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69話
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もちろん前世に酸いも甘いも味わってきているため、このクライドがウィルフレッドを連れていきたがったりレッドを置いて二人きり──魔獣付きだが──で向かいたがっているように見えたりしても「ひょっとして俺のこと好きなのかしら」なんて乙女のような思考にほんの一瞬でもなることはなかったが、まさかそう問われるとはそれこそさすがに思いもしなかった。
『な、なにを言って、言っている、と、き、聞き返したらいいのか』
『ウィルフレッド様まず落ち着いてください。それにおそらくとぼけても無駄でしょう。まあ、クライドが何故あなたを連れていきたがったのかがこれで分かった訳ですね』
『は? 俺に魔物などの話が聞きたかったのではないのか』
『話は聞きたかったでしょうね、元魔王かどうかの』
グッと息を詰めた後にウィルフレッドはため息を吐いた。そしてクライドを睨むようにして見上げる。
「……何故そのようなことを俺に聞く」
「ほう。取り乱さないのか。もっと子どものような反応をしてくるかと思ったが」
「子どもじゃねぇっつってんだろ!」
「そういうところが子どもだと言っているんだ」
クライドがもしウィルフレッドを封じ込めた術者でなくとも、絶対にこいつだけは嫌いだとウィルフレッドは更に睨んだ。そして深呼吸をして自分を落ち着けてから口を開いた。
「だいたい元魔王だと貴様が思うのであれば、それこそ子どもの訳ないだろうが。魔王がどれだけ生きていたと思っているのだ」
「ふ……」
「笑うとこか?」
「打ち明けたも同然だな」
「ち、違うぞ。俺は一般的な見解を述べただけだ」
「あの魔王がそもそも子どもみたいなヤツだった。確かに力は強いかもしれんが、自己顕示欲の強い自惚れたヤツだったな」
「誰が自惚れただと! 当然だろうが! 実力も見目も備わった──」
『ウィルフレッド様。まさに打ち明けたも同様です』
「──者ならついそんな風にもなってしまうかもしれないとだな、俺は思う、からな」
『苦しいですね』
『黙れ』
外はそれなりにまだ人がいるだろうに、シンとした空気がウィルフレッドとクライドの間を漂う。先ほど少し小馬鹿にしたようにではあるが笑っていたクライドはもう無表情な様子で、ただ茶を飲んでいる。ウィルフレッドもそうすればいいのだろうが、ひたすら落ち着かなくて無理でしかない。
「……貴様、本当に何故俺にそのようなことを聞くのだ」
少し声のトーンを落とし、顔を逸らしながら聞いた。おそらくクライドが聞いてきた時点で少なくともある程度の確証があるのだろう。無駄なことはしない男だ。
「魔物に詳しいしな」
「そ、そんなことだけで、か?」
「……いや。以前から疑わしいとは思っていた。あの魔王とは戦った時しか接することは当然なかったが、それでもやたら煩いやつだったと覚えている」
「貴様……いちいちこき下ろさないと気が済まないのか?」
思わずそう言えばまた少し笑われた。確かにもう打ち明けているも同様だろう。
「やたら絡んでくるお前を見ていると何故か以前からあの魔王を思い出した。姿かたちも違えば能力も違う。声も違うしそもそもずいぶん昔のことだ。だがお前といるとふとあの魔王が浮かぶ。おかしなことだなと思っていたが……やはりどこか変わらないものでもあるのだろうな」
「……俺の、今の俺のことも魔王のことも大して知らない癖に……」
クライドのことなど嫌いだ。弱点を見つけた暁には絶対に倒してやる存在だ。
だというのに何故。
