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5話
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初めは不服だったため、勝手に家庭教師を呼んだ親に文句を言ったり直接先生にも自分でできるから必要ないと言った。だが家庭教師として来てくれた恵はいつも一生懸命に教えてくれる。
「何で先生はそんな風に教えてくれるんですか」
思わず聖恒が聞けばポカンとしながら「これが俺の仕事だよ」と当たり前のように言われた。仕事だから懸命に教えるというのは当たり前。聖恒にとってそれはとても誠意のあることに思える。それを何となく最近よく話しかけられていた子に言えば「あたしだったら仕事だからなんて言わずに君が教えたくなる子だからだよとか言われたいな」とニコニコされた。
「家庭教師として来てもらってる相手に何でそーなるんだ」
後で微妙な気持ちを隠さず真和に言えば笑われる。
「でもほら、やっぱお前と違って俺や他の子はカテキョに夢抱いてんだよ」
「……えー」
「でもカテキョとは絶対恋愛しないとかそんなルールお前にあるんじゃねぇんだろ? まあそりゃ今回は男だけど」
「そりゃないけど。つか俺が言いたいのはさ、そりゃもし家庭教師であれ好きになったり恋愛しだしたら別だけどさ、何で最初からそういう媚び目線なんだっていう――」
「夢見る女の子って感じでかわいいじゃんか。かわいい子はまだいいよ。大抵の女子はマジこえぇからな。あー、やっぱ何よりなのは大人の女だよな」
聖恒が言いかけていると、真和がそれこそ夢見るかのように頬を染めつつ両手を両頬に添える。何だそのポーズは、と聖恒は真和を微妙な顔で見た。
「かわいい? 顔はそりゃかわいかったけど」
「くそ。何できょーにばっかチャンス巡って俺にはねぇんだよ?」
「今の流れでどこから俺に何のチャンスがあると思ったんだよ? だいたい俺、その子に何の興味もないし、きっとその子もお前が言うこえぇって部類だよ」
「お前ってやつは……!」
今度は真和から微妙な顔された。聖恒からすれば真和のほうが「お前ってやつは」だと思う。
女子がこえぇとか言うくせに懲りねーやつ。
プッと笑うと「今絶対俺見て笑っただろ!」と即、言われた。
恵が教えてくれる時間は一日九十分だけだ。学校の授業だと六十分ですらとても長く感じるのに、家庭教師との時間はあっという間に過ぎていく。その時間、恵はとても親身になって教えてくれる。聖恒のために何ができるかを一番に考えてくれているのが凄くわかる。
自分でできるから必要ないと言った自分が、聖恒は今とても恥ずかしいと思っている。とはいえ一度言った言葉は取り消せない。その分自分にできることは真面目に勉強を教わることだろうと今まで以上に必死で教えてもらった。
もちろん今ではこの先生になら教わりたいと受け入れている。まるで二人目の兄ができたような気持にさえなっていた。結構自分はチョロいのかもしれない。
「そういえば先生って休みの日何してるんですか?」
今日はここまで、と言われてお互いノートや参考書などを片付けている時、聖恒は聞いてみた。ちょっとした世間話というのではなく、普通に興味を持ったのだ。
「俺? 俺はそうだな、最近はドライブかな。ずっと欲しかった車をやっと買えたんだ。だから嬉しくってつい」
ポカンとした後で恵は嬉しそうに話してくれた。
車を買う。何というか、一気に目の前の相手が大人のような気がした。確か年齢的にはそんなに変わらなかったはずなのにと聖恒が思っていると「聖恒くんは?」と聞かれる。
「俺は友だちと遊ぶことが多いですよ」
「へえ。君は友だちが多そうだもんね」
「そう見えますか? でもそうでもないですよ」
実際そんなに多くない。恵は自分のことを見た目通りの性格だと思っているのだろうなと聖恒は思った。ふわふわした柔らかく明るく人懐こい性格、といったところだろうか。
