子猫のような君が愛しくて……

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13話

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 実央はぽかんと相手を見た。一瞬何を言っているのかさえわからなくて純粋なほどにぽかんとしていたが、少ししてようやく言っていた意味がわかり、唖然とする意味で結局ぽかんと見ている。

「そういう顔もかわいいなあ」
「……ね、ネロくんは俺をからかってんだろ」
「え? そんなことしてないけど」
「……バイって、確か男も女もいけるっていう……?」
「そう」
「……からかってんじゃないのなら、あんた、もしかして俺にちょっかいかけてんの?」
「あれ、今頃気づいたんだ。それもかわいいね」
 あはは、と笑う音路に対し、実央は文字通り後退った。
「そんなわかりやすく引かなくても」
「だ、だって」

 実央の様子に気づいた貴が近づいてきた。

「どうしたの? 大丈夫?」
「えっ、あ、う、うん」

 あまり話さないで欲しいと言われていたのもあり、実央は少し気まずさを感じつつも頷いた。そんな実央に対して怪訝そうな顔をしながら、貴は音路のほうを向いた。

「この子に何かした?」
「俺がバイだって言ったから驚いちゃったんだよ」
「え」
「あーそうそう。こいつバイなんだよ」

 音路の言葉が耳に入ったらしい友人の一人が会話に入ってきた。

「へえ。あーえっと、前浜くんだっけ」
「うん。よかったらネロって呼んでね」

 音路は貴にもニコニコと言っている。自分だけに言ったわけじゃないとわかって実央は何となくホッとした。

「前浜くんってカミングアウトしてるんだね」

 ただ、貴は笑顔のまま思い切りスルーして名字でまた呼んでいた。

「そうだね、クローゼットじゃないな。隠しても面倒だし。あと名前で呼んで欲しいのになあ、貴くん、だっけ」
「宮野だよ。まあ公にしてるにしても、あまりこの子を驚かせないで欲しいな、前浜くん。まだ未成年だしね」
「……ふふ。気をつけるよ、貴くん」

 二人は笑顔で見合っている。笑顔だというのに何故か妙にほのぼの感を感じられなくて、実央は少々青ざめながら先ほどから怪訝な顔のまま固まっていた。落ち着かなかったのもあり、それ以降飲み食いしたものを実央はあまり覚えていない。
 あの後ずっと実央のそばにいてくれた貴だが、会計の時は仕方なく「みぃはあの広いところで待ってね」と人のたくさんいる場所を示しながら離れていった。

「ねえ」

 それをぼんやり見てから、心許無くて携帯を弄っていると背後から声をかけられ、実央は思わずびくりとした。

「はは。そんな毛を逆立てるようにしなくても。実央くんって猫みたいだね。かわいいなあ」
「……かわいい、言い過ぎ」
「だってかわいいから。ねえ、やっぱり貴くんと付き合ってるよね?」

 もう隠しても仕方ないような気がして、実央は警戒しながらもコクリと頷いた。

「残念だなぁ。俺ね、軽そうに見えるかもだけど人のもの無理やり取ったりしないよ。安心してね。楽しいからちょっかいはかけるけど」
「何て?」
「君らってもうエッチもしてるよね、やっぱ」
「……そんなのあんたに関係ない」

 顔は火がついたみたいに熱くなる。ムッとしながら顔をそらしつつ言い返せば「あれ? もしかしてまだ? なら俺もワンチャンあるかな」などと言われる。

「ない!」
「うーん、いちいちかわいいなあ。ほんと残念。あ、ねえ。君らってお互いノンケでしょ? もしかしてそういうことでよくわからないことあったりで先に進めないとかなら、俺がいつでも教えてあげるから、よかったら連絡してね。大丈夫。言ったでしょ、無理やり取ったりしないって。楽しいことは好きだけど、ドロドロした関係は苦手だからね、俺」

 音路はニコニコしながら実央の携帯を奪ってきた。

「おい!」
「大丈夫、ふるふるさせて連絡先登録するだけ。画面幸いロックかかってないままだしねー」

 それが問題なんだろ、と実央は取り返そうとするが、圧倒的身長差で到底叶わない。そうこうしている内にこちらへやって来ていたらしい貴が「何やってんの」と笑顔のまま声をかけてきた。
 優しい笑顔があんなに落ち着かないように見えることもあるのかと実央は後でそっと思った。

「大丈夫だった? みぃ」

 皆と別れて帰る途中、貴はいつもの貴だった。心配そうに聞いてきてくれる。

「うん。ネロくんには引いたけど」
「ネロくん、って呼んでるの?」
「え、あ、だってそう呼べって……」
「……あのウザいやつ」
「何か言った? 貴くん」

 背の高い貴がぼそりと呟くと、時折聞こえないことがある。これも悲しいかな、身長差の成せる業なのだろう。今も何か言ったらしいとしかわからなかった。

「ううん。何にも。まだ開いてるだろうし、とりあえず百貨店寄って帰ろうよ。何か美味しそうな総菜とかデザートとか諸々買って、家でゆっくり美味しいもの食べよ。みぃ、あまりちゃんと食べてなかったでしょ」
「うん! 美味しいもの!」

 ああ、やっぱり俺、貴くん大好きだ。最高に落ち着くし最高に幸せな気分になるし、最高にドキドキするし、ホント最高に好き。
 外なので堂々と手を繋げないなと、代わりに実央は貴の上着の裾をぎゅっと握った。貴はニコニコと笑顔を向けてくれた。
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