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7話
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車を運転している恵を見ているとテンションがふわふわ上がっているのが自分でも分かった。聖恒はそんな気持ちを隠すことなく恵に話しかける。こうやって休みの日にドライブにまで連れて行ってもらえて、恵とは前よりずっと仲よくなれた気もした。
最初の頃とはえらい変わりようだと自分でも思う。もっと仲よくなりたいと思い、あだ名で呼んで欲しいと告げ、自分もあだ名で呼んでみる。運転しながら恵はとても微妙な反応を見せてきた。それすら楽しくて嬉しくて、聖恒はニコニコする。
「めぐちゃん先生。これでいいですか?」
「……きよ、ちゃんはやめてくれ。だいたい君はくんづけを嫌がったくせに」
きよ、と呼んでくれたことに、内心喜んだ。
「ちゃんと先生ってつけましたよ」
嬉しさが隠せずに相変わらずニコニコしながら言うと苦笑された。
「……ちゃん、も辛うじて敬称扱いしたら、ちゃんと先生が一緒っておかしいの、わかるだろ」
「そんなの、俺気になりません」
「全く」
恵は折れてくれたのか、笑ってくれた。
別にどこへ行きたいというのはなかった。だから恵が「そういえば勝手に運転してるけど……行きたいところ、あった?」と聞いてくると「いえ、俺はめぐちゃんの運転してる車に乗せてもらいたかっただけなので」と答えた。先生すら外して名前を呼んでみたが、恵は文句を言ってこなかった。前を見て運転したまま「そっか」とだけ返ってくる。
そんな感じがまた嬉しい。名前呼びを受け入れてくれている感じだけじゃなく、媚びてこない感じというのだろうか。そういうところがいいなと思った。そしてそう思った後で内心苦笑する。家庭教師とはいえ先生と生徒の、しかも男同士という関係で媚びもへったくれもあるか、と。
その日は特にどこで何をするというのはなかった。恵が「何となくたまに来たくなるんだ」と連れてきてくれたところは郊外にある大きな公園だった。博物館や食事するところもあり、普段友人とは過ごすことのないゆったりとした時間を聖恒は過ごした。
この初夏の時期は緑がとても綺麗で、普段特に興味ない聖恒も何となく気持ちいい。遅めの昼食をそこで食べたが美味しかった。五穀米などが使われているようなヘルシーを意識した、だけれども今時風というよりは素朴な料理は嫌いではなかった。もちろん普段友人と食べるようなファーストフードも好きだ。
「めぐちゃんってヘルシー思考なんですか?」
「あー」
恵は言われた後、一瞬きょとんとした後に笑ってきた。
「違う。美味しかったら何でもいい」
笑うといっても控えめな笑顔だ。それとともにくれた答えがさっぱりしていて、聖恒もニッコリした。
「俺もです」
「でもきよはかわいいものが好きだろ、食べ物も」
「食うのに別にそんなにかわいさは求めてませんよ。まあでも店の雰囲気がかわいいのは好きですが」
「ここはシンプルだもんな。次はじゃあかわいいお店……って言いたいところだけど、それは女の子と行ってくれ、俺にはハードル高い」
「別に行きたいんじゃないですよ」
聖恒はまた笑う。また次があるのだと思わせてくれる言葉が嬉しかった。
そういえば、気づけば聖恒は恵のたまに見せる表情がかわいいなあと感じることが最近ある。それが見たくて、わざとからかってみたりした。すると微妙な顔される。
「からかってるのか?」
「まさか。……ああ、はい。めぐちゃんの反応が見たかったんです。ごめんなさい」
「素直に謝ってきたから許してあげよう」
恵は微笑みながら聖恒の頭をポンと撫でてきた。普段勉強の成果を褒めてくれる時も時折こうして頭を撫でてくれる。それが嬉しくて温かく感じる。