「私と当時の勇者であった王子が苦労して倒し、封じ込めた相手だ。知らない訳がないだろう。そしてお前はお前でしつこい程やって来るしな。とはいえまさかとはさすがに私も思っていた。確実に封じたはずだった。それにスヴィルク家はまさにあの勇者の家系だ」
「……ルイの顔はあの憎い勇者そのものだしな」
「ふ……、そうだな。その内、気のせいだろうと思うようになっていたが、お前は魔獣を連れてきた。それもかなり力の強い魔獣だ」
「つ、強いのか、やはり」
『ウィルフレッド様は今、魔力がほぼありませんしね、分からないのも仕方ありません』
『ほんと貴様はちょっと黙ってろ』
「それもありやはり疑わしいのではとまた思うようになった。話していても時折おかしなことを言っていたしな。オーガはこの世界でも実在するのか、などといった、な。先ほども私としては間違いないと思って口にした。ただし確証はなかったが」
「なかったのかっ?」
「今は、ある」
にやりとクライドが笑った。赤い目のアルビノがそういった笑いをするとそこそこ凄みがある。そして自分は浅はかだとウィルフレッドは微妙になった。仇である相手に唯一正体を知られるなど。
ただ、やはり思う。
嫌いなのに何故。
何故こんなに嬉しいのか。
自分を知り、そして変わらないものがあると言われただけで、仇に対してだというのに、何故こうも嬉しいのか。思わず目頭が熱くなりそうに嬉しい。いや、正体が仇にバレるなどと危険でしかないし、絶対泣くのだけは嫌だが、なにがあっても嫌だが、しかしそれほどに嬉しい。
「……ふ」
ウィルフレッドを見ていたクライドはまた少し笑うと、手を伸ばしウィルフレッドの頭を撫でてきた。
「き、き、きさ、貴様何をする……!」
「魔王もずいぶん可愛くなったものだと、な」
「俺を愚弄する気かっ?」
「まさか。子ども相手にからかうよりはワインでも堪能していたいほうなのでな」
鼻で笑うかのように言うと、どこにあったのか実際酒を取り出し手酌で注いでいる。ここにはウィルフレッドが今堪能している熱い茶しかなかったはずだ。
「それはどうした」
「私物だ」
「……まさかそれを持ってくるためにレッドは連れてこれなかったと言うのではないだろうな……?」
「ふ。考えすぎだ」
いや絶対そうだろうっ?
感動さえ覚えていたはずのウィルフレッドは呆れたようにクライドを見ていた。
『な、なにを言って、言っている、と、き、聞き返したらいいのか』
『ウィルフレッド様まず落ち着いてください。それにおそらくとぼけても無駄でしょう。まあ、クライドが何故あなたを連れていきたがったのかがこれで分かった訳ですね』
『は? 俺に魔物などの話が聞きたかったのではないのか』
『話は聞きたかったでしょうね、元魔王かどうかの』
グッと息を詰めた後にウィルフレッドはため息を吐いた。そしてクライドを睨むようにして見上げる。
「……何故そのようなことを俺に聞く」
「ほう。取り乱さないのか。もっと子どものような反応をしてくるかと思ったが」
「子どもじゃねぇっつってんだろ!」
「そういうところが子どもだと言っているんだ」
クライドがもしウィルフレッドを封じ込めた術者でなくとも、絶対にこいつだけは嫌いだとウィルフレッドは更に睨んだ。そして深呼吸をして自分を落ち着けてから口を開いた。
「だいたい元魔王だと貴様が思うのであれば、それこそ子どもの訳ないだろうが。魔王がどれだけ生きていたと思っているのだ」
「ふ……」
「笑うとこか?」
「打ち明けたも同然だな」
「ち、違うぞ。俺は一般的な見解を述べただけだ」
「あの魔王がそもそも子どもみたいなヤツだった。確かに力は強いかもしれんが、自己顕示欲の強い自惚れたヤツだったな」
「誰が自惚れただと! 当然だろうが! 実力も見目も備わった──」
『ウィルフレッド様。まさに打ち明けたも同様です』
「──者ならついそんな風にもなってしまうかもしれないとだな、俺は思う、からな」
