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88話
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ウィルフレッドたちが隣国のリストリア王国へ向かっている間、ルイやラルフは通常業務をこなしつつも他の重臣やクライドたちと辺境の村事件についてまだまだ調べたり話し合ったりしていた。
クライドが出向いてまで調べてきた成果もあり、当初に比べずいぶん様々なことが明確になったと思われる。赤い石についても魔力によってまるでからくりのような仕掛けが施されていることが判明していた。その時点でも多少疑いは浮上しており、実際アレクシアが今回リストリア王国へ向かったのもその絡みでもあった。とはいえ明確ではなかったためその件はほんの一部だけにしか明かされてはいなかったし、まさかそんなことはないだろうというのが皆の見解ではあったはずだ。しかし引き続き赤い石を調べていたクライドによりその疑いがさらに強まることとなった。
「古から伝わる魔力によるオートマタと技巧がとても似ている。伝統的な力からしても、術者の少なくとも出身はそこであるのは間違いないでしょう」
「そんな……」
報告を受けたルイは深刻な表情で俯いた。
古くから伝統ある魔力によるオートマタを作り出す技法は隣国、リストリア独特の魔術として有名だ。
オートマタとは機械仕掛けの人形を主に指す。宗教的な儀式で用いられていた人形や仮面を人は最初手動で動かしたり自ら装着していたが、機械的な仕掛けにより一部を可動式にすることで言い伝えがより効果的に伝えられ、人形にも魂が宿るように見せられるのもあり、機械式時計と共に様々な地域で作られるようになっていた。それを魔力によって上手く作り上げてきたのがリストリア王国だ。魔力によるからくりは簡単なようでいて難しい。ゴーレムを作り動かすのとはまた違った精巧な力が必要となる。他国でも多少は魔力によるオートマタは存在するが至ってシンプルな仕掛けであり、機械仕掛けのもののほうがまだ発達している。リストリアの、より洗練された精巧な作りのオートマタとは比べものにならなかった。
ルイはじっと赤い石を見る。
「どう見ても石じゃないか。本当にオートマタと似ているの?」
「ああ、間違いないでしょう。確かに一見魔力は強いものの普通の石だが、見抜けないほどではなかった。それに他の調べた者も言っていたでしょう。様々な装置の役割を果たしている、と。装置ではなくリストリアでよく見られるオートマタであったというわけです」
「……なんてことだ」
「確かに親交の深い国だがそこまでショックを受けるのは王女の婚約者の国だからですかな」
クライドの言葉にルイは首を振った。
「アレクシアがそんなことで参るとは到底思わないし、そもそもクリードは俺の友でもある。彼はいいやつだ。なのでもし例え術者がリストリアの者だとしても、俺もクリードは関わっていないと信じたい。そうじゃなくて……」
ルイは顔を手で覆った。
「可愛いウィルがリストリアに向かっているというのに……なんてこと……疑いが多少あった時点で、すでに俺としては反対だったのに」
「……あぁ」
ルイの様子にクライドがほんの少し微妙な顔をした。
一方リストリア王国へ向かっていたウィルフレッドたちだが、海路を使っていたので三日ほどで到着していた。陸路を使うほうが気楽に向かえるが海を囲うようにして迂回しなければならないため、馬車なら五日はかかっていたところだ。単に乗馬するだけでの移動ならもっと早いしアレクシアや側近のエラなら馬もお手の物だ。ただウィルフレッドも散々味わわされていて知っているが美容に煩いアレクシアはもちろんお洒落にも煩い。そのためどうしても荷物が多くなる。よって馬車か船という選択になった。もちろん緊急でもないので竜馬に乗ることもない。