「俺、めぐちゃんに頭撫でられるの好きかも」
「きよは変わってるな」
「何で」
「普通うざがられるだろ」
「そうなの? じゃあめぐちゃんはうざがられるために撫でてくるんです?」
「まさか」
恵が苦笑しながら首をゆるゆると振った。聖恒は鬱陶しく思う人がもしいるのだとしたら、それはとても勿体ないことだなとそっと思った。
「きょー、今日お前んち行っていい? つーか、泊めて?」
家庭教師の日に真和が言ってきた。聖恒は即答する。
「無理。今日は先生来るし。別の日は? 明日なら大丈夫」
「マジでー」
真和がショックを受けたような顔してくる。たかが幼馴染みの家に泊まるくらいで大げさ過ぎる、と聖恒は首を傾げた。
「何かあるの?」
「利麻が友だち家に連れてくるらしくって。泊まるかもしんないって。だからお前んちに逃げたい。だって利麻の女友達こえーもん」
「あー」
真和は女子が好きなくせに女子が怖いという面倒くさいやつだった、と聖恒は苦笑する。
「あ、じゃあさ、お前がカテキョと勉強してる間、おれお前のおばちゃんといる。つかお前のおばちゃんに会いに行くわ、お前のおばちゃんとおしゃべりしたい」
「……楽しいのか? それ」
「……あいつらより楽しい」
聖恒が微妙な顔で聞くと真和は顔を両手で覆って嘆くように呟く。その様子は哀れと言えばいいのか、滑稽と言えばいいのか。
どうやら過去に利麻やその友だちにこき使われたことがトラウマらしい。仕方ないとばかりに聖恒は真和と帰宅した。
「お帰りなさい。あら、まさくんじゃないの」
母親がニコニコ真和を見る。かわいいものが好きな母親は真和や利麻も好きなようだ。ただし大人なので利麻のように真和が怯えるような扱いはしない。真和は挨拶しながら笑顔で泊まることを母親に宣言していた。
「美人なおばちゃんと沢山おしゃべりしたくて」
調子のいい真和の言葉に、母親は嬉しそうにニコニコし続けている。それを聖恒が生ぬるい目で見ていると玄関のチャイムが鳴った。途端に聖恒はいそいそと玄関のドアを開けに向かった。
最初の頃とはえらい変わりようだと自分でも思う。もっと仲よくなりたいと思い、あだ名で呼んで欲しいと告げ、自分もあだ名で呼んでみる。運転しながら恵はとても微妙な反応を見せてきた。それすら楽しくて嬉しくて、聖恒はニコニコする。
「めぐちゃん先生。これでいいですか?」
「……きよ、ちゃんはやめてくれ。だいたい君はくんづけを嫌がったくせに」
きよ、と呼んでくれたことに、内心喜んだ。
「ちゃんと先生ってつけましたよ」
嬉しさが隠せずに相変わらずニコニコしながら言うと苦笑された。
「……ちゃん、も辛うじて敬称扱いしたら、ちゃんと先生が一緒っておかしいの、わかるだろ」
「そんなの、俺気になりません」
「全く」
恵は折れてくれたのか、笑ってくれた。
別にどこへ行きたいというのはなかった。だから恵が「そういえば勝手に運転してるけど……行きたいところ、あった?」と聞いてくると「いえ、俺はめぐちゃんの運転してる車に乗せてもらいたかっただけなので」と答えた。先生すら外して名前を呼んでみたが、恵は文句を言ってこなかった。前を見て運転したまま「そっか」とだけ返ってくる。
そんな感じがまた嬉しい。名前呼びを受け入れてくれている感じだけじゃなく、媚びてこない感じというのだろうか。そういうところがいいなと思った。そしてそう思った後で内心苦笑する。家庭教師とはいえ先生と生徒の、しかも男同士という関係で媚びもへったくれもあるか、と。
その日は特にどこで何をするというのはなかった。恵が「何となくたまに来たくなるんだ」と連れてきてくれたところは郊外にある大きな公園だった。博物館や食事するところもあり、普段友人とは過ごすことのないゆったりとした時間を聖恒は過ごした。
