ホンモノの恋

Guidepost

文字の大きさ
15 / 45

15話

しおりを挟む
 その日は何度もキスした。
 最初は少し触れただけだった。だが恵が拒否しないとわかり、もう一度重ねる。今度はもう少し触れていると恵が応じてきてくれた。そこからは何度も繰り返した。唇が離れたと思えばもう重ね合っていた。
 聖恒は自分の気持ちをすでに自覚してはいたが、改めてやっぱり好きだと思った。恵がかわいくて堪らなかった。聖恒よりも年上で背も少し高い男性だろうが、かわいくて仕方なかった。
 キスだけでとても気持ちよかった。どうにかなりそうで、でもどうすることもできなくて、いっそこのままキスで溶け合って一つになれたらよかったのにと、冷静な時に思い出せば自分に対し微妙な気持ちになりそうなことさえひたすら考えていた。
 キス以外何もしていない。キスだって何度も何度もしたわりに深いキスはしていない。それでも最高に気持ちよくて最高に幸せだと思った。
 ようやく唇を完全に離した時には恵の唇がほんの少しぷくりと膨らんでいるようにさえ見えた。エロいな、と思った。
 恵はただ「帰るね」としか言わなかったような気がする。正直あまりにふわふわして、うっとりして、興奮して、その後のことはちゃんと覚えていない。
 翌日になって「そういえば俺、ちゃんと好きだとすら言ってないままキスしてね?」と気づいた。これじゃあ自分が苦手だと思うガンガン進めてくる女子と同じではないかと一人青くなった。
 もちろんというか、女にはガンガン進めて欲しくないという、双子たち曰く「古い」考えを持っているだけで男はむしろ多少なりとも積極的に行くべきだとは思っている。いくらかわいいふわふわしたタイプが好きだからといって、積極的過ぎる女が苦手な一番の理由は双子も知らない。真和は理由を言えば「ああ、あの時の!」とわかるだろうが、まさかそんなに引きずっているとは思っていないだろう。
 昔つき合っていた、一人のふわふわかわいい子が実は結構な肉食系女子だった。積極的なんてものじゃなかった。本来は聖恒がその子を、あえて下世話な表現すれば「食う」はずだったのだろうが、まだ心の準備もできていない時に逆に食べられた感じしかしない。中学生だった聖恒にはある意味トラウマだと言ってもいい。正直、怖かった。
 真和も年の近い女子に対してトラウマを抱えているようだが、トラウマのタイプが似ているようで全然違うので特に親近感はないし、真和が怖がっている気持ちは多少しかわからない。利麻のようなタイプは聖恒としては友だちとして仲よくしたいと思うからだろうか。
 怖かったとはいえ、生理的現象により最後まで致したわけではあるが、本当に無理だと思った。それ以来、積極的過ぎる子は苦手だった。元々好みではなかった程度だったが完全に苦手になった。もちろんその後もあまり多いわけではないが、セックスの経験はある。だが肉食系女子とは据え膳だろうがなんだろうが、絶対にしたくないとは思っている。
 こんな思春期の男子として一番センシティブでありプライドが関わるような話を「怖かった」と双子にするにはまだ傷が癒えていないというか、大人になれていないので、ただ好みじゃないとだけ言っている。好みじゃないのも本当ではある。
 それもあって、自分が同じようなことをするのもやはり嫌だと思っている。男は少しくらい積極的でないとにしても、好きだとも言わずにいきなりキスというのはやはりどうかと思われた。
 ふと恵に何か言いたいと思う。

 ごめんなさい、ありがとう、好きです、つき合ってください。

 言いたいとひたすら思うが、いまさらながらに恵の電話番号もアドレスも知らないのだと気づいた。迂闊だった。元々は家庭教師として出会った人なのだ。普段なら連絡先を聞きたくなるタイミングは初めて会った頃にあるはずもなかったし、その後仲よくなっていってからは正直、うっかりしていた。
 大学は知っている。だがさすがに大学の前で延々と待ち伏せはできないだろう。まるでストーカーのようだし恵に迷惑をかけるかもしれない。

 まあ、次の授業の時でいいか。

 そう思い、聖恒は一人、微笑んだ。

「きょー! 今日暇だろ?」

 真和が授業の終わりにニコニコしながら近寄ってきた。聖恒は呆れたように答える。

「暇じゃない。俺がいつも暇みたいに言うな」
「えー。だって今日カテキョ来ないだろ?」
「先生が来なくても部活はあるんだよ。てゆーか、お前は勉強に忙しいんじゃなかったっけ?」
「だから、教えてもらいたいところがあってだな」

 だから教えろと、真和が目で訴えつつせがんでくる。

「あー……わかったから、家で待ってろ。終わったらお前んち寄るから」

 ため息つきながら「近い!」と真和を引き離した。
 部活を終えるとそのまま自分の家へ帰りそうになったが、真和との約束を思い出す。

「面倒くさいなー」

 そんな風に呟くが、何だかんだで幼馴染みたちのことは好きだ。つい頼みごとも聞いてしまう。 真和の家へ寄ると「待ってたぞ」と真和が迎え出てくれた。勉強道具をすでに準備してあった部屋ではニコニコしながら、座るよう勧めてきた。それを見て呆れつつも、約束通り勉強を教える。ニコニコしていた真和もちゃんと真剣な様子を見せてきた。
 そろそろきりがいいなという時間になると「こんなもんでいいか?」と聖恒は声をかける。

「あー、うん。そーだな。何かだいぶわかったし! ありがとーな、きょー!」
「いや。んじゃ帰るわ」

 そう言って聖恒が立ち上がりかけると、真和が声をかけてきた。

「きょーさぁ、最近何かあったのか?」
「何かって?」

 振り返ると真和はテーブルに乗せた腕の上に顔を乗せながら聖恒をじっと見ていた。中途半端な体勢だったため、聖恒はもう一度座り直す。

「いや、何もないならいいんだ。たださー、少し雰囲気変わったかなって」

 昔から聖恒に関することに鋭い真和には、到底隠し事は無理だろうなと聖恒はしみじみ思った。ただ言ってしまっていいものか迷いはする。
 雰囲気が変わったのかどうかは定かではないが、もし本当に変わったのなら、恵のことが関係しているのだろうと思われた。だが恵が好きだなどと言ってしまっていいのだろうか。
 真和を見た後でそして思う。

 悩むことなんてないだろ。こいつなら、大丈夫……。

 聖恒は口を開いた。

「俺、好きになっちゃったんだよな。例の家庭教師のこと」
「えー、マジかよ。ほらー、やっぱり年上の家庭教師とか堪ら……あれ?」

 ニヤリとしていた真和がふとポカンとしてくる。

「……え」

 聖恒が言った意味を理解するまでに、真和は数秒間の時間を費やした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...