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季節編
番う、夏の疑問
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1
人の世界と天上の狭間に、彼らの住まう地があった。自然が溢れるそこは、基本的に四季折々でその表情を変える。とは言え、彼らは自分のまとう空気が自分の四季であるため、衣装の季節感はまったくもってバラバラだった。
そんな一角の広い敷地内に、大きな宮殿が建っている。森に囲まれたそこは各季節たちの住まうスペースを広く確保してもなお、あまり余るほど大きな城だった。
その中では召使いたちが日々の面倒を見てくれている。先代たちはそんな彼らに性的処理までをも世話してもらっていたようだ。
今いる四人の中で最も古い春那は、あまり知らない相手とそういった行為をするのは楽しいと、さほど思えなかった。だが先代たちはそれで多分満足しているのであろうしと、何も言わなかった。
季節達は元々ヒトの魂であったが、今は神に仕える身である。なのでそれほどガツガツ求めたくなるほどのものはない。季節を司る天使として存在を許されて間もないころならなおさら、性的にもまだ目覚めていない若輩者だ。それもあり、たまに何らかしてもらう程度で問題は確かになかった。
とは言え、ギリシャ神話などでもあるように、神々は案外そういう行為が嫌いでは、ないとだけは言っておく。
「アキ。お前は自分の住まいに戻らないの?」
各住まいの中でも、もっとも広く、そして落ち着ける場所である春那の住まいに、季節たちは集まってのんびりすることが多かった。あれほど春那を毛嫌いしているかのような知夏ですら、春那の広間でのんびり過ごしたりしている。
季節たちはいつも一緒に食事をとっていた。各自のスペースでも食堂はあるし、大広間でも食事する場所はある。そこで食べることもあるのだが、大抵いつも春那の食堂で食事していた。
そして夜になると、皆それぞれ自分たちの住まいへと戻って行く。
「……ん。今日はここにいる」
「そう。じゃあ、おいで」
無表情で呟いた千秋に、春那はいつものようにニッコリ笑いかけた後、歩き出した。千秋はただ黙ってその後へ続く。そして二人は春那の寝室へ向かう。
千秋が先代から引き継いだ後しばらく経ってから、春那は千秋を誘った。それは千秋を恋愛対象として欲しくなったからでも、寝るための対象とみなしたからでもない。
ただ、これから新しく家族のようにともにある相手。その相手と番うことのほうが自然な気がしただけだった。
そして千秋はただ静かにそれを受け入れる。未だにその最中であっても、千秋はとても静かで、そして美しい。春那はそう思う。
「……おやすみ」
「ん」
裸のまま、シーツにくるまり眠る千秋の頭を、春那は微笑んで撫でた後、自分も横になった。
2
知夏は春那が苦手だ。嫌いだと本人にいつも言っているが、実際本当に嫌いではない。ただ、いつもからかってくる春那が苦手なだけだ。
嫌いではないので、つい寛げる春那のスペースへふらりとやってきては本を読んだりぼんやりしたり、居眠りしたり冬耶と遊んだりしている。
その日も春那の書庫で何か読みやすい本はないかと探しながら読んでいるうち、ウトウトしてしまい、そのまま眠りこけてしまった。
知夏は夏の空気をまとっているので、周りの季節が何であろうが冷えて体を壊すことはない。それに皆わりと自由に過ごしているため、こういうところでつい眠ってしまっても、特に心配されることも咎められることもない。
「イテテ」
だが変な体勢で眠ってしまっていたため、少々体が痛む。知夏は首を回しながら立ち上がり、伸びしてから部屋を出た。そして広間にやってくると、とりあえずソファーへ座る。
もう朝だし、暫くしたら皆が起きてくるだろう。そして何となくまたここへ集まり、春那の食堂で食事するような気がする。だったらいっそもう、ここでグダグダしてようと知夏は思った。
その時、春那の寝室がある側の廊下から、千秋が出てくる。
え? 何でこの時間に? ていうか何だろうどこか違和感……。
知夏がそんな風に思いながら黙って見ていると、暫くしてから「アキ、忘れてる」と言いながら春那が出てきた。
知夏はさらに「ええ?」と密かに驚く。二人はこちらに気づいてないようで、千秋は首を傾げた後、また戻って行く。
今のは、何。
知夏はポカンとしながら立ちあがった。そしてソッと春那の寝室へ向かう。