『苦しいですね』
『黙れ』
外はそれなりにまだ人がいるだろうに、シンとした空気がウィルフレッドとクライドの間を漂う。先ほど少し小馬鹿にしたようにではあるが笑っていたクライドはもう無表情な様子で、ただ茶を飲んでいる。ウィルフレッドもそうすればいいのだろうが、ひたすら落ち着かなくて無理でしかない。
「……貴様、本当に何故俺にそのようなことを聞くのだ」
少し声のトーンを落とし、顔を逸らしながら聞いた。おそらくクライドが聞いてきた時点で少なくともある程度の確証があるのだろう。無駄なことはしない男だ。
「魔物に詳しいしな」
「そ、そんなことだけで、か?」
「……いや。以前から疑わしいとは思っていた。あの魔王とは戦った時しか接することは当然なかったが、それでもやたら煩いやつだったと覚えている」
「貴様……いちいちこき下ろさないと気が済まないのか?」
思わずそう言えばまた少し笑われた。確かにもう打ち明けているも同様だろう。
「やたら絡んでくるお前を見ていると何故か以前からあの魔王を思い出した。姿かたちも違えば能力も違う。声も違うしそもそもずいぶん昔のことだ。だがお前といるとふとあの魔王が浮かぶ。おかしなことだなと思っていたが……やはりどこか変わらないものでもあるのだろうな」
「……俺の、今の俺のことも魔王のことも大して知らない癖に……」
クライドのことなど嫌いだ。弱点を見つけた暁には絶対に倒してやる存在だ。
だというのに何故。
「私と当時の勇者であった王子が苦労して倒し、封じ込めた相手だ。知らない訳がないだろう。そしてお前はお前でしつこい程やって来るしな。とはいえまさかとはさすがに私も思っていた。確実に封じたはずだった。それにスヴィルク家はまさにあの勇者の家系だ」
「……ルイの顔はあの憎い勇者そのものだしな」
「ふ……、そうだな。その内、気のせいだろうと思うようになっていたが、お前は魔獣を連れてきた。それもかなり力の強い魔獣だ」
「つ、強いのか、やはり」
『ウィルフレッド様は今、魔力がほぼありませんしね、分からないのも仕方ありません』
『ほんと貴様はちょっと黙ってろ』
「それもありやはり疑わしいのではとまた思うようになった。話していても時折おかしなことを言っていたしな。オーガはこの世界でも実在するのか、などといった、な。先ほども私としては間違いないと思って口にした。ただし確証はなかったが」
「なかったのかっ?」
「今は、ある」
にやりとクライドが笑った。赤い目のアルビノがそういった笑いをするとそこそこ凄みがある。そして自分は浅はかだとウィルフレッドは微妙になった。仇である相手に唯一正体を知られるなど。
ただ、やはり思う。
嫌いなのに何故。
何故こんなに嬉しいのか。
自分を知り、そして変わらないものがあると言われただけで、仇に対してだというのに、何故こうも嬉しいのか。思わず目頭が熱くなりそうに嬉しい。いや、正体が仇にバレるなどと危険でしかないし、絶対泣くのだけは嫌だが、なにがあっても嫌だが、しかしそれほどに嬉しい。
「……ふ」
ウィルフレッドを見ていたクライドはまた少し笑うと、手を伸ばしウィルフレッドの頭を撫でてきた。
「き、き、きさ、貴様何をする……!」
「魔王もずいぶん可愛くなったものだと、な」
「俺を愚弄する気かっ?」
「まさか。子ども相手にからかうよりはワインでも堪能していたいほうなのでな」
鼻で笑うかのように言うと、どこにあったのか実際酒を取り出し手酌で注いでいる。ここにはウィルフレッドが今堪能している熱い茶しかなかったはずだ。
「それはどうした」
「私物だ」
「……まさかそれを持ってくるためにレッドは連れてこれなかったと言うのではないだろうな……?」
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