしみじみ思った。それにしてもてっきり下っ端も下っ端の力のない魔物だろうとばかり思っていたが、フェルはもしかしたら中々に魔力の持ち主なのかもしれない。とはいえ兄たちやクライドはそれについて特に何も言っていなかった。兄たちが優れた魔力を持っているとしても他の魔力を察知するのはもしかしたら難しいのかもしれない。魔力のほぼない人間として転生したウィルフレッドにとってその辺はよく分からない。ただ少なくともクライドは術者だ。魔力の強い魔物ならすぐに分かるのではと思ったところでハッとなる。
……だから飲み薬を出してきたのか?
しかしクライドの立場で言えば「その魔物は魔力が高くて危険だ」と進言するはずだ。そういったことも国に仕える術者としてのある意味仕事だろう。ましてやクライドはウィルフレッドが苦手なのだ。ウィルフレッドが飼いたいといった魔物を庇う理由は全くもってない。
思い過ごしか? 人間なら術者であっても他の魔力を測れないだけか? それとも無類の動物好き?
そう考えるが、あのクライドを見ているとそもそも人間なのかという疑問しか湧かない。普通人間は何百年と同じ外見を保てない。それに魔法壁を調べていたルイと話していた時に「クライドも連れてくれば良かった。彼ならすぐに判断出来たかもしれない」などと言っていた。これは単に魔力が強いからというだけでなく、他の魔力を測ることが出来るからとも取れる。ちなみにやはりクライドが無類の動物好きという発想は気持ちが悪い。
そんなことを頭の片隅で考えつつもうっかり心で話さないよう気をつけていたからだろうか。ぼんやりとすることもなくウィルフレッドはちょっとした異変に気づいた。
「これは……」
「王子? どうかされたのですか」
「……いや……うん」
薄っすらとだがただの空間に割れ目のようなものが見えたような気がした。だが再度目を凝らして見ると気のせいだったようにも思える。
「王子?」
剣士や側近としてのレッドは相当優秀だが、やはり魔力はさほどないからだろう。今も怪訝そうにウィルフレッドを見てくるだけだ。
『おい、フェル。今ここに割れ目のようなものが見えた気がしたのだが』
『さすが我が主。確かにその辺ですね。私にも感じます。妙な歪がある。多分村を襲った魔物……先ほどのミノタウロスがそうかは明確になった訳ではないですが恐らくそうでしょう、そのミノタウロスはその歪からやってきたのかもしれません』
「レッド」
「はい」
「その、俺の勘というか、だな」
元々ウィルフレッドの魔力がほぼないのはレッドでなくとも身の回りの者なら誰もが知っている事実だ。その上、フェルと実は会話をしているとは口に出来ずもあり、ウィルフレッドは少々口ごもった。強気に出るのは得意だが、自分の力でないことをまるで自分の手柄のように言うのは好みでない。
「は、あ?」
「その、なんだ。この辺りがえっと、何かあれだ」
「あれ……?」
「そう、あれだ。何かこう、そう、気持ち悪い!」
「は?」
「ああクソ。いいからこの位置を即座に覚えろ! 単独行動は避けたほうがいいからな。今から一緒に兄上のところへ戻る。だがこの場所を案内したいのだ。だから貴様は即座にこの場所を覚えろ」
「王子が記憶されれば」
「煩い。貴様の仕事だ」
「……御意」
正直な話、村を出てから既に今どこにいるかあまり把握出来ていないのだが、それを口にするつもりはない。とはいえ「御意」と言ったレッドの表情から鑑みるにバレているのではという気がしないでもないが、考えないようにしようとウィルフレッドは思った。
『バレていると思われますが』
『貴様、また……! 今度俺の考えを読んだら夕食はブルーベリーにしてやるからな』
「クゥ……」
返事の代わりか、フェルが力なく鳴いた。鳴き声に気づいたレッドがウィルフレッドを見てくる。
「王子、フェルですが腹を空かせているのでは」
俺のことを気遣うよりも気遣ってないか?
