キャラメルラテと店員

Guidepost

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11話

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 前はよく休日になると周はあのカフェに足を運んでいた。そしてそこで働いている瑞希を盗み見てはドキドキとしながら幸せな気分に浸っていたものだった。

「どうか、した?」

 目の前でコーヒーを飲んでいる瑞希はニッコリと微笑んできた。

「……いえ」

 なんでもないと周は小さく首を振る。いや、本当は色々微妙だった。あの頃の自分が今の光景を見る事ができればどう思っただろうかと自嘲気味に思う。
 その日が来るのを恋い焦がれただろうか。もしあの頃の自分が今を知ればどう思っただろうか。
 ずっと、ただそっと眺めるだけしかできなかった相手とこうして休日に一緒に過ごし、別のカフェで向かい合ってコーヒーやキャラメルラテを飲んでいるなんて想像もつかなかっただろうなと周は思う。
 その相手が実は男でしかもこんなに優しそうなのにどこかとても怖くて、そして周の体を良いようにしてくるだなんて、さらに想像もつかなかっただろう。
 そしてそんな相手になぜ毎日抵抗もせず、いいようにされているのかと疑問に思ったかもしれない。
 今実際そういう目に合っていてもなお、わからないのだ。自分が瑞希をどう思っているのか、この状況をどうしたいのか。親友である朔にすら言えない今の状況を。

「周? 他の事、考えてる……?」

 瑞希が優しげな声で聞いてくる。だが周は慌てたように「いえ」と否定した。すると瑞希はなぜか背後をチラリと見た後で「ふーん……?」と頬づえをついた。
 瑞希の背後に何かあるのだろうかと思ったが視線は瑞希のまま周は固まる。瑞希の背後なら周の顔が向いている方向なので少し視線をずらせば見えるのだろうが、何と言うか今視線を逸らせるのはよくない気がひしひしとしたのだ。そしてその考えはあながち間違っていなかったのかもしれない。

「……もしかしてお友達の事とか、考えたりした?」

 相変わらず話し方は柔らかく、そしてとても優しげな笑みを向けてくる瑞希だが、周は顔をこわばらせた。

「か、考えて、ないです……」

 最後にチラリとは考えた。でもそれは違う、当てはまらないと周は必死に自分に言い聞かせる。

「……まあ、良いけどね」

 そう言われホッとしていると「ねえ、今からホテルに行こうか」とニッコリ囁かれた。

 ホテル。

 多分言っているホテルは観光ホテルとかではなく、多分そういう事をするためのホテルなのだろうことは周にもわかった。

「な、なんで……」

 もちろん行った事なんてない場所だ。思春期である周は好奇心も、ある。だが相手は男、こちらも男だ。そもそも男同士で入られるのか。

「そこで思う存分周を可愛がりたいから、かな」

 なのにそんな事を言われて何も言えず、周はただ赤くなって俯くしかできなかった。
 カフェを出てから暫くは何故かゆっくりと歩いていた瑞希は心なしか楽しそうである。そしてとあるホテルに着くと、躊躇なく周を引き連れて中に入った。
 男同士で入れるものなのだろうかと改めて周はドキドキした。もし何か言われたり通報されたらどうしようかと思うと泣きそうな気分だった。
 だが何事もなくスムーズに部屋に入る。一階でパネルを指して「周、どれがいい?」と聞いてくれていた。だが何の事かわからなかったしとりあえず落ち着かなかったためひたすら俯いて首を振っていた。部屋に入ってからようやく先程のパネルが部屋を選ぶものだったんだなと気づいた。そして怖くても恥ずかしくてもちゃんと見て自分が選べばよかったと周はできもしないであろう後悔をした。
 部屋自体はとても綺麗だ。新しいところなのだろうか、どこを見ても綺麗で清潔そうだ。
 ただ、なんというか、怖い。そういう事をする部屋に、なぜ変な椅子があるのだろうと怯えた。まるで歯科医にあるような椅子だ。周は男なので歯科医くらいしか思いつかなかったが、どう見ても診察用の椅子が部屋の真ん中にあり、その上からは鎖に繋がった革のベルトがぶら下がっている。脚の部分も開脚したまま固定出来るようにするためか同じように革のベルトがついていた。
 そしてその横にあるベッドの周りには檻がある。何故ベッドの周りに檻が必要なのか周には皆目理解できない。しかもそのベッドもよく見ると四隅に鎖に繋がれた革のベルトがある。またその横にはさらに上から鎖が垂れており、そこにも革のベルトがついていた。まるで上から手を繋がれ立ったまま何かをされるようだ。周は心の底から帰りたいと思った。怖い。

「周、震えているの? 可愛いね」

 瑞希はそんな周の頭上にキスを落としてきた。
 怖いです当たり前です何この部屋おかしくないですかとりあえずどんだけ鎖やらベルトやらあるんですか何する気なんですか帰らせてください。
 そんな言葉が周の脳内にひたすら流れるのだが口には出さない。いや、出せなかった。怖くて到底口にできない。
 なのに周の下半身は違う反応を示してくる。

