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11話
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きぃにその気はないのはわかるけど……。
部屋に入って稀斗の匂いを感じていた時から落ち着かなかった祐真は、稀斗が舌でペロリとクリームを舐めるのを見るとますます落ち着かなくなった。過剰反応だということくらい自分でもわかっている。それでも抑えられそうになかった。
「ここにも付いてる」
そんなことを言いながらつい稀斗の口元近くに本当についていたクリームを舐めとった。
つい、ではあるが今のは多少わかっていてやった。すると稀斗がビクリと震える。そして祐真はそんな風に震える稀斗が堪らなかった。ちゃんと人を好きだと思うようになってどんどん自分の性格の悪さや醜さに目がいく。
誰かを好きになると綺麗になるっていうのは女子だけなの? それとも実は男女関係なく醜くなっちゃうものなの? それとも自分だけがこんな風に嫌なヤツになっちゃってるのかな。
稀斗は祐真をそういう対象に見ることはできないとはっきり言っていた。だというのに自分を抑えることができそうにない。
……キスまでなら……いいかな?
勝手なことを思いながら、震えてるかと聞くと「震えてない」と首を振る稀斗に祐真はさらに近付く。当然だろうが稀斗が押し返そうとしてきた。だが祐真が悲しそうな顔をすると稀斗の押し返す腕が弱まった。
もちろんわざと悲しい顔をした訳ではないのだが、悲しいと思う気持ちは少しも隠そうとしなかった。稀斗が昔から自分のそういう部分に弱いことは知っている。 その気持ちを利用したようなものだ。
「クリームね……まだ、ついてる……」
何とか囁くように声を絞り出すと、祐真は「ごめん」と心で唱えながら一度だけそっとクリームを食べた唇にキスをした。一瞬だったが、とても甘く感じられた。
「初めてがゆうとか……」
小さな声で稀斗が呟くのが聞こえた。祐真は自分の顔から火が出そうな気がした。その後は何を喋ったのかあまり覚えていない。
稀斗とキスをした。稀斗は困っていたけれども怒らなかった。それが祐真の頭の中の大半を占めていた。
自分の家に帰ってからも祐真はひたすらぼんやりしていて、親に笑われた。夕飯を食べ、風呂に入り、自分の部屋でごろりとベッドに横になってからもずっと頭の中は稀斗のことばかりだった。
きぃとキスした。大好きなきぃと。
ほんとに軽くだったけど、きぃとキスを……。
改めて思い出し、祐真はまた自分の顔が熱くなるのがわかった。稀斗が困り、そして多分嫌な気持ちになっているだろうこともわかっている。それなのに自分は稀斗とキスをした事実が嬉しくてならない。
……俺、ほんと嫌なやつ。
少しだけ自己嫌悪に陥りつつも、でもあの感覚と経験が幸せすぎて、ともすれば顔が緩みそうになった。
しかもきぃの初めてもらった……!
祐真の胸がきゅう、と締めつけられる。もらったというよりは奪ったようなものだと心の中で訂正してみるが、余計に変な部分が滾るだけだった。
ごめんね、きぃ。
その夜、祐真は初めて稀斗で抜いた。
翌日、祐真は少し緊張気味で学校に登校した。だけれども稀斗はいつものように少しぶっきらぼうのまま「おはよう」と言ってきてくれる。
「お、おはよーきぃ!」
いつも以上に嬉しくなり、祐真はニッコリと挨拶しながら稀斗の後ろの席に駆けつけた。休み時間等も稀斗はいつもと変わらなかった。
怒ってないのかな。
大丈夫なのかな。
……もしかしてキスくらいなら許してくれるってことなのかな。
祐真はそわそわと思う。昔から人に好かれやすいのをいいことに、いけそうなら進めてしまえみたいなところがあるのは自分でも自覚はある。それは内容や状況によってはいいことかもしれないしよくないことかもしれない。少なくとも今の稀斗にとっては迷惑なことなのだろうなとも思う。
でもごめんね、きぃ。俺、一方的でもいいからきぃから貰えるものはどれも欲しい。
稀斗からの「美味しい」という言葉だけでも幸せだったが、軽くでもキスを味わってしまったら今度はもっとちゃんと唇を合わせたキスがしたくなる。
「……ぼんやりして何考えてんだよ」
目の前の稀斗が呆れたような顔を向けてきていた。
「きぃが好きってことかな」
「……お前なー……」
