ホンモノの恋

Guidepost

文字の大きさ
7 / 45

7話

しおりを挟む
 車を運転している恵を見ているとテンションがふわふわ上がっているのが自分でも分かった。聖恒はそんな気持ちを隠すことなく恵に話しかける。こうやって休みの日にドライブにまで連れて行ってもらえて、恵とは前よりずっと仲よくなれた気もした。
 最初の頃とはえらい変わりようだと自分でも思う。もっと仲よくなりたいと思い、あだ名で呼んで欲しいと告げ、自分もあだ名で呼んでみる。運転しながら恵はとても微妙な反応を見せてきた。それすら楽しくて嬉しくて、聖恒はニコニコする。

「めぐちゃん先生。これでいいですか?」
「……きよ、ちゃんはやめてくれ。だいたい君はくんづけを嫌がったくせに」

 きよ、と呼んでくれたことに、内心喜んだ。

「ちゃんと先生ってつけましたよ」

 嬉しさが隠せずに相変わらずニコニコしながら言うと苦笑された。 

「……ちゃん、も辛うじて敬称扱いしたら、ちゃんと先生が一緒っておかしいの、わかるだろ」
「そんなの、俺気になりません」
「全く」

 恵は折れてくれたのか、笑ってくれた。
 別にどこへ行きたいというのはなかった。だから恵が「そういえば勝手に運転してるけど……行きたいところ、あった?」と聞いてくると「いえ、俺はめぐちゃんの運転してる車に乗せてもらいたかっただけなので」と答えた。先生すら外して名前を呼んでみたが、恵は文句を言ってこなかった。前を見て運転したまま「そっか」とだけ返ってくる。
 そんな感じがまた嬉しい。名前呼びを受け入れてくれている感じだけじゃなく、媚びてこない感じというのだろうか。そういうところがいいなと思った。そしてそう思った後で内心苦笑する。家庭教師とはいえ先生と生徒の、しかも男同士という関係で媚びもへったくれもあるか、と。
 その日は特にどこで何をするというのはなかった。恵が「何となくたまに来たくなるんだ」と連れてきてくれたところは郊外にある大きな公園だった。博物館や食事するところもあり、普段友人とは過ごすことのないゆったりとした時間を聖恒は過ごした。
 この初夏の時期は緑がとても綺麗で、普段特に興味ない聖恒も何となく気持ちいい。遅めの昼食をそこで食べたが美味しかった。五穀米などが使われているようなヘルシーを意識した、だけれども今時風というよりは素朴な料理は嫌いではなかった。もちろん普段友人と食べるようなファーストフードも好きだ。

「めぐちゃんってヘルシー思考なんですか?」
「あー」

 恵は言われた後、一瞬きょとんとした後に笑ってきた。

「違う。美味しかったら何でもいい」

 笑うといっても控えめな笑顔だ。それとともにくれた答えがさっぱりしていて、聖恒もニッコリした。

「俺もです」
「でもきよはかわいいものが好きだろ、食べ物も」
「食うのに別にそんなにかわいさは求めてませんよ。まあでも店の雰囲気がかわいいのは好きですが」
「ここはシンプルだもんな。次はじゃあかわいいお店……って言いたいところだけど、それは女の子と行ってくれ、俺にはハードル高い」
「別に行きたいんじゃないですよ」

 聖恒はまた笑う。また次があるのだと思わせてくれる言葉が嬉しかった。
 そういえば、気づけば聖恒は恵のたまに見せる表情がかわいいなあと感じることが最近ある。それが見たくて、わざとからかってみたりした。すると微妙な顔される。

「からかってるのか?」
「まさか。……ああ、はい。めぐちゃんの反応が見たかったんです。ごめんなさい」
「素直に謝ってきたから許してあげよう」

 恵は微笑みながら聖恒の頭をポンと撫でてきた。普段勉強の成果を褒めてくれる時も時折こうして頭を撫でてくれる。それが嬉しくて温かく感じる。

「俺、めぐちゃんに頭撫でられるの好きかも」
「きよは変わってるな」
「何で」
「普通うざがられるだろ」
「そうなの? じゃあめぐちゃんはうざがられるために撫でてくるんです?」
「まさか」

 恵が苦笑しながら首をゆるゆると振った。聖恒は鬱陶しく思う人がもしいるのだとしたら、それはとても勿体ないことだなとそっと思った。

「きょー、今日お前んち行っていい? つーか、泊めて?」

 家庭教師の日に真和が言ってきた。聖恒は即答する。

「無理。今日は先生来るし。別の日は? 明日なら大丈夫」
「マジでー」

 真和がショックを受けたような顔してくる。たかが幼馴染みの家に泊まるくらいで大げさ過ぎる、と聖恒は首を傾げた。

「何かあるの?」
「利麻が友だち家に連れてくるらしくって。泊まるかもしんないって。だからお前んちに逃げたい。だって利麻の女友達こえーもん」
「あー」

 真和は女子が好きなくせに女子が怖いという面倒くさいやつだった、と聖恒は苦笑する。

「あ、じゃあさ、お前がカテキョと勉強してる間、おれお前のおばちゃんといる。つかお前のおばちゃんに会いに行くわ、お前のおばちゃんとおしゃべりしたい」
「……楽しいのか? それ」
「……あいつらより楽しい」

 聖恒が微妙な顔で聞くと真和は顔を両手で覆って嘆くように呟く。その様子は哀れと言えばいいのか、滑稽と言えばいいのか。
 どうやら過去に利麻やその友だちにこき使われたことがトラウマらしい。仕方ないとばかりに聖恒は真和と帰宅した。

「お帰りなさい。あら、まさくんじゃないの」

 母親がニコニコ真和を見る。かわいいものが好きな母親は真和や利麻も好きなようだ。ただし大人なので利麻のように真和が怯えるような扱いはしない。真和は挨拶しながら笑顔で泊まることを母親に宣言していた。

「美人なおばちゃんと沢山おしゃべりしたくて」

 調子のいい真和の言葉に、母親は嬉しそうにニコニコし続けている。それを聖恒が生ぬるい目で見ていると玄関のチャイムが鳴った。途端に聖恒はいそいそと玄関のドアを開けに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...