王族専用の港には迎えが来ていた。第一王子が直々に迎え出ているようで、ウィルフレッドはそっと「結構なことで」とクリードを生暖かい目で見ていた。一行はそこから馬車に乗る。城までさほど距離はないが、城は湖の中にあるため馬車から今度はまた小さな舟での移動となった。ウィルフレッドたちの城背後にある湖と違い、こちらは大きな川が繋がっているからか冬も湖が凍りつくことはないようだった。
「湖の中に城か。中々趣のある……」
「王子、興奮されるのはいいですが、あまり身を乗り出されないよう。舟から落ちてしまいます」
「う、煩い。興奮などしてないし乗り出してない!」
レッドに指摘され、ウィルフレッドは顔が熱くなるのを感じつつムッとした表情を作った。未だにレッドに対しての混乱は続いている。混乱というのはウィルフレッドが勝手に下した自分の反応ではあるが、断じて恋ではないはずなので「記憶喪失による後遺症的な混乱」が一番しっくりいくのだ。それにしてもそろそろ元に戻って欲しいと思っている。でないと落ち着かないしいずれ本当に心臓がやられて死んでしまうかもしれない。
ちなみにフェルは今回は留守番だ。連れてきたかったしルイたちにしてもレッドと共にウィルフレッドの用心棒的な役割を果たしてくれるフェルがついていくのは歓迎ではあるのだが、如何せんフェルは魔物だ。いくらウィルフレッドに従順で安全であろうが他国へ連れて行く訳にはいかなかった。ウィルフレッドの留守中はクライドが面倒を一応みるらしい。ルイに持ちかけられた時、面倒そうな表情をした後に「いやしかしこの魔物について調べるのも一興だな」と小さく呟いていたのをウィルフレッドは聞き逃していない。なので出来れば他の者にみてもらいたかったが、さすがに魔物を普通の者に託す訳にもいかない。エメリーならまだ関わったことがあるしと一瞬思ったが、エメリーはエメリーで大概学者肌の変な男だと思い出した。クライドよりは何十倍もマシかもしれないが、どのみち変な男ならやはり魔物だけにクライドのほうが安全なのかもしれない、と諦めた。
預ける前に気を付けろとフェルにそっと伝えたがフェルは余裕そうに『クライドごときにやられる私ではありません』などと返してきていた。だがその口にはクライドからもらった珍しいマンティコアの肉があったので非常に信憑性に欠けると思われる。
クライドが出向いてまで調べてきた成果もあり、当初に比べずいぶん様々なことが明確になったと思われる。赤い石についても魔力によってまるでからくりのような仕掛けが施されていることが判明していた。その時点でも多少疑いは浮上しており、実際アレクシアが今回リストリア王国へ向かったのもその絡みでもあった。とはいえ明確ではなかったためその件はほんの一部だけにしか明かされてはいなかったし、まさかそんなことはないだろうというのが皆の見解ではあったはずだ。しかし引き続き赤い石を調べていたクライドによりその疑いがさらに強まることとなった。
「古から伝わる魔力によるオートマタと技巧がとても似ている。伝統的な力からしても、術者の少なくとも出身はそこであるのは間違いないでしょう」
「そんな……」
報告を受けたルイは深刻な表情で俯いた。
古くから伝統ある魔力によるオートマタを作り出す技法は隣国、リストリア独特の魔術として有名だ。
オートマタとは機械仕掛けの人形を主に指す。宗教的な儀式で用いられていた人形や仮面を人は最初手動で動かしたり自ら装着していたが、機械的な仕掛けにより一部を可動式にすることで言い伝えがより効果的に伝えられ、人形にも魂が宿るように見せられるのもあり、機械式時計と共に様々な地域で作られるようになっていた。それを魔力によって上手く作り上げてきたのがリストリア王国だ。魔力によるからくりは簡単なようでいて難しい。ゴーレムを作り動かすのとはまた違った精巧な力が必要となる。他国でも多少は魔力によるオートマタは存在するが至ってシンプルな仕掛けであり、機械仕掛けのもののほうがまだ発達している。リストリアの、より洗練された精巧な作りのオートマタとは比べものにならなかった。
ルイはじっと赤い石を見る。
「どう見ても石じゃないか。本当にオートマタと似ているの?」