この初夏の時期は緑がとても綺麗で、普段特に興味ない聖恒も何となく気持ちいい。遅めの昼食をそこで食べたが美味しかった。五穀米などが使われているようなヘルシーを意識した、だけれども今時風というよりは素朴な料理は嫌いではなかった。もちろん普段友人と食べるようなファーストフードも好きだ。
「めぐちゃんってヘルシー思考なんですか?」
「あー」
恵は言われた後、一瞬きょとんとした後に笑ってきた。
「違う。美味しかったら何でもいい」
笑うといっても控えめな笑顔だ。それとともにくれた答えがさっぱりしていて、聖恒もニッコリした。
「俺もです」
「でもきよはかわいいものが好きだろ、食べ物も」
「食うのに別にそんなにかわいさは求めてませんよ。まあでも店の雰囲気がかわいいのは好きですが」
「ここはシンプルだもんな。次はじゃあかわいいお店……って言いたいところだけど、それは女の子と行ってくれ、俺にはハードル高い」
「別に行きたいんじゃないですよ」
聖恒はまた笑う。また次があるのだと思わせてくれる言葉が嬉しかった。
そういえば、気づけば聖恒は恵のたまに見せる表情がかわいいなあと感じることが最近ある。それが見たくて、わざとからかってみたりした。すると微妙な顔される。
「からかってるのか?」
「まさか。……ああ、はい。めぐちゃんの反応が見たかったんです。ごめんなさい」
「素直に謝ってきたから許してあげよう」
恵は微笑みながら聖恒の頭をポンと撫でてきた。普段勉強の成果を褒めてくれる時も時折こうして頭を撫でてくれる。それが嬉しくて温かく感じる。
「俺、めぐちゃんに頭撫でられるの好きかも」
「きよは変わってるな」
「何で」
「普通うざがられるだろ」
「そうなの? じゃあめぐちゃんはうざがられるために撫でてくるんです?」
「まさか」
恵が苦笑しながら首をゆるゆると振った。聖恒は鬱陶しく思う人がもしいるのだとしたら、それはとても勿体ないことだなとそっと思った。
「きょー、今日お前んち行っていい? つーか、泊めて?」
家庭教師の日に真和が言ってきた。聖恒は即答する。
「無理。今日は先生来るし。別の日は? 明日なら大丈夫」
「マジでー」
真和がショックを受けたような顔してくる。たかが幼馴染みの家に泊まるくらいで大げさ過ぎる、と聖恒は首を傾げた。
「何かあるの?」
「利麻が友だち家に連れてくるらしくって。泊まるかもしんないって。だからお前んちに逃げたい。だって利麻の女友達こえーもん」
「あー」
真和は女子が好きなくせに女子が怖いという面倒くさいやつだった、と聖恒は苦笑する。
「あ、じゃあさ、お前がカテキョと勉強してる間、おれお前のおばちゃんといる。つかお前のおばちゃんに会いに行くわ、お前のおばちゃんとおしゃべりしたい」
「……楽しいのか? それ」
「……あいつらより楽しい」
聖恒が微妙な顔で聞くと真和は顔を両手で覆って嘆くように呟く。その様子は哀れと言えばいいのか、滑稽と言えばいいのか。
どうやら過去に利麻やその友だちにこき使われたことがトラウマらしい。仕方ないとばかりに聖恒は真和と帰宅した。
「お帰りなさい。あら、まさくんじゃないの」
母親がニコニコ真和を見る。かわいいものが好きな母親は真和や利麻も好きなようだ。ただし大人なので利麻のように真和が怯えるような扱いはしない。真和は挨拶しながら笑顔で泊まることを母親に宣言していた。
「美人なおばちゃんと沢山おしゃべりしたくて」
調子のいい真和の言葉に、母親は嬉しそうにニコニコし続けている。それを聖恒が生ぬるい目で見ていると玄関のチャイムが鳴った。途端に聖恒はいそいそと玄関のドアを開けに向かった。
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