不機嫌な子猫

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65話 ※

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 王子は何も分かっていない、とレッドは思う。
 本当にウィルフレッドのことは大切なのだ。他はどうでもいいとさえ思えるほど、大切でかけがえのない存在なのだ。
 まだ四歳だった頃に初めてウィルフレッドを見た時から、抱く感情に違いはあれどひたすらずっと大切で大事な人だ。九歳の時にようやくウィルフレッドの側近となれてどれほど嬉しかったか。その後レッドが十二、三になる頃くらいから一緒のベッドで眠ることに違和感を覚え、十六歳にしてようやくウィルフレッドに対していつの間にか裏切りにも近い感情を抱いていたのだと気づいてから二十歳となった今に至るまでも、ただひたすら大切で大事な人には違いない。
 その裏切りにも近い邪な感情をどうにか抑え、生涯忠誠心を持って仕えたいと思っているからこそ、同衾など出来る訳がないというのに。
 遠征の間も、ある意味どれほど苦痛だったか。フェルがいるものの、ウィルフレッドと二人きりで毎日延々と寄り添うように眠るのだ。短い夏の終わったケルエイダの夜はまだ本格的な冬でなくとも冷える。ウィルフレッドは人間暖房機とばかりにレッドに密着するようにして毎晩ぐっすりと眠っていた。おかげ様でレッドは毎日寝不足だった。いつも以上に無口になってしまったとはいえよく無事に魔物を倒してきたと自分を褒めたいくらいだ。
 だというのに、ウィルフレッドは軽率な程に一緒に眠ることを強要する。おまけにこうして、体を軽率に許してくる。

「は……、ぁ」

 初めてウィルフレッドの中に入ることを許されて以来まだ数える程度しかしていないというのに、ウィルフレッドはもう快楽を覚え我がものとしている。どこをどう動けば気持ちがいいのかを把握しているかのように自ら腰を動かしてくる、ある意味悪魔のような人だとレッドは思う。そのせいでこちらはますます自制するのが難しくなる。改めて、本当に初めての行為だったのだろうかと思ってしまいそうになる。確かに最初は相当痛みを感じていたようだし、実際ほとんどずっとそばにいるので誰かとそういった行為をする隙などないと断言も出来る。だがあまりにも──

「レッド、考え事とは、余裕だな……」

 率先してレッドの上に乗り、動いていたウィルフレッドが口元を歪めるようにして笑ってきた。レッドとしてはむしろ考え事をしないとすぐにでも自制が効かなくなるからこその考え事でもあるので、余裕とは言い難い。なのでただ息を吐きながら黙っていると「おまけにため息か」と言われた。

「……王子、何故そんなに慣れた様子なのです」
「そ、それは、というか別に慣れてなんかない。言いがかりも大概にしろ」
「へえ、慣れてはいないんですか」

 わざとそう言うと、それはそれで癪に障るのか、行為中で赤らめた顔色のままムッとしたようにウィルフレッドは上から睨んでくる。どう見ても目つきの悪い様子だというのに、愛しい存在という色眼鏡のせいだろうか、レッドのものを尻の穴に咥え込んだ状態でのその目線に堪らなく煽情的な気持ちになった。

「おい、何故今デカくしてくるんだ。今そういう流れは何もなかっただろうが」
「……申し訳ございません」
「ふん、まあいい。貴様のこれは中々いい具合だしな」

 だから、何故、他に経験もないというのに、そういうことを……。

「まさか俺の隙をついて誰かとこれをなさっているとか……」
「はっ? 俺に突っ込みながら呆れたようにそんなことを言ってくるな!」
「突っ込ませているのはあなたです……」
「煩い。それに俺をその辺の淫男いんなんのように言うな無礼者。確かにちょっとした考えで誰かに相手をとは思ったが、誰とでもいつでもするように見られるなどといくら男でも慮外千万りょがいせんばん過ぎるだろうが!」

 確かにまるでそういったことを好むような扱いをしてしまったと、レッドは慌ててまた「申し訳ございません」と謝った。

「痴れ者」

 ウィルフレッドは囁きながら動いてくる。

「王子が……身持ちが堅かったのも……俺に初めてを……捧げてくださったのも存じています。ただ、その……、あまりに」

 今もなお、劣情を煽り立てるような動きをしてレッドを苦しめてくるウィルフレッドに対してなんと言えばいいのか。気楽に「あまりにエロいので、つい」とはさすがに口に出来ない。

「べ、つに貴様に初めてを捧げるなんて殊勝な気持ちなど、ない」

 ただウィルフレッドはあまり気にしていた訳ではないのか、妙なところに対して言いがかりに異論を唱えるかのようにムキになって言い返してきた。

「……だから何故またデカくなる」

 あなたがいちいち可愛いからだ。

「すみま、せん。あと、体勢を変えていいですか」
「好きにしていいぞ」
「ありがたき」

 レッドは呟きながら体を起こした。腹筋は日々鍛えているので上に乗られたまま勢いなくとも起き上がるくらい余裕で、むしろ起き上がられた勢いで後ろに倒れそうになるウィルフレッドを抱き止め、そのままぎゅっと抱き寄せた。拒否しようがどのみちこうして行為をするというなら、せめてこの時ばかりは思うように堪能してもいいのではと思うしかない。
 レッドよりもずいぶん体の小さなウィルフレッドはすっぽりと腕の中に納まる。上に乗られ動かれていた時の快楽具合も相当なものだったが、そこに得も言われぬ感情が加味されレッドを満たした。

「ん、……ぁ。貴様のが、俺の中をひどく広げて、くる」

 煽るつもりもないのだろうが、そういうことをまた軽率に言ってくるウィルフレッドをレッドはさらに抱きしめた。そしてそのまま突き上げる。卑猥な音とともにウィルフレッドの喘ぐ、だがレッドの腕の中にいるせいでくぐもった声にますます情欲がそそられた。
 夢中になってひたすら突き、快楽と愛しさに満たされ、おもわず愛している、と口にしそうになる。代わりにレッドはウィルフレッドの顔を上げさせ、腰を動かしながら小さな唇をひたすら貪った。
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