へらりと笑って答えるとさらに呆れたようにため息をつかれた。
「何なにー! おやつ計画? だったら俺もいれてくれよ」
そこに向こうで別のクラスメイトと喋っていた基治がやってきて稀斗の後ろから抱きつく。
「重いしうざい!」
「もっきー! きぃは俺のだからそーゆーの、駄目って言った!」
「いや、お前こそ、それやめろ……! 俺はお前のもんでもない……!」
「えぇ! だったら俺がきぃのものでもいいよ」
「何言ってんだよ、いらん」
「ええ」
「えー、じゃあ俺もらうもらう! 早川くれ。そんで毎日甘いもの作ってもらう」
「嫌だよ俺あげないよ!」
「つかほんと何言ってんだよ」
むぅっとなって祐真がとりあえず稀斗から基治を引き離す前に、呆れた稀斗が基治を投げ捨てるように引き剥がしていた。
「冷たい折山」
「うるさい、猿」
「猿じゃねえよ! たっぷり生クリーム入りのバナナケーキは好きだけど、別に猿じゃねえ」
「うるさい、小猿」
「何かさらに落とされた感……!」
偶然たまたまだろうけれども、まるで自分をもらうと言った基治に対してムッとしてくれているように勝手に思えて、祐真は何となくテンションがあがった。しかし後で誰もいない時に祐真が稀斗に「俺とられるから怒ってくれたの?」と聞くと、わかってはいたが「は?」と心底鬱陶しそうな返事が返ってきた。それでも今やそんな稀斗の表情ですら祐真にとっては愛おしい。どうにも抑えられずぎゅっと抱きついてとりあえず頬にキスをすると殴られた。
「お前な! 気持ちに答えられないっつってんのにほんっと遠慮ねえな……! ったく、せめて学校では絶対やめろ! いいな!」
学校、では。
祐真は都合よく解釈をした。
「うん」
快く頷くとニッコリと稀斗を見た。
部屋に入って稀斗の匂いを感じていた時から落ち着かなかった祐真は、稀斗が舌でペロリとクリームを舐めるのを見るとますます落ち着かなくなった。過剰反応だということくらい自分でもわかっている。それでも抑えられそうになかった。
「ここにも付いてる」
そんなことを言いながらつい稀斗の口元近くに本当についていたクリームを舐めとった。
つい、ではあるが今のは多少わかっていてやった。すると稀斗がビクリと震える。そして祐真はそんな風に震える稀斗が堪らなかった。ちゃんと人を好きだと思うようになってどんどん自分の性格の悪さや醜さに目がいく。
誰かを好きになると綺麗になるっていうのは女子だけなの? それとも実は男女関係なく醜くなっちゃうものなの? それとも自分だけがこんな風に嫌なヤツになっちゃってるのかな。
稀斗は祐真をそういう対象に見ることはできないとはっきり言っていた。だというのに自分を抑えることができそうにない。
……キスまでなら……いいかな?
勝手なことを思いながら、震えてるかと聞くと「震えてない」と首を振る稀斗に祐真はさらに近付く。当然だろうが稀斗が押し返そうとしてきた。だが祐真が悲しそうな顔をすると稀斗の押し返す腕が弱まった。
もちろんわざと悲しい顔をした訳ではないのだが、悲しいと思う気持ちは少しも隠そうとしなかった。稀斗が昔から自分のそういう部分に弱いことは知っている。 その気持ちを利用したようなものだ。
「クリームね……まだ、ついてる……」
何とか囁くように声を絞り出すと、祐真は「ごめん」と心で唱えながら一度だけそっとクリームを食べた唇にキスをした。一瞬だったが、とても甘く感じられた。
「初めてがゆうとか……」
小さな声で稀斗が呟くのが聞こえた。祐真は自分の顔から火が出そうな気がした。その後は何を喋ったのかあまり覚えていない。
稀斗とキスをした。稀斗は困っていたけれども怒らなかった。それが祐真の頭の中の大半を占めていた。
自分の家に帰ってからも祐真はひたすらぼんやりしていて、親に笑われた。夕飯を食べ、風呂に入り、自分の部屋でごろりとベッドに横になってからもずっと頭の中は稀斗のことばかりだった。
きぃとキスした。大好きなきぃと。
ほんとに軽くだったけど、きぃとキスを……。
改めて思い出し、祐真はまた自分の顔が熱くなるのがわかった。稀斗が困り、そして多分嫌な気持ちになっているだろうこともわかっている。それなのに自分は稀斗とキスをした事実が嬉しくてならない。
……俺、ほんと嫌なやつ。
少しだけ自己嫌悪に陥りつつも、でもあの感覚と経験が幸せすぎて、ともすれば顔が緩みそうになった。
しかもきぃの初めてもらった……!