「ああ、間違いないでしょう。確かに一見魔力は強いものの普通の石だが、見抜けないほどではなかった。それに他の調べた者も言っていたでしょう。様々な装置の役割を果たしている、と。装置ではなくリストリアでよく見られるオートマタであったというわけです」
「……なんてことだ」
「確かに親交の深い国だがそこまでショックを受けるのは王女の婚約者の国だからですかな」
クライドの言葉にルイは首を振った。
「アレクシアがそんなことで参るとは到底思わないし、そもそもクリードは俺の友でもある。彼はいいやつだ。なのでもし例え術者がリストリアの者だとしても、俺もクリードは関わっていないと信じたい。そうじゃなくて……」
ルイは顔を手で覆った。
「可愛いウィルがリストリアに向かっているというのに……なんてこと……疑いが多少あった時点で、すでに俺としては反対だったのに」
「……あぁ」
ルイの様子にクライドがほんの少し微妙な顔をした。
一方リストリア王国へ向かっていたウィルフレッドたちだが、海路を使っていたので三日ほどで到着していた。陸路を使うほうが気楽に向かえるが海を囲うようにして迂回しなければならないため、馬車なら五日はかかっていたところだ。単に乗馬するだけでの移動ならもっと早いしアレクシアや側近のエラなら馬もお手の物だ。ただウィルフレッドも散々味わわされていて知っているが美容に煩いアレクシアはもちろんお洒落にも煩い。そのためどうしても荷物が多くなる。よって馬車か船という選択になった。もちろん緊急でもないので竜馬に乗ることもない。
王族専用の港には迎えが来ていた。第一王子が直々に迎え出ているようで、ウィルフレッドはそっと「結構なことで」とクリードを生暖かい目で見ていた。一行はそこから馬車に乗る。城までさほど距離はないが、城は湖の中にあるため馬車から今度はまた小さな舟での移動となった。ウィルフレッドたちの城背後にある湖と違い、こちらは大きな川が繋がっているからか冬も湖が凍りつくことはないようだった。
「湖の中に城か。中々趣のある……」
「王子、興奮されるのはいいですが、あまり身を乗り出されないよう。舟から落ちてしまいます」
「う、煩い。興奮などしてないし乗り出してない!」
レッドに指摘され、ウィルフレッドは顔が熱くなるのを感じつつムッとした表情を作った。未だにレッドに対しての混乱は続いている。混乱というのはウィルフレッドが勝手に下した自分の反応ではあるが、断じて恋ではないはずなので「記憶喪失による後遺症的な混乱」が一番しっくりいくのだ。それにしてもそろそろ元に戻って欲しいと思っている。でないと落ち着かないしいずれ本当に心臓がやられて死んでしまうかもしれない。
ちなみにフェルは今回は留守番だ。連れてきたかったしルイたちにしてもレッドと共にウィルフレッドの用心棒的な役割を果たしてくれるフェルがついていくのは歓迎ではあるのだが、如何せんフェルは魔物だ。いくらウィルフレッドに従順で安全であろうが他国へ連れて行く訳にはいかなかった。ウィルフレッドの留守中はクライドが面倒を一応みるらしい。ルイに持ちかけられた時、面倒そうな表情をした後に「いやしかしこの魔物について調べるのも一興だな」と小さく呟いていたのをウィルフレッドは聞き逃していない。なので出来れば他の者にみてもらいたかったが、さすがに魔物を普通の者に託す訳にもいかない。エメリーならまだ関わったことがあるしと一瞬思ったが、エメリーはエメリーで大概学者肌の変な男だと思い出した。クライドよりは何十倍もマシかもしれないが、どのみち変な男ならやはり魔物だけにクライドのほうが安全なのかもしれない、と諦めた。
預ける前に気を付けろとフェルにそっと伝えたがフェルは余裕そうに『クライドごときにやられる私ではありません』などと返してきていた。だがその口にはクライドからもらった珍しいマンティコアの肉があったので非常に信憑性に欠けると思われる。
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