不機嫌な子猫

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97話

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 夜になりウィルフレッドの部屋で行った話も結局大して進んだ内容にはならなかった。アレクシアが大臣に案内してもらった魔法関連の各所についても例の事件に関して考えるとどうでもよさそうである。部屋の仕掛けだろうが術者が五名いようが元は六名だったのだろうがどうでもいい。
 ただ、例の赤い石はやはりオートマタであったらしい。アレクシアから聞いて、予測はついていながらもウィルフレッドは初めて知った訳だが、それについてクリードはポカンとした顔をしてきた。

「あれ? 僕は馬車でそう話さなかったかな」
「……そうですね。俺の記憶では。赤い石について聞いたとはおっしゃってましたが」
「あれ? そうだっけ」

 相変わらず惚けた男だなとウィルフレッドは微妙な顔で見る。ただアレクシアも含めて話をする際にウィルフレッドはまた敬語に戻したのだが、天然を発揮して何か聞いたり言ってくることはなかったので馬鹿ではないとは思う。
 オートマタを研究している部屋を調べていたアレクシアだが、やはり明確なところは何も知り得なかったらしい。

「クライドなら別かもしれませんが」
「でもさすがに君たちの国の術者をこの国に招くだけならまだしも魔力関連について見せるのはまずいな。僕が構わなくともね。あとこっそり行うにも無理がある」

 今日のアレクシアでせいぜい限界だとクリードは苦笑した。

「この件だけど、いっそ王に報告しては駄目なのかな? そうすればもっと堂々と調べられると思うんだけど」
「まだどう関わってくるかが分かりませんので。ただクリード、あなたが独自にご家族や臣下などについて内密に調べられるのは構いません。あなたならきっと正しい答えをお調べになられるでしょうし」

 アレクシアが言いながらじっとクリードを見ると、当の本人は嬉しそうに照れている。ウィルフレッドは生温い目をクリードに向けた後、アレクシアを見た。

「やはりクリードに赤い石を見てもらいましょう」
「ええ、そうですね。ただあからさまにそれを目的に訪問というのは困ります。なので何か他の用件を──」
「ただ愛しの婚約者に会いに行くというだけでは駄目かい?」
「クリード。あなたはこの国の第一王子です。そんな目的のためだけに気安く来られては私も困ります。夏に遊びに来られた時も他に仕事もあったからこそでしたし」
「そんな……」

 またもや生温い目をウィルフレッドはクリードへ向けた。恋とはやはり人を駄目にするものらしい。改めて自分は絶対恋をしているのではないとウィルフレッドは内心頷いた。そしてチラリと少し離れたところに立つレッドを見る。視線を感じたのか、レッドもウィルフレッドを見返してきた。
 違う。恋などではない。この心臓のおかしさは病気だ。絶対にそうだ。アリーセに「好きな相手だと時間がもったいなくても心臓がドキドキして落ち着かなくて生きた心地がしないものだ」「お前は本当の好きに出会ってないだけだ」などと言った言葉が何故かリフレインのように浮かんできたが無視をした。だが落ち着かない。

 何か違うことを考えろ。何か、何か──

 ふとその時、先ほどアレクシアに聞いた術者のことが頭に浮かんだ。そういえば辞めた一人は何故辞めたのだろうか。

「クリード」
「何かな、ウィルフレッド」
「……。俺に対してそんなににこやかにされなくていいですよ」
「別にわざとしているのではないし僕は君のことが好きだからどうしても、ね」
「あー、えっと、ああ、そうだ。この国の術者について聞きたいのですが」

 ウィルフレッドは生温い表情になるべくならないようにしながら言った。

「僕に分かることなら」
「一人、辞められたと伺いましたが、その者は何故辞めたんでしょうか。あとどこにいるんでしょうか」

 ウィルフレッドの質問に、アレクシアがハッとした顔を向けてきた。

「ああ、それに関してはあまり詳しくは知らないんだ。ただこの国の方針に合わなかったか何かだと聞いているが……。あとどこにいるのかもちょっと」

 普通はまあそうだろうとウィルフレッドは頷いた。

「申し訳ないのですが、その者について詳しく調べていただけないでしょうか。俺や姉上が調べる訳にもいきませんし」
「そうだね、分かった。明日以降さっそく?」
「俺たちは数日したら帰ります。それ以降で」
「分かった」

 いくらウィルフレッドの部屋は調べた上で安全とはいえ、クリードやアレクシアが長らく居続けるのは不自然だ。よって話を以上で切り上げ、二人は去って行った。その後クリードがアレクシアを部屋まで送るのかどこか一緒に散歩か何かするのかはウィルフレッドにはどうでもいい話だ。

「王子。お疲れ様でした。王子もゆっくり休んでください」

 レッドがウィルフレッドの服を着替えさせながら言ってくる。着替えも苦痛である一つだ。ただ「自分でやる」と言っても「これは俺の仕事ですので」とすげなく断られている。前は自分でやれと言ってなかっただろうか。

 記憶違いか?

 どのみちこうして着替えさせられている。
 いっそクライドが言ったように「交接」してみるのもあながち間違いではないのかもしれない。それで何か判明し楽になれるのなら。ただ以前していた時の様子を思い浮かべようとしただけで死にそうになるため、おそらくは楽になるどころかウィルフレッドの心臓は爆発するか止まってしまうだろう。

 ──そうだ、キスくらいならどうだろうか。

 ふと思いついた。
 キスくらいなら人は親兄弟などの親しい間柄でも行うものだ。

 気軽に。気軽な。

「レッド、キ、キ、キ──」

 気軽、とは。

「王子? 具合がよくないのですか? 何かの発作では……」
「違う! 違うぞ」
「しかし……顔色も赤いし熱が」
「熱など最近出ていた試しがないだろうが! そうではない。その、あれだ。お、俺にお休みのキスをしろ」

 子どもが親などにしてもらう「お休みのキス」。頭にふと浮かび、浮かんだ瞬間はいいアイデアだと思った。だが勢いよく口にした途端、何と情けなく恥ずかしいことを自分は口にしているのかと居たたまれなくなった。

「お休みの?」
「ま、間違いだ! 忘れろ、違う、違うから。違」

 必死になって違うと言っている途中、唇にレッドの唇が触れるのが分かった。
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