祐真の胸がきゅう、と締めつけられる。もらったというよりは奪ったようなものだと心の中で訂正してみるが、余計に変な部分が滾るだけだった。
ごめんね、きぃ。
その夜、祐真は初めて稀斗で抜いた。
翌日、祐真は少し緊張気味で学校に登校した。だけれども稀斗はいつものように少しぶっきらぼうのまま「おはよう」と言ってきてくれる。
「お、おはよーきぃ!」
いつも以上に嬉しくなり、祐真はニッコリと挨拶しながら稀斗の後ろの席に駆けつけた。休み時間等も稀斗はいつもと変わらなかった。
怒ってないのかな。
大丈夫なのかな。
……もしかしてキスくらいなら許してくれるってことなのかな。
祐真はそわそわと思う。昔から人に好かれやすいのをいいことに、いけそうなら進めてしまえみたいなところがあるのは自分でも自覚はある。それは内容や状況によってはいいことかもしれないしよくないことかもしれない。少なくとも今の稀斗にとっては迷惑なことなのだろうなとも思う。
でもごめんね、きぃ。俺、一方的でもいいからきぃから貰えるものはどれも欲しい。
稀斗からの「美味しい」という言葉だけでも幸せだったが、軽くでもキスを味わってしまったら今度はもっとちゃんと唇を合わせたキスがしたくなる。
「……ぼんやりして何考えてんだよ」
目の前の稀斗が呆れたような顔を向けてきていた。
「きぃが好きってことかな」
「……お前なー……」
へらりと笑って答えるとさらに呆れたようにため息をつかれた。
「何なにー! おやつ計画? だったら俺もいれてくれよ」
そこに向こうで別のクラスメイトと喋っていた基治がやってきて稀斗の後ろから抱きつく。
「重いしうざい!」
「もっきー! きぃは俺のだからそーゆーの、駄目って言った!」
「いや、お前こそ、それやめろ……! 俺はお前のもんでもない……!」
「えぇ! だったら俺がきぃのものでもいいよ」
「何言ってんだよ、いらん」
「ええ」
「えー、じゃあ俺もらうもらう! 早川くれ。そんで毎日甘いもの作ってもらう」
「嫌だよ俺あげないよ!」
「つかほんと何言ってんだよ」
むぅっとなって祐真がとりあえず稀斗から基治を引き離す前に、呆れた稀斗が基治を投げ捨てるように引き剥がしていた。
「冷たい折山」
「うるさい、猿」
「猿じゃねえよ! たっぷり生クリーム入りのバナナケーキは好きだけど、別に猿じゃねえ」
「うるさい、小猿」
「何かさらに落とされた感……!」
偶然たまたまだろうけれども、まるで自分をもらうと言った基治に対してムッとしてくれているように勝手に思えて、祐真は何となくテンションがあがった。しかし後で誰もいない時に祐真が稀斗に「俺とられるから怒ってくれたの?」と聞くと、わかってはいたが「は?」と心底鬱陶しそうな返事が返ってきた。それでも今やそんな稀斗の表情ですら祐真にとっては愛おしい。どうにも抑えられずぎゅっと抱きついてとりあえず頬にキスをすると殴られた。
「お前な! 気持ちに答えられないっつってんのにほんっと遠慮ねえな……! ったく、せめて学校では絶対やめろ! いいな!」
学校、では。
祐真は都合よく解釈をした。
「うん」
快く頷くとニッコリと稀斗を見た。
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