「まだ大丈夫だ」
「しかし鳴き声が」
これは肉が好きなフェルに対して俺がブルーベリーにしてやると言ったからだとも言えず、ウィルフレッドは無理やりニヤリと笑いながらレッドを見上げた。
「眠いのだろう」
「は、ぁ」
微妙そうな顔をしているレッドを無視し、ウィルフレッドは首輪をつけて小さく戻っているフェルをまた抱き上げた。ちなみに首輪をつけるのはウィルフレッドにとって一苦労だったりする。
「戻るぞ」
「御意」
頷くレッドだが、しかしそのまま立ち止まったままだ。
「戻るぞと言っただろう」
「……俺はあなたの後をついて歩く身ですので」
かしこまったように言うが、絶対に分かっていて言っているとしかウィルフレッドには思えなかった。舌打ちしてレッドを睨み上げる。
「いいから貴様が先に進め」
「……御意」
歩き出したレッドの顔がよく見えなかったがほんの少し笑っていたような気がする。忌々しく思いながらも実際道が分からなくなっているウィルフレッドはレッドの隣に並ぶようにして歩いた。足元にある自分たちの影があからさまな程に身長の差を明確にしてくるのがまた忌々しい。むすっとしていると「王子、何なら俺の服をつかんで歩いてくださって結構ですよ」などと調子に乗ったようなことを言ってきた。
そこまで道に心許無い訳ではないわ!
そう思いながらも「ならそうさせてもらおう」と片手で小さなフェルを抱きながら、もう片方の手でレッドの手を握る。
どうだ。上司でもある王子に手を握られる心許無さは。離してくれと願いながら落ち着かなく歩くがいいわ。
ニヤリと見上げると、無言のままのレッドは辺りを確認するために顔をそらしているからか残念ながら表情が見えなかった。ただ変に耳元が赤い気がする。先ほどの戦闘で疲れているからかもしれないし、そもそも赤く見えたのが気のせいかもしれない。だがウィルフレッドのほうが何だか落ち着かなく感じ、手を握ったまま同じく無言で歩き続けた。ついでにブルーベリーが効いたのかフェルも大人しい。
それぞれ変に疲れを感じたまま村に着いた二人と一匹が見たのは、先ほどよりもさらに崩壊した光景だった。
『ウィルフレッド様、あちらの辺りに妙な魔力を感じます』
『そうか』
改めてフェルを連れてきてよかったとウィルフレッドはしみじみ思った。それにしてもてっきり下っ端も下っ端の力のない魔物だろうとばかり思っていたが、フェルはもしかしたら中々に魔力の持ち主なのかもしれない。とはいえ兄たちやクライドはそれについて特に何も言っていなかった。兄たちが優れた魔力を持っているとしても他の魔力を察知するのはもしかしたら難しいのかもしれない。魔力のほぼない人間として転生したウィルフレッドにとってその辺はよく分からない。ただ少なくともクライドは術者だ。魔力の強い魔物ならすぐに分かるのではと思ったところでハッとなる。
……だから飲み薬を出してきたのか?
しかしクライドの立場で言えば「その魔物は魔力が高くて危険だ」と進言するはずだ。そういったことも国に仕える術者としてのある意味仕事だろう。ましてやクライドはウィルフレッドが苦手なのだ。ウィルフレッドが飼いたいといった魔物を庇う理由は全くもってない。
思い過ごしか? 人間なら術者であっても他の魔力を測れないだけか? それとも無類の動物好き?