それにしても、春那の様子に知夏は落ち着かなかった。いつもからかってきたりで飄々としている春那だが、身づくろいは必ずきちんとしている。服を着崩すこともないし、髪もいつもきちんとサイドが整えられ、綺麗な桜の飾りがついたかんざしのようなものでまとめている。
そのかんざしは、中身はどす黒いとはいえ小柄でとても綺麗な顔立ちした春那に似合っていると、ムカつくことに知夏も思っていた。
だが今ちらりと見えた春那は、着崩すどころか多分裸にローブを羽織っただけの姿で、髪も結っていない。
そんな、けだるげに見える春那を今まで見たことない知夏は、妙にドキドキしながらそっと寝室のドアを開け、中を覗いた。
見えたのは、広い寝室の中にある大きなベッドに腰かけ大人しく座っている千秋と、その後ろで千秋の髪に触れている春那。
それを見て、ようやく知夏は先ほど千秋を見て感じた違和感に気づいた。
千秋もいつも短めの髪の裾を少し結っている。その姿以外見たことなかったため、何も結っていない千秋を見て無意識にも違和感を感じたのだと知夏は納得した。
そして羽織りもの。
先ほど出てきた千秋は、いつも着ている羽織がなかったことに、今さらながらに気づいた。
千秋がそれも春那に着せてもらっているのを見つつ、そろそろ出てくるかもしれないと知夏は急いで広間へ戻った。
ソファーへ座り、とりあえず本を持って読んでいるふりしていると、千秋がまたそこを通っていった。
今度はこちらに気づいているのかチラリと見てきたが、焦ることもなくいつもと変わりないまま無反応でそこから立ち去っていった。
あの二人はいったい……?
知夏は首を傾げつつ「どうしよう、このままここにいていいのかな」などと思っていると、また春那が出てきた。先ほどと変わらないけだるげな様子のまま、知夏の方へ歩いてくる。
「おはよう、ナツ」
「う、うん」
「どうかした? 様子、おかしいよ?」
「どっどうもしねぇよ」
知夏は本を相変わらず読んでいるふりしながら答えた。
「そう。だったらいい。ごゆっくり。俺はシャワー浴びてくる」
知夏の反応に、春那はニッコリ笑って踵を返した。
「あ、そうそう。本。それ、逆さ向いてるよ」
歩きながら思い出したかのように言い残していく。
あいつ! ほんっともう、嫌いだ……!
知夏は春那が去った方を、真っ赤になって睨んでいた。
人の世界と天上の狭間に、彼らの住まう地があった。自然が溢れるそこは、基本的に四季折々でその表情を変える。とは言え、彼らは自分のまとう空気が自分の四季であるため、衣装の季節感はまったくもってバラバラだった。
そんな一角の広い敷地内に、大きな宮殿が建っている。森に囲まれたそこは各季節たちの住まうスペースを広く確保してもなお、あまり余るほど大きな城だった。
その中では召使いたちが日々の面倒を見てくれている。先代たちはそんな彼らに性的処理までをも世話してもらっていたようだ。
今いる四人の中で最も古い春那は、あまり知らない相手とそういった行為をするのは楽しいと、さほど思えなかった。だが先代たちはそれで多分満足しているのであろうしと、何も言わなかった。
季節達は元々ヒトの魂であったが、今は神に仕える身である。なのでそれほどガツガツ求めたくなるほどのものはない。季節を司る天使として存在を許されて間もないころならなおさら、性的にもまだ目覚めていない若輩者だ。それもあり、たまに何らかしてもらう程度で問題は確かになかった。
とは言え、ギリシャ神話などでもあるように、神々は案外そういう行為が嫌いでは、ないとだけは言っておく。
「アキ。お前は自分の住まいに戻らないの?」
各住まいの中でも、もっとも広く、そして落ち着ける場所である春那の住まいに、季節たちは集まってのんびりすることが多かった。あれほど春那を毛嫌いしているかのような知夏ですら、春那の広間でのんびり過ごしたりしている。
季節たちはいつも一緒に食事をとっていた。各自のスペースでも食堂はあるし、大広間でも食事する場所はある。そこで食べることもあるのだが、大抵いつも春那の食堂で食事していた。
そして夜になると、皆それぞれ自分たちの住まいへと戻って行く。
「……ん。今日はここにいる」
「そう。じゃあ、おいで」
無表情で呟いた千秋に、春那はいつものようにニッコリ笑いかけた後、歩き出した。千秋はただ黙ってその後へ続く。そして二人は春那の寝室へ向かう。
千秋が先代から引き継いだ後しばらく経ってから、春那は千秋を誘った。それは千秋を恋愛対象として欲しくなったからでも、寝るための対象とみなしたからでもない。
