ホンモノの恋

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13話

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 あの時、恵の様子はおかしかった。目を逸らしてくるなんて、いつもの恵らしくない。しかも顔が赤いように見えた。
 具合が悪いのかと最初は思ったが、そういうわけでもなさそうで、かといって様子が少しおかしいのも気のせいではないように思う。
 聖恒は恵の顔をよく見ようとした。すると恵が聖恒を見てきて、見つめ合うような状態になる。だが恐らくすぐに恵の携帯が鳴り、ハッとした恵はその後すぐ帰っていった。
 恵が帰った後、しばらく聖恒はボーッとしていた。そろそろ本格的に夏になりそうで、窓を開けていても時折じっとりとした汗を感じる。それにも構わず、聖恒はぼんやりしながら考えていた。
 顔が吸い寄せられるような気がして、少し混乱にも似た気持ちになっていたが、間違いなくあのままだとキスしていた。
 この前に恵のことが好きなのだろうかと思い至ったが、確証していたのではない。だってそうだろう、と聖恒は自分で自分に問いかけた。
 男なのだ。相手は、男。普通に考えたら無理だ。気持ちもかなり落ち込む。今まで好きかもしれないと思った相手はことごとく女だったし、自分の性癖を疑ったことはない。間違いなく女が好きだ。それもほわほわとしたような、例えば砂糖菓子やミルクティーのような甘く優しい感じの漂うかわいい、いかにも女の子といった子がタイプなのだ。
 恵はどう見てもミルクティーのようには見られない。聖恒より少し背が高くて、物静かで、あえて言うなら凛とした美形だ。紅茶でいうならミントティー、いや、でも癒される感じはあるしカモミールティーだろうか。少なくともミルクは合わない感じだ。
 それなのに、かわいくて仕方ないとさえ思えた。自分よりも年上の男性に対し、無理だと自分の気持ちを嫌悪するどころか、ただ相手のことをかわいいと思うなんてどう考えてもおかしいかもしれない。
 あの時、目を逸らしていた恵はやはり間違いなく赤くなっていたし具合が悪いわけでもなさそうだった。これに関しては恐らくとしか言えないし勘違いかもしれない。だが、必死になって赤くなった顔を隠しているように思えた。そう思うと、年上だろうが男だろうが背が自分よりもあろうが、とてもかわいくて堪らなかった。

 こんなの……気持ち確かめる云々もない。

 本当は今度の「デート」の時にちゃんと自分の気持ちを確かめるつもりだった。もしかして、という考えを勘違いだったのか間違いなかったのかハッキリさせるつもりだった。

「……こんなの……間違いなさ過ぎだろ」

 思わず呟く。赤く見えた恵の表情を思い出すと自分まで赤くなりそうだった。いや、もうなっている気がする。顔が熱い。
 ただ、わかったところでどうしていいのか、いまいちわからない。普通に進めていいのだろうかと思う。
 恵の反応を見ていたら、可能性がなくもない気がしている。とはいえそれこそ確証があるわけではない。
 そういえば恵が今、誰かとつき合っているかどうかの話すらしたことがなかったといまさらながらに気づいた。何となく少なくとも今はいないような気がしているのだが、それも確証はない。

 ……今までにはもちろん、誰かとつき合ったことはあるよな。

 そしてその相手は女だろうと聖恒はベッドの上に転がりながら思った。
 過去のことに嫉妬することはない。聖恒自身も彼女がいたことはあるし、セックスの経験だってある。ただ、今は誰もいなければいいなということと、恐らく恵もセックスの経験くらいあるだろうが、それでも聖恒に可能性はあるだろうかということがひたすら気になる。

 あ、ちょっと、待て。

 好きだとハッキリした途端に想像もしくは妄想を暴走させつつあるが、そこでふと暴走の延長で気づいたことがある。つき合えるかどうかすらわからないというのに気になったのは、自分と恵がもしセックスすることになればどっちなのだということだ。そもそも、自分もいくら好きでも男とどうこうできるのだろうかと聖恒は微妙な気持ちになった。
 あの恵と……と少し想像してみる。

「あ、やべぇわ……」

 先ほど赤くなっていたであろう顔色は恐らく一旦普通に戻っていただろうが、今は間違いなく完全に赤くなっている気、しかしない。
 好きになった欲目というか偏見というか何だろうか。今や年上で背も自分よりある、男である恵がかわいくしか見えない。もしくは美人でそして多分、エロい。

「俺……絶対何でもできるし、してあげたい」

 寝転がりながら聖恒は顔を手で覆った。まるで童貞にでもなったような気持ちだ。とてつもなく恥ずかしくて、そしてドキドキする。
 このまま部屋に籠っていると精神上よくないとばかりに、聖恒はガバリと起き上がり部屋を出た。下へ降りると母親に「丁度もうすぐご飯」と言われる。

「先に風呂入る」
「今お湯ないかも」
「シャワーでいいよ」

 スッキリできれば何でもよかった。それならいっそ抜けばいいのかもしれないが、抜いていいのかどうかわからなかった。何だろうか、いいかどうかわからないというか、恵に申し訳ないというか。

「……めぐちゃん、何か、ごめんなさい」

 シャワーを浴びながらそっと謝っておいた。改めてまるで自分が童貞になったような気持ちになり、シャワーを浴びてスッキリした後に微妙な顔になった。

「そういえばお兄ちゃんが今度聖恒に勉強教えてくれるって言ってたわよ」

 食事中、母親がふと思い出したように言ってきた。

「えっ? 嘘、マジ? あー……でも俺、先生いるしなぁ……。兄さんいつ言ってた?」

一瞬目をキラキラとさせた後にゆるゆると首を振る。母親は人差し指を唇に押し当てて少し考えるとニッコリ笑いかけてきた。

「先生が教えに来てくださる前だったかな」
「いまさらかよ……!」
「聖恒が教えていらないって言ってたって今度答えておくわね」
「は? やめてくれよ!」

 微妙にずれてくる母親に対し、父親は参戦してくれない。ただ、時折母親を見る目に生温さなどなく慈しみに溢れている気がしたので、聖恒は改めて母親が絡んだ父親は頼りにならないと心の中で頷いた。

「にしてもあんなに家庭教師来るの、文句言ってたくせに」

 ふふん、といった様子で今度は笑ってくる母親に、聖恒はそっと横を向く。

「まじめにやってるようだし合ってるんだろう。来てもらってよかったな」

 父親がようやくうんうんと頷きながら言ってきたが、現在その家庭教師に対して不純な気持ちばかり抱いている身としては純粋に微笑まれない。

「まぁ、うん……」

 そのせいで今度は自分がはっきりした返事もできずもぞもぞしながら頷いていた。
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