本当はもっと冷めていてあまり性格よくないのだという中身を知ったらどう思うのだろうかと聖恒はそっと考えた。普段は別に誰にどう思われようが気にしない。だが何となく恵には自分の中身を知られたくないなと思った。
「……先生」
「何?」
「その車に俺、乗せてくださいよ」
「君を?」
恵はまたポカンとした顔で見てきた。
「駄目ですか?」
家庭教師をしている生徒と休みに会う自体、迷惑だと思われるだろうか。それでも断られたらショックだなと聖恒が思っていると、恵はあっさり「いいよ」と答えてくれた。それが何故かとても嬉しくて、聖恒はニッコリ微笑む。
「やった」
「どうしようか、次の日曜で構わない?」
「はい」
「じゃ、次の日曜に迎えに来るよ」
聖恒がニコニコしていると恵は苦笑しながら聖恒の頭をポン、と撫でた。そんな何気ないことが嬉しいと思った。
恵が帰った後、夕食と風呂を済ませてから自分の部屋で恵に今日教えてもらったところをざっと復習がてら、解き直す。それらはやったばかりというのもあるかもしれないが、面白いように解けていく。
しばらく勉強した後に聖恒はベッドへ横になった。
「……車、かー」
車自体にはさほど興味ない。ただ恵が運転しているところは見てみたいなと思った。多分格好いいだろう。家庭教師だし男だしで全然顔にも関心はなかったが、実際のところ恵は整った綺麗な顔立ちをしている。黒い髪がサラサラとしているところは恵の顔や印象にもぴったりだ。
……あれはモテるだろーな。
兄である遥希は聖恒と違って父親似の男らしい顔立ちだ。兄弟なので似ているところもあるらしいが、聖恒にはどこらへんが似ているのかわからない。
兄さんもモテるけど、先生は兄さんとは全然タイプの違うイケメンだよな。それに二人ともすげー頭いい。
本当の兄にしても、第二の兄のように思っている人も聖恒が誇らしくなるような人たちだと思うとなんだか嬉しくなる。自分も見習いたいと思いつつ、次の休みに恵とドライブに行くことが改めて頭に浮かび、聖恒は満足げに目を閉じた。
「何で先生はそんな風に教えてくれるんですか」
思わず聖恒が聞けばポカンとしながら「これが俺の仕事だよ」と当たり前のように言われた。仕事だから懸命に教えるというのは当たり前。聖恒にとってそれはとても誠意のあることに思える。それを何となく最近よく話しかけられていた子に言えば「あたしだったら仕事だからなんて言わずに君が教えたくなる子だからだよとか言われたいな」とニコニコされた。
「家庭教師として来てもらってる相手に何でそーなるんだ」
後で微妙な気持ちを隠さず真和に言えば笑われる。
「でもほら、やっぱお前と違って俺や他の子はカテキョに夢抱いてんだよ」
「……えー」
「でもカテキョとは絶対恋愛しないとかそんなルールお前にあるんじゃねぇんだろ? まあそりゃ今回は男だけど」
「そりゃないけど。つか俺が言いたいのはさ、そりゃもし家庭教師であれ好きになったり恋愛しだしたら別だけどさ、何で最初からそういう媚び目線なんだっていう――」
「夢見る女の子って感じでかわいいじゃんか。かわいい子はまだいいよ。大抵の女子はマジこえぇからな。あー、やっぱ何よりなのは大人の女だよな」
聖恒が言いかけていると、真和がそれこそ夢見るかのように頬を染めつつ両手を両頬に添える。何だそのポーズは、と聖恒は真和を微妙な顔で見た。
「かわいい? 顔はそりゃかわいかったけど」
「くそ。何できょーにばっかチャンス巡って俺にはねぇんだよ?」
「今の流れでどこから俺に何のチャンスがあると思ったんだよ? だいたい俺、その子に何の興味もないし、きっとその子もお前が言うこえぇって部類だよ」
「お前ってやつは……!」
今度は真和から微妙な顔された。聖恒からすれば真和のほうが「お前ってやつは」だと思う。
女子がこえぇとか言うくせに懲りねーやつ。
プッと笑うと「今絶対俺見て笑っただろ!」と即、言われた。