ただ、これから新しく家族のようにともにある相手。その相手と番うことのほうが自然な気がしただけだった。
そして千秋はただ静かにそれを受け入れる。未だにその最中であっても、千秋はとても静かで、そして美しい。春那はそう思う。
「……おやすみ」
「ん」
裸のまま、シーツにくるまり眠る千秋の頭を、春那は微笑んで撫でた後、自分も横になった。
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知夏は春那が苦手だ。嫌いだと本人にいつも言っているが、実際本当に嫌いではない。ただ、いつもからかってくる春那が苦手なだけだ。
嫌いではないので、つい寛げる春那のスペースへふらりとやってきては本を読んだりぼんやりしたり、居眠りしたり冬耶と遊んだりしている。
その日も春那の書庫で何か読みやすい本はないかと探しながら読んでいるうち、ウトウトしてしまい、そのまま眠りこけてしまった。
知夏は夏の空気をまとっているので、周りの季節が何であろうが冷えて体を壊すことはない。それに皆わりと自由に過ごしているため、こういうところでつい眠ってしまっても、特に心配されることも咎められることもない。
「イテテ」
だが変な体勢で眠ってしまっていたため、少々体が痛む。知夏は首を回しながら立ち上がり、伸びしてから部屋を出た。そして広間にやってくると、とりあえずソファーへ座る。
もう朝だし、暫くしたら皆が起きてくるだろう。そして何となくまたここへ集まり、春那の食堂で食事するような気がする。だったらいっそもう、ここでグダグダしてようと知夏は思った。
その時、春那の寝室がある側の廊下から、千秋が出てくる。
え? 何でこの時間に? ていうか何だろうどこか違和感……。
知夏がそんな風に思いながら黙って見ていると、暫くしてから「アキ、忘れてる」と言いながら春那が出てきた。
知夏はさらに「ええ?」と密かに驚く。二人はこちらに気づいてないようで、千秋は首を傾げた後、また戻って行く。
今のは、何。
知夏はポカンとしながら立ちあがった。そしてソッと春那の寝室へ向かう。
それにしても、春那の様子に知夏は落ち着かなかった。いつもからかってきたりで飄々としている春那だが、身づくろいは必ずきちんとしている。服を着崩すこともないし、髪もいつもきちんとサイドが整えられ、綺麗な桜の飾りがついたかんざしのようなものでまとめている。
そのかんざしは、中身はどす黒いとはいえ小柄でとても綺麗な顔立ちした春那に似合っていると、ムカつくことに知夏も思っていた。
だが今ちらりと見えた春那は、着崩すどころか多分裸にローブを羽織っただけの姿で、髪も結っていない。
そんな、けだるげに見える春那を今まで見たことない知夏は、妙にドキドキしながらそっと寝室のドアを開け、中を覗いた。
見えたのは、広い寝室の中にある大きなベッドに腰かけ大人しく座っている千秋と、その後ろで千秋の髪に触れている春那。
それを見て、ようやく知夏は先ほど千秋を見て感じた違和感に気づいた。
千秋もいつも短めの髪の裾を少し結っている。その姿以外見たことなかったため、何も結っていない千秋を見て無意識にも違和感を感じたのだと知夏は納得した。
そして羽織りもの。
先ほど出てきた千秋は、いつも着ている羽織がなかったことに、今さらながらに気づいた。
千秋がそれも春那に着せてもらっているのを見つつ、そろそろ出てくるかもしれないと知夏は急いで広間へ戻った。
ソファーへ座り、とりあえず本を持って読んでいるふりしていると、千秋がまたそこを通っていった。
今度はこちらに気づいているのかチラリと見てきたが、焦ることもなくいつもと変わりないまま無反応でそこから立ち去っていった。
あの二人はいったい……?
知夏は首を傾げつつ「どうしよう、このままここにいていいのかな」などと思っていると、また春那が出てきた。先ほどと変わらないけだるげな様子のまま、知夏の方へ歩いてくる。
「おはよう、ナツ」
「う、うん」
「どうかした? 様子、おかしいよ?」
「どっどうもしねぇよ」
知夏は本を相変わらず読んでいるふりしながら答えた。
「そう。だったらいい。ごゆっくり。俺はシャワー浴びてくる」
知夏の反応に、春那はニッコリ笑って踵を返した。
「あ、そうそう。本。それ、逆さ向いてるよ」
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