そう考えるが、あのクライドを見ているとそもそも人間なのかという疑問しか湧かない。普通人間は何百年と同じ外見を保てない。それに魔法壁を調べていたルイと話していた時に「クライドも連れてくれば良かった。彼ならすぐに判断出来たかもしれない」などと言っていた。これは単に魔力が強いからというだけでなく、他の魔力を測ることが出来るからとも取れる。ちなみにやはりクライドが無類の動物好きという発想は気持ちが悪い。
そんなことを頭の片隅で考えつつもうっかり心で話さないよう気をつけていたからだろうか。ぼんやりとすることもなくウィルフレッドはちょっとした異変に気づいた。
「これは……」
「王子? どうかされたのですか」
「……いや……うん」
薄っすらとだがただの空間に割れ目のようなものが見えたような気がした。だが再度目を凝らして見ると気のせいだったようにも思える。
「王子?」
剣士や側近としてのレッドは相当優秀だが、やはり魔力はさほどないからだろう。今も怪訝そうにウィルフレッドを見てくるだけだ。
『おい、フェル。今ここに割れ目のようなものが見えた気がしたのだが』
『さすが我が主。確かにその辺ですね。私にも感じます。妙な歪がある。多分村を襲った魔物……先ほどのミノタウロスがそうかは明確になった訳ではないですが恐らくそうでしょう、そのミノタウロスはその歪からやってきたのかもしれません』
「レッド」
「はい」
「その、俺の勘というか、だな」
元々ウィルフレッドの魔力がほぼないのはレッドでなくとも身の回りの者なら誰もが知っている事実だ。その上、フェルと実は会話をしているとは口に出来ずもあり、ウィルフレッドは少々口ごもった。強気に出るのは得意だが、自分の力でないことをまるで自分の手柄のように言うのは好みでない。
「は、あ?」
「その、なんだ。この辺りがえっと、何かあれだ」
「あれ……?」
「そう、あれだ。何かこう、そう、気持ち悪い!」
「は?」
「ああクソ。いいからこの位置を即座に覚えろ! 単独行動は避けたほうがいいからな。今から一緒に兄上のところへ戻る。だがこの場所を案内したいのだ。だから貴様は即座にこの場所を覚えろ」
「王子が記憶されれば」
「煩い。貴様の仕事だ」
「……御意」
正直な話、村を出てから既に今どこにいるかあまり把握出来ていないのだが、それを口にするつもりはない。とはいえ「御意」と言ったレッドの表情から鑑みるにバレているのではという気がしないでもないが、考えないようにしようとウィルフレッドは思った。
『バレていると思われますが』
『貴様、また……! 今度俺の考えを読んだら夕食はブルーベリーにしてやるからな』
「クゥ……」
返事の代わりか、フェルが力なく鳴いた。鳴き声に気づいたレッドがウィルフレッドを見てくる。
「王子、フェルですが腹を空かせているのでは」
俺のことを気遣うよりも気遣ってないか?
「まだ大丈夫だ」
「しかし鳴き声が」
これは肉が好きなフェルに対して俺がブルーベリーにしてやると言ったからだとも言えず、ウィルフレッドは無理やりニヤリと笑いながらレッドを見上げた。
「眠いのだろう」
「は、ぁ」
微妙そうな顔をしているレッドを無視し、ウィルフレッドは首輪をつけて小さく戻っているフェルをまた抱き上げた。ちなみに首輪をつけるのはウィルフレッドにとって一苦労だったりする。
「戻るぞ」
「御意」
頷くレッドだが、しかしそのまま立ち止まったままだ。
「戻るぞと言っただろう」
「……俺はあなたの後をついて歩く身ですので」
かしこまったように言うが、絶対に分かっていて言っているとしかウィルフレッドには思えなかった。舌打ちしてレッドを睨み上げる。
「いいから貴様が先に進め」
「……御意」
歩き出したレッドの顔がよく見えなかったがほんの少し笑っていたような気がする。忌々しく思いながらも実際道が分からなくなっているウィルフレッドはレッドの隣に並ぶようにして歩いた。足元にある自分たちの影があからさまな程に身長の差を明確にしてくるのがまた忌々しい。むすっとしていると「王子、何なら俺の服をつかんで歩いてくださって結構ですよ」などと調子に乗ったようなことを言ってきた。
そこまで道に心許無い訳ではないわ!
そう思いながらも「ならそうさせてもらおう」と片手で小さなフェルを抱きながら、もう片方の手でレッドの手を握る。
どうだ。上司でもある王子に手を握られる心許無さは。離してくれと願いながら落ち着かなく歩くがいいわ。
ニヤリと見上げると、無言のままのレッドは辺りを確認するために顔をそらしているからか残念ながら表情が見えなかった。ただ変に耳元が赤い気がする。先ほどの戦闘で疲れているからかもしれないし、そもそも赤く見えたのが気のせいかもしれない。だがウィルフレッドのほうが何だか落ち着かなく感じ、手を握ったまま同じく無言で歩き続けた。ついでにブルーベリーが効いたのかフェルも大人しい。
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