「震えてるのにそんなにする周が堪らなく愛しいね。大丈夫。ホテルすら初めてなんだよ、ね?」

 瑞希に聞かれ、周はコクコクと頷いた。もちろん嘘偽りなく初めてだ。友達同士なら「初めてじゃねえし」などと見栄を張ることもあるだろう。しかし相手は瑞希だ。例え初めてじゃなかったとしても周は初めてだと必死になって伝えようとしていた気がする。

「だからちゃんと優しくしてあげるよ……」

 え、だから変な事はやめてあげる、じゃないの……そこは?

 周が思っているとそのまま抱きかかえられ、あの変な椅子に座らされた。

「い、いやです、怖い……」
「俺が周に怖い事、するはずないでしょう?」

 瑞希は優しく囁きながら周の手をとってきた。確かに普段はとても優しい。それこそ怖いくらいに甘やかしてくれる。
 でも、と周は涙目になりながらそんな瑞希を見る。
 ところどころでする事成す事が怖い。そしてあの時だって、酷い事や痛い事を故意にしてくる訳ではないが、こちらの精神がもたないのじゃないかと思うくらい様々な事をしてくる。色々未経験でまだまだ高校生になったばかりの周にとっては今まで十分怖かった。
 目に涙を浮かべながらふるふると頭を振っていると、また微笑んできた上で「可愛いね、大丈夫だから……」と周の額や瞼、鼻、頬に瑞希は優しくキスを落としてきた。そして周を少し落ち着かせたところで瑞希は「楽しい事、しようね」と周の手をそのまま上に上げてぶら下がっている革のベルトに固定させた。

「……っぃやだ……」

 足を動かしなんとか逃れようと無駄な努力をする。だが手を固定されているので思うように動かせない。それにあまり足をバタバタと動かそうものなら、また瑞希に股間をギュッと握られるような気がしてできなかった。
 どのみちあまり抵抗する事は周には無理だった。体が震えて思うように動かせないのだ。そしてそれが恐怖のせいだけではないと周は分かっていた。
 優しくキスを続けながら瑞希が周の下半身を脱がせてくる。ゆっくり、ゆっくりと脱がせてくる行為は情けない事に周の体の震えをさらに酷くしてきた。
 恐怖と期待が入り混じったせいで周の目からとうとうぽろりと一粒だけこぼれたものを、瑞希はさも愛おしそうに舐め取ってきた。そして脱がせた周のむき出しの内太腿にも優しくキスをしてくる。

「……店員さ……、ん……怖い、怖いです……いやだ……」

 震える声で囁くようになんとか言うと、瑞希が無言で見上げてきた。そしてその後でまた微笑んでくる。
 今のはどういう意味なの、と周が内心ハラハラしていると「怖くないよ、大丈夫だから……」と優しく言いながら周の足を今度は両側のベルトに固定する。
 周は完全に動けなくされた。その状態で今度はまたゆっくりと周の上着を肌蹴させられる。ボタンシャツじゃなくてTシャツとかにすれば良かったと周は顔を赤くしながら思った。下は完全に脱がされているのでどうしようもないが、Tシャツならせめて、あまりに裸体が丸見えになる事もなかったかもしれない。ボタンを全部外され広げられた状態の今はほぼ全裸と変わらなかった。辛うじて両腕にシャツが絡みついているようなものだ。

「見……ないで、くだ……」

 顔を伏せながらなんとか口にする。散々色々な事をされていても未だにやはり自分の貧弱な体を人に見られるのは落ち着かない。体を見られるのを恥ずかしがるなんてまるで女みたいかもしれないが、男だって誰もが上半身であろうが見られて平気な訳ではない。学校の水泳すら好きじゃなかった。もちろん自分よりも小柄な男子や痩せている男子もいるのだが、それとこれとは別だ。周は自分の体が好きじゃなかった。
 かといってだったら鍛えようとか思わないところがまた情けないんだろうなとは自分でもわかってはいる。

「何故? こんなに周、可愛いのに」

 だが瑞希は微笑むと、恭しく周の臍にそっとキスをしてきた。それがこそばゆく、周はもぞもぞと少し体をくねらせる。
 可愛いと言われて嬉しいはずがない。ましてや自分は本当にカッコよくも可愛くもない平凡な容姿だ。
 周は羞恥でさらに赤くなった。すると瑞希がニッコリと周に笑いかけてくると立ちあがる。そして周からは見えない部屋の片隅で何かしている。一体自分は何をされるんだろうとまた震えていると「放っておいてごめんね」と戻ってきた。
 その手にはローションと何やら周が見てはいけないとしか思えない棒状の道具を持っており、周をさらに震えさせた。
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