恵が教えてくれる時間は一日九十分だけだ。学校の授業だと六十分ですらとても長く感じるのに、家庭教師との時間はあっという間に過ぎていく。その時間、恵はとても親身になって教えてくれる。聖恒のために何ができるかを一番に考えてくれているのが凄くわかる。
自分でできるから必要ないと言った自分が、聖恒は今とても恥ずかしいと思っている。とはいえ一度言った言葉は取り消せない。その分自分にできることは真面目に勉強を教わることだろうと今まで以上に必死で教えてもらった。
もちろん今ではこの先生になら教わりたいと受け入れている。まるで二人目の兄ができたような気持にさえなっていた。結構自分はチョロいのかもしれない。
「そういえば先生って休みの日何してるんですか?」
今日はここまで、と言われてお互いノートや参考書などを片付けている時、聖恒は聞いてみた。ちょっとした世間話というのではなく、普通に興味を持ったのだ。
「俺? 俺はそうだな、最近はドライブかな。ずっと欲しかった車をやっと買えたんだ。だから嬉しくってつい」
ポカンとした後で恵は嬉しそうに話してくれた。
車を買う。何というか、一気に目の前の相手が大人のような気がした。確か年齢的にはそんなに変わらなかったはずなのにと聖恒が思っていると「聖恒くんは?」と聞かれる。
「俺は友だちと遊ぶことが多いですよ」
「へえ。君は友だちが多そうだもんね」
「そう見えますか? でもそうでもないですよ」
実際そんなに多くない。恵は自分のことを見た目通りの性格だと思っているのだろうなと聖恒は思った。ふわふわした柔らかく明るく人懐こい性格、といったところだろうか。
本当はもっと冷めていてあまり性格よくないのだという中身を知ったらどう思うのだろうかと聖恒はそっと考えた。普段は別に誰にどう思われようが気にしない。だが何となく恵には自分の中身を知られたくないなと思った。
「……先生」
「何?」
「その車に俺、乗せてくださいよ」
「君を?」
恵はまたポカンとした顔で見てきた。
「駄目ですか?」
家庭教師をしている生徒と休みに会う自体、迷惑だと思われるだろうか。それでも断られたらショックだなと聖恒が思っていると、恵はあっさり「いいよ」と答えてくれた。それが何故かとても嬉しくて、聖恒はニッコリ微笑む。
「やった」
「どうしようか、次の日曜で構わない?」
「はい」
「じゃ、次の日曜に迎えに来るよ」
聖恒がニコニコしていると恵は苦笑しながら聖恒の頭をポン、と撫でた。そんな何気ないことが嬉しいと思った。
恵が帰った後、夕食と風呂を済ませてから自分の部屋で恵に今日教えてもらったところをざっと復習がてら、解き直す。それらはやったばかりというのもあるかもしれないが、面白いように解けていく。
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「……車、かー」
車自体にはさほど興味ない。ただ恵が運転しているところは見てみたいなと思った。多分格好いいだろう。家庭教師だし男だしで全然顔にも関心はなかったが、実際のところ恵は整った綺麗な顔立ちをしている。黒い髪がサラサラとしているところは恵の顔や印象にもぴったりだ。
……あれはモテるだろーな。
兄である遥希は聖恒と違って父親似の男らしい顔立ちだ。兄弟なので似ているところもあるらしいが、聖恒にはどこらへんが似ているのかわからない。
兄さんもモテるけど、先生は兄さんとは全然タイプの違うイケメンだよな。それに二人ともすげー頭いい。
本当の兄にしても、第二の兄のように思っている人も聖恒が誇らしくなるような人たちだと思うとなんだか嬉しくなる。自分も見習いたいと思いつつ、次の休みに恵とドライブに行くことが改めて頭に浮かび、聖恒は満足げに目を閉じた。
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